XIV ― 信頼……
こんな世界では、他人を信じる余裕なんてない。だからこそ、自分の仲間を守ることが大切なんだ。信じられるのは、仲間だけだ。
病院から逃げ出したあと、俺たちは立ち止まり、持ち物を確認した。同行することを決めたラウラは、その機会に俺の手を診てくれた。包帯はすっかり濡れていて、傷から漂う臭いも、とても安心できるものではなかった。
「これはひどいわね、ジェイコブ……」彼女は俺の火傷した手を見ながら言った。
「もっといい知らせを聞きたいもんだな」と俺は冗談めかして答えた。
ラウラは首を横に振った。
「ひどく感染してる。体温を測るわね」
彼女は体温計を取り出し、数秒待った。表示された数値を見た瞬間、表情が変わった。
「熱があるわ」
彼女はバックパックから抗生物質、包帯、消毒液、それからいくつかの医療用品を取り出した。そして傷を洗い始めた。液体がむき出しの皮膚に触れるたび、深いところまで焼かれるような痛みが走り、俺は歯を食いしばった。
「この瓶の抗生物質を八時間ごとに一錠。いい?」彼女は薬を渡しながら言った。「一回も飲み忘れないで」
俺はうなずいた。
仲間たちの士気はどん底だった。空腹、喉の渇き、寒さ、恐怖、そして疲労。俺は何とかして一行を空港へ、いや、正確にはリズが話していた軍事基地へ向かわせようとしていた。彼女の言葉が本当であってほしい。もし本当に基地から護衛してもらえるなら、移動距離は半分で済む。そうなれば、俺たちが今味わっている地獄も、少しはましになるかもしれない。
「それで、その軍事基地に向かうの?」とブリサが尋ねた。
「そうだ」とデレクが答えた。
「あと数キロの距離だ。途中で止まらなければ、二日後には着く」と俺は言った。
サムが燃料計を確認した。
「燃料は足りる?」
「いや。できるだけ早く給油して、積めるだけ燃料を確保しないと」とデレクが答えた。
「国道47号線沿いにガソリンスタンドが二軒あるわ」とサムが言った。
それまでぼんやりしていたエミールが、空を指差した。
「あれ、なに?」
全員が彼の指差す方向を見た。遠くをヘリコプターが飛んでいた。俺たちと同じ方向へ進んでいる。
「あれも、あいつらの仲間かな?」とブリサが尋ねた。
デレクは目を細めた。
「おそらくな。アメリカ軍のヘリコプターだ」
俺は、それが木々の向こうに消えるまで目を離さなかった。
「できるだけ早く基地に着かないと」
俺たちは基地へ向かう前に、まずガソリンスタンドを目指すことにした。次の給油所までは、車で約二時間だった。
ようやく到着したとき、そこは完全に略奪されていた。燃料は一滴も残っていなかった。売店の扉は開け放たれ、棚は空っぽで、駐車場にはゴミが散乱していた。
夜中の十二時だった。俺たちは眠く、空腹で、寒さにも耐えられなくなっていた。そこで、ひとまずここでキャンプをすることにした。何とか寝る場所を確保し、交代で見張りをすることにした。いつものように、最初の見張りは俺が担当した。
午前1時23分、エミールが奇妙な物音を聞いて目を覚ました。俺は外を確認したが、何も見つからなかった。彼のところへ戻り、もう一度眠れるよう落ち着かせた。
午前2時02分。見張りの交代まであと数分というところで、ラウラが近づいてきて、俺の隣に腰を下ろした。
「眠ったほうがいい」
「分かってる。でも、眠れないの」
俺は包帯を巻いた手を見た。
「手当てしてくれて、改めてありがとう」
「これくらい当然よ」
俺は数秒間、彼女を見つめた。
「軍について、何か知ってるか?」
ラウラは視線を落とした。
「あまり知らないわ。ただ、アメリカ軍がこの地域に何かしらの関心を持っているみたい。リズもその一人だった。小規模な部隊が病院を守るために派遣されたんだけど、襲撃されて、最後には彼女と私だけが残ったの」
「何に関心があるんだ?」
「分からない。リズは教えてくれなかった。でも、悪意があったわけじゃない。それだけは断言できる」
「リズとは、あの病院で知り合ったのか?」
ラウラは首を横に振った。
