IV — ブラック・ロード
こんなにも心が穏やかになったのは、生まれて初めてだった……。
ブリサを救出したあと、デレクの恋人である彼女を連れて、俺たちはあの二階建ての家へ向かった。探索したのは一階だけだった。そのあと、俺は焚き火を起こし、みんなでその周りに集まって眠った。
9月24日 — 隔離命令が出されてから9日目。
朝が来た。午前9時。焚き火は消えていたが、サムを除いて全員がまだ眠っていた。サムは家の中で見つけた本を読んでいた。俺は彼女に近づき、ほかのみんなを起こさないよう、小さな声で挨拶した。
「おはよう、サム」
「おはよう、ジェイコブ」
「二階に何があるか調べてくるよ。一緒に来るか?」
彼女は承諾した。
俺たちは二階へ続く階段に向かった。上に着くと、一つのドアの向こうから奇妙な臭いが漂ってきた。ドアを開けると、四つのドアが並ぶ廊下があった。
右側の一番手前のドアを開けた。そこは、衣類やリュックサック、毛布、その他いくつかの物が置かれた部屋にすぎなかった。サムは何か役に立つ物がないか探すことにし、俺はそのまま探索を続けた。左側のドアの向こうには何もなかった。完全に空っぽだった。次に右側の二番目のドアを開けた。そこには食料を保管する小さな倉庫があり、トマトの苗が植えられた鉢も二つ置かれていた。
だが、俺が言葉を失ったのは、四番目のドアを開けたときだった。ドアをほんの少し開けただけで、最初に感じたあの異臭が一段と強くなった。
目にしたものに、俺は衝撃を受けた。
そこには、一人の女性の遺体があった。手にはリボルバーが握られ、頭には銃で撃たれた跡があった。
自殺だった。
俺はサムにあの光景を見せないよう、すぐにドアを閉めた。銃を手に取り、ベッドサイドテーブルに目を向けた。そこには一枚の手紙が置かれていた。
「神様、この世界に私の居場所を与えてくださったことに感謝します。でも、人間が生み出した地獄の中で生きていたくはありません。この最後の言葉をもって、私は別れを告げます。そして……」
その先にも文章は続いていたが、紙の裏側は血で覆われていて、残りを読むことはできなかった。
部屋にはリュックサックもあった。俺はそれをリボルバーと手紙と一緒に持ち、部屋を出た。ドアを閉めようとしていると、サムが近づいてきた。
「何かいいものでもあった?」と、彼女は無邪気に尋ねた。
「いや、空っぽだったよ。銃はあったけどな」と答えながら、俺はドアを閉めた。
リュックサックの中身を調べることにした。書類が数枚、衣類、無線機、それからリボルバー用の弾薬が入っていた。弾は七発だった。
二十分後、俺はデレクを起こし、見つけたものについて話した。確認してもらうため、リボルバーを彼に渡した。弾は五発しか入っていなかった……なぜなら、一発は……。
食事を済ませたあと、正午近くになって、俺たちは荷物をまとめ、どこへ向かうべきか考えるために腰を下ろした。
「どこへ行く?」とデレクが尋ねた。
「行く場所なんてないわ。空港にいた人たちが、これは世界中で起きているって言っていたもの」とブリサが答えた。
「でも、軍は難民のための施設を作っているはずだ。まずはそこを目指すのもいいかもしれない」とサムが提案した。
その間、俺は解決策や行けそうな場所を必死に考えていた。二階で目にした光景のせいで、まだ少し頭がぼんやりしていた。
「ジェイコブ?」デレクが答えを求めるように俺を呼んだ。
「悪い……何だって?」
「サムの言っていることは正しいと思うか?」
「分からない……その可能性はある」
「じゃあ、どうするの?」とブリサが尋ねた。
俺たち四人は、不安と恐怖を抱えながら座っていた。そのとき、俺のリュックサックの中から音がして、全員が反応した。二階で見つけた無線機だった。
