V — 誰も信じるな
見知らぬ人間を盲信した。その結果がこれだ。俺は本当に馬鹿だった……。
9月26日 — 隔離命令が出されてから11日目。
目を覚ましたときには、すでに夜が明けていた。みんな、俺が無事なのを見て安心した様子だった。俺たちは何か食べるため、道路脇にピックアップトラックを停めた。地面に足をつけると脚に痛みを感じたが、耐えられる程度だった。デレクは、俺が気を失ったあともトラックで進み、少し先で停車して、ブリサが俺に解毒剤を注射できるようにしたのだと説明してくれた。
「君が気を失ったあと、俺たちはトラックで進んだんだ。それから少し先で停まって、解毒剤を注射した」とデレクが説明した。
「トラックの揺れと緊張で……できなかったの。どうしても……」ブリサは罪悪感に苛まれたまま、動揺した声で答えた。
彼女がまだ、あの出来事をひどく気にしているのは明らかだった。俺は数秒間彼女を見つめ、それから首を横に振った。
「気にするな。やろうとしてくれたんだ。俺だって、あんな状況じゃできなかったと思う」
ブリサはうなずいたものの、まだ気まずそうだった。そのあと、俺たちは再び旅を続けた。
「食料がもうほとんど残ってないわ」とサムが言った。
三人が俺を見つめ、返事を待っていた。食料を補充する必要があったので、俺たちは地図を取り出した。北へ約六キロ進んだところに、大きなスーパーマーケットがあった。つまり、ルートを外れなければならないということだったが、ほかに選択肢はあまりなかった。
数分後、車が人影の少ない道路を進んでいるとき、俺は燃料計に目をやった。
「燃料も、もうあまり残ってないな」
俺たちは車を停め、最後に残っていた燃料缶の中身を給油した。地図を確認すると、わずか一キロ先にガソリンスタンドがあることが分かった。
到着すると、デレクが燃料缶を満たす役を引き受け、俺たちほかの者は周囲を調べるために車を降りた。
「いい武器を見つけたじゃないか?」燃料缶を扱いながら、デレクが言った。
俺は手に持っていたMP5を見た。
「ああ。病院にいた軍人のものだった。ほら、お前が持ってくれ」
俺の銃に関する知識は、父親から教わったものだった。父は大の銃好きだった。何年もの間、姉と俺に銃の使い方や手入れの方法を教えようとしていた。そして今になって初めて、父があれほど先を見越していた理由が分かった気がした。
食料や水、何か役に立ちそうなものを探すため、俺はガソリンスタンドの中へ入った。店内は空っぽで、完全に荒らされていた。棚は倒され、容器は開けられ、床にはガラスの破片が散らばっていた。
燃料缶を満たし終えたかどうか確認するため、外へ出ようとしたとき、背後から声が聞こえた。
「こ、こんにちは……」
俺は振り返った。
店内に男がいた。両手を上げ、こちらに向けて拳銃を構えていた。俺の背後では、デレクがすでにMP5でその男を狙っていた。
俺も銃を構えた。
「お願いです、撃たないでください。何か食べてから、この先にあるスーパーへ行こうと思っていただけなんです」と、男は北の方角を指しながら言った。
「銃を地面に置け」と、俺は声をしっかり保とうとしながら命じた。
「はい、はい……分かりました」
男は拳銃を地面に置いた。
サムとブリサはトラックの中から様子をうかがっていた。サムは窓に片手を置き、見知らぬ男から目を離さなかった。
「お前は誰だ?」と俺は尋ねた。
「ミカエルです。助けてほしいんです」
「何が望みだ?」
「スーパーまで行きたいんです。弟が危険な目に遭っています。お願いします」
俺はデレクを見た。
彼は納得していないようだった。
「怯えているんだろう」と、彼は最終的に言った。「助けてやってもいい」
