III — 救出
この家は安全そうだ。俺がこれを書いている間、ほかのみんなは眠っている。俺たちのうち一人が見張りをしている。外は静まり返っていて、聞こえるのは風の音と屋根の木材がきしむ音だけだ。明日、この辺りを調べるとき、あの上で何も悪いことが起きていないよう願っている。
9月23日 — 隔離命令が出されてから8日目。
モーテルで数時間眠ったあと、俺たちは再び出発した。誰も本当の意味で休めてはいなかった。廊下で物音がするたび、誰かが目を覚ました。場所は安全そうに見えたが、誰もその静けさを信じすぎるつもりはなかった。早朝、荷物をまとめて車に乗り込み、アッシュフォードへ向かった。
数時間走ると、地平線の向こうに街が見え始めた。午前11時近くだった。アッシュフォードは、それまでに通過した街ほど混乱してはいなかったが、正常な状態からはほど遠かった。住民が家の中に隠れ、カーテンで窓を覆い、あらゆる物を使ってドアを塞いでいる家があった。まだ何台かのパトカーが通りを走っており、ときおり中心部へ向かって猛スピードで移動する車両も見えた。まだ何とか秩序を維持しようとしている人間は残っているらしい。だが、それがいつまで続くのかは誰にも分からなかった。
空港は街の端のほうにあった。近づくにつれ、俺は窓の外を眺め、どんな状況が待ち受けているのか見当をつけようとした。
「ガソリンスタンドにあれだけ感染者がいたんだ」と俺は言った。「空港に何体いるかなんて、想像したくもない」
デレクは前方を見つめたままだった。
「何百体もいるはずだ」
「たぶん、それ以上だ」
サムは後部座席で、膝の上に広げた地図を見ていた。
「だったら、三人一緒には入れないわね」
「そうだな」と俺は答えた。「誰かが大半の注意を引きつけて、その間に残りが中へ入る必要がある」
デレクが俺を見た。
「俺が中へ入る」
「俺が感染者を引きつける」
サムが顔を上げた。
「また警報を鳴らすの?」
俺はうなずいた。
「ほかに思いつかない」
デレクはゆっくりと首を横に振った。
「失敗したらどうする?」
「そのときは厄介なことになる」
サムが皮肉っぽく小さく笑った。
「その楽観的な考え方、好きだわ」
「前向きでいようとしてるんだ」
「そうは見えないけど」
俺は笑った。
空港の施設が一部見えるところまで近づいた。周囲には放置された車があり、出入口のあちこちに感染者の集団が散らばっていた。直接近づくわけにはいかなかった。そこで、入口から少し離れた場所に放置されている車を見つけた。
「あれでいい」と俺は言った。
車を止めた。デレクと俺が降り、サムは運転席に残った。
「感染者が離れたのを確認したら、中へ入れ」と俺はデレクに言った。「ブリサを見つけて、非常口から脱出するんだ。彼女がいる店は二階だったよな?」
「ああ」
「なら、上へ行って彼女を見つけたら、一番近い出口を探せ」
デレクはうなずいた。
「分かった」
俺は数秒間、彼を見つめた。
「幸運を祈る」
「お前もな、ジェイコブ」
そう言って、彼は俺と拳を軽くぶつけた。
俺たちは別れた。俺は放置された車へ向かい、デレクは空港へ進んでいった。ドアを開けて乗り込み、鍵を見つけた。
エンジンはかかった。
警報を作動させると、音が辺り一帯へ響き渡った。感染者たちが一斉に振り返った。一体、二体、十体、そして何十体。数秒もしないうちに、大勢の感染者が車へ向かって動き始めた。百体は超えているはずだった。
俺は一瞬、笑みを浮かべた。
うまくいっている。
だが、そのとき、今まで見たことのない光景が目に入った。
歩いていない感染者がいた。
走っていた。
「何だ、あれ……?」
それまで見た感染者は、歩くか、ゆっくりと小走りする程度だった。だが、あいつらは違った。少なくとも十体が、今まで見たこともない速度でこちらへ向かっていた。
マチェーテ一本で、走ってくる感染者十体を相手にできるわけがない。
俺は車から飛び出し、走り始めた。ほかの感染者たちは警報の鳴る車へ向かい続けていた。歩くものもいれば、小走りするものもいた。そして、あの十体は俺が全力を出さなければ追いつかれるほどの速さで走っていた。空港の裏側にある家々の間を抜け、振り返ることなく走り続け、ようやくサムが待つ車にたどり着いた。
ドアを開け、乗り込んだ。
「何があったの?」
「走る感染者がいる」
「走るの?」
「ああ。それも、かなり速い」
サムは後ろを振り返った。
「デレクは?」
俺は空港を見た。警報はまだ鳴り続けていた。一分待ち、二分待ち、三分待った。それでもデレクは現れなかった。
「もう出てきていてもいいはずだ」
サムが俺を見た。
「ブリサを見つけるのに時間がかかっているのかもしれない」
「いや」
俺は再び空港へ目を向けた。警報はまだ鳴っている。
「何かあったんだ」
「ジェイコブ……」
「何かがおかしい」
サムは首を横に振った。
「行かないで」
「まだ出てこないってことは、何か起きたんだ」
「だからこそよ。何かあったのなら、一人で行ったところで状況を悪化させるだけかもしれない」
俺はドアを開けた。
「置いていくわけにはいかない」
サムが俺の腕をつかんだ。
「ジェイコブ」
俺は彼女を見た。
「戻ってくる」
車から降り、ドアを閉めてマチェーテを抜いた。警報が鳴り続ける中、空港へ向かって走った。側面のドアのひとつから建物へ入り、素早く内部を進んだ。その辺りはほとんど人影がなかったが、あちこちから何かを叩く音やうなり声が聞こえた。床は汚れ、スーツケースや血で散らかっていた。
いったい、ここで何が起きたんだ……?
