XV — 軍事基地
この終末の世界で、安全な場所にいるという感覚は心を安らげてくれた。何日も車の中や廃屋、森、そして物音ひとつで感染者の集団が近づいてきたのではないかと警戒しなければならない場所で眠り続けたあとでは、そんなことが可能だという考え自体、ほとんど信じられないものだった。
10月14日 — 隔離令発令から29日目。
「リズが話していた、あのタバタって人は信用できるのかな?」とブリサが尋ねた。
ラウラはわずかに眉を上げた。
「リズがそう言ったのなら、信用できる人なんでしょう」
いつもより少し冷たい口調だった。
「もうすぐだよ。あと1時間もかからない」と、窓の外を見ながらサムが言った。
「そうだな」と俺は答えた。
向かいに座るデレクは、ブライアンの地図を膝の上に広げていた。
「それで、計画は?」
「2キロ手前で俺たち二人が降りて、偵察する。安全だと分かったら、車で近づく。そうでなければ引き返す」
後部座席からラウラが俺を見た。
「リズの話を信用していないの?」
「いや。信用していないのは、ブライアンがこの地図に記した情報だ」
ブリサは道路の先に目を向けた。
「もし、向こうが私たちを待ち伏せしていたら?」
俺は数秒間、彼女を見つめた。
「ほかに、どうやって確かめる?」
彼女は答えなかった。
「そう……」と、ブリサはつぶやいた。声を聞けば、その答えで安心できたわけではないことが分かった。
数分後、エミールが座席の上でもぞもぞと動き、サムの袖をそっと引っ張った。
「おしっこしたい」
サムが俺を見た。
「ジェイコブ」
「分かってる」
俺は速度を落とし、ハンヴィーを道路脇に寄せてからエンジンを切った。
「今のうちに済ませてくれ。もうすぐ着く」
全員が車を降りた。空気は冷たく湿っていて、薄い霧が木々の間に漂っているようだった。俺はブライアンの地図をハンヴィーのボンネットに広げ、隣にデレクが立った。
「基地はここだ。俺たちは、このあたりにいる」
デレクが地図上の一点を指した。
「少し前に川を渡ったな」
「ああ。位置を確認するときに、そのことも考慮した」
俺たちは指でルートをたどりながら、どこから徒歩で進めばいいかを計算した。
「用を足してこい。5分後に出発する」と俺は言った。
デレクは俺の肩を軽く叩き、木々の間へ姿を消した。
彼を待っていると、ラウラが近づいてきた。
「その手を見せて」
俺は包帯に目を落とした。
「良くなってきてると思う」
ラウラは包帯を一部ほどき、皮膚の状態を確認した。
「感染しかけているわね」
「それは心強い話だな」
「抗生物質をもう半量、追加で飲みなさい、ジェイコブ。この手を切断することにはなりたくないでしょう、坊や」
「分かった」
彼女は丁寧に包帯を巻き直した。
「調子はどう?」
思いがけない質問だった。
俺はわずかに笑った。
「最近、そんなことを聞かれたのは久しぶりだ」
ラウラは俺をじっと見つめた。
「質問をはぐらかさないで、ジェイコブ。いつも以上に様子がおかしいわよ、あんた」
「大丈夫だ。これから何が待っているのか、みんなと同じように心配しているだけだ」
ラウラは包帯を最後まで整えると、俺の目を見つめた。
「あなたはいいリーダーよ。私はあなたを信頼している。あなたが何をしようと、私はあなたの味方だから」
俺は数秒間、何と答えればいいのか分からなかった。
「ありがとう、ラウラ」
彼女は指で俺の手を示した。
「1回半分の量よ」
そう言って、再びハンヴィーに乗り込むために離れていった。
デレクが戻ってくると、俺たちは全員車に乗り込み、旅を続けた。
数分後、俺とデレクが徒歩で進むことになる地点に到着した。女性陣は車内に残った。
「行こう」と俺は言った。
俺とデレクは木々の間を通る道に沿って進んだ。地面は湿っていて、柔らかな土にブーツがわずかに沈み込んだ。数分歩くと、小さな町の最初の家々が見えてきた。
そして、俺たちはそれを目にした。
軍事基地は、その一帯のかなり広い範囲を占めていた。金属製の柵と有刺鉄線に囲まれ、複数の監視塔が設置されており、兵士たちが周囲を巡回していた。
俺たちは木の陰に身を隠し、数分間、様子をうかがった。
武装した民間人ではない。
制服はグレーのデジタル迷彩だった。
アメリカ人だ。
「よし」と、俺はようやく口を開いた。「戻ろう。安全だ」
「行こう」
ハンヴィーに戻り、目にしたものを説明した。
ラウラが笑みを浮かべた。
「言ったでしょう」
「その話はもういい」とデレクが言った。
彼女は小さく笑った。
俺たちは再び車に乗り、入口へ向かった。