「いいえ。彼女とは一緒に高校へ通っていたの。何年も前からの知り合いよ。その後は別々の道を歩んでいた。でも、私があの病院にいると知って、彼女は自ら志願して来てくれたの」
「病院に来た軍人は大勢いたのか?」
「一個分隊よ。十人くらいだったと思う」
俺たちは黙り込み、窓の向こうに広がる夜の闇を眺めた。冷気で窓ガラスには薄い水滴の膜ができていた。時折、遠くの物音が木々の間に消えていった。
「その訛りからすると、スペイン出身だろ?」
「そうよ。そこで育って、そのあと医学を学ぶためにアメリカへ来たの」
「スペインのどこだ?」
「生まれも育ちもバレンシアよ。あなたは? どこ出身なの?」
「この国だ。一度も国外に出たことはない」
ラウラはうなずき、それからあくびをした。
「それで、君は具体的に何をしていたんだ?」俺は少し間を置いて尋ねた。「科学者? 医者?」
ラウラは小さく微笑んだ。
「両方と言ってもいいかしら」
「両方?」
「ええ。医学を学んで、そのあと研究を専門にしたの。すべてが始まったとき、私は研究所で働いていたわ」
「そこで何をしていた?」
ラウラは答える前に、少しの間だけ視線を落とした。
「最初は、ウイルスがどこから来たのか、その起源について調べていたの。どこで発生して、どうしてあんなに急速に広がり始めたのか。それを理解しようとしていた」
「何か分かったのか?」
彼女の表情がわずかに変わった。
「私はその研究に直接参加していたわけじゃないの。別の仕事に回されていたから。プロジェクトの責任者が、情報の大半にアクセスできる立場だった。彼が何かを突き止めていたとしても、私はそれを尋ねる機会がなかった」
「彼はどうなった?」
「襲撃のときに死んだわ」
俺は数秒間、黙っていた。彼女の話し方から、その答えが彼女自身にとっても納得できるものではないと感じた。
「さっき、ライダーズって言ってたな。あいつらは何者なんだ?」
ラウラは説明を求めるように俺を見た。
「ただのならず者だ。ある男が率いていた。ショッピングモールに避難していた民間人の集団を襲ったんだ。俺たちはそいつらが身を守れるように手を貸して、ライダーズを退かせた」
ラウラは眉をひそめた。
「それで、あなたにこんなことをしたの?」
彼女は包帯を巻いた俺の手を見た。
「ああ。あとになって、俺たちを見つけたんだ。あの人たちを助けたことへの仕返しだったんだろう。手を焼かれた」
ラウラは包帯へ視線を落とした。
「本当にごめんなさい」
「気にするな。もう済んだことだ」
「あなたは、こうなる前は何をしていたの?」彼女は数秒後に尋ねた。
「写真家だ」
ラウラは俺の頭から足元まで、しばらく眺めた。
「どう見ても写真家には見えないわね」
思わず笑ってしまった。
「写真家ってのは、どんな顔をしてるんだ?」
「さあ。でも、少なくともあなたみたいな顔ではないわ」
デレクが見張りの交代を知らせるまで、俺たちはもう少し話を続けた。
「ジェイコブ、交代の時間だ」と彼が小声で言った。
「分かった。朝一番で出発する。ラウラ、今のうちに休んでおけ。明日は長い一日になる」
俺は立ち上がった。
「分かった。でも、抗生物質を忘れないでね」
サムとエミールが眠っているか確認しに行った。二人とも休んでいた。音を立てないように自分の寝場所へ戻り、目を閉じた。
眠りについた。
だが、そのあと俺は自分のベッドで目を覚ました。
本当の、自分の家のベッドだった。
いつもの服を着ていた。武器は持っていなかった。太陽の光が部屋を柔らかく照らしていた。窓の外を見ると、すべてが正常に見えた。歩道を人々が歩き、車は穏やかに通り過ぎ、荷物の配達員まで、いつもどおりの日常を送っていた。
自分の手を見た。
健康な手だった。
火傷もない。
傷もない。
身体にも、かすり傷一つなかった。
机の上には携帯電話が置かれていた。家族からのメッセージが届いていた。
すべてが……うまくいっているように見えた。
一瞬、あの黙示録のような世界は、ただの悪夢だったのではないかと思った。
だが、そのとき……。
「ジェイコブ!」
ブリサの声が、俺を夢から引き戻した。