デレクはまだ男を信用していなかったが、助けることには同意した。
「妙な真似をしたら、殺すぞ」
男はすばやくうなずいた。
燃料缶を満たしたあと、俺たちは再びトラックに乗り込み、スーパーマーケットへ向かった。
道路にはまだ、人々が生きている痕跡があった。時折、遠くに車が現れたが、そのほとんどは速度を落とすことなく走り去っていった。一台が反対車線を通り過ぎ、木々の間へと消えていった。
サムはその車を目で追った。
「まだ、あそこには人がいるのね」
「そりゃ、いるだろう」とブリサが答えた。「まだ数日しか経っていないんだから」
デレクはバックミラーを見た。
「みんな、今ごろ何をしているんだろうな。家族のもとへ行こうとしているのかもしれない。食料を探しているのか、それとも、ただ逃げているだけなのか……」
「俺たちと同じようなことをしているんだろうな」と俺は言った。
数秒間、誰も口を開かなかった。
俺たちがこの道路を進んでいる間にも、国のどこかで何千人もの人々が、まったく同じことをしているのだと考えると、不思議な気持ちになった。
到着すると、俺たちは二つのグループに分かれた。デレクとブリサは建物の裏側で物資を探し、サム、ミカエル、俺は彼の弟を探すことになった。ミカエルの話によれば、弟は二階にいるはずだった。
建物は巨大だった。想像していたよりも、ずっと大きい。二階建てで、周囲には木々や草木が生い茂る広大な駐車場があった。すべてが始まって以来、自然が土地を取り戻し始めているように見えた。
俺たちはしばらく探し続けた。
午後五時になったころ、ミカエルが口を開いた。
「きっと屋上に行ったんだ」
俺たちは建物の脇にある階段を上った。屋上に着くと、冷たい風が顔を打った。
誰もいなかった。
「ここには誰も……」
俺は振り返った。
ミカエルが俺に拳銃を向けていた。
俺は動けなくなった。
「すみません……あなたたちの持ち物が必要なんです」と彼は言った。
一瞬、何が起きているのか信じられなかった。
「お前を信じたのに」
「武器を渡せ」
俺はサムを見た。彼女も凍りついたように動けずにいた。
俺はゆっくりとリボルバーを下ろし、地面に置いた。それから足で彼の方へ押しやった。
「次はトラックの鍵だ」
「それは渡せない」
ミカエルは歯を食いしばった。
「なら、面倒なことになるな」
彼は銃を持ち上げ、空に向けて発砲した。
轟音が屋上を揺るがした。
一秒ほど、すべてが静まり返った。
そのあと、うなり声が聞こえ始めた。
一つ。
二つ。
やがて、何十もの声が重なった。
音はスーパーマーケットの周囲から聞こえてきた。感染者たちは銃声を聞きつけ、木々の間や通り、近くの建物から現れ始めていた。
デレクとブリサは、急いでトラックへ戻らなければならなくなった。俺のいる場所からは、二人が車を取り囲み始めた感染者たちをどうにか抑えようとしているのが見えた。
だが、二人は鍵を持っていなかった。
そして俺は、武装した男を前に屋上に閉じ込められ、その下には感染者の群れが集まっていた。
まったく、最高の日だ。
そこで俺は、それまで無視しようとしていた事実を理解した。感染者だけが危険な存在ではない。
人間もまた、危険なのだ。
逃げ道を考えていると、下から銃声が響いた。
ミカエルがびくりと体を震わせ、地面に倒れた。
弾丸は彼の肩を貫いていた。
俺は振り返った。
デレクがトラックの中にいた。窓の向こうでMP5を構え、落ち着いた様子で狙いを定めていた。
「ジェイコブ!」彼が叫んだ。
返事をする暇はなかった。
ミカエルが負傷した隙をつき、俺は武器を奪おうと彼に飛びかかった。だが、彼は素早く反応し、拳銃のグリップで俺の顔を殴った。