動く歩道式のエスカレーターにたどり着いた。まだ動いていた。俺はできるだけ速く上へ進み、二階へ向かった。上に着いたとき、声が聞こえた。
「ジェイコブ!」
デレクだった。彼は金属製の柵の前に立っていた。その向こう側にはブリサがいた。
「開かないんだ!」
俺は近づいた。
「どうした?」
「南京錠だ!」
デレクは完全に取り乱していた。
「ここに着いてから、ずっと開けようとしてる!」
ブリサが柵の向こうから俺を見た。
「ジェイコブ?」
「やあ、ブリサ」
デレクがハンマーを見せた。金属製の頭部はまだ手に残っていたが、木製の柄は折れていた。
「最高だな」と俺はつぶやいた。
周囲を見回した。
「ちょっと待ってくれ」
何か使えるものを探していると、壁に取り付けられた消火器が目に入った。俺はそれを固定具から引き抜いた。
「少し離れてろ」
デレクは言われたとおりにした。俺は消火器を持ち上げ、南京錠へ振り下ろした。
一度。
金属音が廊下全体に響いた。
二度。
南京錠はほとんど動かなかった。
三度目。
デレクが近づいてきた。
「もう一度だ!」
俺は全力で叩きつけた。
ドンッ!
南京錠が壊れた。デレクはすぐにそれを取り外し、柵を持ち上げた。ブリサは駆け出し、デレクが彼女を強く抱きしめた。
「もう二度と会えないと思ってた」
二人は数秒間、抱き合ったままだった。俺は廊下へ目を向けた。あまりにも大きな音を立ててしまった。
「行かなきゃ」
デレクはブリサから離れた。
「ああ」
そのとき、最初のうなり声が聞こえた。
「感染者が近づいている」と俺は言った。「走る奴もいる。あと一分もしないうちにここへ来るぞ」
デレクの表情が変わった。
「どこから?」
「階段だ」
俺たちは走った。動く歩道式のエスカレーターまでたどり着いたが、すぐに足を止めた。下には感染者がいた。大勢だ。
「こっちだ」
廊下を進み、搭乗エリアにたどり着いた。そこには滑走路へ続く連絡通路があった。接続された飛行機はなく、脇には地上から飛行機へ乗り込む際に使う移動式のサービス階段が置かれていた。
デレクはブリサが降りるのを手伝った。
「ゆっくり」
「自分でできるわ」
「分かってる。手伝わせてくれ」
地上に降りると、俺たちは滑走路を走り始めた。
そのとき、背後から音が聞こえた。
足音だ。
大勢の。
振り返ると、空港の職員だった感染者が建物のひとつから現れていた。まだ視認性の高いベストを着たまま、俺たちに向かってまっすぐ走ってきていた。
「走れ!」
デレクがブリサの手をつかんだ。
「行くぞ!」
俺たちは全力で走った。感染者たちは近づいてきた。一体がすぐ後ろまで迫り、別の一体が横から現れた。
「ジェイコブ!」
前方を見た。遠くに車が見えた。サムが滑走路につながるフェンスの隙間を見つけ、そこを通って俺たちの近くまで来ていた。
「乗って!」
車は数メートル先で急停止した。サムがドアを開け、デレクはブリサを車内へ押し込んだ。俺もすぐに続いた。ドアを完全に閉める前に、サムはアクセルを踏み込んだ。
「つかまって!」
車はサービス道路を猛スピードで走り、空港から遠ざかった。後部窓から振り返ると、感染者たちはしばらく走り続けていたが、やがて少しずつ遠ざかっていった。アッシュフォードの街並みが、俺たちの背後で小さくなっていった。
ブリサは生きていた。
デレクは彼女を見つけた。
だが、今度は別の問題があった。
この先、どうすればいいのか分からなかった。
アッシュフォードを幹線道路から離れ、数キロ進む間、誰もほとんど口を開かなかった。街は少しずつ遠ざかり、やがて木々の間に見える低い建物の集まりになった。車内にはエンジン音が響き、ときおり誰かが窓の外を見て、家々や放置された車の間に動くものがないか確かめていた。
ブリサは後部座席でデレクの隣に座っていた。顔はまだ青白く、胸の前で腕を組んでいた。まるで、本当にあの場所から脱出できたのか、何度も確かめようとしているかのようだった。一方、デレクは何度も横目で彼女を見ていた。数秒以上、彼女から目を離すことができないようだった。
サムは俺の隣で携帯電話を手にし、街を離れてからずっと地図を確認していた。やがて彼女が口を開いた。
「問題があるわ」
俺は彼女を見た。
「何だ?」
「食料よ」
後部座席からデレクが小さく笑った。
「それは確かに問題だな」
サムは携帯を持ち上げ、画面を見せた。
「ほとんど何も残ってない。車に残っているわずかな食料じゃ、四人で長くはもたない。今は四人いるのよ」
ブリサが窓の外を見た。
「この先で何か探せばいいわ」
「私が言っているのはそういうことよ」とサムが答えた。「止まらずに運転し続けて、偶然食料が見つかるのを期待するわけにはいかない」
俺はうなずいた。
「彼女の言うとおりだ。先へ進む前に物資を確保する必要がある」
デレクが少し身を乗り出した。
「どこで?」
サムは再び地図を見た。
「ここから数キロ先に小さな町がある。大きな町ではなさそう」
