XXII — ダンス
横になり、あの特徴的なジャスミンの香りに包まれながら、僕は落ち着かず、不安に揺れる心を静めることができた。
その後、トイレに行きたくなった。タバタを起こさないように気をつけながら起き上がり、懐中電灯を手に取って店を出た。ショッピングモールはほとんど真っ暗で、いくつかの場所にかろうじて点けておいた小さな明かりだけが残っていた。外では嵐が断続的にうなり、窓ガラスや建物の金属製の構造物を震わせていた。この時間になると、どんなに小さな物音でさえ、大きく響いて聞こえた。
トイレへ向かって歩いていると、負傷した女性を寝かせていた店のそばを通りかかった。そのとき、かすかな声が聞こえた。
「……水……」
僕はすぐに立ち止まり、店の中へ懐中電灯を向けた。
イザベラだった。
近づくと、彼女は目を覚ましていて、いくつかの箱にもたれかかるようにしていた。顔色は青白く、呼吸も苦しそうだった。傷の状態も、依然として心配なものだった。
「動かないで。ひどいけがをしているんだ」そう言いながら、僕はボトルを探して彼女に渡した。
イザベラは両手で受け取り、必死な様子で水を飲んだ。飲み終えると、ため息を漏らし、自分の傷に目を向けた。
「私、噛まれたの?」
僕は眉をひそめた。
「誰に?」
彼女は僕を見上げた。
「あの化け物……」
何を言っているのか分からなかった。
「何を言っているのか分からないよ、イザベラ。感染者のことか?」
彼女はゆっくりと首を横に振った。
「感染者よりひどい……」彼女はつぶやいた。「もっと速い。そして、ずっと凶暴なの」
背筋に冷たいものが走った。
「何のことを言っているんだ?」
彼女が答える前に、ショッピングモール全体に銃声が響き渡った。
僕はすぐに振り返った。
僕たちが眠っていた場所から、タバタが走ってきた。
「何があったの?」彼女は明らかに動揺した様子で尋ねた。
「下で誰かが撃っている」
彼女の表情が瞬時に変わった。
「合流しなきゃ」
僕は無線機を手に取った。
「デレク?」
返事を待った。
何も聞こえない。
「デレク? 聞こえるか?」
聞こえるのは雑音だけだった。
「行こう」と僕は言った。
僕たちは店を出て、中央エリアへ向かった。ほかの仲間たちも休んでいた場所を離れていた。クラウディオは武器を構え、階段のほうを見ていた。
「誰が撃ったんだ?」彼が尋ねた。
「分からない。デレクだと思う」とタバタが答えた。
ローサはエミリーの姿を探すように周囲を見回した。
「エミリーはデレクと一緒にいたんだ、クラウディオ」と僕は言った。
そのとき、下の階から声が聞こえた。
「ジェイコブ!」
デレクだった。
僕たちは手すりまで走り、身を乗り出して下をのぞいた。
目にした光景に、全員が動きを止めた。
デレクとエミリーが下にいた。二人のそばには、武装した男が二人いた。彼らはデレクとエミリーを人質に取っていた。一人の男は撃たれたらしく、脇腹を押さえていた。一方、エミリーの頭には、はっきりと分かる打撲の痕があった。
デレクは両手を上げた。
「撃つな!」
タバタが僕のほうへ少し身を寄せた。
「どうする?」
僕は素早く考えようとしながら、彼女を見た。
「何が目的だ?」僕は男たちに向かって叫んだ。
男の一人が銃を持ち上げた。
「外にはいられない。嵐が危険すぎるんだ。ここは俺たちが見つけた最初の安全な場所だ。お前たちは出ていけ。持っている物は全部置いていくんだ」
ローサが一歩前に出た。
「自分で言ったでしょう。外は危険なのよ!」
「俺たちの知ったことじゃない」男が答えた。「こいつらを生かしておきたいなら、おとなしく従うんだな」
僕は歯を食いしばった。
僕たちは追い詰められていた。イザベラは歩くことさえやっとで、外へ出られる状態ではなかった。嵐の中に出れば、死刑宣告を受けるようなものだった。それに、物資を渡せば、これまで幾度もの危険を冒して手に入れてきた物の大半を失うことになる。
逃げ道を探していると、イザベラが僕たちの後ろに現れた。壁に手をつき、苦しそうに歩いていた。
「何が起きているの?」彼女が尋ねた。
僕はすぐには答えなかった。まだ状況を見つめていた。
撃ちたかった。