「モリソン、あなたが返事をできないことは分かっている。こちらはブラボー・キャンプから連絡している。いいか、19時に空港から飛行機が出る……今後三か月間、少なくとも……」無線機から聞こえてきたのは、二階で自殺していたあの女性の声だった。
「どこの空港だ?」通信がそこで途切れたため、デレクは神経質そうに尋ねた。
「繰り返す。19時に飛行機が空港から出発す……東……で待っている」
通信は再び途切れた。
俺たちは言葉を失った。通信が終わると、俺は女性の身元を確認するため、急いで二階へ上がり、彼女の財布を探した。
「それは何、ジェイコブ?」とブリサが尋ねた。
「ええと……アンドレア・モリソン。元軍人で、かなり高い階級にいた人だ」と、身分証明書を読みながら答えた。
「無線の相手は彼女のことを言っていたんだね」とサムが言った。
「19時に飛行機が飛び立つと言っていた」と俺は答えた。
「それで、どこの空港なんだ? そこは聞こえなかった」とデレクが尋ねた。
俺が聞き取れたのは「空港、東……」という部分だけだった。だから、相手は「東」と言おうとしていたのだろうと推測した。手元の地図によると、その方向にある空港はレッドウッドという町のものだけだった。大まかに計算したところ、時間には間に合いそうだった。
「東のことだと思う」と俺は言い、地図を指さして赤鉛筆で丸をつけた。
「それで、どうするの?」とブリサが尋ねた。
「その空港に行くしかないんじゃないか?」とデレクが言った。
「ほかに選択肢はない。そうするしかないだろうな」と俺は答えた。
俺たちは車に荷物を積み込む準備を始めた。
「武器は何がある?」とデレクが尋ねた。
「このリボルバーとマチェーテだけだ」と俺は答えた。
俺たちはわずかな装備を確認し、すべて車に積み込むと、その町をあとにした。
町の郊外に出たところで、もう一度地図を確認した。国道47号線は「ブラック・ロード」とも呼ばれ、国の東部へまっすぐ続いていた。空港の名前はノーザン・ライトで、レッドウッドにあった。
俺は国道47号線に入り、旅を続けた。
午後6時。デレクとブリサは座席で寄り添って眠っていた。その間、サムと俺は道中、面白い話をしていた。彼女が話してくれる出来事を聞き、一緒に笑うのは、不思議だったが心地よかった。時折、俺は自分たちが置かれている世界のことを忘れることができた。
そのとき、何かがぶつかる音がした。
ドン。
何かが車に衝突したのだ。
俺は急ブレーキをかけ、何が起きたのか確かめるために車を降りた。感染者だった。だが……子供だった。
だから、よく見えなかったのだ。
ひどく気の毒に思った。もう以前の子供ではなかった。それでも、子供であることに変わりはなかった。せめてもの敬意を示すため、俺は毛布でその体を覆い、道路脇に寝かせた。
午後9時。デレクが運転し、サムと俺は後部座席に移っていた。少し眠ろうかと思ったが、自分が眠っている間に何かが起きるのが怖くて、結局眠らなかった。一方、サムは今にも眠りに落ちそうだった。
午後11時、彼女はとうとう眠りについた。車の窓に頭を預けていたが、車体の振動で頭を痛めるかもしれない。俺は彼女が少しでも快適に眠れるよう、枕を置いてやった。
かなり冷え込んできた。ブリサに毛布を頼まれたので、俺は渡してやった。デレクは必要ないと言った。
四時間が過ぎ、デレクと俺以外は全員眠っていた。俺たちは女性たちを起こさないよう、小さな声で話し始めた。
「本当に、また会えてよかった。正直、君はもう助からなかったんじゃないかと思っていた」と俺は言った。
「私もよ。あなたに会えたことも……ブリサを救えたこともね。彼女を見つけられなかったら、自分がどうなっていたか分からない」と彼は答えた。