数分後、巨大な金属製の門の前に到着した。監視塔のひとつから兵士が姿を現し、拡声器を持ち上げた。
「こちらはアメリカ合衆国軍の基地だ! 身元を明らかにし、ここへ来た理由を説明しろ!」
俺たちはゆっくりと車から降り、両手を上げた。
「基地の西にある病院を守っていた兵士がいました。第二防衛旅団のリズという兵士です」と俺は答えた。「民間人を空港まで護送するための安全な場所がここにあると、彼女から聞きました。タバタ・ベネット軍曹を探しています」
兵士は高い場所から俺たちを見下ろした。
「武器と車両の鍵を置いていけ。車両はこちらで中へ入れる」
俺たちは武器を車内に置いた。
門が開き始めた。
「言ったでしょう」とラウラが笑顔で言った。
俺たちは基地の中へ入った。
すぐに一人ずつ分けられ、検査を受けることになった。噛み傷や新しい傷、感染の兆候がないか、身体を調べられた。俺の番になると、特に手を念入りに確認された。
俺は、どうやって手を火傷したのか、誰に治療してもらったのか、抗生物質をどれくらいの期間飲んでいるのか、説明しなければならなかった。
そのあと、心理検査があった。
簡単な質問。ばかげているような質問もあった。ほかには、あまりにも個人的な質問もあった。
彼らが知りたがっていたのは、俺たちがほかの人間と共同生活を送れるか、暴力的な行動を起こしたことがあるか、幻覚を経験しているか、あるいはキャンプのほかの人々に危険を及ぼす可能性があるか、ということだった。
最後に、俺は中佐のもとへ連れていかれた。
50歳くらいの男で、疲れ切った顔をしていた。目の下の隈は、何週間もそこに居座り続けているように見えた。
「私はハミルトン中佐だ」と彼は言った。「いくつか質問をしたいのだが、構わないか?」
「構いません」
彼は机の向かいにある椅子を指した。
「座りなさい」
俺は腰を下ろした。
彼は紙とペンを取り出した。
「それでは……ジェイコブ。心理担当者から、君たちが外でどんな経験をしたか、すべて聞いている。地獄のような日々だったようだな」
「まあ、何が起きても対応できるように準備しておくなんて無理ですから。俺たちは、かなりうまく即興で対処したと思います」
ハミルトンはうなずいた。
「そのようだな」
彼は書類に目を通した。
「ここなら安全だ。およそ2週間後、場合によってはもう少しかかるかもしれないが、民間人全員を空港まで護送する予定だ。それまでは、滞在できるテントを割り当てる」
「俺たちの武器は?」
ハミルトンが顔を上げた。
「素性の分からない民間人が、基地内を武装して歩き回ることを許可するわけにはいかない。理解できるな?」
俺はうなずいた。
「はい」
気に入らない決定だったが、理由は理解できた。
俺たちはテントまで案内された。
想像していたよりも、ずっと広かった。ベッドがいくつかあり、ロッカーも設置されていた。さらに、女性たちが多少のプライバシーを確保できるよう、カーテンで仕切られた区画があった。トイレとシャワーは共同で、テントから数メートル離れた場所にあった。
デレクはバックパックをベッドのひとつに放り投げた。
「護送されるまで、ここで過ごすわけか」
「そういうことだ」
ブリサは周囲を見回した。
「こんなにいい場所で過ごせるのは、ずいぶん久しぶりね」
何日も笑顔を作ることすらできなかった彼女が、初めて自然に笑った。
俺たちは一人ずつシャワーを浴び、服を洗って着替えた。
温かいお湯を浴びること自体、奇妙な体験に感じられた。
何も心配せずに入浴できたのがいつだったのか、もう思い出せなかった……。
身支度を終えると、俺たちは食堂へ向かった。
「荷物を置いて、食事に行こう」と俺は言った。「5分もすれば食べられるはずだ」
ほかの民間人たちについて歩き、巨大な建物へ向かった。食堂だった。
中へ入ると、ラウラは目を見開いた。
「なんてこった、すごい人数ね」
少なくとも50人の民間人が、長いテーブルに座っていた。互いに話している者もいれば、黙って食事をしている者もいた。兵士たちも絶えず出入りしており、トレーを運んだり、名簿を確認したり、ただ周囲を警戒したりしていた。
これほど多くの人々が一か所に集まっている光景を、何日も目にしていなかった。そのため、妙な感覚がした。
俺たちはプラスチックのトレーに食事を盛りつけてもらい、全員が座れるテーブルを見つけた。
大きな部屋の隅に席を取った。左隣には4人組がいた。禿げた男、金髪の女性、黒人の女性、そしてアジア系の男だった。
デレクは食べ始めながら、横目でその4人組を観察していた。
「あの家でのことが、まだ信じられない」
サムが顔を上げた。