だが、デレクとエミリーが近すぎた。
そのとき、タバタが僕の腕にそっと触れ、反対側をさりげなく指さした。
エンリケだった。
彼は柱に半分隠れるようにして、強盗たちの後ろにいた。銃を撃つには絶好の位置だった。
ただ、命令を待っていた。
「だめだ……」僕はつぶやいた。
タバタが僕を見た。
「ほかにどんな選択肢があるの?」
答えられなかった。
僕はゆっくりと腰のホルスターに手を伸ばした。ほかの仲間たちも合図を理解し、戦闘の準備を始めた。
エンリケを見た。
彼は準備ができていた。
僕が命令するのを待っているだけだった。
だが、命令を出そうとしたその瞬間、鋭く、耳をつんざくような叫び声がショッピングモールを貫いた。
全員が動きを止めた。
音は裏口から聞こえてきた。
強盗たちが入ってきた、あの扉からだった。
イザベラの顔から血の気が引いた。
「こ、あいつ……」
タバタが彼女を見た。
「誰のこと?」
下の階にいた男の一人が扉のほうを振り向いた。
「何なんだ、あれは?」
暗闇から何かが飛び出してきた。
最初は感染者だと思った。
だが、その動きを見て考えが変わった。
ほかの感染者とは動きが違った。
狂ったように走っていた。
しかも、これまで見たこともないほどの速さだった。
それはデレクを拘束していた男に真正面から飛びかかり、凄まじい力で地面に叩きつけた。床に激突する音が建物中に響いた。男が反応する間もなく、化け物は彼の顔を何度も殴り始めた。
男は苦痛に叫んでいた。
もう一人の強盗が銃を構え、撃ち始めた。
銃声がショッピングモールに反響した。
化け物には何発も弾が命中したが、動きを止めなかった。
しかし、何かが違っていた。
弾が当たるたびに反応していた。体を震わせ、わずかに後退し、苦痛に満ちた声を上げていた。
銃弾が効かないわけではなかった。
ただ、止まるには怒りがあまりにも強すぎるようだった。
デレクは混乱に乗じた。
「エミリー、行くぞ!」
彼女を立ち上がらせ、二人で階段へ向かって走った。
ローサとエンリケが上で二人を迎えた。
僕は、死亡した軍人たちのM4を置いていた店へ走った。二丁を手に取り、そのうち一丁をタバタに渡した。
「エミールを安全な場所へ連れていってくれ!」
タバタはすぐにうなずき、走り去った。
生き残っていた強盗は僕たちを見上げ、階段を上ろうとした。僕たちが築いたバリケードが邪魔になり、簡単には進めなかった。
「頼む! 助けてくれ!」
彼は背後を振り返りながら、家具をよじ登ろうとしていた。
「開けるな!」デレクが叫んだ。
僕は仲間たちのもとへたどり着き、男を見た。
彼は恐怖におびえていた。
僕は彼が何者なのか知らなかった。ここへ来る前に何をしたのかも知らなかった。だが、その瞬間、はっきりしていることは一つだけだった。化け物が近づいてきていた。
「開けろ!」僕は叫んだ。
サムが僕を見た。
「そいつは敵よ、ジェイコブ!」
「誰も殺していない!」
僕はバリケードに近づいた。
そのとき、銃に弾を込める乾いた音が聞こえた。
振り返った。
サムが拳銃を僕に向けていた。
「だめよ」
僕はひどく失望して、彼女を見つめた。
「何をしているんだ?」
だが、それ以上何かを言う時間はなかった。
化け物が到達した。
最後の強盗に飛びかかり、男の体と頭をつかんで、引きちぎろうと力を込めた。そして、次の瞬間、それが起きた。血しぶきがあちこちに飛び散った。
僕たちは一斉に発砲した。
化け物に次々と弾が命中した。
それでも止まらなかった。
「弾切れだ!」デレクが叫んだ。
エンリケが銃を下ろした。
「俺もだ!」
数秒後、サムも同じように銃を下ろした。
「もうない!」
僕は弾倉を確認した。
空だった。
「くそ……」
男を殺し終えると、化け物はゆっくりと立ち上がった。
一瞬、動きを止めたように見えた。
その後、頭を上げた。
そして、バリケードをよじ登ってきた。
上まで来ると、全員が耳を塞がなければならないほどの大きな叫び声を上げた。感染者から聞いたことのあるどんな声とも違っていた。怒りと苦痛、そして、ほとんど絶望とさえ思える何かが、その声にはあった。
だが、そのとき、そいつがよろめくのが見えた。