頬に鋭い痛みが走った。
俺は後ずさった。
ミカエルが俺に襲いかかり、俺たちは二人とも地面に倒れ込んだ。彼の手首を押さえようとしたが、必死の力で抵抗された。拳銃は俺たちの手の間に挟まれ、互いに奪い合う状態になった。
彼に足を蹴られ、俺は仰向けに倒れた。
脚の痛みが一気に走った。
ミカエルが俺の上に乗ろうとした。
「離せ!」俺は叫んだ。
「嫌だ!」
そのとき、サムが彼の背後に現れた。
彼女は男のリュックサックからナイフを取り出していた。
何も考えず、サムはミカエルに飛びかかり、刃を彼の脚に突き刺した。
彼は叫び、勢いよく振り返った。
「サム、逃げろ!」
遅すぎた。
ミカエルは拳銃のグリップで、彼女の頭を殴った。
鈍い音がした。
サムは膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れた。
「サム!!」
一瞬、俺はすべてを忘れた。
感染者のことも。
デレクのことも。
武器のことも。
ただ、動かなくなった彼女の姿だけが目に入った。
ミカエルが再び俺に向き直った。
その瞬間、俺の中で何かが変わった。
俺は彼に飛びかかった。
傷ついた肩を一度殴った。
もう一度。
さらにもう一度。
「離せ!」
ミカエルは痛みに叫んだが、拳銃を手放さなかった。
「銃を離せ!」
俺は再び彼を殴った。
傷口から流れる温かい血が、俺の手にまとわりついていた。まだ雨は降り始めていなかったが、空はますます暗くなり、風が激しく吹きつけていた。
「まだ間に合う!」俺は叫んだ。「降参しろ! 誰にも死んでほしくないんだ!」
初めて、俺たちの視線がぶつかった。
彼の目に恐怖が浮かんでいた。
彼は怪物ではなかった。
感染者でもなかった。
ただの人間だった。
恐怖に駆られ、愚かなことをしてしまった人間。
そして俺は、今まさに彼を殺そうとしていた。
「拳銃を渡せ」と、息を切らしながら俺は言った。「もう終わりだ」
ミカエルは首を横に振った。
彼は再び俺に銃を向けようとした。
それだけはさせられなかった。
俺は両手で拳銃をつかみ、銃口を彼の方へ向け直した。彼の指はまだ引き金にかかっていた。
俺は引いた。
バン。
弾丸が彼の脚を貫いた。
ミカエルは叫んだ。
「ああっ! このクソ野郎!」
一瞬、彼が降参するかもしれないと思った。
だが、彼はしなかった。
再び抵抗し始めた。
俺は疲れ切っていた。腕が震えているのを感じた。下から感染者たちの叫び声が響き、サムは数メートル先で倒れたままだった。
俺は彼女の顔を見た。
それからミカエルを見た。
そして、もう迷ってはいられないと理解した。
俺は再び銃口を向け直した。
彼の胸を狙った。
ミカエルには、もう抵抗する力がほとんど残っていなかった。
「すまない……」
俺は引き金を引いた。
バン。
一発。
バン。
もう一発。
バン。
三発目の銃声が、屋上の静寂を切り裂いた。
ミカエルの体から力が抜けた。
彼の手が緩んだ。
拳銃が落ちた。
そして彼は動かなくなった。
俺もまた、動けずにいた。
膝をついたままだった。
ミカエルの血が、俺の手にも服にも、地面にもついていた。
俺は自分の指を見つめた。
震えていた。
俺は男を殺した。
感染者ではない。
一人の男を。
心臓が胸から飛び出しそうなほど激しく打っていた。胃の中が空っぽになったような感覚があり、喉にはひどい圧迫感があった。
「俺は……何をしたんだ……?」
彼から目を離せなかった。
さっきまでの怒りは、すっかり消え失せていた。
残っていたのは罪悪感だけだった。
サムを守りたかった。生き延びたかった。彼に降参する機会を与えようともした。
それでも、俺は彼を殺した。
背後から足音が聞こえた。
