XXIII — 問題はまだ終わらない
寒さと困難があっても、太陽が昇れば、僕たちはきっとやり遂げられる。
彼女と僕……僕たち……いいものだ。
つまり、彼女には僕の心を穏やかにしてくれる何かがある。自分に自信を持たせてくれる何かが。彼女は口元を覆っているのに、布越しに笑顔が見えるような気がする。僕は自分の幸せを見つけたのだと思う。
僕はここで満たされている。
10月26日 — 隔離令発令から41日目。
僕はテントのベッドに腰掛け、ローラが手の傷をきれいにしてくれるのを待っていた。火傷はかなりよくなっていたが、指を動かすと、まだ皮膚が引っ張られるような感覚があった。
「ずいぶんよくなったわよ、おじさん」
ローラはそう言いながら、慎重に包帯を外した。
「皮膚もきちんと塞がってきてる」
「君のおかげだよ」
僕は立ち上がり、彼女に微笑んでからテントを出た。外の朝の空気は冷たく、キャンプは目を覚まし始めていた。テントの間を歩く兵士もいれば、箱を運ぶ兵士もいた。何台もの車両が、その日の活動に向けて準備を進めていた。
少しして、デレクが僕のところへやって来た。
「あと数日で出発だな、ジェイコブ」
僕はキャンプのほうを見た。
「そうだな。ここより少しでもマシな場所だといいけど」
「ここよりマシな場所だって?」
デレクはテントや、その場しのぎの建物を指さした。
「期待しすぎるなよ」
僕は思わず笑った。
遠くにタバタの姿が見えた。制服姿で歩きながら、ファイルの中身を確認している。彼女は僕に気づくと、手を上げて挨拶した。
僕も手を上げて応えた。
デレクは僕の視線を追い、にやりと笑った。
「お前たち、どうなってるんだ?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「さあな。最近、ずいぶん仲がいいように見えるからさ」
「黙れ」
デレクは大声で笑った。
「何も言ってないだろ」
「でも、そう思ったんだろ」
「それはそうだ」
僕たちはさらに数分ほど話していたが、そこへ一人の兵士が近づいてきた。
「ジェイコブ、大佐がお呼びです」
僕はため息をついた。
「問題はまだ終わらないか」
デレクは僕の肩を軽く叩いた。
「行ってこい。今度こそ世界を救わなくて済むかもしれないぞ」
「そう願うよ」
僕はハミルトンのテントへ向かった。中に入ると、タバタがいた。
「ここで何をしてるんだ?」
「私たちに任務があるの」
彼女が答えた。
ハミルトンは机の向こう側に座っていた。僕たちを見ると顔を上げた。
「ジェイコブ、君たちには私のためにやってもらいたいことがある……いや、実際には、君がやらかした失態の後始末だ」
僕は腕を組んだ。
「断れるわけじゃないんだろ。何が必要なんだ?」
大佐は椅子に座り直した。
「南西に、民間の滑走路がある。理論上、ヘリコプター用の燃料が残っているはずだ。そこの空港で燃料を積んだタンクローリーを探し、燃料を持ち帰ってほしい」
タバタはわずかに眉をひそめた。
「私たちだけですか?」
「君たちだけだ」
「期限は?」
ハミルトンは両手を机の上に置いた。
「必要なだけ時間をかけていい。だが、6日後には全員が出発する。その前に、どうしても燃料が必要なんだ」
僕はうなずいた。
「必ず持ち帰ります」
その後、僕たちはタバタと一緒に食事をした。隣同士に座り、任務について話した。少なくとも2日はかかるだろうという話にもなった。
それから自分のテントに戻り、荷物を準備した。ローラが入口で休んでいると、デレクがまた僕に話しかけてきた。
「何か任されたのか?」
「そうだ」
デレクは声を落とした。
「実は……嫌な予感がするんだ、ジェイコブ」