銃撃が効き始めていた。
無事ではなかった。
そして、僕たちに飛びかかろうとした、まさにその瞬間、タバタが現れた。
彼女はライフルを構えた。
「伏せて!」
僕は身をかがめた。
タバタは最後の弾倉を、化け物の頭に向けて撃ち尽くした。
銃声が次々と響き渡った。
化け物は倒れた。
「くそ……」エンリケがつぶやいた。
数秒間、誰も何も言わなかった。
聞こえるのは、自分たちの呼吸だけだった。
「みんな無事か?」ようやく僕は尋ねた。
一人ずつ、仲間たちを見た。
デレクの服には血がついていたが、彼自身の血ではないようだった。エミリーは頭を打った衝撃で、まだぼんやりしていた。ローサはわずかに震えていた。エンリケは弾切れの銃を確認していた。
それから、サムを見た。
彼女は真剣な表情で僕の視線を受け止めた。
僕は何も言わなかった。
タバタが近づいてきた。
「大丈夫?」
「ああ。エミールは?」
「店の中に閉じ込めておいたわ」
僕は安堵してうなずいた。
それから、イザベラに目を向けた。
「この化け物が、君たちを襲ったのか?」
彼女の目には涙があふれていた。
「そう……」彼女は震える声で答えた。「あいつが、私の仲間を殺したの」
僕は手すりに近づき、強盗たちの遺体を見下ろした。
「これからどうする?」クラウディオが尋ねた。
僕は窓の外を見た。嵐はまだ激しく吹きつけていた。
「嵐が収まったら出発する」
僕たちは全員で強盗たちの遺体と、あの化け物の死体を運び出した。夜の残りを過ごす場所から、遠ざける必要があった。
そこで初めて、そいつをもっと詳しく調べることができた。
一見すると感染者のようだったが、違いがあった。
爪がほかの感染者より長く、鋭かった。極端に長いわけではなかったが、肉を簡単に引き裂けるほどではあった。
僕は数秒間、その爪を観察した。
それが何を意味するのかは分からなかった。
ただ、二度とあんなものに遭遇したくない。それだけは確かだった。
その後、数時間が経ってから、僕たちは全員で休み、夜明けと嵐の終わりを待ちながら交代で見張りをした。
10月24日 — 隔離命令発令から39日目。
数時間後、空が明るくなり始めた。
ようやく嵐が過ぎ去った。
僕たちはキャンプへ戻る準備をした。
「全部そろっているか?」と僕は尋ねた。
エンリケは最後にもう一度、車両と箱を確認した。
「たぶんな。何も足りない物はない」
僕たちは車に乗り込み、キャンプへ向かった。
数分後、到着した。
すべての物資を引き渡し、手に入れたスーツとドレスだけを手元に残した。
ハミルトンは、死亡した二人の兵士について報告するよう僕に求めた。僕は起きたことを詳しく説明し、二人の認識票を渡した。
彼は黙って話を聞いた。
「ありがとう、ジェイコブ」
僕はうなずいた。
「どういたしまして」
彼は僕を行かせてくれた。
外へ出ると、タバタがいた。
「仕事があるんだろう?」僕は言った。
彼女は微笑んだ。
「ええ。でも、明日の夜、ダンスパーティーで会いましょう」
「じゃあ、楽しみにしているよ」
僕は微笑んだ。
タバタは僕の前腕に手を滑らせた。
「またね、ジェイコブ」
「またな」
彼女は基地の人々の間を歩いて遠ざかっていった。僕は数秒間その姿を見つめてから、自分も歩き出した。
午後の残りの時間には、特に重要なことは何も起こらなかった。クラウディオとエンリケがトランプをしに来て、僕と一緒に遊んだ。その間、女性陣はドレスの試着をしに出かけていた。
久しぶりに、基地はほとんど普通の場所のように思えた。
ほとんど、だが。
夜になり、僕は翌日のことを考えながら横になった。
10月25日 — 隔離命令発令から40日目。
朝食を済ませたあと、昼食を食べた。
ダンスパーティーまであと数時間という頃、僕はテントで一人、ベッドに横になっていた。スーツは脇に、丁寧に畳んで置いてあった。
昨夜のことが頭から離れなかった。
あの化け物。
強盗たち。
サムとの口論。
そして、自分の中で大きくなり始めた、あの奇妙な感覚。
そのとき、誰かがテントに入ってきた。
「ジェイコブ」
僕は顔を上げた。
サムだった。
僕は何も言わなかった。