「人食いの連中?」
「ああ」デレクは首を振った。「どうして、もっと早く気づかなかったんだろうな?」
「普通の人間を装っていたからよ」とサムが答えた。「だからこそ、危険だったの」
「最初から何かがおかしかったわ」とブリサが言った。「食事も、私たちを見る目も……」
「地下室もな」とデレクが付け加えた。「あれだけは絶対に忘れられない」
サムはフォークをトレーの上に置いた。
「今でも、あの臭いが頭から離れない」
テーブルの向こう側から、ラウラが彼らを見た。
「もう、その話はやめましょう。過ぎたことよ。わざわざ思い出して腹を立てることもないでしょう、まったく」
デレクは鼻から息を吐いた。
「ああ。そのほうがいい」
ラウラは食堂を見回した。
「ここにたどり着けて、本当によかったわ。もういいの。あなたたちは任務を果たして、生き延びた。これからは休めるのよ。寒さや空腹に耐える必要もないし、一晩中、物音ひとつに神経をとがらせている必要もない」
ブリサはかすかに笑った。
「そうだといいけど」
「そうなるわ」とラウラは答えた。「今くらい、少し息をついたっていいのよ」
みんなが話を続けるなか、俺はほとんど耳を傾けていなかった。
基地に入ってから、ずっと頭から離れないことがあった。
リズ。
彼女の最後の頼み。
ルート。
ソーンズ。
そして、ひとつの名前。
タバタ。
俺は食堂の入口に目を向けた。
何を見つけようとしているのか、自分でも正確には分からなかった。
そのとき、彼女が目に入った。
プラスチックのトレーを両手に持った女性が入ってきた。
長く波打つ、暗いワインレッドの髪。グレーのデジタル迷彩の制服。黒いブーツ。そして、首元から鼻、口、耳の一部までを覆う黒い布。
俺が見覚えを感じたのは、制服ではなかった。
髪だった。
俺はその場で動けなくなった。
彼女は空いている席を探しながら、テーブルの間を進んでいった。
俺は彼女を見つめていた。
やがて、彼女が顔を上げた。
灰色の瞳が食堂を見渡した。
そして、その目が俺のところで止まった。
数秒間、俺たちのどちらも反応できなかった。
何年もの間、会っていなかった。
それなのに、俺はすぐに彼女だと分かった。
タバタ。
彼女も俺に気づいていた。
何の仕草も見せなかった。笑いもしなかった。ただ、俺を見つめ続けていた。
「ジェイコブ」
デレクの声が、俺を現実に引き戻した。
俺は瞬きをした。
「何だ?」
サムが笑顔で俺を見ていた。
「大丈夫?」
「ああ。悪い。何かあった?」
デレクが片眉を上げた。
「どうやら、鎮痛剤がまた別の効き方をし始めたらしいな」
サムが笑った。
「ジェイコブは起きている時間より、寝ている時間のほうが長いんじゃない?」
「大丈夫だ」と俺は笑いながら答えた。
再び入口に目を向けた。
タバタはすでにテーブルの間に姿を消していた。
それまでは、すべてが比較的順調に進んでいた。ところが、5人の兵士がトレーを持ってやってきた。
彼らは4人組のテーブルのそばを通り、そのうちの一人が誤って黒人女性の椅子にぶつかった。
「ちょっと。もっと気をつけなさいよ」と彼女が言った。
兵士が振り返った。
「お前に指図される筋合いはねえんだよ、黒人女」
女性は眉をひそめた。
「ただ、前を見て歩いてって言ってるだけでしょ」
兵士は、俺の気に入らない笑みを浮かべた。
「それで? 俺がそうしなかったら、お前に何ができる?」
禿げた男が立ち上がった。
「彼女を放っておけ」
兵士の一人が彼に近づいた。
「座れ」
「断る」
すべてがあまりにも速く起こった。
兵士の一人が、男の胸を押した。
アジア系の男が立ち上がった。
金髪の女性も立ち上がった。
「このクソ野郎……」と禿げた男がつぶやいた。
言い終える前に、拳が飛んできた。
兵士が彼の腹を殴った。
デレクがすぐに立ち上がった。
俺も同じように立った。
兵士の一人が拳銃を抜いた。
考えるより先に、俺はトレーをつかみ、彼の腕を殴りつけた。
銃が床に落ちた。
デレクが別の兵士の顔面を殴った。
その瞬間、すべてが爆発した。
叫び声。
ひっくり返るテーブル。
床に落ちるトレー。
逃げ惑う人々。
5人の兵士が俺たちに殴りかかり、俺たちはその4人組とともに身を守ろうとした。
俺は、ほとんど集中できなかった。
頭の一部は、少し前のあの瞬間に取り残されたままだった。
タバタ。
彼女のことが頭から離れなかった。
兵士の一人が俺を殴ろうとしたので、俺は間一髪で避けた。反撃しようと拳を繰り出したが、火傷した手が相手の身体にぶつかった。
すぐに痛みが走った。
