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XVII — キノコ

この黙示録を引き起こしたのは、人間だった……


大群の事件のあと、俺は再び、同じ過ちを繰り返さないよう警告された。そもそも俺は、そうした忠告に従うのが昔からあまり得意ではなかった。

10月17日 — 隔離令発令から32日目。

翌朝、俺は目を覚ますとタバタの様子を見に行った。医療用テントに着くと、彼女はすでに退院したと聞かされたので、すぐに彼女を探しに向かった。

たどり着くと、彼女は優しく抱きしめて迎えてくれた。

「ありがとう、ジェイコブ」

「どうして?」

「あなたがどんな人なのか、改めて確かめられたから」

「調子はどうだ?」

「よくなったわ。でも、仕事があるの。あとで説明する。ハミルトンの会議に出なきゃいけないのよ」

「何か重要なことなのか?」と俺は興味を引かれて尋ねた。

「たぶんね」

彼女が立ち去る前に、俺はあることを思い出した。

「これを渡したかったんだ」

俺はバックパックからブリンのチョコレートを取り出した。

タバタは驚いたようにそれを見つめた。

「どこで……?」

彼女は質問を最後まで言わなかった。

「ガソリンスタンドの屋根で渡そうと思っていたんだ。スーパーマーケットにあった。最後の一個だったよ」

彼女は笑った。

「何と言えばいいのか分からないわ」

「何も言わなくていい。楽しんでくれ。またあとでな」

「またあとでね、ジェイコブ」

マスクのせいで彼女の笑顔は見えなかったが、それでも笑っているのが分かった。


彼女と別れてから、俺は自分のテントへ戻った。その途中、二人の兵士が小声で話しているのが聞こえた。

「まだ戻ってこないのか?」と、一人が心配そうに尋ねた。

「いや。だから今日、会議があるんだ」

「自殺行為だな」

「全部、あの馬鹿げた科学者たちとファイルのせいだ」

もっと話を聞いていたかったが、俺が通りかかると二人とも黙ってしまった。俺はそのまま歩き続けた。

何について話していたのか、正確には分からなかった。ある場所、まだ戻ってきていない誰か、会議、そしてファイル。すべてが関連しているようだったが、理解するには情報が足りなかった。

テントに戻ると、俺はデレクとサムと話をするために腰を下ろした。

ラウラは医務室で医療の知識を生かして手伝っていた。ブリサも医療用テントで働くことを申し出ていた。エミールはキャンプの子どもたちの世話をしている女性と一緒に、ほかの子どもたちと遊んでいた。久しぶりに、本当に楽しそうにしているように見えた。

「いつ出発するか、分かってるのか?」とデレクが尋ねた。

「今のところは、まだだ」

サムが俺を見た。

「そのタバタって人……何か情報を教えてくれなかったの?」

「その話はしないんだ」

「じゃあ、何なら話すの?」と、彼女は少し不機嫌そうに尋ねた。

「どうしたんだ、サム?」

「何でもない。ただ知りたいだけよ。答えたくないなら、答えなくてもいい」

彼女は立ち上がり、テーブルの上に置かれていた服を片づけ始めた。

デレクは驚いたように眉を上げ、俺を見た。

1時間以上が過ぎた。ほかの仲間たちが休んでいる間、俺とデレクは話を続けていた。

「つまり、血を浴びていれば、感染者に気づかれないってことか」とデレクが言った。

「どうやら、そうらしい」

「でも、どうしてだ?」

「分からない。ただ、そうなるんだ」

「もっと早くこの情報を使えればよかったな。かなり役に立ったはずだ。というより……」

彼が言い終える前に、テントの入口が開いた。

ハミルトンがファイルを手にして入ってきた。

「『ジェイコブ・レンツ。ジョセフ・レンツの息子。元ブラックブラッド傭兵である父親から、軍事経験と訓練を受けている』。君たちのグループが外でこれほど長く生き延びられた理由が分かった気がするな」