僕は彼を見て、気にしすぎないようにと微笑んだ。
「何についてだ?」
「わからない。ただ、昨夜、嫌な夢を見たんだ……お前もそこにいた」
「夢? 夢は現実じゃないってわかってるだろ」
「わかってる。でも……本当に起こったことみたいだった」
彼は少し間を置いた。
「炎。銃声」
僕の笑顔が少し消えた。
「いいか。ただの悪夢だ。何も起こらないさ。心配するな」
僕は彼の肩に手を置いた。
「2日か3日で戻ってくる」
デレクはため息をついた。
「そうだといいけどな」
そのとき、背後から声が聞こえた。
「どこへ行くの?」
エミールだった。彼は小さな兵隊のおもちゃで遊びながら、僕たちの会話を聞いていたらしい。
僕は彼の前にしゃがんだ。
「燃料を探しに行くんだ、坊や。ほんの数日だけだよ」
エミールは心配そうに僕を見つめた。
「でも、前に出かけたとき、あの男たちはジェイコブを殺そうとしてたよ」
僕は微笑んだ。
「撃つつもりはなかったんだ。ただ怖がっていただけさ」
「いつ帰ってくるの?」
「明日か、2日後くらいかな。長くは出かけないよ」
エミールは僕の手に目を落とした。
「手に包帯は必要?」
「ローラがもう、一生分くらい巻いてくれたと思うよ」
彼は笑った。
それまで話を聞いていたローラが、首を横に振った。
「大げさなんだから」
「どうしてみんな、そんなに心配してるんだ?」
僕は笑顔で尋ねた。
サムが入口の近くに現れた。
「だって、もうすぐ出発するからよ、ジェイコブ。1週間もしないうちに空港へ向かうんだから」
「わかってる。でも、僕たちを置いていくわけじゃないだろ」
サムは真剣な顔で僕を見た。
「そんなこと、わからないでしょ」
彼女の口調が変わった。
「大丈夫か、サム?」
「ええ。ただ……もう、こんなことは全部終わってほしいの」
僕はうなずいた。
「君だけじゃない。みんなそう思ってる。だから僕はこうして動いてるんだ」
サムは唇をきゅっと結んだ。
「わかってる……でも、どうして何でも一人でやろうとするの?」
「一人じゃない。タバタも一緒に来る」
サムはちらりと彼女を見た。
「彼女を信用してるの?」
その声には、僕が気に入らない何かが含まれていた。
「サム!」
デレクが口を挟んだ。
僕は片手を上げた。
「いや、大丈夫だ」
僕はサムを見た。
「ああ。彼女を信用してる」
ローラがため息をついた。
「ジェイコブ……」
僕はみんなを見回した。
「どうやら、僕以外はみんな何か知ってるみたいだな」
ブリサはサムと視線を交わしてから、口を開いた。
「ジェイコブ、ちょっと耳にしたことがあるの……」
「何があった?」
サムは息を吸った。
「何人かの兵士が冗談を言ってたの。ここから空港へ移動する途中で何かが手に負えなくなったら、民間人全員を撃つよう命令されてるって」
その瞬間、周囲の空気が変わったのを感じた。
「そんなことが起きるとは思えない。それに、もし本当なら、タバタが僕に話してくれるはずだ」
誰も答えなかった。
ただ沈黙だけがあった。
みんなの視線が、言葉以上のことを物語っていた。
そこで、僕は理解した。
「なるほど……みんな、彼女を信用してないんだな」
誰も答えなかった。
「僕を信用してるなら、彼女が悪い人間じゃないってことも信じてくれ」
僕は付け加えた。
サムは視線を落とした。
「ただ、帰ってきて、ジェイコブ……お願い」
彼女はテントを出て、デレクもその後に続いた。
「デレク……」
彼は入口で足を止めた。
「彼女が言ったこと……悪かった」
そう言い残し、彼も去っていった。
テントは静まり返った。
最後に立ち上がったのはブリサだった。
「みんな怖いだけ。でも、油断しないでね、ジェイコブ」