まるで、再び手を炎の中に突っ込まれたかのような、深い痛みだった。
俺は反射的に手を引っ込めた。
兵士はその隙を逃さなかった。
拳が俺の顔面に直撃した。
俺は床に倒れた。
数秒間、視界がぼやけた。
声や足音、叫び声が聞こえていたが、どれも遠くから響いてくるようだった。
「やめろ!」
ハミルトン中佐の声が食堂中に響き渡った。
兵士たちは動きを止めた。
「先に手を出したのは彼らです、閣下」と兵士の一人が言った。
「嘘だ! そいつが俺の友達を殴ったんだ」とアジア系の男が反論した。
禿げた男が俺に近づき、手を差し出した。
俺はその手を取った。
「ありがとう」
健康なほうの手で、鼻から流れた血を拭った。
ハミルトンは、何が起きたのか調査する間、全員を拘置所へ連れていくよう命じた。
俺たちは別々にされた。
それぞれ個別に尋問された。
そのあと、目撃者たちにも話を聞いた。
証言は一致していた。
喧嘩を始めたのは俺たちではなかった。
5人の兵士が、自分たちの立場を利用して民間人を脅し、暴力を振るっていたのだ。
最終的に、俺たちは解放された。
「二度と同じようなことを起こすな」とハミルトンは警告した。「君たちも、ほかの誰もだ」
俺たちはうなずいた。
仲間たちのもとへ戻ると、ブリサがすぐに近づいてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
ラウラが彼女の後ろから現れた。
「ちょっと見せて」
彼女は俺の顔をそっとつかみ、殴られた箇所を確認した。
「大したことはないわね」
「手はどう?」と彼女が尋ねた。
「医務室で処置してもらった。問題ないそうだ」
デレクが俺たちの後ろから現れた。
「向こうの連中は、もっとひどい目に遭ってたぞ」
ブリサが彼を見た。
「殴られたばかりの人間を前にして、笑うのをやめられないの?」
「雰囲気を明るくしようとしてるだけだ」
「別の方法でやってちょうだい」
デレクは両手を上げた。
「分かったよ」
久しぶりに、俺は思わず笑ってしまった。
その夜、俺たちは基地内の軍用テントで眠った。
そして何週間ぶりかに、交代で見張りをする必要もなく眠ることができた。
それでも、なかなか寝つけなかった。
タバタのことが頭から離れなかった。
10月15日 — 隔離令発令から30日目。
俺はほかの全員より先に目を覚ました。
テントの中は静まり返っていた。
まだ眠っている者もいた。デレクはベッドの外に片腕を垂らしていた。サムは深く息をしていた。ブリサは肩まで毛布をかぶっていた。ラウラは反対側で、身動きひとつせずに眠っていた。エミールは自分のベッドで熊のようないびきをかいていた。
俺は黒いカーゴパンツを履き、ブーツとジャケットを身につけた。周囲の様子を確認するため、少し歩くことにした。
その時間帯のキャンプは、ずっと落ち着いていた。
冷たい風が施設内を吹き抜けていた。空は灰色の雲に覆われ、太陽の光はかろうじて周囲を照らしている程度だった。
俺はテントの間を歩いた。
警備にあたる兵士たちがいて、車両が何台か駐車されており、何人かが仕事を始めていた。
さらに進むと、軍用車両の駐車場として使われている区域にたどり着いた。
そこで、彼女を見つけた。
彼女はハンヴィーの荷台部分に座っていた。
背中を車体に預け、片手に頭を乗せていた。
ワインレッドの髪が肩に流れ落ちていた。
黒いマスクは、相変わらず顔の下半分を覆っていた。
眠っているように見えた。
俺はカメラを取り出した。
ファインダー越しに彼女を見つめた。
数秒間、俺は再び17歳に戻ったような気がした。
シャッターを切った。
カシャッ。
タバタが目を開けた。
「眠っている女性を撮影するのが趣味なの?」
俺はゆっくりとカメラを下ろした。
「ここにいるとは思わなかった」
彼女は黙って俺を見つめた。
「少なくとも、生きているとは思わなかった」と俺は付け加えた。
灰色の瞳が柔らかくなった。
「まあ、私のことは知ってるでしょう。私はタフだから」
俺は笑った。
「ああ。それは疑ってない」
俺たちは互いに見つめ合った。
もう、どちらも自分たちが選んだわけではない中学校で出会った、あの10代の少年少女ではなかった。
俺たちは、想像すらしたことのない出来事を生き延びた二人の人間だった。
俺が近づいた。
彼女も近づいてきた。
俺たちは抱き合った。
両腕で彼女を包み込むと、数秒間、今自分たちがどこにいるのかさえ忘れてしまった。
俺はもう少し強く抱きしめた。
「会いたかった」と俺はささやいた。
彼女の身体が固まるのを感じた。
「あの日、去りたかったわけじゃないの……ごめんなさい」と、彼女は小さな声で答えた。