デレクは彼を見て、それから俺を見た。

「何の話だ?」

サムも俺のほうを振り向いた。

「本当なの?」

ハミルトンはファイルをテーブルに置いた。

「ジェイコブ、君の力が必要だ。執務室まで来てくれ」

「何のために?」

「今は機密事項だ。ついてきなさい」

俺は仲間たちを見た。

「あとで説明する」

立ち上がり、中佐についていった。

中央司令部のテントへ向かう途中、俺は尋ねた。

「何が起きているんですか?」

「人手が必要なんだ」

到着すると、中には複数の高級将校が集まっていた。その中にタバタもいた。

「ジェイコブ、こちらへ。座りなさい」

俺は彼の向かいに座った。

「俺に何の用ですか?」

「君には軍事経験がある。少ないが、この任務には十分だ。君の父親はブラックブラッドの傭兵として、7月28日の襲撃事件の解放作戦に参加した。彼の国への貢献に感謝している」

俺の父親は、合法的な武装組織であるブラックブラッドの傭兵だった。

2028年7月28日、あるテロ組織の一派がアメリカ国内にある外国の大使館を占拠し、拘束されていた仲間たちの解放を要求した。

軍は介入できなかったため、政府は救出作戦を実行するためにブラックブラッドへ協力を要請した。

作戦は成功した。

27人のテロリストのうち23人が排除され、残りの4人は拘束された。人質となっていた民間人50人のうち、44人が救出された。残る6人は、介入が行われる前に処刑されていた。

生存者の中には、ハミルトン中佐の姪もいた。

そのため、俺はある意味で彼の敬意を得ていたのだ。

ハミルトンは再び口を開いた。

「だが、君の助けが必要だ。これから事情を説明する」

何かがおかしいという感覚が、すでに強くなり始めていた。

「ここから約150キロ離れた場所に、石油採掘プラットフォームがある。そこでは、災害が起きる前からウイルスを研究していた科学者たちが活動していた」

彼は一度言葉を切った。

「3週間前、彼らとの通信が完全に途絶えた」

「誰かを派遣したんですか?」

「ああ。最も優秀な兵士を6人選び、部隊を派遣した。何が起きたのか調査するためだ。彼らも戻らなかった。それ以来、何の信号も受信していない」

ハミルトンは両手をテーブルについた。

「別の部隊を派遣できるほどの作戦要員がいない。新たな展開を行えば、キャンプの安全が脅かされる。だから、タバタ・ベネット軍曹と彼女の部隊に同行してもらいたい」

「任務の内容は?」

「何が起きたのかを調査し、研究データが入ったブリーフケースを回収できるかどうか確認する。それから、生存者がいないか探してほしい。特に、サディアス博士だ」

「ブリーフケース?」

「ああ。さっきも言ったように、あのプラットフォームでは世界規模の感染が起きた原因を研究していた。そこには非常に貴重な情報がある。それこそが、我々がここにいる本当の理由だ」