僕はうなずいた。
「そうするよ」
彼女が出ていくと、僕は数秒間、自分の荷物を見つめていた。
理屈の上では、今回の任務は難しくないはずだった。
だが、これまでに起きたことを考えると、本当に簡単なことなど何一つないように思えた。
その後、クラウディオに会った。僕の任務について話すと、全員で空港へ向かうときには一緒に行動しようと提案してくれた。
いい考えだと思った。
「僕も一緒に行くよ」と答えた。
テントに戻り、カメラ、この日記、ナイフ、懐中電灯、それから必要最低限の物をいくつか荷物に詰めた。
それからタバタを探しに行った。
「準備はできたか?」
「できたわ」
彼女は制服を渡してきた。
「はい。これを着て」
僕は着替えに行き、テントから出たところで大尉に出会った。
「ジェイコブ、もう出発するのか?」
「そうです」
「よし。聞いてくれ。大佐は、君を兵士として我々の部隊に加えるのがいいと考えている」
僕は驚いて彼を見た。
「君には必要な学歴も知識もすべて揃っているわけではない。それでも、制服を着て働いてくれる人間が必要なんだ。任務から戻ったら、大佐が君と話すだろう。どう思う?」
僕は数秒間、考え込んだ。
「まだわかりません……でも、力になれるなら、ぜひそうしたいです」
大尉はうなずいた。
「よし。任務の幸運を祈る。ゆっくり考えておいてくれ」
「ありがとうございます」
僕はキャンプの入口へ向かった。
タバタは、かなり傷んだ車のそばで待っていた。
「今から出発するわ」
僕は車を見た。
「これは何だ?」
彼女は微笑んだ。
「わかってる。動かなそうに見えるでしょ? でも、ちゃんと動くわ。空港か、どこかのガソリンスタンドでタンクローリーを見つけて、このポンコツと交換しましょう」
「そんなに車を信用してると聞いて、すごく安心したよ」
「車は信用してないわ。別の車を見つけるところまでは走ってくれるって信じてるの」
「それなら、ずっといいな」
僕たちは乗り込んだ。
出発する前に、僕は後ろを振り返った。
デレク、サム、ブリサが僕を見つめていた。
3人とも心配そうだった。
僕は手を上げて別れの挨拶をした。
そのとき、エミールが目に入った。
彼も3人のそばにいた。
僕をじっと見つめていた。
僕は窓のほうへ少し身を寄せた。
「すぐ戻ってくるからな。いいね?」
エミールは微笑んだ。
「バイバイ、ジェイコブ」
「またすぐ会おうな、坊や」
なぜかはわからないが、ドアを閉める前に、僕はもう一秒だけ彼を見つめていた。
それから、僕たちは車を走らせた。
朝に出発し、午後4時ごろには、民間空港のある街に到着する予定だった。
道路を進んでいると、タバタが音楽をかけようと言い出した。
「音楽をかけるわね」
彼女はリュックから何枚かのディスクを取り出した。
「準備がいいな」
「いつ音楽が必要になるかわからないでしょ」
「いつ、って?」
「そう。賢い人ならね」
「ああ」
「雰囲気を台無しにしないで」
彼女はクイーンのディスクを取り出し、プレーヤーに入れた。作動させるのに少し手間取ったが、数秒後には音楽が車内いっぱいに広がった。
「クイーンか?」僕は笑顔で尋ねた。
「好き?」
「父さんがよく聴いてたんだ」
タバタは音量を上げた。
窓を開けたまま、僕たちは「Don't Stop Me Now」を聴きながら旅を始めた。
タバタは、歌がうまいかどうかなど気にせずに歌っていた。
2時間後、遠くに街が見えてきた。
「あそこね」
タバタは地図を確認した。
「このガソリンスタンドを見に行けるわ」
「じゃあ、そうしよう」
到着すると、感染者が2体ほどいたが、タンクローリーの姿はどこにもなかった。