俺たちはゆっくりと離れた。
俺は彼女を見た。
彼女も俺を見た。
彼女の瞳には、あまりにも多くの質問が浮かんでいた。
そして、どこから説明すればいいのか分からないほど、多くの出来事があった。
「それで、軍曹殿か」と俺はようやく口を開いた。「夢をかなえたんだな」
タバタは小さく笑った。
「まあ……終末のおかげで、ずいぶん早く昇進できたのよ」
「どうして?」
「上官たちが次々と感染していったの。最終的に、次の階級にいたのが私だった」
俺はうなずいた。
「それなら納得できる」
基地の周囲を見回した。
「世界が変わったな」
「変わりすぎたわ」
そのとき、彼女の腰に取りつけられた無線機が雑音を発し始めた。
タバタは装置に手を伸ばした。
「はい?」
向こう側から声が聞こえてきた。
彼女の表情がすぐに変わった。
「すぐ行く」
彼女は俺のほうを向いた。
「ごめんなさい。行かなきゃ」
「ああ。大丈夫だ。気にするな」
タバタは歩き始めた。
だが、途中で立ち止まった。
「医務室の裏、フェンスのそばで待っていて」
俺は困惑して彼女を見た。
「どうして? 何かあったのか?」
「悪いことじゃないわ」
彼女は目元で笑った。
「一緒に散歩して、いろいろ話しましょう」
「何時に?」
「5時に」
俺はうなずいた。
「いいな」
「そこで会いましょう」
タバタは背を向け、キャンプの中央へ向かって歩き始めた。
俺は彼女が車両の間に姿を消すまで見送った。
タバタ・ベネット。
俺の初恋の人。
人生で3人の女性と付き合った。
彼女が最初だった。
すべては、俺が17歳のときに始まった。
父の仕事の都合で、俺たち家族は別の町へ引っ越すことになった。俺は、まったく知り合いのいない中学校に通い始めた。
俺は居場所を見失った少年だった。
くだらないことばかりして、やるべきことに集中できず、正直に言えば、あの頃の俺はかなり自己中心的な人間だった。自分の行動がもたらす結果について、深く考えることはなかった。ただ自分の好きなように行動し、問題が起きてから何とか解決する方法を探していた。
初登校の日、周りの生徒たちはみんな互いを知っているようだった。
俺は転校生だった。
まあ……ほとんど、というべきか。
もう一人、新しくやってきた女子生徒がいた。
タバタだった。
彼女はアメリカ人だった。父親が軍人で、仕事上の事情からその国に赴任していた。そのため、彼女もしばらくの間、そこで学校に通うことになったのだ。
彼女も、ほかの生徒たちと打ち解けるのが簡単ではなかった。
物静かな子だった。
人付き合いが苦手だったからではない。自分に近づくことを許す相手を、とても慎重に選んでいたからだ。
俺は、ほとんど正反対だった。
ほかの人に近づくのが得意だったわけではないが、彼女に対しては違った。
おそらく、俺たちは二人とも孤独だったからだろう。
あるいは、自分たちが場違いな存在だと感じていることを、どちらも認めたくなかったのかもしれない。
俺は彼女に話しかけた。
最初は短い会話だった。
そのうち、会話は長くなっていった。
そして、いつの間にか、俺たちは一緒に過ごす時間を増やしていた。
タバタには、俺を引きつける何かがあった。
意志の強い性格だった。
自分が何を望んでいるのか、はっきり分かっていた。
ほかの生徒たちが、たいして興味もない話題について話している間、彼女は自分の人生で何をしたいのか、何時間でも俺に話してくれた。
1年が過ぎた。
友情として始まった関係は、いつしかそれ以上のものへと変わっていた。
俺たちは、それを口にしたことがなかった。
告白はなかった。
初めてのキスもなかった。
ただ、長すぎる視線と、どちらも壊したくない沈黙、そして一緒に過ごす時間を増やすための口実だけがあった。
俺たちは互いの家を訪れるようになった。
両親同士も知り合った。
週末には映画館へ行ったり、ただ何時間も話し続けたりした。
俺は海洋生物学者になりたかった。
昔から動物に魅了されていて、いつか動物を研究する仕事に就くことを夢見ていた。
タバタの夢は、まったく違っていた。
彼女は軍人になりたかった。
しかも、低い階級にとどまるつもりはなかった。
もっと上を目指していた。
いつか重要な階級に就いてみせる、と彼女はいつも言っていた。
俺は笑っていた。
彼女は、いつか分かるわよ、と言った。
そして、彼女は正しかった。
やがて、彼女がアメリカへ帰らなければならないときが来た。
最後にどんな会話を交わしたのか、正確には覚えていない。
それが、何よりもつらかった。