「民間人を救出するためにここにいると思っていました」

「そうでもあり、そうでもない。民間人の救出は、我々の任務において二次的なものだ」

「いつ出発しますか?」

「明日の夜明け前だ」

俺は、ほとんど考える必要もなかった。

「分かりました。参加します。ただ、友人のデレクも連れていけます。彼にも訓練があります」

「駄目だ。準備のできた人間が必要なんだ。彼のことは知らない。だが、君のことは知っている、ジェイコブ。準備をしておきなさい。任務の詳細はベネット軍曹が説明する」

タバタはうなずいた。

「来て」

彼女は俺を兵舎へ連れていった。そこには5人の兵士がいた。

「気をつけ!」と、そのうちの一人が叫んだ。

全員が立ち上がった。

「休め」とタバタが少し居心地悪そうに命じた。

「はい、軍曹」

タバタは俺のほうを示した。

「彼はジェイコブ。明日の任務に必要な能力を備えている。あなたたちより準備ができているとさえ言えるかもしれないわ」

兵士の一人がわずかに笑った。

「よろしく」と俺は言った。

「どんな経験があるんだ、ジェイコブ?」と一人が尋ねた。

「この任務に必要なだけの経験だ」

別の兵士がタバタを見た。

「軍曹、失礼ながら……民間人をこの任務に加えるのは、本当に適切なのでしょうか?」

「彼には十分な能力がある。異議を唱えないで、兵士」

そのあと、俺たちは兵舎を出た。

テントへ戻る途中、タバタがさらに詳しい事情を説明してくれた。

「6人がハンヴィーで出発したの。昨日戻るはずだったのに、戻ってこなかった。出発から4時間後に、通信が完全に途絶えたわ」

「ヘリコプターで向かったのかと思っていました」

「違うわ。ヘリコプターは避難が必要な場合に使うの」

「基地へ来る前、こっちに向かって飛んでくるヘリコプターを見ました」

「ええ。操縦士のハリーよ。でも、もう燃料が十分に残っていないの」

俺のテントに着くと、彼女は立ち止まった。

「明日の朝、兵舎に来て。装備を整えて出発するわ」

「分かりました」

「また明日、ジェイコブ」

「また明日、タバタ」

テントに入ると、俺は仲間たちにすべてを話した。

予想どおり、デレクも行きたがった。

俺たちは眠りについた。

その後、腕時計のアラームで目が覚めた。

10月18日 — 隔離令発令から33日目。

服を着て外へ出ようとしたとき、サムに呼び止められた。ほかの仲間たちを起こさないよう、彼女は小さな声で話した。

「本当に行くつもりなの?」

「俺が必要なんだ」

「彼女のため?」

「もちろん違う。命がかかっているんだ」

サムは視線を落とした。

「そういうことなのね……あなたはいつも、助けを必要としている人を助ける。でも、その危険を考えようとしない」

「必ず戻る」

「分かってる。今のことを心配しているんじゃない」

俺は彼女を見た。

「じゃあ、何を?」

「いつか、状況があなたの手に負えなくなったとき……あなたは戻ってこない」

彼女は背を向け、ベッドへ戻った。

俺はテントを出た。

途中、駐機しているヘリコプターと、そのそばに座っている男が目に入った。


「写真なら5ドルだ」と、俺を見た操縦士が言った。

「すみません。ただ、ヘリコプターが気に入ったんです」

「ところで、俺はハリーだ」

彼は手を差し出した。

「操縦士だよ」

「そうですか。あなたの弟と一緒に任務へ行くんだな。ケンだ。金髪のやつだよ。頼むから、あいつを頼んだぞ。ちょっと不器用なところがあるんだ」

「必ず戻ってきます。心配しないでください」

ハリーはうなずき、その場を離れた。

俺は再び歩き始めた。

兵舎に着くと、全員が装備を整えていた。

「ジェイコブ、ちょうどいいところに来たわ。これを」とタバタが言った。

彼女は彼らと同じグレーのデジタル迷彩の制服を俺に渡した。テーブルの上にはヘルメットと防弾ベストも用意されていた。

「ほかのことは分かっているわよね?」と、武器でいっぱいのクーラーボックスを指しながら尋ねた。

「ああ……」

俺は彼らと同じ格好に着替えた。

ホログラフィックサイト、レーザー、フラッシュライトを装着したM4A1を手に取った。さらにM9拳銃と、両方の武器用の予備弾倉をいくつか用意した。

「私からの贈り物があるの」と、タバタはロッカーを探しながら言った。

彼女は軍用マチェーテを手渡してきた。

「私のものだったけど、刃物を扱うのは昔から得意じゃなかったの」

「本当に俺にくれるのか? ありがとう、タバタ……」

「あなたには借りがあったでしょう。あなたのマチェーテを壊したのは私だから」

装備を整え終えると、俺たちはハンヴィーに乗り込んだ。

車両は2台だった。俺はタバタと兵士2人と一緒に乗り、残りの3人は2台目に乗った。

太陽がまだ昇らないうちに、キャンプの門が開かれた。

俺たちは石油採掘プラットフォームへ向けて出発した。到着までは約3時間の予定だった。

道中、タバタが俺を見た。

「兵舎にいたとき、あまり元気がないように見えたわ」

「父のことだ……」

俺は数秒間、黙り込んだ。

「父は、俺が知っていることをすべて教えてくれた。でも、すべてに賛成していたわけじゃない。父は俺にも自分と同じ人間になってほしかった。自分の姿をそのまま受け継いでほしかったんだ。失敗は許されなかった。俺には厳しかった」