「どのくらいかかる?」と俺は尋ねた。
「正確には分からない。道路が遠回りになっているけど、二時間もあれば着けると思う」
ブリサが後ろから携帯の画面をのぞいた。
「小さな町なら、まだ全部が略奪されていないかもしれない」
サムは首を横に振った。
「逆に、もう何も残っていないかもしれない」
「試してみる価値はある」とデレクが言った。「道路の真ん中で食料が尽きるよりはましだ」
誰も反対しなかったので、俺たちはその町へ向かい続けた。
その後の二時間、ほとんど人影を見なかった。道路は不自然なほど空いていた。路肩に止まった車、ドアが開いたままの車、木に衝突した車が一台あった。風が乾いた葉をアスファルトの上へ吹き飛ばし、それが車体に当たって小さな音を立てた。
ようやく最初の家々が見えたところで、俺は速度を落とした。
町は放棄されたように見えた。交通はなく、煙突から煙も上がっていない。通りを歩く人影もなく、店の中も慌ただしく空にされたようだった。
大通りのひとつにスーパーマーケットを見つけ、正面に車を止めた。ドアは開いたままで、商品はほとんど残っていなかった。陳列棚は倒れているか、完全に空だった。床には開いた段ボール箱、潰れた容器、通路に散乱した商品があり、棚の一部は固定具から引き剥がされていた。床には乾いた泥の足跡や車輪の跡も残っていた。
「大勢がここを通ったんだね」とブリサが言った。
「そして、全部持っていった」とサムが付け加えた。
デレクは通りの向こう側にある家々を見た。
「分かれて探そうか」
俺は彼を見た。
「どう分かれる?」
「ブリサと俺は家を調べる。食料や水、使えそうなものが見つかるかもしれない。お前たちはここを探せばいい」
サムがうなずいた。
「いいと思う。でも、あまり離れないで」
「離れないわ」とブリサが答えた。
デレクがドアを開けた。
「またあとで」
「気をつけろよ」と俺は言った。
「そっちもな」
二人が通りを進み、家々の間に消えていくのを見届けてから、サムと俺は再びスーパーマーケットへ入った。
中の静けさは、外よりもいっそう奇妙だった。汚れた床の上で俺たちの足音が響く。段ボールの湿った臭い、腐った食べ物の臭い、ほこりの臭いが空気に混ざっていた。壁や床には、ところどころ黒ずんだ染みがあった。
棚をひとつずつ調べた。いくつかの箱の裏から忘れられた缶詰を見つけ、水のボトルが二本、それにまだ食べられそうな食品もいくつか見つかった。大した量ではなかったが、何もないよりはましだった。
「これを見て」とサムが言った。
近づくと、倒れた棚の裏からエナジーバーの箱を見つけていた。
「持っていこう」
「もうやってる」
俺たちは探索を続けた。
俺が棚を調べていたとき、叫び声が聞こえた。
「ジェイコブ!」
すぐに振り返った。
「サム?」
返事はなかった。
俺はマチェーテを手にし、通路の間を進んだ。
「どこだ?」
少し先から声が聞こえた。
「ここ!」
俺は歩調を速め、角を曲がった。
サムは棚のひとつのそばにしゃがんでいた。その背後に誰かがいた。
子どもだった。
七、八歳を超えてはいないだろう。床に座り、膝を胸に抱え、汚れた服を着て、顔にはほこりがついていた。俺を見ると、サムの後ろへさらに身を隠した。
俺はマチェーテを鞘に収めた。
「どうした?」
サムが俺を見た。
「ここに隠れていたの」
俺はゆっくりと子どもの前にしゃがんだ。
「こんにちは」
返事はなかった。
「名前は?」
子どもは視線を落とした。サムが隣に座り、優しい声で話しかけた。
「怖がらなくていいのよ。私たちはあなたを傷つけたりしない」
数秒後、子どもが小さな声で答えた。
「ノア」
「分かった、ノア」と俺は言った。「お父さんとお母さんはどこにいる?」
子どもは黙った。俺はそれ以上、問い詰めなかった。サムは心配そうに彼を見た。
「どこに住んでいるの?」
ノアはゆっくりと手を上げ、通りのほうを指さした。
「あそこ」
俺は彼が指した方向を見た。
「家か?」
彼は首を横に振った。
「孤児院」
サムと俺は顔を見合わせた。
「そこにはほかにも子どもがいるのか?」と俺は尋ねた。
ノアはうなずいた。
「うん」
「じゃあ、みんなのところへ連れていってあげる」
子どもが顔を上げた。
「一緒に来てくれるの?」
「もちろん」とサムが答えた。「ここに一人で置いていったりしないわ」
俺たちはノアを間に挟んでスーパーマーケットを出た。俺は見つけたわずかな食料を持ち、サムは子どもの肩にそっと手を添えながら歩いた。
孤児院は数本先の通りにあった。そこへ向かう途中、通りの向こう側にデレクがいるのが見えた。俺が手を上げると、彼は不思議そうな顔で足を止めた。それから子どもに気づき、急いで道路を渡ってきた。ブリサも隣にいた。
「どうした?」とデレクが尋ねた。
「スーパーマーケットで隠れているところを見つけたんだ」と俺は説明した。「ここに住んでいるらしい」
ブリサがノアに近づいた。