彼女は数秒間、立ったままでいた。適切な言葉を探しているようだった。
「銃を向けて、ごめんなさい……」
僕はゆっくりと体を起こした。
「僕たちは、あいつを助けられたんだ」
サムは眉をひそめた。
「あいつは悪人の一人だったのよ、ジェイコブ」
「そんなこと、分からなかっただろ、サム!」僕は立ち上がりながら答えた。「あいつは君の主治医だったかもしれない。君の子供たちの将来の先生だったかもしれない……分からないだろ!」
彼女も声を荒らげた。
「彼らは武装していて、仲間を人質に取っていたのよ!」
「いつか僕たちだって、あいつらと同じ立場になるかもしれない。生き延びるために、似たようなことをするかもしれないんだ」
サムは黙り込んだ。
「でも、あいつらはデレクとエミリーを殺すことだってできた」と僕は続けた。「それでも、そうしなかった」
彼女の表情が険しくなった。
「あなたは馬鹿よ、ジェイコブ」
彼女は背を向け、テントから出ていった。
僕は言葉を失った。
僕が間違っていたのかどうか、分からなかった。
もしかしたら、彼女も分からなかったのかもしれない。
太陽が沈み始めていた。
パーティーが、もうすぐ始まろうとしていた。
僕はスーツを着て、香水をつけた。それからデレクと合流し、ほかの仲間たちを待った。女性陣はローサのテントに集まっていた。タバタはあとから来る予定だった。
エミールには、子供用の水色のストライプ柄のシャツと、灰色の短いズボンを用意した。幼稚園の先生の一人が、子供たちのために遊び場を作ると申し出てくれた。これなら、大人たちは子供たちの心配をせずに済む。
デレクは僕の頭から足までを眺めた。
「そのスーツ、似合ってるぞ」
「お前のも悪くないよ」
僕は彼の白いスーツを見た。
「こういう時間が必要だったんだ、ジェイコブ」彼は襟元を軽く整えながら言った。「こんな夜がな」
「パーティーが?」
「そうだ」
僕はテントの入り口を見た。
「少なくとも少しの間は、この世界の終わりを忘れさせてくれるだろうな」
デレクは数秒間、僕を見つめた。
「少し様子がおかしいぞ」
「精神的に疲れているだけだよ」
「俺たちは長い付き合いだろ。何年になると思ってる?」
彼は腕を組んだ。
「心配しているんだな。何があった?」
僕は視線を落とした。
「分かっているだろ……キャンプを出たあと、どうなるのかってことだよ」
デレクは微笑んだ。
「それはお前が心配することじゃない、ジェイコブ。ここみたいな場所へ行くさ。いや、もっと安全な場所にな。疑うなよ」
「分からないよ……」
デレクは僕の肩を叩いた。
「それに、何か悪いことが起きたとしても、俺たちは団結した強いグループだ。生き延びられるさ」
彼の前向きな言葉に、僕は小さく笑みをこぼした。
「話は変わるけど……ブリサとの仲はどうなんだ?」
デレクは片眉を上げた。
「うまくいってるよ。どうして聞くんだ?」
「ちょっと気になっただけだ」
僕たちはもう数分間話を続け、やがて出発する時間になった。
太陽は完全に沈んだ。
パーティーへ向かう時間だった。
到着すると、僕たちは中央食堂に入った。
僕はその場を見回した。
見慣れた場所とは思えなかった。
テーブルの配置が変えられ、色とりどりの布が飾られていた。照明、飲み物を提供するカウンター、食べ物の並ぶテーブルもあった。壁にも装飾が施されていた。すべてが始まって以来、初めて、人々は次の災難を待ち構えているようには見えなかった。
最初は人が少なかったが、少しずつ人数が増えていった。
全員が、ホティニで手に入れたスーツやドレスを身につけていた。
不思議な気分だった。
あの服を手に入れるために、僕たちは命を危険にさらした。
そして今、それらはここにあった。
人々が身につけていた。
ただ踊るという、そんな簡単なことのために。
女性陣が現れるまで、三十分ほどかかった。
ブリサは、帝国風の白いロングドレスに花冠を合わせていた。サムは体にぴったりとした、裾が広がる黒いドレスを着ていた。ローラは、白い縦縞の入った黒いドレスパンツに、灰色の女性用シャツを合わせていた。