俺は驚いて目を開けた。
「どうした?」
「外に感染者がいる! 大勢よ!」
俺はすぐに起き上がり、拳銃を手に取ってガソリンスタンドの入口へ走った。デレク、ラウラ、サムが必死に扉を押さえていた。二十体を超える感染者が、外から扉を叩き続けていた。
「ブリサ、鎖でもロープでも何でもいい、扉を固定できるものを探せ! エミール、俺と来い!」
エミールを抱き上げ、裏口へ向かった。外へ出ると、二体ほどの感染者を避けながらハンヴィーまで走った。エミールを車内に入れ、俺は正面入口へ引き返した。
「おい!」
感染者たちの注意を引こうと、全力で叫んだ。しかし、ほとんど反応がなかった。そこで一体に向けて発砲した。
銃声が響くと、感染者たちは一斉にこちらを振り向いた。
成功だ。
感染者たちは扉を離れ、俺を追い始めた。
「俺が引きつける! 荷物を全部まとめて、先で合流しろ!」俺は道路を離れながら、デレクに向かって叫んだ。
数分間、距離を保ちながら歩き続けた。冷たい空気が顔を打ち、背後から感染者たちの引きずるような足音が聞こえていた。遠く、来た方向からハンヴィーが現れるのが見えた。
俺は道路脇へ移動し、感染者たちも同じように道を空けるよう誘導した。車が通れるスペースを確保するためだ。
うまくいった。
ハンヴィーが近づき、十分に減速したところで、俺は素早く乗り込んだ。
俺たちはその場を離れた。
「怖くなかったの?」とブリサが尋ねた。
「走る感染者がいなかったのは運がよかった」
俺たちは旅を続けた。
10月12日 ― 隔離命令から27日目。
リズが話していた軍事基地まで、あと一日というところまで来ていた。燃料も食料も水も弾薬もある。長い間、こんなふうに運が向いてきたことはなかった。
夕暮れが近づく頃、数軒の家と小さなスーパーがある町に到着した。足を伸ばし、役立つものを探すにはちょうどよかった。念のため、ハンヴィーを少し隠れる場所に停め、全員が降りた。
「三人一組で行動する。何かあったら無線で連絡。集合場所はハンヴィーだ。午前11時39分までに全員ここへ戻れ」と俺は言った。
ブリサ、デレク、ラウラは二ブロック先のスーパーへ向かった。サム、エミール、俺は物資を探すため、いくつかの家に入ることにした。
家の一つを調べているとき、俺はサムを見た。
「もうすぐ軍事基地に着くな」
「もし、そんな基地が実在しなかったら?」と彼女が尋ねた。
「実在するはずだ。もし違ったとしても、最初の計画に戻るだけだ」
「空港?」
「そうだ」
別の部屋を調べていたエミールが、廊下から俺たちを呼んだ。何かを見つけ、それを持っていきたがっているようだった。
サムは彼を見て微笑んだ。
「好きにさせてあげて。数分でも何かに夢中になれるなら、そのほうがいいわ」
「ああ」と俺は答えた。
家の中を調べ続けていたが、ある臭いがして、俺たちは足を止めた。
焼いた肉の臭いだった。
濃厚で、温かく、生々しい臭い。新鮮な食料を見つけることさえ特権になった世界では、あまりにも場違いな臭いだった。
サムが顔を上げた。
「この臭い、分かる?」
俺は無線機を手に取った。
「デレク?」
すぐに返事があった。
「こっちからも連絡しようと思ってた。そっちにも臭いが届いてるか?」
「ああ。合流しよう」
サムは再び通りを見た。
「新鮮な肉を焼いてるのよ、ジェイコブ」
「行こう」
ハンヴィーへ戻ったときも、臭いはまだ空気中に漂っていた。
デレクは物資でいっぱいのバックパックを背負っていた。
「慎重に行動するぞ」と俺は言った。
サムが少年を見た。
「エミールはどうする?」
「全員で行動する。周辺に何人いるか分からない」
俺たちは武器を準備し、臭いのする方へ進んだ。
遠くに、木の柵で囲まれた家の庭から煙が上がっているのが見えた。道路からは、中の様子がほとんど分からなかった。
ゆっくりと近づいた。
板の隙間に、小さな穴が開いているのを見つけた。
そこから覗くと、四人がバーベキューグリルを囲んでいた。
三人が肉を焼いている。
残る一人は、それを見ていた。