俺は窓の外を見た。

「今なら、父が俺のためにやっていたんだと分かる。でも、ほかにもやり方はあったんじゃないかと思う。今回のことが、ただそれを思い出させるんだ」

タバタは視線を落とした。

「聞いてごめんなさい」

「気にするな」

到着まであと数メートルというところで、タバタは前の部隊に生存者が残っている可能性を考え、無線で呼びかけることにした。

「A-12部隊、応答できますか? どうぞ」

彼女は待った。

返答はなかった。

「A-12部隊、応答できますか? どうぞ」

再び、何も返ってこなかった。

兵士の一人がため息をついた。

「やっぱりな……」

そのとき、無線から途切れ途切れの音声が聞こえてきた。

「もしもし? 聞こえ……ますか……? どうぞ……」

タバタはすぐに送信機を手に取った。

「よく聞こえないけど、こちらには届いている。誰なの? どうぞ」

ノイズの向こうから返答があった。

「私はサディ……アス博士だ。石油採掘プラットフォームの海岸から数メートルの町にいる……白い二階建ての家だ……どうぞ……」

俺は声を聞いて気づいた。

「博士だ」

タバタはすぐに反応した。

「向かいましょう」

彼女は無線で2台目のハンヴィーに迂回するよう伝え、俺たちは町へ向かった。

到着して、俺たちは驚いた。

感染者が一体もいなかった。

博士が話していた白い二階建ての家を探した。見つけると、車を止め、運転手がクラクションを鳴らした。


瀕死の男が、両手を上げながら家から出てきた。

「博士、私たちはアメリカ軍です。あなたを迎えに来ました」とタバタが言った。その間に、兵士の一人が博士の身体を調べ始めた。

「異常ありません」と、検査を終えた兵士が報告した。

タバタは博士に近づいた。

「前の部隊に何があったのですか? 彼らはここに来ていたはずです」

「ええ……誰も残っていません」

男は苦しそうに呼吸していた。

「ここは危険です! 戻らなければ。もっと多くの兵士を呼んでください……数が多すぎる!」

「誰が襲ってきたのですか? その『数が多い』というのは誰のことです?」

博士は唾を飲み込んだ。

「ロシア人です……情報を狙っていた。あなたたちの兵士を全員殺した。私は逃げたんです……」

「行くわよ」とタバタが命じた。

俺たちはハンヴィーに戻った。

タバタは2台目の車両に、博士とともに隠れて待機するよう命じた。俺たちは石油採掘プラットフォームの海岸まで行き、情報を集めることになった。

到着すると、前の部隊が使っていたハンヴィーが砂浜に放置されていた。海岸にはゴムボートが2隻打ち上げられており、遠くの海上には石油採掘プラットフォームが見えた。

タバタは数秒間、その構造物を見つめた。


「戻らなければ」

「でも、ブリーフケースがあそこにある。俺たち4人なら行ける」

「駄目よ。戻るわ。博士の安全を確保して、ロシア人が関与していることを報告しなければ」

俺たちは、博士と2台目のハンヴィーが待っている場所へ戻った。

そして基地へ向けて帰路についた。

その後、キャンプに到着した。車から降り、博士を護衛して司令部へ連れていった。

タバタは、装備を兵舎に置いて休むよう俺に言った。

しばらくして、テントに戻って仲間たちにすべてを話し終えた頃、タバタが再び俺を訪ねてきた。

「来て。重要な話よ」

俺はテントを出た。

すでに夜になっていた。

「どうした?」

「博士は極秘情報を持っているの。極秘中の極秘で、私でさえ知ることが許されない情報よ」と、彼女は明らかに興奮した様子で言った。