「これからは、あの安全地帯とやらを目指して進むしかない。君はあれを信じるか?」
「分からない。ただ、彼女にとって一番いいことをしたいだけだ。あそこが安全なら、迷う必要はない。君は信じるのか?」
「分からない……信じたいとは思っている」
俺は眠ることにした。あとでデレクが休んでいる間に、今度は俺が運転を続けるつもりだった。
9月25日 — 隔離命令が出されてから10日目。
窓から差し込む太陽の光で目が覚めた。午前8時。デレクと俺は席を交代した。今度は彼が眠り、俺が運転を続ける番だった。
再び道路に出る前に、車を降りて少し足を伸ばした。そのとき、道路脇の森の茂みから物音が聞こえたので、近づいてみることにした。
周囲は静かだった。木々の葉の間を風が吹き抜け、地面の大部分は木々の影に覆われていた。すると、また同じ音が聞こえた。
音のする方を追っていくと、遠くに一頭の鹿が見えた。落ち着いているようで、完全に一頭だけだった。俺は数秒間その姿を眺めていたが、背後に感染者がいることに気づいた。
そいつは俺の両肩をつかんだ。俺は素早く振り向いたが、地面に倒れてしまった。仰向けのまま、噛みつかれないよう必死にそいつを押さえつけた。あまりにも近かった。
マチェーテは鞘に収めたままベルトにあり、リボルバーは車の中だった。
そいつの歯が、俺の顔からほんの数センチのところまで迫っていた。そのとき、右手に石が見えた。俺はそれをつかみ、頭に叩きつけた。ほんの数秒を稼ぐには十分だった。マチェーテを抜き、そいつの頭蓋骨に突き刺した。
俺の体は泥と血にまみれていた。どうやら、あの感染者は川か何かに入り込んでいたらしい。
車に戻ると、心配したデレクが何があったのか尋ねてきた。俺は女性たちを起こさないよう、小さな声で事情を説明した。服を着替え、再び道を進んだ。
午後5時になっていた。全員が目を覚まし、それぞれの人生について話していたが、俺の頭の中は同じ疑問でいっぱいだった。
あの場所はどこにある?
本当に存在するのか?
俺たちは時間を無駄にしているだけなのか?
分からなかった。だが、仲間たちが生きている限り、俺は前に進み続ける。
食事をするために車を止めた。デレクとブリサがパスタを調理し、サムと俺は缶詰の肉を取り分けた。ガスコンロで食事を温めもした。
食料はますます少なくなっていた。いずれ底をつくのは時間の問題だった。
そのあと、長旅で疲れた目を休ませるため、俺たちは土産物店に立ち寄った。車のエンジンを切り、入口へ向かった。中から感染者が不意に襲いかかってこないか確かめるため、ドア枠を叩いた。
幸い、店内は空っぽで、荒らされた形跡もなかった。明かりを確保するためにろうそくを灯し、床に毛布を敷いてマットレス代わりにした。デレクとブリサはカウンターに残り、店の商品を眺めていた。
「快適?」とサムが笑顔で尋ねた。
「もっと快適にはなれるな」と俺は答えた。
「二階にいた女性のこと、何も話してくれなかったね」
俺は答えなかった。ただ、彼女を見つめていた。
「私たちが泊まった家のことよ」と彼女は補足した。
「ああ、分かってる。ただ……君にあれを見せたくなかったんだ」
「私じゃ、耐えられないと思ったの? ジェイコブ」
「そういうことじゃない」
彼女はうなずき、離れていった。
一時間後、俺たちは再び旅を続けた。
午後9時、用を足すために車を止めた。道路の左側へ向かい、木々と背の高すぎる草むらの陰に入った。周囲を手早く確認してから、用を済ませた。
終わるとズボンのファスナーを上げ、車へ戻ろうとした。
そのとき、気づかないまま蛇を踏んでしまった。蛇は俺の脚に噛みつき、俺が足を上げると逃げていった。