「四人ね」とラウラが小声で言った。
デレクがうなずいた。
「俺たちには気づいていないようだな」
俺たちは柵の扉へ近づいた。扉を開け、銃を構えたまま中へ入った。
「手を上げろ。気に入らない動きをしたら撃つ」と俺は言った。
四人は全員、手を上げた。
近くで見ると、六十歳くらいの男女、若い男、そして三十歳前後の女性だった。
グリルのそばにいた男が唾を飲み込んだ。
「誰だ、あんたは?」
「質問するのは俺だ」
「揉め事を起こすつもりはない。彼女は妻のマーサ、息子のブライアン、その恋人のジェシカだ。私はウォルター」
彼は話しながら、一人ずつ指差した。
「武器は持っているか?」
ウォルターはうなずいた。
「もちろんだ」
俺はデレク、それからラウラを見た。
「家の中を調べてくれ」
二人は家へ入った。
数分後、二人はショットガン一丁と拳銃二丁を持って戻ってきた。
「ほかに誰もいない」とデレクが言った。「見つかった武器はこれだけだ」
「何を焼いている?」俺は尋ねた。
四人は互いの顔を見た。
返事をするまで数秒かかった。
ようやくブライアンが口を開いた。
「豚肉だ」
「どこから手に入れた?」
また沈黙が流れた。
「納屋があったんだ」とブライアンが答えた。「牛や豚、鶏、それに馬もいた。でも、嵐のときに逃げ出した」
俺はグリルを見た。
あまりにも新鮮な臭いだった。
強烈すぎるほどに。
「食べるかい? みんなに分けても十分あるよ」とマーサが勧めた。
「肉はいらない。抗生物質を探している」
ブライアンはあまりにも素早く反応した。
「あるよ。渡せる」
ウォルターが彼を見た。
「ジェシカ、取りに行ってくれるか?」
ジェシカはうなずいた。
「分かった」
彼女は家の中へ入っていった。
待っている間、俺は残った三人を観察した。マーサは笑顔を作ろうとしていた。ウォルターは不自然なほど落ち着いていた。そしてブライアンは、ずっと俺たちを見つめ続けていた。
やがてジェシカが戻ってきた。白いビニール袋を手にしていた。
彼女は俺に袋を渡した。
「はい」
彼女の指が俺の指に触れた。
一瞬、彼女は俺の目を見つめた。
その目には何かがあった。
恐怖。
俺たちに対する恐怖ではない。
別の何かを恐れていた。
「こっちへ来い、ジェシカ」とブライアンが言った。
彼女はすぐに従った。
「私たちを信じてくれていい」とウォルターが言った。「私たちは悪人じゃない。帰りたければ、出口の場所は分かっているだろう」
「軍事基地を探している」
ウォルターの表情がわずかに変わった。
「どこの基地か、見当がつくかもしれない」
デレクが一歩前に出た。
「どこにある?」
「正確な場所までは覚えていないが、地図に示すことならできる」
俺たちは武器を下ろすことにした。ただし、誰一人として警戒を解いたわけではなかった。
マーサがグリルを指差した。
「お腹は空いていない?」
肉の臭いは魅力的だった。しかし、あの家族の何かが、彼らの差し出すものを受け取るべきではないと俺に告げていた。
「今は大丈夫だ」
デレクとブリサは驚いたように俺を見た。一方、サムとラウラは俺に同意しているようだった。
ウォルターが空を見上げた。
「EF2クラスの竜巻を伴う嵐が予想されている。さあ、怖がらずに中へ入ってくれ」
ブリサが眉をひそめた。
「EF2?」
「夫は気象予報士だったの」とマーサが答えた。「もう引退したけれど、昔の癖が抜けないのよ」
ウォルターは微笑んだ。
「竜巻の規模を表す指標だよ」
気象予報士でなくても、何かが近づいていることは分かった。空は暗い灰色に染まり、遠くでは最初の雷鳴が聞こえ始めていた。
ウォルターは俺たちに家の中へ避難するよう勧めた。
「デレク、みんなと一緒に中へ入ってくれ。俺はハンヴィーを取りに行く」
「了解」
数分後、俺は車を家の前に停めた。まだ疑いは消えていなかったが、それでも家の中へ入った。
「くつろいでくれ」とブライアンが言った。
「本当に何も食べないの?」とマーサが尋ねた。
「大丈夫だ。ありがとう」