「ほかにも子どもがいるの?」
「うん」
デレクは建物を見た。
「なら、中に入ろう」
サムがうなずいた。
「そうしましょう」
五人で入口へ向かった。ドアをノックして待つと、数秒後に足音が聞こえた。ドアが開き、五十歳くらいの女性が現れた。黒い髪を後ろでまとめ、何日も前から疲労が顔に張りついているような表情をしていた。
ノアを見た瞬間、彼女は目を見開いた。
「ノア!」
子どもはうつむいた。
「どこにいたの?」と彼女は尋ね、すぐに外へ出てきた。「建物から出るなって言ったでしょう!」
「ごめんなさい」とノアが小さく答えた。
女性は深く息を吸い、額に手を当てた。
「二度とこんなことをしないで。分かった? 一人で外に出ちゃだめ。危険すぎるのよ」
それから、彼女は俺たちを見た。
「ありがとう。本当に」
「スーパーマーケットで見つけたんです」とサムが説明した。「隠れていました」
女性は安堵したように一瞬目を閉じた。
「連れてきてくれてありがとう」
ブリサが建物の中を指した。
「ここは何の施設ですか? 孤児院?」
「そうよ。私はマーガレット・ミラー。ここで働いているの」
デレクが通りを見た。
「まだここにいるんですか?」
マーガレットは一瞬ためらった。
「ええ」
「どうして?」
女性はドアをもう少し大きく開けた。
「中へ入って。説明するわ」
俺たちが中に入って最初に聞いたのは、笑い声だった。
俺はその場で立ち止まった。あちこちに子どもたちがいた。少なくとも二十人はいる。床に座って色とりどりのブロックを積み上げている子もいれば、小さな車のおもちゃで遊んでいる子もいた。人形を胸に抱いた女の子がいて、二人の男の子は、誰が積み上げたものを壊したのか言い争っていた。
壁には絵が貼られ、ドアのそばにはリュックが置かれ、床にはおもちゃが散らばっていた。
世界の残りが崩壊しつつある中で、ここだけがまだ機能しているなんて、信じられなかった。
ノアが別の子どものところへ走っていった。
「イーサン!」
もう一人の子どもが立ち上がり、二人は抱き合ってから一緒に床へ座った。
マーガレットがテーブルを指した。
「座って」
俺たちは席についた。
「何か飲む?」
デレクがブリサを見た。
「お願いします」
マーガレットは数秒間、姿を消し、四つのカップに入った紅茶を持って戻ってきた。カップの熱が手に心地よかった。何時間も道路を走り続けたあとでは、そんな小さな気遣いさえ奇妙に感じられた。
まるで、普通の日常のようだった。
ほんの少しだけ。
マーガレットが俺たちの向かいに座った。
「数日前、ここから出ようとしたの」と彼女は話し始めた。「でも、通りには感染者が多すぎた。子どもたちは怖がって泣き始めるし、どんな小さな音でも感染者を引き寄せかねなかった」
サムが周囲を見た。
「大人は何人残っているんですか?」
マーガレットは首を横に振った。
「私だけよ」
ブリサが眉をひそめた。
「ほかの人たちは?」
「ほかの職員は逃げたわ。何人かは子どもを連れていこうとしたし、何人かはそのまま出ていった。私はできなかった」
彼女は子どもたちのほうを見た。
「この子たちを見捨てることなんてできなかったの」
デレクがテーブルに腕を置いた。
「食料はありますか?」
マーガレットは笑った。だが、そこに笑いの温かさはなかった。
「ほんの少しだけ」
「俺たちも大して持っていません」とサムが言った。「だから町に入ったんです」
「私も物資を探しに外へ出たわ」とマーガレットは答えた。「何軒かの家と店を回った。でも、あまり時間をかけないほうがいい。ここに住んでいた人たちは、最初の数日間でほとんど全部を持ち去ったから」
俺は子どもたちを見た。
「これからどうするつもりですか?」
マーガレットは深く息を吸った。
「町の外に場所を知っているの。ここからかなり離れているし、私の知る限り、誰もいない。安全かもしれないわ」
ブリサが少し首を傾けた。
「何もない場所なんですか?」
「ええ」
「確かなの?」
「確かとは言えないわ」とマーガレットは答えた。「でも、あそこでは感染者を見たことがない」
サムはカップをテーブルに置いた。
「私たちが知っている場所よりは、よさそうですね」
マーガレットはうなずいた。
「子どもたちをそこへ連れていきたい。でも、移動する手段がないの」
そのとき、町に入ったときに見たものを思い出した。
「スクールバスがあります」
マーガレットが俺を見た。
「どこに?」
「ここから数ブロック先です。学校のそばに止まっていました」
デレクが顔を上げた。
「使えるかな?」
「試してみる価値はある」
マーガレットはゆっくりと首を横に振った。
「私も考えたわ。でも、タイヤが二本パンクしているの」
「どうして?」
「分からない。銃で撃たれたように見えるわ」
デレクの表情が変わった。
「なら、タイヤが必要だな」
「工具もね」とサムが付け加えた。
「俺たちで探します」と俺は言った。
ブリサが俺を見た。