毒が早く回るのを防ごうと、俺は冷静さを保ちながら急いで車へ戻った。
「クソッ、蛇に噛まれた!」俺は取り乱しながらデレクに告げた。
「どうして気づかなかったんだよ! 傷の手当てをしよう!」と彼は答えた。
彼は俺を座席まで支えてくれた。その間、サムが何が起きたのか尋ねた。
「どうしたの!?」
ブリサがトランクから救急箱を渡してくれた。俺はアルコールで傷口を消毒した。
「大丈夫だ」とデレクは言った。だが、その声からは彼も恐怖を感じていることがはっきりと伝わってきた。
全員が動揺していた。蛇に毒があったのかどうか分からなかった。それでも、時間が過ぎるたびに恐怖が俺たちを飲み込んでいった。
毒が血液の中を巡っていくように感じた。恐怖が引き起こした感覚にすぎなかったのかもしれない。だが、俺には一刻も早く解毒剤が必要だった……。
蛇に噛まれたあと、デレクと俺は地図を広げ、薬を手に入れられる近くの病院を探した。運の悪いことに、最も近い病院は十五キロ先にあり、目的地とは反対の南側にあった。
投票の結果、デレク、ブリサ、サムは病院へ向かうことを決めた。
俺はひどい状態だった。めまいがし、体がひどく熱く、口の中には奇妙な味が広がっていた。医学を学んだことのあるブリサは、俺が説明した蛇の特徴から、必要な薬が何か分かっていた。
数分後、俺たちは病院に到着した。入口に着くと、そこが隔離施設として使われていたことが分かった。しかし、軍はすでにその場所を放棄していた。
まず、感染者がいるかどうかを確認した。誰もいないようだった。
俺たちは中へ入った。
俺はどうにか歩いていた。視界は次第にぼやけ、手足にしびれるような感覚が広がり、いつまでも終わらないようなめまいに襲われていた。
「聞いてくれ……君は下を探してくれ。俺は上を探す」とデレクに言った。
病院は二階建てだった。幸い、感染者はいないようだったが、防護服を着た遺体が建物のあちこちに転がっていた。
奇妙なことに、どの遺体も感染者に襲われて死んだようには見えなかった。
全員に銃創があり、壁には無数の弾痕があった。
俺は薬がぎっしり並んだ棚のある部屋に入った。
「さてと……アドロントラ、違う。アプティバス、違う。アラカルム、違う……いったいどこにあるんだ、クソッ。アザリア、違う。念のためパラセタモールは持っていこう。アピドラ、違う……モルヒネ? これは役に立つかもしれない」
長い時間探し続けたあと、遺体が大量に置かれた部屋を見つけた。死の臭いが耐えられないほど強かった。あまりにも暗かったので、懐中電灯をつけた。
奥には、カプセルや薬がいくつも置かれたテーブルがあった。
アンティビプミンを見つけた。
俺は急いでそれをリュックサックにしまった。だが、振り返った拍子に、テーブルの上に置かれていたガラスのコップにうっかりぶつかってしまった。
ドン。
コップは床に落ち、粉々に砕けた。音は病院中に響き渡り、誰もいない壁に反響しながら、暗い廊下の奥へと消えていった。一秒ほど、何も起こらなかった。
そのとき、うなり声が聞こえた。
俺は顔を上げた。
床に転がっていた遺体の一つが動き始めた。続いて、もう一つ。そして、さらにもう一つ。
六体の感染者が、遺体の間からゆっくりと起き上がった。
「いや、いや、いや……」
俺はどうにか部屋から飛び出した。無事なほうの脚に全体重をかけて進んだ。毒はすでに俺の体をひどく蝕んでいた。手足は重く、頭はぐるぐると回り、視界はますます濃い霧に覆われていくようだった。
感染者たちが後を追ってきた。
走っていた。