その後、クラウディオが定番の黒いスーツ姿で現れた。エンリケは花柄のシャツにオレンジ色のズボンを合わせていた。僕からすれば、ひどい格好だった。エミリーは体にぴったりとした紫色のドレスを着ており、ローサは濃い緑色のAラインドレスを選んでいた。
僕たちは全員で一緒に座り、待つことにした。
僕は入り口を何度も見ていた。
タバタを待っていた。
なぜなのか、自分でも正確には分からなかった。
本当に穏やかな夜を過ごしてから、ずいぶん時間が経っていたからかもしれない。
彼女に会いたかったからかもしれない。
あるいは、これまでに経験してきたことを思えば、こんな時間がまだ残されているのだと、思い出す必要があっただけなのかもしれない。
やがて、司会者がマイクを手に取った。
「皆さん、ようこそ」
音楽が始まった。
バーカウンターが営業を始め、何人かの給仕係が最初の料理を運び始めた。
人々が立ち上がり始めた。
話をする者。
笑う者。
もう踊り始めている者もいた。
すべてが……再び人間らしく感じられた。
僕はバーカウンターへ近づいた。
「ウイスキーを一杯、お願いします」
バーテンダーはボトルを手に取り、カットの入ったグラスに酒を注いだ。氷が二つ入っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取り、数秒間見つめた。
ウイスキーを飲むのは、ずいぶん久しぶりだった。
みんなも知っているとおり、僕は酒でいろいろと問題を起こしてきた。
だが、今夜ばかりは、飲む資格があるように感じていた。
グラスを鼻に近づけ、香りを吸い込んだ。
あまり触れたくない記憶がよみがえった。
僕は飲んだ。
酒が喉を通り、体がすぐに反応するのを感じた。
僕はわずかに顔をしかめた。
「もう一杯」
バーテンダーは微笑み、再びグラスに注いだ。
僕はカウンターにもたれ、ホールを見渡した。
幸せそうな人々。
笑っている人々。
踊っている人々。
ほんの数分間、世界は以前と同じままなのだと想像できた。
そのとき、彼女が目に入った。
入り口に、一つの人影が現れた。
タバタだった。
僕は動けなくなった。
知り合ってから、タバタの姿は何百回も見てきた。軍服姿、泥にまみれた姿、疲れた姿、傷ついた姿、武器を手にした姿。
だが、今夜の彼女は、まるで別人のようだった。
彼女は濃い赤色のドレスを着ていた。黒いコルセットには紐が編み込まれていた。脚には黒いストッキングを履き、暗い色のハイヒールを履いていた。左耳には小さなジャスミンの花が飾られていた。そして、いつものように、黒いマスクが顔の一部を覆っていた。
髪は一本の太い三つ編みにまとめられ、背中に垂れていた。
彼女が近づいてくると、ジャスミンの香水の香りが僕のところまで届いた。
僕は完全に言葉を失っていた。
「何か言ってくれないの?」彼女は嬉しそうに尋ねた。
「君は……本当にきれいだ」
タバタは数秒間、驚いたようだった。
それから、目元で微笑んだ。
「あなたも、とても素敵よ」
彼女はもう少し近づき、僕のスーツを見た。
「そのシャツの色、どこかで見覚えがあるわね」
彼女は小さく笑い、僕の肩に手を置いた。それから、その手をゆっくりと胸元まで滑らせ、数秒間そこにとどめた。
「まあ……わざとだったのかもしれないな」と僕は答えた。
彼女は楽しそうな表情で僕を見た。
「そのグラス、私にも一杯すすめてくれないの?」
彼女は空になった僕のグラスを見た。
「二杯、お願いします」
バーテンダーが二人分の飲み物を用意した。
彼女はグラスを手に取り、黒く塗られた爪を見せた。爪には、小さな金色の滴のような模様がついていた。
僕たちは一緒にバーカウンターに座った。
しばらくの間、何でもないことを話した。
感染者の話ではなく。
死者の話でもなく。
キャンプの話でもなく。
この先のことでもなく。
ただ、話をした。
タバタは僕の話に笑い、僕もつられて笑った。あるときには、手の火傷も、疲労も、ここ数日に起きたことも、すっかり忘れていた。
音楽が変わった。
ゆっくりとした曲が流れ始めた。
何組ものカップルが立ち上がった。
タバタが僕を見た。
「踊らない?」
僕が答える前に、彼女は僕の手を取り、ダンスフロアへ連れていった。
彼女は右手を僕の肩に置いた。僕は左手を彼女の腰に添えた。