「二人で?」
「ああ」
「私は賛成できないわ」
デレクは少し笑った。
「俺だって大賛成というわけじゃない。でも、誰かがやらなきゃならない」
サムが口を挟んだ。
「二人で行けばいい。私たちはここに残るわ」
「そのとおり」とブリサが言った。「四人全員で出ていく必要はないもの」
俺はマーガレットを見た。
「暗くなる前にタイヤを見つけないと」
マーガレットはうなずいた。
「気をつけて」
「そうします」
デレクと俺は建物を出た。
午後の空気は冷たさを増していた。太陽が沈み始め、歩いていると家々の影が通りの上へ長く伸びていった。俺たちはバスへ向かった。
「気づいてるか?」と、しばらくしてデレクが言った。
「何に?」
「数時間前まで、もう二度と彼女に会えないと思ってたんだ」
俺は彼を見た。
「でも、見つけたじゃないか」
「お前のおかげだ」
「二人で見つけたんだ」
デレクは笑った。
「ああ。二人でな」
俺たちは歩き続けた。
「このあと、どこへ向かうか決めないとな」と彼が言った。
「まずはここから出ることだ」
「分かってる。でも、いつまでもその場しのぎで進むわけにはいかない」
「そのとおりだ」
デレクは通りを見た。
「感染者よりも気になることがある」
「軍か?」
彼はうなずいた。
「民間人に発砲している連中がいた。何が起きているのか分からないが、基地や検問所には近づきたくない」
「俺もだ」
「脇道が見つかったら、そっちを使おう」
「分かった」
デレクが通りを指さした。
「こっちだ」
さらに数分歩くと、タイヤ専門店が見つかった。店は無傷だった。デレクがショーウィンドウを見た。
「本当に誰もここを荒らしてないのか?」
「世界が終わりかけてるときに、タイヤのことを考える人間がいると思うか?」
「俺たちが考えてるな、どうやら」
店に入った。ゴムと古いオイルの臭いがした。棚には工具や、さまざまなサイズのタイヤが並んでいた。探し始めて、いくつかの列を調べたあと、必要なタイヤを見つけた。油圧ジャッキと工具もいくつかあった。
「必要なものは揃ったと思う」とデレクが言った。
「その二本を持ってくれ」
デレクがタイヤのひとつを持ち上げた。
そのとき、物音が聞こえた。
通りから、大勢の足音が近づいてくる。
俺たちは動きを止めた。音はどんどん増えていった。俺はショーウィンドウへゆっくり近づき、通りを進む感染者の群れを見た。一体、また一体と続いている。三十体以上はいるはずだった。
走ってはいない。
ただ、同じ方向へ向かって、一緒に歩いていた。
「しゃがめ」と俺はささやいた。
デレクはタイヤを床に置き、俺と一緒にしゃがんだ。
感染者たちは店の前を通り過ぎた。一体が立ち止まり、頭を回してこちらを見たが、すぐに歩き続けた。
だが、二体が群れから離れ、店内へ入ってきた。
デレクが俺を見た。
「音を立てるな」
俺はうなずいた。
一体が棚の間を進み、もう一体が続いた。そして最後に、三体目が背後から現れた。
俺たちは二人、相手は三体。
俺はゆっくりとマチェーテへ手を伸ばし、周囲を見回した。床に小さな金属製のナットが落ちていた。拾い上げ、待った。
感染者の一体が十分近づいたところで、ナットを店の奥へ投げた。
金属音が壁の間に響き、感染者がそちらを振り向いた。
その隙を利用して、俺は移動した。背後へ回り、マチェーテを首へ振り下ろす。感染者の体が床へ倒れた。
残りの二体がすぐに反応した。一体が俺へ飛びかかり、もう一体はデレクへまっすぐ向かった。
デレクは重い工具を持ち上げ、感染者の頭を殴った。相手はよろめいたが、倒れなかった。
「ジェイコブ!」
俺は間一髪で振り返った。もう一体の感染者が俺に飛びかかってきた。前腕で相手の顔を押しのけ、刃を振るって顔を切りつけたが、それだけでは足りなかった。再び飛びかかってきたので胸を殴ったが、それでも倒れなかった。
一歩後退したが、また追いつかれた。俺は相手をつかみ、マチェーテを腹部へ突き立てた。これで十分だと思った。
だが、感染者は予想したような反応を見せなかった。俺を押し続け、ついにバランスを崩した俺は、相手を下敷きにして床へ倒れた。
一瞬、もう終わりだと思った。
デレクが背後から現れ、感染者を殴った。一度、二度、三度。ようやく相手が動かなくなった。
デレクは荒い息をしていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
俺は数秒間、床に座ったまま息を整えた。デレクは感染者のシャツの背中をつかみ、俺の上から引きずり下ろした。それから頭を踏みつけた。
俺は起き上がり、感染者の腹部からマチェーテを引き抜いた。目をそらさず、今度は顎の下から刃を突き立てた。
体が動かなくなった。
デレクはその様子を見つめた。
「いったい何なんだ……?」
俺は深く息を吸った。
「頭だ」
デレクはうなずいた。
「ああ」
「弱点はそこだけだ」
「なら、覚えておかないとな」