足音とうなり声が廊下に響き渡った。振り返ると、感染者たちがどんどん近づいてきていた。一体は顔全体が乾いた血に覆われ、動くたびに首の皮膚の一部が剥がれ落ちそうになっていた。もう一体は片脚を引きずり、床に小さな黒い染みを残しながら進んでいた。
考える暇などなかった。
俺は走り続けた。
目の前の廊下が狭くなっていく。脚はほとんど言うことを聞かず、肺に空気が入ってこないように感じた。そのとき、床に落ちていた毛布に足を取られた。
俺は転倒した。
衝撃で息が詰まった。
立ち上がろうとしたが、腕が震えてうまく動かなかった。足音がますます近づいてくる。気配を感じた。ほんの数メートル先まで迫っていた。
俺は振り返った。
六つの影が廊下を進んできていた。
そのうちの一体が頭を上げ、口を開いた。黒ずんだ歯が迫ってくるのが見えた。その後ろから、ほかの感染者たちも襲いかかってきた。
これで終わりだと思った。
そのとき、アドレナリンが痛みを上回った。
俺は全力で体を押し上げ、どうにか立ち上がった。だが、すぐに何か硬いものの上に倒れ込んだ。
遺体だった。
軍人の遺体だった。体は無残に損傷し、服は引き裂かれ、顔は原形をとどめていなかった。それでも、両手にはまだMP5が握られていた。その横には弾倉が二つ落ちていた。
俺はそれをつかんだ。
使う力が残っているかどうかも分からなかった。だが、これしかなければ、使うか死ぬかのどちらかだった。
廊下に向き直り、銃を構えた。
視界はぼやけていた。
感染者たちは、もう目の前まで迫っていた。
焦点を合わせようと、何度もまばたきをした。
一体は十メートルも離れていなかった。もう一体は妙な歩き方をしていて、一歩ごとに小さく跳ねているように見えた。傷のせいなのか、それとも俺の視力が落ち始めているのか、分からなかった。
狙いを定めた。
引き金を引いた。
カチッ。
何も起こらなかった。
「クソッ……」
銃には弾が入っていなかった。
俺は必死にスライドを引き、弾が薬室に装填される感触を確かめた。
先頭の感染者は、もう目の前にいた。
発砲した。
バン!
感染者の頭が後ろに弾かれ、そのまま倒れた。
一体。
もう一体が俺に飛びかかってきた。
再び発砲した。
バン!
弾丸が頭を貫いた。
二体。
三体目が、その後ろから現れた。
発砲した。
外れた。
弾丸は壁に命中した。
轟音で耳鳴りがした。
「頼む……頼む……」
手が震えていた。
毒のせいで頭がぼんやりしていた。
四体目が、ほかの遺体の間を進んできた。一瞬、その顔が目の前で変形したように見えた。皮膚が歪み、また元に戻っていくようだった。俺はまばたきをした。
そいつは、そこにいた。
狙いを定めた。
発砲した。
バン!
感染者は仰向けに倒れた。
残りは三体。
俺はどうにか後退しながら、迫ってくる感染者たちを見ていた。MP5の銃身が、手の中でますます重くなっていった。
次の一体に狙いを定めた。
発砲した。
外れた。
感染者が俺に飛びかかってきた。だが、どうにか身をかわし、二発目を撃った。
バン!
そいつは倒れた。
残りは二体。
息が苦しかった。
目を開けているのもつらくなっていた。
一体は廊下の奥でじっと立っていた。走ってこない。ただ、俺を見つめていた。
何かがおかしかった。
その服は、あの病院の中にいるにしてはきれいすぎた。顔にも、ほかの感染者たちにあったような傷がなかった。ただ、そこに立ち、動かずに俺を見ていた。
俺はまばたきをした。
まだそこにいた。
銃を持ち上げた。
感染者が一歩踏み出した。
頭に狙いを定めた。
カチッ。
何も起こらなかった。
弾倉を確認した。
空だった。
「クソッ……」
最後の感染者は、数メートル先にいた。
俺は持っていたリボルバーを取り出し、狙いを定めた。銃口はひどく震え、目の前に向けておくことさえ難しかった。
発砲した。
バン!