しばらくの間、彼らはどうやってここまで来たのか、そして近づいている嵐について話してくれた。ブライアンは地図を持ってきて、マーカーで軍事基地の位置と現在地を示した。
情報は正確そうだった。
あまりにも正確だった。
その後、日が沈むと、彼らは俺たちに寝室を用意してくれた。家は二階建てで、寝室は上の階にあった。部屋は狭かったが、分かれれば全員が寝られそうだった。
デレク、ブリサ、ラウラが一つの部屋。
サム、エミール、俺がもう一つの部屋。
見張りの順番を決め、俺たちは眠りについた。
しばらくして、サムが見張りをしている最中に、物音で目が覚めた。
「どうした?」
「風が強くなって、雨も降っているわ」
俺は身体を起こし、窓の外を見た。木々は強風にあおられて大きくしなり、空は暗い雲の塊に覆われていた。
「ウォルターの言っていたことは、本当になりそうね」とサムが言った。
「少し眠っておけ。見張りは俺が続ける」
一時間後、風は通りの車さえ動かしかねないほど強くなっていた。雷が走るたびに部屋が一瞬明るくなった。風が弱まったわずかな隙間からは、通りをさまよう感染者たちの姿が見えた。風の勢いに押され、地面に倒れる者もいた。
そのとき、一階から叫び声が聞こえ、俺たちは一斉に警戒態勢に入った。
俺はデレクと同時に部屋を飛び出した。武器を構えながら階段を下りると、廊下を強い風が吹き抜けていた。
窓が割れていた。
二体の感染者が、そこから侵入していた。
「助けてくれ!」ウォルターが叫んだ。
三体の感染者が彼を取り囲んでいた。
俺たちは発砲した。
三体が倒れると、俺は階段の方を見た。
「デレク、家具で階段を塞いで守りを固めろ! ほかのみんなは武器を取れ! サム、俺と来い!」
俺はハンヴィーの鍵と拳銃を手に取った。サムが後についてきて、俺たちは家の外へ飛び出した。
「何をするつもり、ジェイコブ?」
「ハンヴィーを取りに行く。二階を守っている間に、感染者たちを家から遠ざけるんだ」
強風と雨に身体をよろめかせながら、俺たちは車へ走った。乗り込んでエンジンをかけた。クラクションを鳴らし続けながら、感染者をできるだけ多く引きつけるために、周囲を何度も走り回った。
「どこへ連れていくつもり?」
「まだ考えてない」と俺は答えた。感染者を引き離すため、クラクションを鳴らし続けながら。
サムはため息をついた。
「信じられない……」
数分後、俺たちの後ろには少なくとも四十体の感染者がついてきていた。
俺は未舗装の道を指差した。
「あそこだ」
その道は、道路脇の森へと続いていた。
俺たちは森へ入った。
木々の枝が車体にぶつかり、雨のせいで道はほとんど見えなかった。
無線機から雑音が聞こえた。
「ジェイコブ?」
「問題ない。感染者を何体も家から引き離している。そっちは?」
「大丈夫よ。何体か入ってきたけど、階段を塞いでくれたおかげで守りやすかった。いい判断だったわ」
「よし。森で感染者を振り切ったら、数分後に戻る」
「了解」
数分後、俺たちの後ろに感染者はほとんどいなくなっていた。森の道を抜け、家へ戻った。
到着すると、全員が家の修復作業をしていた。窓を板で塞ぎ、嵐が残した汚れや破片を片づけていた。
ハンヴィーを停め、俺は車から降りた。
「みんな無事か?」
ウォルターが近づいてきた。
「君たちのおかげでね」
サムは家の中を見た。
「この惨状を片づけましょう」
10月13日 ― 隔離命令から28日目。
午前中の大半を使って、家の修理と掃除を続けた。感染者の群れが戻ってこないか確かめるため、屋根の上でも見張りをした。
俺が外の様子を確認していると、マーサが近づいてきた。
「ジェイコブ、軍人なの?」
「俺が? 違うよ。どうして?」
「車に武器、それに立ち回り方を見ていると、そう思えてね」
「武器も車も、見つけたものだよ」
マーサは数秒間、エミールを見つめた。
「こんなことを経験するには、みんな若すぎるわ。あの子は特にね」
俺は少年を見た。
「残念だけど、そのとおりだ」
家の中からデレクが現れた。
「ジェイコブ、釘がなくなった。この辺りを探しに行くか? ブライアンによると、数ブロック先に金物店があるらしい」