数秒間、俺たちは黙っていた。それからタイヤと工具を回収した。
「行こう」と俺は言った。「これ以上増える前に」
店を出ると、通りは再び空っぽになっていた。群れは姿を消していた。タイヤと工具を運び、バスまでたどり着いて、それらを車両のそばに置いた。
そのとき、遠くで銃声が響いた。
俺たちは同時に動きを止めた。
デレクが町のほうを見た。
「あっちからだ」
「孤児院へ行け」
「お前は?」
「タイヤを交換する」
「ジェイコブ……」
「行け」
デレクは数秒間ためらったが、最後にはうなずき、走り始めた。
俺はバスのそばに残った。油圧ジャッキを取り出し、車体の下へ差し込んだ。作業を始める前に、しっかり支えられていることを確かめた。
作業には時間がかかった。
ボルトを緩め、損傷したタイヤを取り外し、新しいものを取り付ける。金属は指先に冷たく、終わる頃には手が汚れと油まみれになっていた。それから二本目の交換に取りかかった。
最後のボルトを締め終えたとき、俺はズボンで手を拭き、運転席へ乗り込んだ。
鍵を差し込み、回した。
エンジンは一瞬反応しなかったが、そのあと始動した。
自分でも気づかないうちに止めていた息を吐き出した。
「よし……」
バスを運転して孤児院へ戻ると、通りでデレクが待っていた。ブリサとサムが彼の後ろから出てきて、マーガレットも入口に姿を現した。
「銃声は何だった?」と俺は尋ねた。
デレクは首を横に振った。
「確認できなかった。マーガレットは森のほうから聞こえたと言ってる」
「誰かが狩りをしていたのかもしれない」とサムが言った。
ブリサは木々のほうを見た。
「感染者と何かあったのかもしれない」
俺は道路へ目を向けた。
「何にしても、ここを出たほうがいい」
「賛成よ」とブリサが言った。「外に誰がいるか分からないもの」
マーガレットは子どもたちを集め始めた。すべてが素早く進んだ。子どもたちはリュックや毛布を手に取り、別の子たちはおもちゃを運んだ。デレクと俺は箱を運ぶのを手伝い、サムとブリサは子どもたちが離れ離れにならずにバスへ乗れるよう、順番を整えた。
ノアはイーサンと一緒にバスへ乗り込んだ。乗る前に、彼は振り返って俺を見た。
「ありがとう」
俺は彼の肩に手を置いた。
「気をつけろよ」
それからマーガレットを見た。
「もうひとつ、覚えておいてください」
「何?」
「感染者が現れたら、頭を狙うんです。ほかの方法で止めようとして時間を無駄にしないでください」
マーガレットは真剣な顔でうなずいた。
「覚えておくわ」
「危険を冒さないで」
「そうするわ」
マーガレットはバスへ乗り込んだ。子どもたちは座席を埋めていった。窓の外を見つめる子もいれば、リュックを抱きしめる子もいた。ある女の子は人形を胸に抱えていた。
マーガレットがドアを閉めると、バスが動き始めた。俺たちが来たのと同じ道路を進み、遠ざかっていく。
カーブの向こうへ消えるまで、俺たちはその姿を見送った。
デレクが息を吐いた。
「あの人が安全区域を見つけられるといいな」
「私もそう思う」とサムが言った。
ブリサは空を見上げた。太陽は沈みかけていた。
「私たちも行かないと」
再び車に乗り込み、町を後にした。
走るにつれて道路は暗くなっていった。雲の間に最初の星が現れ、ヘッドライトが数メートル先のアスファルトを照らしていた。
そのとき、デレクが群れについて話し始めた。
「感染者の群れがあのまま道路を進んでいるなら、追いつかれる頃に車の中で寝ていたくないな」
サムがうなずいた。
「ここに留まるわけにもいかない」
ブリサが窓の外を見た。
「鍵のかかる場所が必要ね。家でもモーテルでも、何でもいい」
「家のほうがいい」と俺は言った。
サムを見た。
「地図で何か探せるか?」
彼女は携帯の画面を点けた。
「ちょっと待って」
数秒が過ぎた。
「あった」
「どこだ?」
「遠くないわ。町の外で、ほとんど道路の真ん中にあるみたい」
デレクが身を乗り出して画面を見た。
「周りには何かある?」
「あまりないわ」
ブリサが尋ねた。
「放棄されてるの?」
サムは地図を拡大した。
「分からない」
「ほかに家は?」
「ない。かなり孤立しているみたい」
デレクが俺を見た。
「なら、ちょうどいいかもしれない」
ブリサもうなずいた。
「誰もいなければ、そのほうがいいわ。もし誰かいたら……」
「入る前に話をしよう」と俺は言った。
サムは携帯をしまった。
「じゃあ、行きましょう」
夜が完全に訪れる中、俺たちは運転を続けた。今や、ヘッドライトだけが道路を照らす光だった。白い光が木々の間を進み、そのほかの景色は闇に沈んでいた。
数分後、サムが前方を指さした。
「あそこ」
遠くに建物の輪郭が現れた。ほかの建物から完全に離れた一軒家で、道路のそばにあり、暗い敷地と木々に囲まれていた。俺は速度を落とし、ゆっくり近づいた。やがてヘッドライトが正面の壁を照らした。
外には車がなく、明かりもついていない。人影も見えなかった。