外れた。
感染者はまだそこにいた。
もう一度、狙いを定めた。
だが、何かがおかしかった。
視界がぼやけていた。動いていないはずなのに、そいつの輪郭が揺れているように見えた。一瞬、そいつが遠ざかったように感じた。次の瞬間には、近づいていた。
五メートル。
いや。
十メートル。
俺はもう一度まばたきをした。
今度は、目の前にいた。
残された力を振り絞って、リボルバーを持ち上げた。
そのとき、声が聞こえた。
「おい、いったい何をやってるんだ!?」
俺は顔を向けた。
デレクだった。
「感染者だ!」廊下を指さしながら、俺は叫んだ。
デレクは俺が指している方を見た。
誰もいなかった。
俺は動けずにいた。
もう一度、目を向けた。
廊下は空っぽだった。
六体の感染者はいなかった。
一体もいなかった。
そこにあったのは、遺体と、弾痕だらけの壁と、ガラス片に覆われた床だけだった。
呼吸が速くなった。
そこで、ようやく理解した。
あそこにいたものが、すべて本当に存在していたとは限らない。
もしかすると、一体もいなかったのかもしれない。
「銃声が聞こえて、二階まで駆け上がってきたんだ。血清は手に入れたか?」とデレクが尋ねた。
答えようとしたが、ほとんど声が出なかった。視界が消えたり戻ったりしていた。あと数秒で意識を失いそうだった。
「ああ……持ってる」と、どうにか答えた。
デレクが俺の腕をつかんだ。
「ここを出るぞ。君が最初に撃ったとき、病院の奥から大勢の感染者が出てきたんだ」
反論する力もなかった。
俺たちはどうにか病院を出て、車に戻った。俺は後部座席に崩れ落ち、デレクが運転席に座った。
彼はキーを回した。
何も起こらなかった。
もう一度、試した。
何も起こらなかった。
「エンジンがかからない!」
遠くからうなり声が聞こえた。
続いて、もう一つ。
デレクは窓の外を見た。
「別の車に乗るぞ。今すぐだ」
サムが俺のリュックサックをつかみ、俺たち四人は通りを走り出した。病院は背後にあり、感染者たちの声が次第に増えていった。
「あそこ!」ブリサが叫び、少し先に停まっていたピックアップトラックを指さした。
俺たちはそこまで走り、車に乗り込んだ。
デレクがキーを探した。
キーは差し込まれたままだった。
彼が回した。
エンジンがかかった。
「ブリサ、血清は彼のリュックサックに入ってる!」デレクが加速しながら叫んだ。
「見つからない!」
「早く血清を打ってくれ!」
ピックアップトラックは病院から遠ざかり、建物の明かりが背後へと消えていった。
意識を失う前に聞いたのは、それが最後だった。
目を覚ましたのは夜だった。
デレクが運転していて、ブリサは助手席で眠っていた。時間を確認した。
午前0時23分。
すべてが静かに見えた。
サムも眠っていた。
数秒間、自分がどこにいるのか分からなかった。やがて、蛇のこと、病院のこと、そして目にした感染者たちのことを思い出した。
あるいは、見たと思い込んでいた感染者たちのことを。
俺は再び目を閉じた。
毒に噛まれた箇所はまだ痛んでいたが、状態はよくなっていた。めまいも残っていたが、かなり軽くなっていた。
すべてが始まって以来、初めて、何かに追いつかれそうだと感じずに息をすることができた。
こんなにも心が穏やかになったのは、生まれて初めてだった……。