俺たちは、また話せると思っていた。
何とか連絡を取り合えると思っていた。
彼女が自分の国へ帰るというだけで、俺たちの友情が消えてしまうはずはないと思っていた。
だが、消えてしまった。
俺たちは、二度と連絡を取り合うことができなかった。
時が経つにつれ、俺たちの人生は別々の道を進んでいった。
俺は海洋生物学を学ぼうとした。
だが、最後まで続けることはできなかった。
個人的な問題とアルコールのせいで、俺はひどい鬱状態に陥り、そこから抜け出すのにあまりにも長い時間がかかった。時間も機会も、そして何かをしようとする意欲も失ってしまった。
最終的に、俺は写真家として働くようになった。
もともと経済的に余裕がなかったため、本来なら必要のないほど働かなければならなかった。
それも、人と知り合う助けにはならなかった。
何年もの間、俺の人間関係は、ほとんど仕事と、わずかな人数の知人に限られていた。
その中にデレクがいた。
俺たちは、俺の家族が再び引っ越す前に中学校で知り合った。最終的には別々の学校へ通うことになったが、それでも友情を保つことができた。
彼は、あの何年もの間、俺の人生に残り続けてくれた数少ない人間の一人だった。
その後、俺はほかに二人の女性と付き合った。
どちらも3か月以上は続かなかった。
一人目とは、俺から別れた。
もう一人とは、相手から別れを告げられた。
ただ誰かと一緒にいたかったわけではない。
俺は、芯のある人間を求めていた。
向上心のある人。
自分の人生で何をしたいのか、分かっている人。そして、俺を尊重してくれる人。
そんな人には、出会えなかった。
再び彼女を見るまでは。
タバタ。
17歳のときに出会った少女。
10年以上もの間、俺の人生から姿を消していた少女。
今、彼女は俺からほんの数メートルのところにいた。
軍曹になっていた。
男たちと女たちを率いる立場にいた。
世界の終わりを生き延びていた。
それでも、どういうわけか、俺の記憶の中にいる彼女と同じ人間だった。
時計を見た。
5時までは、まだ何時間もあった。
タバタと別れたあと、俺はテントに戻った。
残りの一日は、奇妙なほど普通に過ぎていった。俺たちは食堂へ行き、ほかの人々と食事をして、テントへ戻った。デレクはしばらくサムやブリサと話していた。その間、ラウラは医務室で手に入れた薬をいくつか確認しながら座っていた。
俺は会話にほとんど加わらなかった。
時計から目を離せなかった。
ようやく約束の時間になると、俺はテントを出て医務室の区域まで歩いた。
金属製のフェンスは、そこから数メートル先にあった。
俺は少し早く到着した。
柱のひとつに寄りかかり、待った。
数分が過ぎた。
何も起こらなかった。
風がキャンプを囲む木々の枝を揺らし、フェンスをかすかに震わせていた。遠くからはエンジン音や兵士たちの声、ときおり基地内を移動する車両の音が聞こえてきた。
そのとき、こちらへ近づいてくる人影が見えた。
彼女だった。
タバタは片方の肩にバックパックを掛けて歩いてきた。
俺を見つけると、歩く速度を上げた。
「ジェイコブ!」
俺は笑った。
長い付き合いだったから、口元が見えなくても彼女が喜んでいることは分かった。黒い布で顔の一部が隠れていても、その目を見れば分かった。
タバタはフェンスまで来ると、俺の前で立ち止まった。
「来てくれたのね」
「どうして来ないと思ったんだ? 13年間、ずっと待ち望んでいたんだから」
彼女は笑った。
しばらく、俺たちは何も言わなかった。
やがてタバタはフェンスのほうを向き、金属に引っかかっていた枝をどけた。
その下には、小さな穴があった。
「ここから?」
「そうよ」
彼女は身をかがめ、反対側へ通り抜けた。
俺も同じようにした。
そのあと、彼女は枝を元の位置に戻し、穴を再び隠した。
「どこへ行くんだ?」
タバタは歩き始めた。
「秘密」
俺たちは木々の間を進んだ。
あまり離れないようにしながら、基地の南側を回った。数分後、地面が少しずつ高くなり始めた。
小さな丘を登った。
頂上にたどり着いたとき、俺は足を止めた。
目の前には、巨大な都市ホティニが広がっていた。
建物は見渡す限り続いていた。その高さからは、いくつかの道路の配置や高層ビル、地平線に向かって広がる住宅街まで見渡せた。空は灰色の雲に覆われていたが、いく筋かの光が雲を突き抜け、街に降り注いでいた。
美しい眺めだった。
そして、奇妙でもあった。
世界の終わりを迎えたあと、これほど大きな都市なら、騒音に満ちているはずだった。
だが、丘の上から見る街は、まるで眠りについているかのようだった。