俺は家のそばに車を止めた。エンジンは数秒間動いていたが、誰も何も言わなかった。やがてライトを消すと、すぐに静けさが戻った。聞こえるのはエンジンが冷えていく音と、枝を揺らす風の音だけだった。
デレクがドアを開けた。
「降りるか?」
「ああ」と俺は答えた。
俺たちは慎重に車から降りた。夜の冷気がすぐに体を包み、ブリサは音を立てないようドアを閉めた。
サムが窓を見た。
「誰も見えない」
デレクは入口を観察した。
「俺にも見えない」
俺は家を見つめた。
静かすぎた。
あの日に経験したことを考えると、この静けさは安心できるものではなかった。むしろ、不安をかき立てた。
数歩進んだ。背後ではまだヘッドライトが家の正面を照らしていた。ドアは閉じられたままだった。
何時間ぶりだろう。
その向こうに何があるのか、俺たちには見当もつかなかった。
家は二階建てで、静まり返っているように見えた。明かりはすべて消えていて、窓の向こうに動くものもなかった。最初にドアへ近づいたのはデレクだった。
「誰かいますか?」
数秒間、待った。
何も起こらない。
彼はもう一度ノックした。今度は少し強く。
「もしもし? 誰かいますか?」
返事はなかった。
デレクがドアノブを回すと、ドアが開いた。
「開いてる」
俺たちは慎重に、一人ずつ中へ入った。デレクが最後に入り、すぐにドアを閉めた。数秒間、その場で動かず、誰かがいることを示す物音がしないか耳を澄ませた。
何も聞こえない。
ただ、風が窓のひとつを静かに叩いているだけだった。
俺たちは一階を調べ始めた。
誰も見つからなかったが、二階へ続く階段にたどり着いたところで足を止めた。階段への通路は家具で塞がれていた。テーブル、椅子が何脚か、それに戸棚が階段の前に置かれ、バリケードを作っていた。
「偶然こうなったわけじゃないな」とデレクが言った。
俺は数歩近づき、家具を観察した。
「そうだな。誰かが通れないようにしたんだ」
ブリサが階段を見た。
「上へ行く?」
俺はほかの三人を見た。
この一日、俺たちはあまりにも多くのことを経験していた。もう立っているのもやっとだった。
空港、道路、町、孤児院、バス、タイヤ専門店。
どれも俺たちの体力を削り取っていた。
「明日にしよう」と俺は言った。「今は一階を調べて、休もう」
誰も反対しなかった。
一階の部屋を最後まで調べた。誰も見つからなかったが、食料の缶詰、水のボトル、まだ食べられそうな保存食がいくつかあった。
「少なくとも、食べるものはあるわね」とサムが言った。
物資の一部を台所へ運び、テーブルを囲んで座った。数分間、黙って食べた。話す気力もないほど疲れていたが、全員が同じことを心配しているようだった。
政府、当局、そして何も明らかにならない状況。
「政府はまだ事態を掌握していると思う?」とブリサが尋ねた。
デレクは視線を落とした。
「分からない」
「いつか何か説明してくれるはずよ」とサムが言った。
「まだ説明できるならな」と俺は答えた。
ブリサが居間を見た。
「テレビをつけてみない?」
デレクがリモコンを取り、テレビをつけた。数秒後、ニュース番組が映った。何台ものカメラの前に、深刻な表情をした男が座っていた。背後にはさまざまな都市の映像や、区域が記された地図が映っていた。
俺たちは画面を見つめた。
「……当局は引き続き事態の収拾に努めています」と報道官が話していた。「しかし、ここで皆さんにお伝えしなければならないことがあります。アメリカ合衆国大統領が亡くなりました」
食卓は静まり返った。
男は話を続けた。
「ここ数時間で、突然症状を発症する人々の事例が多数報告されています。その多くは急速に症状が進行し、最終的にはほかの人々を襲うようになりました」
サムはゆっくりとフォークを皿に置いた。
「少なくとも、何が起きているのか分からないってことは認めてるわね」
報道官は目の前に置かれた書類を手に取った。
「現時点では、この病気の発生源についていくつかの仮説が存在します。そのひとつは、最近接種が始まった実験的なワクチンに関連している可能性があるというものです」
サムは小さな笑みを浮かべ、デレクを見た。
「言ったでしょう」
デレクは眉をひそめた。
「何を?」
「ワクチンのことよ」
「サム……」
「何か気に入らないって言ったじゃない」
デレクは首を横に振った。
「その話はやめろ」
「ただ、私がそれほど間違っていなかったのかもしれないって言ってるだけよ」
俺は再びテレビを見た。
「あまりにも都合がよすぎたんだ」
デレクは困惑したように俺たちを見た。
「何の話をしてるんだ?」
サムは笑った。
「何でもないわ」
報道官は病院、被害が出ている都市、当局が講じている措置について話し続けた。しかし、具体的な答えを示す言葉はひとつもなかった。
ニュースが流れ続ける間、俺たちは食事を終えた。
その後、ニュースは同じ内容を繰り返し始め、チャンネルは以前見たことのあるドラマのエピソードへ切り替わった。