サムだった。
彼女は負傷し、頭を押さえながら、ふらつく足取りで近づいてきた。そして俺のそばに膝をついた。
「ジェイコブ……」
俺は答えなかった。
彼女は両手で俺の顔を包んだ。
「ジェイコブ、私を見て」
俺の視線は宙をさまよっていた。
「ジェイコブ! お願い、私を見て。大丈夫だから」
大丈夫なわけがなかった。
何もかもが、うまくいっていなかった。
俺は見知らぬ人間を盲信し、その結果、すべてがこんなことになった。
「彼を信じたんだ……」俺はつぶやいた。「俺は馬鹿だった」
サムは首を横に振った。
「馬鹿なんかじゃない。そんなこと、分かるはずがなかったでしょう」
俺は彼女を見た。
殴られたせいで、額には血がついていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「歩けるか?」
「ええ」
彼女は笑おうとしたが、できなかった。
そのとき、雨が降り始めた。
最初は、ほんの数滴だった。
やがて、雨粒が増えていった。
灰色の空は完全に雲に覆われ、雨が俺たちの体に降り注ぎ、手に残った血と混ざり合った。
屋上はひどく冷たかった。俺たちは感染者に囲まれ、危険な状況にあり、生き延びられる可能性もほとんどなかった。食料はなく、水も屋上に置かれていたバケツにたまった分しかなかった。
雨はさらに激しくなった。
デレクとブリサは、まだトラックの中に閉じ込められていた。
デレクが撃ったことで、さらに多くの感染者が集まってきていた。今では群れが車を取り囲んでいた。サムは空腹を感じ始めていたが、何よりもつらいのは寒さだった。屋上には排水設備がなく、落ち葉か汚れで詰まっているのかもしれない。少しずつ、水が俺たちの足元にたまり始めた。
「すごく寒い……」サムが震える声で言った。
俺は上着を脱いだ。
「ほら」
「だめよ。あなたも寒いでしょう」
「サム」
「ジェイコブ……」
「着るんだ」
彼女はようやく受け取った。
俺は耐えられる。
少なくとも、そう信じたかった。
一方、俺は何か解決策がないか探し始めた。暗くなる前に、ここから脱出しなければならなかった。
午後七時。太陽が雲の向こうに沈み始めていた。
デレクと俺は、身振りで意思を伝えようとした。俺は食料がないことを示した。
彼は、そこからではどうすることもできないという合図を返した。
周囲を見渡し、逃げ道を探した。
何もなかった。
そのとき、サムが俺の腕をつかんだ。
「ジェイコブ……」
「どうした?」
彼女は俺の背後を指さした。
「ジェイコブ、後ろ!」
俺は振り返った。
ミカエルが立っていた。
一瞬、体が凍りついた。
彼はずぶ濡れだった。頭を傾け、口を開けたまま、ゆっくりと俺に向かって歩いてきた。
肌は青白く、動きはぎこちなかった。うなり声を上げながら、こちらへ近づいていた。
感染していた。
どうしてこんなことが起きたのか分からなかった。噛まれた傷を見た記憶はなかった。
ミカエルが、もう一歩進んだ。
俺は動けずにいた。
サムが俺より先に動いた。
彼女は金属パイプをつかみ、全力で彼を殴った。
衝撃で、彼は彼女の方を向いた。
そのおかげで、俺は我に返った。
地面に落ちていた拳銃をつかみ、狙いを定めた。
バン。
弾丸は後頭部に命中した。
ミカエルは倒れた。
俺はその体を見つめていた。
「どうして感染したのか分からない……」俺はつぶやいた。「噛まれた跡なんてなかったのに」
サムは苦しそうに息をしていた。
「私たちが傷を見落としていたのかもしれない」
俺は答えなかった。
俺たちは濡れた屋上に座り込んだ。雨は頭上に降り注ぎ、冷たい水が服の中に染み込んでいた。この夜をどうにか乗り切る方法を見つけなければならなかった。