「もう聞いたのか?」

「まだ。でも、博士は話すつもりよ」

何かがうまくいかなくなる。そんな予感がした。

「来て。ついてきて」

俺たちは身を隠しながら中央司令部のテントへ近づいた。小さな隙間から、中佐と博士、そして数人の高級将校がいるのが見えた。

彼らはロシア人の襲撃について話していた。

「最初の部隊がプラットフォームに到着したあと、ロシア人が攻撃してきました」とサディアスが説明していた。「ほかの科学者たちは全員殺されました。私はボートで海岸まで護送されましたが、彼らは追ってきた。何とか町に隠れることができましたが、残りの兵士たちは殺されました。ロシア人は大勢いて、重武装していました」

沈黙が訪れた。

そして、ついにハミルトンが全員の疑問を口にした。

「それでは博士……何が起きたのか、説明してもらえますか?」

サディアスは深く息を吸った。

「すべてが始まったのは、最初の感染者が現れるよりずっと前のことです。2011年、国際科学調査隊が南極大陸に到着しました。研究者の中には、エミリー・カーター博士とデイビッド・レイノルズ博士がいました。この調査は公に行われ、世界中のメディアが追っていました。何も秘密にされていませんでした。彼らの名前は誰もが知っていたのです」

ハミルトンはうなずいた。

「キノコを発見した調査隊か」

「そのとおりです。ただし、その時点では、彼ら自身も何を発見したのか、本当の意味では理解していませんでした」

サディアスはファイルのひとつを開いた。

「発掘作業中、数メートルもの氷の下から、何世紀も前に埋もれた古代の先住民の集落の遺骸が発見されました。いくつかの推定によると、遺体は千年以上も凍結されていたことになります。奇妙だったのは、その保存状態でした。身体には物理的な劣化が見られたものの、組織は驚くほど良好な状態を保っていたのです」

「そこでキノコが見つかったのか?」

「ええ。遺体の中から発見された生物は、のちにSporelaria A4T7と名づけられました。何世紀もの間、南極の極端な低温によって活動を停止していた、寄生性のキノコでした」

「研究によって何が分かった?」

「このキノコには、驚くべき特徴がありました。宿主の体内で生き延びるために、宿主を守ることが本来の役割だったのです。宿主を危険にさらす可能性のあるあらゆる生物、ウイルス、細菌、ほかのキノコ、さらにはがん細胞にさえ攻撃を仕掛けました。初期の研究では、腫瘍を破壊し、それまで治療が極めて困難だった病気と闘えることが発見されました」

サディアスは一度言葉を切った。

「その発見によって、2011年の調査隊は科学史上最大級の出来事のひとつを成し遂げたのです」

「そして、世界中がそのことを知った」

「ええ。カーターとレイノルズの名前は、あらゆるところで取り上げられました。研究成果が発表され、賞を受け、彼らの研究によって何百万もの命を救う治療法が開発されました」

ハミルトンは眉をひそめた。

「それをどうした?」

「培養して、クローンを作り、改変を始めました。キノコを休眠状態に保ち、医療上の特性を維持できることが分かったのです。そうして生まれたのが、最初のワクチン、C27でした」

「全員が接種した、あのワクチンか」

「人口の100パーセントです。無料で提供され、ほぼ全世界で接種が行われました。C27は、不活性化したキノコを体内に導入するものでした。身体を支配することも、脳に到達することもありません。ただ体内にとどまり、特定の病気に対処する準備をしていたのです」