それでも、俺たちはテレビをつけたままにした。
奇妙なことだが、人間の声が聞こえていると、この家が少しだけ空っぽではないように感じられた。
ニュース番組が終わる前に、報道官が再び画面に現れた。
「国民の皆様にお願いします。感染者との接触を避けてください。自宅の中に留まり、ドアと窓を確実に閉め、軍が被害地域の制圧を回復するまで待機してください。いかなる状況でも、家から外へ出ないでください」
そのとき、背後から一人の兵士が現れ、急いで報道官へ近づき、耳元で何かを伝えた。
報道官は眉をひそめた。
「どうしました?」
兵士は、俺たちには聞こえない声で答えた。
男は再びカメラへ向き直った。
「皆様、どうやら……」
兵士がもう一度近づいた。
今度は、報道官の表情が完全に変わった。
「確かなのですか?」
兵士はうなずいた。
「我々は退避しなければなりません」と報道官はようやく言った。「防衛線が攻撃を受けています」
報道官は動きを止めた。
「防衛線が突破されたのですか?」
兵士は再びうなずいた。
放送が中断された。
画面は数秒間、黒くなり、そのあと一枚の表示が現れた。
まもなく放送を再開します。
誰も何も言わなかった。
デレクがリモコンを手に取り、テレビを消した。
「いい知らせじゃなさそうだ」
「ええ」とサムが答えた。「まったくね」
ブリサが窓のほうを見た。
「もし、あの人たちまで制御を失いつつあるのなら……」
彼女は言葉を止めた。
最後まで言う必要はなかった。
俺たちはしばらくテーブルを囲み、今の放送が何を意味するのか理解しようとした。その日見たこと、通過した街、そして起きていることについて、どれほどわずかな情報しか持っていないのかを話し合った。
やがて、疲労が限界に達した。
一階のドアと窓をもう一度確認し、二階の探索は翌朝に回すことにした。居間にはソファが二つあり、ベッドのある部屋もひとつあった。ベッドからマットレスを取り出し、全員が休めるように配置した。
「最初の見張りは誰がやる?」とデレクが尋ねた。
「二番目は私がやる」とサムが言った。
ブリサが顔を上げた。
「三番目は私」
三人が俺を見た。
「じゃあ、四番目は俺だな」
デレクはうなずいた。
「決まりだ」
俺たちはできる限りの形で寝場所を整えた。デレクはソファのひとつ、サムはもうひとつ、ブリサはマットレスを使うことになった。俺はベッドに横になった。
誰も、これ以上話し続けられるほどの体力は残っていなかった。
目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
その夜、日記を書くことはなかった。頭を枕に置いた途端、疲労に負けてしまった。
どれほど時間が過ぎたのか分からない。
誰かがそっと肩に触れた感覚で目を覚ました。
目を開けると、ブリサがいた。
「ジェイコブ」
何度か瞬きをして、ようやく彼女に焦点を合わせた。
「今、何時だ?」
「あなたの見張りの番よ」
居間を見ると、すべてが暗かった。
「どれくらい眠った?」
「数時間くらい」
俺はゆっくりと体を起こした。
「分かった」
ブリサは場所を空けた。
「眠り続けてもいいのよ」
俺は首を横に振った。
「いや。休んでくれ」
「本当にいいの?」
「ああ。あとでみんなを起こす」
ブリサはうなずき、マットレスへ戻った。
俺は部屋を出て、木製の椅子を持ってきた。窓のひとつのそばに置き、腰を下ろした。
家の中は完全に静まり返っていた。
外にも動くものはないようだった。
聞こえるのは、風に揺れる木々の音と、目に見える範囲すべてを覆う暗闇だけだった。
ほかのみんなが眠っている場所へ目を向けた。
全員、休んでいた。
そのとき、日記のことを思い出した。
取り出し、膝の上に置いた。
町を出てから、まだ何も書いていなかった。
あまりにも多くのことが起きた。
そして、そのひとつひとつを、あまりにも鮮明に覚えていた。
新しいページを開き、書き始めた。
空港のこと、デレクとブリサのこと、走る感染者のこと、町のこと、ノアと孤児院の子どもたちのこと、マーガレットのこと、バスのこと、タイヤ専門店のこと。
そして、その日に起きたすべてのことを書き記した。
どれほど書き続けていたのか分からない。
ようやく顔を上げたとき、ほかのみんなはまだ眠っていて、家は静まり返っていた。
再び窓の外を見た。
翌日、何が待ち受けているのか分からない。
この状況があとどれほど続くのかも分からない。
それでも、俺たちにはまだ可能性が残されていた。
俺は日記を閉じた。
ただ、明日が前へ進む理由を与えてくれることを願うしかなかった。
この家は安全そうだ。俺がこれを書いている間、ほかのみんなは眠っている。俺たちのうち一人が見張りをしている。外は静まり返っていて、聞こえるのは風の音と屋根の木材がきしむ音だけだ。明日、この辺りを調べるとき、あの上で何も悪いことが起きていないよう願っている。