僕たちは車を降りた。
「せっかくだし、物資も探そう」
僕たちは慎重に動き、感染者を一体ずつ排除した。
ガソリンスタンドの店内に入った。
棚を調べていると、タバタがまた小さな声で歌い始めた。
「Don't stop me now……」
僕は彼女を見た。
思わず笑みがこぼれた。
崩壊した世界の中、廃墟となったガソリンスタンドで彼女が歌っているというのは、ほとんどばかげた光景だった。
それなのに、不思議と心が安らいだ。
手に入る物をすべて集め、外へ出ると、まだ鍵が差さったままの車を見つけた。
古い車だったが、僕たちの車より状態はよさそうだった。
「こっちの車のほうが、僕たちを気に入ってるみたいだな」と僕は言った。
「それとも、単に死にたがってるだけかもね」
「ずいぶん前向きだな」
午後6時だった。
僕たちは街の周辺を走り、さらに2か所のガソリンスタンドを調べた。
何もなかった。
「どうする?」タバタが尋ねた。
僕は地図を見た。
「直接、空港へ向かおう。きっと、あそこにはあるはずだ」
道中、僕たちは話を続けた。
「ハミルトンが僕を兵士にしたがってるって、聞いたか?」僕は尋ねた。
タバタは僕のほうを向いた。
「えっ!? 知らなかったわ!」
「ああ。大尉が教えてくれた。人手が必要らしい」
「本当に?」
彼女の表情が変わった。
「わ、私の部隊に入れてもらえるように頼めるわ」
「応じてくれると思うか?」
「応じるわよ」
彼女は絶対の自信を持って微笑んだ。
「私がどれだけ説得上手か、あなたは知らないのね」
「それは信じられるよ」
僕たちは走り続けた。
「あと数日で出発か……」僕は言った。「この地獄が終わるなんて、まだ信じられないよ」
タバタは数秒間、黙っていた。
「そうしたら、これからも一緒にいられるわね」
僕は彼女を見た。
「僕の仲間たちはどうなる?」
「彼らは安全な軍の施設へ移送されるわ。壁もあるし、医師もいる……危険から離れた場所よ。その間、あなたと私は、ほかの民間人を探しに行くの」
胃のあたりが締めつけられるような感覚がした。
「じゃあ、僕たちは引き離されるんだな」
「ああ……そうね、たぶん」
彼女の声からは、さっきまでの弾んだ調子が少し消えていた。
「みんな、その話は気に入らないでしょうね」
「君はどうしたいんだ、ジェイコブ?」
僕は道路を見つめた。
「このすべてが終わってほしい。でも、何もしなければ終わらないこともわかってる。僕たちが力を貸さなきゃいけない。もっと多くの人を探さなきゃ」
タバタは数秒間、僕を見つめた。
「だったら、一緒に来て」
「どこへ?」
「私と一緒に」
彼女は微笑んだ。
「ほんの数か月よ」
僕は彼女を見つめ、提案を受け入れようと決めた。
しかし、銃声の連続が僕たちの会話を遮った。
「いったいどこから撃ってきてるのよ!?」
タバタは叫びながら、ライフルを手に取った。
「森の中で光が見えた!」
再び銃声が響いた。
車体が揺れた。
「タイヤを撃ち抜かれた!」
僕は後ろを振り返った。
彼らは僕たちを殺そうとしているわけではなかった。
狙っているのはタイヤだった。
「僕たちを殺すつもりじゃないんだ」と僕は判断した。
「それで安心できるとでも?」
「いや」
僕はハンドルを強く握った。
「だからこそ、止まらない」
そのまま走り続けた。
「このままじゃ進めないわ、ジェイコブ」
「止まるわけにはいかない。連中の狙いはそこなんだ」
タバタは地図を見た。
「空港まであと数分よ」
「なら、耐えてくれ」
数分後、僕たちはようやく空港に到着した。
太陽は沈みかけていた。
タバタが前方を指さした。
「あそこ!」
タンクローリーだった。