そのとき、屋上から突き出た金属板が目に入った。
俺は二十分近くかけて、それを取り外そうとした。濡れた手は滑り、金属は氷のように冷たかったが、最後にはどうにか引き剥がすことができた。
そこにあった二本の脚立の間に、その金属板を置いた。
大したものではなかった。
それでも、即席の屋根としては役に立つはずだった。
俺たちはその下に入った。
午後十時。
疲れ切っていた。
サムはひどく震えていた。
「眠ろうとしろ」と俺は言った。
「あなたは?」
「俺が見張る」
「ジェイコブ、もう無理よ」
「あとで眠る」
サムは数秒間、俺を見つめていたが、やがて目を閉じた。
俺は起きたままでいた。
午前四時、俺は眠りに落ちそうになっていた。目をほとんど閉じかけたとき、叫び声が聞こえた。
俺はすぐに体を起こした。
感染者だった。
だが、その叫び声は普通とは違っていた。
非常に大きく、甲高い。怒りに満ちた声だった。
金属板を叩く雨音を聞きながら、背筋に寒気が走った。
俺は気にしないようにした。
人間の声には聞こえなかった。普通の感染者の声とも違っていた。
音ははるか遠くから聞こえてきた。引き裂くような叫び声だった。
怒りに満ちていた。異様なほど甲高かった。
9月27日 — 隔離命令が出されてから12日目。
その後、朝日が差し込み始めた。俺は一晩中、どうにか起き続けていた。左側を見た。
サムはまだ眠っていた。
俺はゆっくりと立ち上がった。感染者たちのうなり声は、まだスーパーマーケットの周囲に響いていた。屋上の縁から身を乗り出し、トラックを確認した。
まだ、そこにあった。
午前九時だった。
どうすればこの屋上から脱出できるのか、俺は必死に考え始めた。感染者たちの注意をそらし、トラックへの道から遠ざけ、デレクに鍵を投げ渡すこともできるかもしれない。だが、彼らがデレクのところまでたどり着けるとは思えなかった。
そのとき、スーパーマーケットの裏側に目を向けた。数メートル先に、俺たちとほぼ同じ高さの別の建物があった。しかし、二つの建物の間には、飛び越えるには広すぎる隙間があった。向こう側の屋上にはドアがあり、おそらくそこから建物の中へ入り、一階へ降りられるはずだった。
そのあと、入口の方を見ると、スーパーマーケットの駐車場が広がっていた。その中には、デレクとブリサが乗っているトラックが見えた。二人はまだ感染者に囲まれ、閉じ込められていた。鍵は俺が持っている。たとえ二人がトラックから脱出できたとしても、逃げることはできなかった。
数秒間、その距離を見つめていると、壁に立てかけられたものが目に入った。
はしごだった。
俺が即席の屋根を作るために使ったものと同じような、古い脚立だった。メンテナンス作業などに使われるタイプだ。俺はそれを屋上の縁まで引きずり、状態を確かめた。錆びついていて、いくつかの接合部はかなり頼りなさそうだった。足で踏み段の一つを動かしてみると、構造全体がきしんだ。
「これ、絶対に嫌な感じがする」とサムが言った。
「俺もだ」
俺は脚立をできるだけ伸ばし、二つの建物の間に渡した。一方の端は俺たちの屋上に、もう一方は向こう側の建物にかかった。脚立はぎりぎり届く程度だったが、十分そうに見えた。
しゃがみ込み、両端がしっかり固定されているか確認した。
「渡れそうだ」
サムは下を見た。
「もし落ちたら?」
「落ちるときは、脚立と一緒に落ちないようにしよう」
安心できる答えではなかったが、ほかに言いようがなかった。
渡る前に、俺は再び駐車場を見た。デレクとブリサはまだトラックの中にいた。窓は葉っぱや衣服、デレクが見つけたもので完全に覆われていた。感染者たちに中を見られないようにするためだろう。上から見て、彼が何をしようとしていたのか分かった。身を隠し、感染者たちが興味を失うのを待っていたのだ。