僕たちの手が触れ合い、指が絡み合った。
ゆっくりと動き始めた。
最初は居心地が悪かった。
僕はあまり踊りが得意ではなかったし、足をどう動かせばいいのかも分からなかった。
タバタが小さく笑った。
「リラックスして」
「リラックスしてるよ」
「してないわ」
「してるって」
「ジェイコブ……」
彼女はまた笑った。
「分かったよ」
僕は彼女のリズムについていこうとした。
少しずつ、ステップのことを考えなくなっていった。
ただ音楽に合わせて動いていた。
周りのカップルも同じように踊っていた。踊りながら話している者もいた。ただ抱き合ったままの者もいた。
タバタは、とりわけ落ち着いているようだった。
知り合ってから初めて、彼女は何か悪いことが起こるのを待っているようには見えなかった。
彼女は頭を僕の胸に預けた。
僕は少し視線を落とした。
シャツ越しに、彼女の呼吸を感じることができた。
僕は何も言わなかった。
彼女も何も言わなかった。
音楽が流れ続けた。
僕は顔を上げた。
窓の一つから、夜空が見えた。
基地の上で星が輝いていた。
ほんの一瞬、すべてがあり得ないことのように感じられた。
パーティー。
スーツ。
ドレス。
音楽。
踊る人々。
世界の終わりの真っただ中で。
タバタが少し顔を上げた。
「何を考えているの?」
「これが嘘みたいだと思ってた」
「パーティーが?」
「すべてがだよ」
彼女は黙った。
「だから、こういう夜が必要なのかもしれないわね」やがて彼女は言った。「自分たちがまだ自分たちでいられるって、思い出すために」
僕は彼女を見た。
「そうだな」
彼女は再び頭を僕の胸に預けた。
僕たちは踊り続けた。
あの曲がどれくらい続いたのか、分からなかった。
その後、別の曲が流れた。
さらにもう一曲。
いつの間にか僕たちはダンスフロアを離れ、何かを飲みながら、また話をしていた。タバタは、幼い頃のちょっとした出来事や、普段はほとんど口にしない思い出を話してくれた。僕は、高校時代に離れ離れになってからの自分の生活について、いくつかの話をした。
どれも大きな話ではなかった。
その夜、僕たちは兵士ではなかった。
生存者でもなかった。
ただの、タバタ・ベネットとジェイコブ・レンツだった。
およそ一時間半が過ぎた頃、僕たちはほかの仲間たちと夕食を食べた。特別な料理ではなかったが、その夜はいつもと違う味がした。
誰も急いでいなかったからかもしれない。
誰も絶えず扉を気にしていなかったからかもしれない。
数時間が過ぎ、パーティーはほとんど終わりかけていた。休むために帰り始める人もいれば、外で煙草を吸っている人もいた。
タバタが僕に身を寄せた。
「私のテントにレコードプレーヤーとプロジェクターがあるの」
彼女は微笑んだ。
「よかったら、映画でも見に行かない?」
「もちろん」
僕たちはほかの仲間たちに別れを告げ、一緒にその場を離れた。
基地の小道を歩く間、音楽は少しずつ遠ざかっていった。
彼女のテントに着くと、タバタはハイヒールを脱ぎ、ほっとしたように息を吐いた。
「もう二度とこんなもの履かないわ」
僕は笑った。
「今はそう言ってるだけだろ」
「違う。本気よ」
僕たちは中へ入った。
テントの中は静かだった。彼女は小さなランプを点け、再生機器の準備をした。
その後、映画を見るために、二人で彼女のベッドに横になった。
画面の光が、テントの中をかすかに照らしていた。
しばらくの間、僕たちは話をしていた。
やがて、話さなくなった。
夜が更けていく間も、映画は流れ続けていた。
そして、いつの間にか、僕たちの間にあった距離は、それまでとは違うものになっていた。
どれくらいの間、起きていたのかは覚えていない。
それに、すべてを書き記す必要もないと思う。
実際に経験した者たちだけのものにしておくべきこともある。
だから、これ以上は書けない。
ただ、ようやく朝が訪れたとき、二人とも、起きたことについて急いで話そうとはしなかった。
それが、あの素晴らしい夜の結末だった。
横になり、あの特徴的なジャスミンの香りに包まれながら、僕は落ち着かず、不安に揺れる心を静めることができた。