僕はブレーキを踏んだ。
車を降り、タンクを手早く確認した。
空だった。
「燃料を入れて、ここから出よう」
僕は小さな格納庫に入った。中にはヘリコプターがあり、壁にはガラスの向こうに、複数の車両の鍵を掛けたパネルがあった。
その中に、タンクローリーの鍵もあった。
僕はライフルの銃床でガラスを叩き割り、鍵を何本か手に取った。
出口へ向かう途中、信号拳銃を見つけ、ポケットにしまった。
タンクローリーまで戻り、鍵を一本ずつ試した。
一本が合った。
「頼むぞ……」
ドアが開いた。
僕はエンジンをかけ、燃料ポンプのそばまで車両を移動させた。
ホースを引き出した。
燃料がタンクに流れ込み始めた。
タバタは周囲を警戒し、見張りを続けていた。
夜が完全に訪れた。
辺りを照らしているのは、タンクローリーのライトと、僕たちの懐中電灯だけだった。
数分後、ようやくタンクが満タンになった。
僕はホースを外し、タンクの蓋を閉めて、エンジンをかけた。
タバタを探した。
「やったぞ!」
彼女は親指を立てた。
僕たちはそろって、短く笑った。
大げさな祝杯を挙げるようなものではなかった。
長いあいだ緊張にさらされていたとき、ほんの数秒でも何かがうまくいったとわかって、自然とこぼれる。そんな笑いだった。
だが、任務はまだ終わっていなかった。
「来た道を戻るわけにはいかない」とタバタが言った。
「そうだな」
僕は暗闇を見つめた。
「遠回りするしかない」
タバタは地図を広げた。
「ここよ。19号線なら近道がある。橋を通る道よ」
「行こう」
僕たちは進路を変えた。
距離は長くなる。
だが、そのぶん安全なはずだった。
少なくとも、僕たちはそう考えていた。
橋に着くと、一台のトラックが道を塞いでいた。
何台もの放置車両の間に挟まり、動けなくなっていた。おそらく、感染拡大の初期に逃げようとした人々の車だったのだろう。途中で車を捨て、徒歩で逃げることにしたのかもしれない。だが、トラックと白い車を一台動かすだけで、通り抜けられるはずだった。
「どかさないとな」と僕は言った。
「鍵はあるかしら?」
「そう願おう」
僕たちは静かにタンクローリーを降りた。
風は冷たく、橋は完全な暗闇に包まれていた。
僕は道を塞いでいる車両に近づき、開いた窓から中を覗いた。
鍵は中にあった。
「いいか。僕が乗り込んで動かす。そのまま先へ進もう」
タバタはうなずいた。
問題は、放置された車の数だった。
僕たちは車の間をゆっくり進み、トラックまでたどり着いた。
僕はドアノブに手をかけた。
ドアを開けた。
警報音が鳴り響いた。
オレンジ色のライトが点滅し始め、暗闇を切り裂いた。
タバタが僕を見た。
「やっちゃったわね」
そのとき、僕たちは目にした。
何百体もの感染者だった。
橋の両端から、感染者たちが次々と現れ始めた。
「乗れ!」
僕たちは道を塞いでいたトラックに乗り込んだ。
ドアを閉めた。
鍵を差し込んだ。
回した。
何も起こらなかった。
もう一度試した。
何も起こらない。
「動かない!」
僕はイグニッションを見た。
鍵が、このトラックのものではなかった。
誰かが以前、エンジンをかけようとしたらしい。
「くそ……」
タバタは窓の外を見た。
感染者たちは、もう車両の上にまで押し寄せていた。
「どうするの?」彼女が尋ねた。
「僕たちを撃ってきた連中が近くにいるはずだ……それに、今ので正確な居場所を教えてしまった」
「今はそんなことを考えないで。ここから出るわよ」
僕は車のほうを見た。
「窓を割って外に出る。車の屋根を伝って、タンクローリーまで走ろう」
タバタはうなずいた。
「ついていくわ」
僕はガラスを叩き割った。