だが、うまくいっていなかった。
感染者たちは車に張りついたまま、ドアや窓をときどき叩いていた。誰かがミスをするのを待っているかのようだった。
俺はデレクに合図を送った。
彼が顔を上げた。
まず脚立を指さし、それからトラックを指さした。次に五本の指を立て、彼の携帯電話を指さした。
デレクは理解した。
彼がトラックの中で動くのが見えた。数秒間、姿が見えなくなった。そのあと、車の上部にある小さな窓を慎重に開けた。まず両腕を外へ出した。
俺は上から様子を見守った。
デレクは窓から上半身を出すことに成功した。左右を確認し、携帯電話のアラームを作動させると、準備を整えてから、全力で駐車場の反対側へ投げた。
携帯電話は、放置されたトラックの下に落ちた。
デレクは急いで車内に戻り、窓を閉めた。
俺たちは待った。
感染者たちが反応するまで、数秒かかった。
やがて、アラームが鳴り始めた。
音は駐車場全体に広がり、何体もの感染者がすぐにそちらへ顔を向けた。何体かは音の方へ歩き始めた。ほかの感染者たちは、しばらくトラックのそばに残っていたが、やがて残りの群れについていった。
うまくいった。
全員が離れたわけではなかったが、かなりの数がトラックから離れていった。
俺は男の拳銃をつかみ、脚立へ向かった。
脚立を見下ろした。
「俺が先に行く」
俺は膝をつき、脚立の上に乗って進み始めた。
動くたびに脚立がわずかに揺れた。風が横から吹きつけ、金属の支柱を震わせた。まず手を置き、次に膝を踏み段に乗せながら、ゆっくりと進んだ。
下を見たくなかったが、結局見てしまった。
駐車場は、はるか下にあった。
俺は進み続けた。
一段。
もう一段。
脚立が再び揺れた。
俺は動きを止めた。
数秒間、待った。
何も起こらなかった。俺は再び進み始めた。
向こう側にたどり着くと、振り返ってサムを見た。
「よし、着いた。ゆっくり来い」
彼女は脚立の上に膝をついた。
「下を見るな」と俺は言った。「そのまま進めばいい」
サムが渡り始めた。
最初は順調だった。彼女はゆっくり進み、支柱を強く握っていた。再び風が吹きつけ、脚立が彼女の下で揺れた。
「ゆっくりだ。急ぐな」
サムは進み続けた。
彼女がちょうど真ん中あたりまで来たとき、小さな金属音が聞こえた。
カチッ。
俺は下を見た。
脚立のネジの一つが外れたところだった。
片側の支柱が、突然下へ落ちた。
「サム!」
脚立が傾いた。
片側はまだ建物にかかっていたが、もう片側は落ち込み、空中でV字のような形になった。サムは踏み段にしがみつき、両手で必死に支えていた。
「動くな!」
「ジェイコブ!」
「じっとしてろ!」
構造が再びきしんだ。
彼女の体重に耐えきれず、もう片方の支柱もゆっくりと曲がり始めているのが見えた。
「こっちに来るんだ!」
サムは反対側を見た。
「無理よ!」
「できる! 進め!」
「できない、ジェイコブ!」
脚立が再びきしんだ。
もう長くはもたないと分かった。
俺は再び脚立に乗った。
「ジェイコブ、だめ!」
脚立が揺れる中、俺は踏み段を進んだ。一歩ごとに、これが最後になるかもしれないと感じた。サムのところまでたどり着き、彼女の腕をつかんだ。
「来い!」
「怖い!」
「俺につかまれ!」
俺は彼女を自分の方へ引き寄せた。
その瞬間、脚立が崩れた。
ガシャアアン!
足元のすべてが消えたように感じた。
俺は落下した。
何かにつかまる暇もなかった。体をひねり、頭を守ることだけはできたが、そのまま下に停まっていたトラックの屋根に激突した。
ドンッ!