「そして、うまくいった」

「何年もの間、完璧に機能していました」

サディアスはページをめくった。

「3年後、第二段階が始まりました。科学者たちはC27-Aを開発したのです。まったく新しいワクチンというわけではなく、最初のものを強化した改良版でした。C27による防御を強め、開発中だった第三のワクチンに備えて身体を整える役割がありました」

「その第三のワクチンがLSKか?」

「そうです」

「C27-Aも義務だったのか」

「そのとおりです。世界は、より健康で安全な人々を求めていました。最初の2種類のワクチンは無料でした。特定の企業で働くこと、旅行すること、特定のサービスを利用することなどに、2種類のワクチンを接種した証明が求められました。そのため、人口のおよそ98パーセントがC27-Aを接種しました」

サディアスは顔を上げた。

「そして、そこに誰も知らなかった重要な点があったのです」

「何だ?」

「C27-Aはキノコを休眠状態に保っていました。第三のワクチンを使用するために必要だったのです」

ハミルトンは理解した。

「LSKか」

「そのとおりです」

博士は深く息を吸った。

「LSKは、Sporelaria A4T7の最も進化した型でした。簡単に言えば、ほとんど目覚めた状態のキノコです。C27-Aは、キノコが体内でただちに活性化するのを防ぐ役割を果たしていました」

「つまり、3種類のワクチンには関連があった」

「完全に関連していました。C27は、身体がキノコと共存できるようにする。C27-Aは、その仕組みを強化してキノコを制御下に置く。そしてLSKは、同じ生物のはるかに強力な型を導入し、ほぼ絶対的な防御を実現するためのものだったのです」

「すべての病気に対してか?」

「ほぼすべてです。がん、ウイルス、細菌、変性疾患……宿主への脅威としてキノコが認識できるものなら、何でも対象でした」

ハミルトンは数秒間、黙り込んだ。

「だが、第三のワクチンを受けなかった人もいる」

「LSKは、はるかに高額だったからです。最初の2種類は無料でしたが、第三のものは違いました」

「政府にも、人々に強制することはできなかった」

「そのとおりです。LSKは任意接種でした」

サディアスは視線を落とした。

「人口の約50パーセントだけが接種を選びました。支払える人もいれば、効果を完全に信じていた人もいました。残りの人々は、費用を負担できなかったか、単に納得できなかったのです」

「つまり、人口の半分は3種類すべてを接種し、もう半分は最初の2種類だけだった」

「そのとおりです」

ハミルトンは、ようやく問題の核心を理解した。

「そのあと、何が起きた?」

「LSKは活性化が始まるまで数日を必要としました。最初はすべて順調に見えました。第三のワクチンを受けた人々に、異常な反応はありませんでした。C27-Aのおかげで、キノコは休眠状態を保っていたのです」

「それが、保てなくなった」

「そうです」

サディアスは両手をテーブルについた。

「ワクチンの組み合わせは、科学者たちの予測どおりには機能しませんでした。LSKが体内からキノコを活性化させ始めたのです。最初に血液中で発達し、次に神経系へ達し、最後には脳と脊髄に到達しました」