僕たちは屋根に上がった。
感染者たちは下から車両を叩いていた。僕たちは車から車へと飛び移り、必死に伸ばされる手をかわしながら進んだ。
一台。
二台。
三台。
そのまま前へ進んだ。
だが、とうとう進めなくなった。
タバタが前方を見た。
「もう車がない!」
僕たちは橋の端にある、水色のフォード・フィエスタの上で立ち止まっていた。
下を見た。
車両が動き始めていた。
「連中が押してるんだ」
感染者の群れが車を揺さぶっていた。
フォードが傾いた。
下では川が轟音を立てて流れていた。
胃の底が抜けるような感覚に襲われた。
「飛び降りるしかない」
タバタは、まるで僕が正気を失ったかのように見つめた。
「正気なの!?」
「ここで死ぬか、飛び降りるかだ!」
車が再び傾いた。
タバタは水面を見た。
それから僕を見た。
彼女はためらった。
やがて、うなずいた。
「3つ数えたらよ」
僕は数え始めた。
「1」
「2」
「3!」
僕たちは飛び降りた。
落下は永遠に続くように思えた。
氷のように冷たい水が猛烈な勢いで僕の体を打ちつけ、僕はすぐに水中へ沈んだ。
すべてが暗闇に包まれた。
冷たさが体の芯まで突き刺さった。
腕を動かそうとした。
浮上した。
僕は水面を突き破り、息を求めた。
「タバタ!」
返事はなかった。
「タバタ!」
そのとき、声が聞こえた。
「ジェイコブ!」
僕は頭を回した。
流れの中に彼女の姿が見えた。
僕は彼女に向かって泳いだ。
ようやくたどり着くと、僕たちは互いを強くつかんだ。
流れが僕たちを引きずっていった。
岩が脚にぶつかり、冷たさで筋肉が動かなくなり始めていた。
「離さないで!」
タバタが叫んだ。
「絶対に離さない!」
僕たちは水に抗い続けた。
どれほどの時間が過ぎたのか、わからなかった。
月明かりだけでは、岩の位置を見分けるのもやっとだった。
ようやく、僕たちは左岸にしがみつくことができた。
ずぶ濡れのまま、川から這い上がった。
ライフルは失われていた。
残っているのは拳銃と、僕のマチェーテだけだった。
タバタは苦しそうに息をしていた。
「大丈夫か?」
「ええ」
彼女は僕を見た。
「あなたは?」
「まだ生きてる」
僕たちは森の中を歩き続けた。ずぶ濡れで、体を震わせながら進み、やがて小さな小屋を見つけた。
中に入った。
マットレスと毛布があった。
誰かが最近までここを使っていたらしい。
誰なのかはわからなかった。
そのときは、そんなことを気にしている余裕もなかった。
寒さは耐えがたいほどだった。
僕たちは濡れた服を脱いで水を絞り、毛布だけを体にかけてマットレスに座った。
体温を保つため、互いに身を寄せた。
数秒間、どちらも何も言わなかった。
聞こえるのは、僕たちの呼吸だけだった。
タバタは震えていた。
「この任務、大嫌い……」
彼女がつぶやいた。
僕は小さく笑った。
「5分前には、全部うまくいくって信じてるって言ってたじゃないか」
「5分前は、橋から飛び降りてなかったもの」
彼女は寒さが入り込まないように、もう少し僕に身を寄せた。
「ジェイコブ……」
「何?」
「ここから出られたら……」
彼女は言葉を切った。
「一緒に行きましょう」
大尉からの提案について言っているのだとわかった。
僕は彼女を見た。
「もちろんだ」
「約束して」
僕はうなずいた。
「約束する」
彼女は頭を僕の肩にもたせかけた。
外では、風が木々を揺らしていた。
この任務が始まって以来、僕たちは初めて、完全に二人きりになっていた。
けれど、離れ離れではなかった。
その瞬間、それだけで十分だった。
寒さと困難があっても、太陽が昇れば、僕たちはきっとやり遂げられる。