衝撃で金属の屋根がへこんだ。
サムが俺の上に落ちてきた。
数秒間、何も聞こえなかった。
頭の中で甲高い耳鳴りだけが響いていた。
息を吸おうとした。
全身が痛かった。
目を開けたが、視界は完全にぼやけていた。自分がどこにいるのかも分からなかった。動こうとすると、頭に激しい痛みが走った。
「ジェイコブ?」
サムの声が聞こえた。
返事をしようとしたが、かろうじて声を出すことしかできなかった。
「だい……じょうぶだ」
大丈夫ではなかった。
サムはゆっくりと体を起こした。彼女は俺の上に落ちたため、衝撃の一部が和らいでいた。俺はトラックの屋根に直接ぶつかっていた。
「動ける?」と彼女が尋ねた。
俺は片手を動かした。
「たぶん……」
俺は数秒間、そのまま呼吸を整えた。
そのとき、最初のうなり声が聞こえた。
俺は顔を向けた。
感染者の何体かが、再びこちらへ近づいてきていた。
「逃げるぞ」
サムはトラックの屋根から降りた。
俺も同じようにしようとしたが、足を地面につけると、地面が揺れているように感じた。倒れないよう、車の縁をつかまなければならなかった。
「待って」とサムが言った。「めまいがしてるんでしょう」
「すぐ治る」
俺はゆっくりと立ち上がった。
頭がぐるぐると回り、焦点もほとんど合わなかったが、まだ意識はあった。
デレクたちのトラックを見た。
まだ感染者が周囲に残っていた。
鍵は俺が持っていた。
「行こう」
俺たちはトラックから降り、車に向かって走り出した。
背後では感染者たちが追いかけ始めていた。
脚がひどく痛み、体を支えるのもやっとだった。
「急げ」
俺たちはスーパーマーケットの右側へ走った。
左に曲がった。
四体の感染者が前方に現れた。
俺はリボルバーを構えたが、手が震えていた。
病院での出来事が頭をよぎった。
また、まともに焦点を合わせられなかった。
発砲した。
一体が倒れた。
もう一度撃った。
もう一体。
二体目が崩れ落ちた。
残りは一体だけだった。
狙いを定めた。
発砲した。
外れた。
感染者が俺に飛びかかってきた。
俺は地面に倒れ込み、そいつともみ合いになった。
疲れ切っていた。
そいつの息が顔にかかった。
歯が迫っていた。
そのとき、再び怒りが込み上げてきた。
罪悪感。
無力感。
恐怖。
一瞬、寒さも空腹も、落下の痛みも忘れた。
俺は片手で感染者の頭をつかんだ。
そして、スーパーマーケットの壁に叩きつけた。
一度。
もう一度。
さらにもう一度。
動かなくなるまで、何度も叩きつけた。
俺は息を切らしながら、その場にとどまっていた。
手は血にまみれていた。
「行こう」
サムは何も言わなかった。
ただ、うなずいた。
俺たちは走り続けた。
トラックまであと約五十メートルというところで、スーパーマーケットを囲んでいた感染者たちが俺たちに気づいた。
群れを避けながら、先へ進もうとした。
もう少しだった。
三体の感染者が追いついてきた。
「乗って!」トラックの中からブリサが叫んだ。
彼女はドアを開けた。
サムは乗ろうとしなかった。
「ジェイコブが先よ!」
「乗れ!」俺は叫んだ。
デレクがトラックから降り、MP5で感染者の一体を撃ち倒した。
別の一体が俺に飛びかかってきた。
ブリサが窓からナイフを渡してくれた。
俺はそれをつかみ、そいつが動かなくなるまで何度も突き刺した。
「今だ!」
サムと俺は乗り込んだ。
デレクは加速し、全速力でその場を離れた。
俺たちは助かった。
あの高さから落ちたのに、まだ生きていることが信じられなかった。全身が痛かった。
デレクは後ろを振り返った。
「罠だったんだ。あいつ、屋上に別の拳銃を隠していた」
「ああ、見たよ」と俺は答えた。
デレクは俺を見た。
「俺がこの手で殺してやりたかった。二人とも大丈夫か?」
俺はサムを見た。
頭を打ち、服は濡れ、顔には疲労がにじんでいた。
「生きてる……」
俺たちはずぶ濡れで、全身が痛み、ひどく空腹だった。