斜面のそばには、大きな倒木が横たわっていた。
タバタはその上に飛び乗り、地面へ降りた。
そして、背中を倒木に預けて座った。
「おいで」
俺は彼女の隣に腰を下ろした。
タバタはバックパックを開け、ビールの瓶を2本取り出した。
俺は数秒間、それを見つめた。
酒を飲む気にはなれなかった。
だが、ビールだった。
たった1本。
それに、タバタだった。
13年ぶりの再会だった。こんな時間を拒みたくはなかった。
俺は瓶を1本受け取った。
タバタは自分の瓶を見た。
「しまった。栓抜きを持ってくるのを忘れたわ」
俺は手を差し出した。
「銃を貸してくれ」
タバタは俺を見た。
何に使うのか、尋ねなかった。
ためらいもしなかった。
ただ、ベレッタM9を取り出して俺に渡した。
不思議なことだった。
13年が過ぎていた。
話すこともなく、相手がどこにいるのかも知らず、生きているのかどうかさえ分からなかった13年間。
それなのに、彼女はまるで一日も経っていないかのように俺を信頼していた。
俺は安全装置がかかっていることを確認し、銃を使って瓶の栓を外した。
カチッ。
栓が勢いよく飛んだ。
もう1本の栓も開けてから、銃を彼女に返した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺は彼女に瓶を渡した。
俺たちは瓶を持ち上げ、軽くぶつけた。
そして、口をつけた。
ビールの冷たさが、周囲の冷え切った空気と対照的だった。
数秒間、俺たちはただ街を眺めていた。
「ずっと会いたかった」と、タバタがようやく口を開いた。
俺は彼女を見た。
「あなたに連絡を取ろうとしたのよ」と、彼女は少し落ち込んだ様子で言った。
「本当に?」
「ええ。でも、あなたはSNSをやっていなかったし、電話番号も知らなかった。あの頃は、私たちだって携帯電話を持っていなかったでしょう」
俺は笑った。
「そうだな」
「それに、軍に入ってからは、ますます難しくなった。訓練に勉強、赴任先……何をするにも時間がほとんどなかった」
俺は瓶に目を落とした。
「俺はアルコールの問題を抱えていた」
タバタの表情が変わった。
「今は大丈夫なの?」
「ああ。もう大丈夫だ」
俺は数秒間、黙り込んだ。
「かなり長い間、酒を断っていた。でも、自分を制御できなかった時期があった。そのせいで、意図せず誰かを傷つけてしまったんだ」
タバタはすぐには何も言わなかった。
ただ、俺の手にそっと自分の手を重ねた。
「つらかったわね」
「もう過ぎたことだ」
「それでもよ」
彼女は街のほうを見た。
「ねえ、知ってる? 中学校であなたと出会ってから、あなたはずいぶん変わったわ」
「いい方向に?」
「いい方向に、そうよ」
彼女は笑った。
「出会った頃のあなたは自己中心的で、衝動的で、何でも自分の好きなようにやっていた」
「わざわざ思い出させてくれてありがとう」
タバタは小さく笑った。
「でも、変わったのよ」
彼女は俺を見た。
「落ち着いたし、周りの人にも気を配るようになった。もっと……そうね、いい人になった」
俺は何と答えればいいのか分からなかった。
「君のおかげだ」と俺は言った。
「私のおかげ?」
「そうだよ」
彼女はもう一口飲んだ。
俺たちは街を眺めながら、飲み続けた。
数分後、タバタが再び俺を見た。
「結局、海洋生物学者にはなれたの?」
俺は首を横に振った。
「いや」
「どうして?」
俺は視線を落とした。
「酒のせいだ」
彼女は黙っていた。
「大学を辞めたんだ。そのあと、新聞で写真の講座の広告を見つけた。興味があったから受講して、最終的に雑誌社で働くようになった」
「写真家として?」
「ああ」
「給料はよかった?」
俺は小さく笑った。
「ほとんど稼げなかった」
タバタは目を見開いた。
「えっ?」
「小さな雑誌社だったんだ。収入はほとんどなかったけど、仕事はあった」
彼女は首を振った。
「相変わらず変わってるわね」
俺は笑った。
「そこは変わらなかったな」
数秒後、彼女が尋ねた。
「家族はどうしてるの?」
笑みが消えた。
「分からない」
「何も連絡がないの?」
「電話をかけても、出てくれなかった」
俺は街のほうを見た。
「まあ、父の性格を考えれば、向こうから距離を置くことにしたんだろうな」
タバタはゆっくりとうなずいた。
「そうね。おそらく」
彼女は俺の父親を知っていた。
詳しく説明する必要はなかった。
「どうやってここまで来たの?」と彼女が尋ねた。
俺は起きたことを話した。
リズのこと。
彼女を見つけたときのこと。
病院のこと。
最後まで任務を果たした彼女のこと。