「どれくらいの時間がかかった?」

「およそ1週間です」

ハミルトンは博士をじっと見つめた。

「接種から1週間後か?」

「はい」

博士は唾を飲み込んだ。

「1週間もたたないうちに、人口のおよそ50パーセントが死亡するか、変異し始めました」

「変異?」

「キノコが身体を支配するのです。脊髄と神経系を使い、筋肉や基本的な機能を制御するためのネットワークを形成します。脳は、その制御中枢になります」

「そして、死んだあとに起き上がるのか?」

「そうです」

サディアスは言葉を切った。

「そして、彼らがまだ健康な人々を襲い始めたとき、災害はもはや制御できなくなりました」

噛まれると、活性化したキノコが直接血液中に入り込む。もはやC27-AもLSKも必要なかった。新しい宿主の体内に入れば、キノコは自力で成長できた。

「つまり、最初の50パーセントが、残りの人々に感染を広げたのか」

「非常に多くの人々に、です」

「生き残ったのは、どれくらいだ?」

「世界人口の約5パーセントです」

ハミルトンは視線を落とした。

「そして、今も減り続けている」

「毎日です」

沈黙が、さらに重くなった。

「だが、まだ理解できないことがある」とハミルトンが言った。「C27とC27-Aだけを受けた人々は、どうなる?」

サディアスは落ち着いた声で答えた。

「彼らはLSKを受けていないため、最初の活性化による感染は起きませんでした」

「なら、安全なのか」

「最初の活性化については、そうです」

ハミルトンは眉をひそめた。

「最初の活性化については、だと?」

「C27-Aは、体内のキノコを休眠状態に保ちます。人が生きている限り、それは制御されています」

「死んだらどうなる?」

サディアスは一度言葉を切った。

「宿主が死ぬと、防御機構も失われます。キノコを休眠状態に保つ仕組みが機能しなくなるのです」

ハミルトンは、博士が言い終える前に理解した。

「キノコが目覚める」

「そのとおりです」

「つまり、5年前にC27とC27-Aを受けた人間は、その間ずっと普通に生活できる……」

「はい」

「そして、明日、老衰で死んだら……」

「感染者になる可能性があります」

「殺された場合もか?」

「同じです」

「事故で死んだ場合も?」

「同じです」

「つまり、第二のワクチンを受けたからといって、完全に安全というわけではない」

「そうです。身体の中に休眠状態のキノコを抱えているということです」

サディアスはファイルを閉じた。

「そして、そうした2種類のワクチンを受けた人々が存在する限り、LSKを受けていない人にとっても、死は危険であり続けます」

ハミルトンは身動きひとつしなかった。

「ようやく分かった。だが、治療法はあるのか?」

「先ほど説明したように、C27とC27-Aが関わると、キノコは極めて強力になります。どんな種類の薬剤、ウイルス、さらには別のキノコを使っても、対抗することはできません。キノコがすべてを根絶してしまうのです」

俺はタバタを見た。

彼女も何も言わなかった。

感染について俺たちが知っていると思っていたことは、すべて変わってしまった。

それは未知の病気から始まったわけではなかった。

何もないところから突然現れたわけでもなかった。

数秒間、誰も何も言わなかった。

俺も同じだった。

俺たちが知っていると思っていた歴史は、すべて嘘だった。

ウイルスではなかった。

自然発生した突然変異でもなかった。

どこからともなく現れた未知の病気でもなかった。

始まりは、科学的な発見だった。

氷の下で見つかった生物。

何千年もの間、眠り続けていたキノコ。

そして、誰かがそれを治療法に変えることを決めた。

ハミルトンが沈黙を破った。

「よし。重要な話に戻ろう。博士、ブリーフケースはどこにある?」

サディアスは視線を落とした。

「探すことができませんでした。ロシア人が攻撃してきたため、ボートで撤退しなければならなかったのです」

ハミルトンはテーブルを強く叩いた。

「どこにあるんだ!?」

博士はびくりとした。

「私の執務室です! プラットフォームの中にあります!」

ハミルトンは立ち上がった。

「明朝一番に、石油採掘プラットフォームへ部隊を派遣する」

「了解しました」と大尉が答えた。

タバタが俺を見た。

「もう行かなきゃ、ジェイコブ」

声は小さかったが、動揺しているのが分かった。

「行こう」

俺たちは音を立てずに中央司令部のテントから離れた。

そして、何事もなかったかのように自分のテントへ戻った。

だが、俺はもう同じ人間ではなかった。

あれが何なのかを知った。

どこから来たのかも知った。

なぜ感染者が存在するのかも知った。

そして何より、それまで誰も理解していなかったことを知った。


この黙示録を引き起こしたのは、人間だった……




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