俺たちは再び旅を続けた。幸い、デレクが食料を少し手に入れていたので、サムと俺は食べることができた。東へ向かうルートに戻るため、道を進んだ。短い休憩を取り、濡れた服を着替えてから、再び出発した。
ミカエルと出会ったガソリンスタンドを通りかかったとき、軍用ジープが停まっているのが見えた。
以前は、そこになかった。
俺たちは顔を見合わせた。何かがおかしかった。
調べるために車を降りることにした。
車内は空っぽだった。
誰もいなかった。
中には軍用の携行食、制服、防弾チョッキがいくつか残されていた。
念のため、デレクは防弾チョッキをブリサに渡すことにした。
夜になっていた。
俺が運転を続けようとしたが、デレクは反対した。
「今夜は休む。君はもう十分頑張った」
俺は反論しなかった。
9月28日 — 隔離命令が出されてから13日目。
その後、トラックが停車している状態で目が覚めた。デレクとブリサがいなかった。最初はかなり不安になったが、窓の外を見ると、隣に子供用の遊具がある小さなスーパーマーケットに立ち寄っていることが分かった。二人はブランコに座っていた。前の座席には食料が詰まったリュックサックが置かれていた。どうやら、何か見つけたらしい。
サムはまだ眠っていた。
彼女を起こさないように、俺は静かに車を降りて、二人が何をしているのか見に行った。
「ここはどこだ?」と俺は尋ねた。
「もう数時間ほど進んだところだ」とデレクが答えた。
午後一時だった。
ブリサは食べ物を並べたテーブルを用意していた。
「ちょっとしたごちそうよ」と彼女が言った。
「ごちそう?」
「期待しないで。缶詰よ」
俺は笑った。
食事を終えたあと、サムを起こすことにした。
「おはよう。外に出よう。食べ物があるぞ」
彼女はゆっくりと目を開けた。
「おはよう、ジェイコブ。もうよくなった?」
「ああ。少しよくなったよ。心配してくれてありがとう」
サムはかすかに笑い、体を起こした。
食事のあと、俺たちは旅を続けた。俺が運転していたが、しばらくしてデレクが再びハンドルを握った。サムと俺は後部座席に座り、ブリサは恋人の隣にいた。
道路は木々の間を抜けながら、東へと続いていた。ときどき遠くに車が見えたが、どの車も停まろうとはしなかった。世界はまだ完全に死んだわけではない。ただ、日ごとに静かになっていくようだった。
デレクが運転している間、俺は後部座席でMP5を点検していた。布で少し汚れを拭き取り、弾倉を確認した。金属部分の一つを調べるために銃を回したとき、今まで気づかなかったものを見つけた。金属に直接、何かの言葉が刻まれていた。おそらくナイフか、その場にあった道具で刻まれたものだろう。
「また君に会える日まで、愛する人よ」
俺は親指でその刻み目をなぞった。
誰が刻んだのか、いつ刻まれたのかも分からなかった。誰に向けられた言葉なのかも分からなかった。
数秒間それを見つめてから、俺は銃を自分のそばに置いた。
それ以上、気に留めなかった。
そのとき、頭上から物音が聞こえた。
民間航空機が木々の間から現れた。
南から飛んできた機体は、空を右から左へ横切り、北へ向かっていた。大型のボーイング機に似ていたが、安心できないほど低い高度を飛び、ものすごい速度で進んでいた。エンジンの一つから煙が上がり、その煙が機体の後ろに尾を引いていた。
俺たちは全員、空を見上げた。
「これって普通なの?」とサムが尋ねた。
「間違いなく、普通じゃないな」とデレクが答えた。
ブリサは空を見つめ続けた。
「空港はまだ動いていると思う?」
「いくつかは動いているんじゃないか」と俺は答えた。
飛行機は松の木々の上を飛び続け、やがて木々の梢の向こうへと消えていった。
俺たちは数秒間、待った。
衝突音は聞こえなかった。
爆発音もなかった。
何も。
ただ、エンジン音が遠ざかっていくだけだった。
デレクは再び道路に目を戻した。
「まあ……少なくとも、墜落はしなかったな」
誰も答えなかった。
俺たちはただ、東へ向かって進み続けた。