タバタは黙って聞いていた。
「リズはいい兵士だった」と、彼女はようやく言った。「私の部隊ではなかったけれど、彼女のことは知っていた」
彼女は自分の瓶に目を落とした。
「こんな結末になってしまったのは残念だわ」
俺はうなずいた。
「俺もそう思う」
数秒間、俺たちは何も話さなかった。
そのとき、タバタが何かを思い出した。
「あなたの持ち物の中に、日記のようなものがあるのを見たの」
俺は彼女を見た。
「ああ」
「あなたのもの?」
「そうだ。起きたことを全部書き留めるために使っている」
「持っているの?」
俺はうなずいた。
バックパックを下ろし、日記を取り出した。
彼女に手渡した。
タバタは慎重にページを開いた。
そして、読み始めた。
最初は黙ったまま、ゆっくりとページをめくっていた。そのうち、ときどき顔を上げ、名前や出来事について俺に質問するようになった。
俺は簡単に説明した。
細かいことを一つひとつ話す必要はなかった。
彼女はページを読めば、十分に理解できることがあった。
それから、ほぼ2時間が過ぎた。
太陽は沈み始め、寒さがいっそう厳しくなっていた。
タバタはようやく日記を閉じた。
そこには、最初の数日間のこと、俺たちが失った人々、通ってきた場所、そして俺自身に起きた出来事のいくつかが記されていた。
彼女は俺の手も見ていた。
俺が手を動かすときの様子。
包帯。
疲労。
ページの間に書き残された、すべてのこと。
「いろいろなことを経験したのね」と彼女が言った。
「みんな同じだ」
「でも、あなたは……」
彼女は言葉を止めた。
「どうして今も生きていられるのか、分からないわ」
俺はかすかに笑った。
「運がよかったんだろう」
タバタは首を横に振った。
「違う」
彼女はまっすぐ俺を見た。
「あなたなら大丈夫だって、分かっていたもの」
「どうして分かったんだ?」
彼女は笑った。
「あなたはタフな男だから」
彼女は少し近づいた。
「簡単には死なない男よ」
俺は彼女を見つめた。
一瞬、13年間という時間が存在しなかったかのように感じられた。
俺たちは、10代の頃と同じように丘に座り、これからの人生で何をしたいのかを話していた。
俺は彼女の顔を見た。
出会ったときから、ずっと尋ねたいと思っていたことがあった。
「何があったんだ?」
「何のこと?」
俺は、彼女の口を覆っている黒い布を指した。
「どうして口を隠しているんだ?」
タバタは視線を落とした。
「見せてあげる。でも、写真は撮らないって約束して」
俺は笑った。
「約束する」
彼女はうなずいた。
それから、ゆっくりと布を外した。
長い時間を経て、俺は初めて彼女の顔を完全に見ることができた。
右側の唇から頬にかけて、傷痕が走っていた。はっきりと分かる、不規則な傷痕で、今でもかなり目立っていた。
俺は彼女を見つめた。
嫌悪感を抱いたからではない。
ただ、今まで見たことがなかったからだ。
「軍の訓練中についた傷なの」と彼女は説明した。「最初は普通の傷に見えたけれど、細菌に感染してしまって、結局きちんと治らなかった」
彼女はその部分にそっと触れた。
「士官学校にいた頃、からかわれるようになったの」
声が少し低くなった。
「最初の数年間は、かなりつらかったわ」
俺は彼女を見た。
「つらかったな」
「だから、傷を隠すことを許可してほしいと頼んだの」
彼女は再び布を口元に当てた。
「それで、許可された」
俺はうなずいた。
何と言えばいいのか分からなかった。
彼女も、返事を必要としているようには見えなかった。
俺たちはしばらく黙って座り、街を眺めていた。
何時間も話し続け、たった一度の午後で13年分の時間を取り戻そうとしていた。
それでも、まだ話すべきことはたくさん残っていた。
やがて俺は日記をバックパックにしまった。
さらにしばらくの間、俺たちは互いの人生について話し、昔の出来事を思い出し、離れていた間に何が起きたのかを伝え合った。だが、基地内であまり目立たないようにするため、タバタはそろそろ戻ったほうがいいと判断した。
俺たちは、入るときに使ったフェンスの穴を通って戻った。中に入ると、それぞれ別の道を通ってテントへ向かった。
別れる前に、俺たちはまた会うことを約束した。
そして、それぞれ仲間たちのもとへ戻った。
この終末の世界で、安全な場所にいるという感覚は心を安らげてくれた。何日も車の中や廃屋、森、そして物音ひとつで感染者の集団が近づいてきたのではないかと警戒しなければならない場所で眠り続けたあとでは、そんなことが可能だという考え自体、ほとんど信じられないものだった。