「サム、ブライアンと一緒に行ってくれ。それからロープも探してきてくれ」
「了解」
ウォルターが何杯かの水を持って近づいてきた。
「君がこのグループを率いているのか?」
「自分でも分からない。みんな俺の指示を待って、ついてきてくれる。でも、俺はリーダーになりたいと頼んだわけじゃない」
マーサがわずかに微笑んだ。
「それだけ、みんなあなたを信頼しているのね、ジェイコブ」
俺はうなずいた。
ウォルターが水の入ったコップを一つ差し出した。俺は数秒間それを見つめてから、受け取った。
彼は俺の様子に気づいた。
「ああ……まだ警戒しているんだね。気にしなくていい。好きなコップを選んでくれ」
彼は最初に俺へ差し出したコップを手に取り、自分で飲んだ。
それを見てから、俺は別のコップを手にした。
「ありがとう」
ジェシカが、落ち葉やゴミの詰まった袋を運びながら近くを通りかかった。
「そのほうがいいわ」
俺は彼女を見た。
「何が?」
「疑っておくことよ」
ウォルターとマーサは、明らかに不快そうな表情で彼女を見た。
ジェシカは視線を落とし、そのまま歩き続けた。
俺は彼女の後ろ姿を見つめた。
そのとき、前日に抗生物質を渡されたときの彼女の目を思い出した。
あれは偶然ではなかった。
「ところで、あれは地下室か?」俺は家のそばの地面にある、小さな横開きの木製扉を指差して尋ねた。
ウォルターはそちらを見た。
彼の表情が変わった。
ほんの一瞬だけ。
「そうだが、使っていない」
「どうしてだ?」
「この辺りは嵐が頻繁に来るから、地下室に水がたまるんだ。だから、普通は使わない」
彼は微笑んだ。
その笑顔は、どこかぎこちなかった。
「なるほどな」
だが、俺はどうしても納得できなかった。
夜が訪れ、俺たちの体力も尽きかけていた。
再び、あの家族が食事に誘ってきた。俺たちはまだ彼らを信用していなかったので、自分たちの食料を使って食事を済ませた。
それでもウォルターは、家の一室に設置された小さなバーで酒を飲まないかと勧めてきた。木製のカウンターには、さまざまなボトルとグラスが並んでいた。
「暇なときに、いろいろな酒を作るのが好きなんだ」と彼はボトルを取り出しながら説明した。「よかったら、何か作ろう。喜んで用意するよ」
俺たちは礼を言った。俺は丁重に断ったが、デレク、サム、ラウラ、ブリサは勧めを受け入れた。
俺たちはカウンターの周りに座った。ウォルターが飲み物を作り始め、ほかの者たちは会話を楽しんでいた。デレクもブリサもラウラも少し飲んだ。サムは、ほかの誰よりも多く飲み続けていた。
俺は彼らと一緒に座り、会話を聞きながら、ときどき話に加わった。しかし、一滴も口にはしなかった。酒に関しては、あまりいい……「実績」がないからだ。
しばらくの間、その状況はほとんど普通の日常のように思えた。大したことのない話をしたり、いくつかの思い出を語り合ったりして、ほんの数分だけ、今いる場所やここ数日に起きたことを忘れることができた。
夜が更けると、俺たちは部屋へ戻ることにした。それぞれの寝室へ向かい、休むことにした。
俺が部屋に入ったばかりのとき、ドアを叩く音が聞こえた。
デレクだった。
「ジェイコブ、あの家族は信用できると思うぞ。今のところ、変なことは何もしていない」
「何かが引っかかるんだ、デレク。あいつらの態度が……うまく説明できないが」
「ストレスがたまっているんだ。少し休んだほうがいい」
俺はうなずいた。
デレクはドアへ向かった。
「ああ、それと、サムから抗生物質をもらっておけ。飲み忘れるなよ。その手を治さないと」
彼はドアを閉めて立ち去った。
バックパックを調べていると、あの日、バイクで小屋へ戻ったときに拾った革手袋が見つかった。火傷した手を守るために左手用をはめ、右手用は再びバックパックへしまった。
別のベッドからサムが俺を呼んだ。
「ジェイコブ」
俺は彼女の隣に座った。
「どうした?」
「もう一度、お礼を言いたいの」
「何に対して?」
サムは小さく笑った。楽しそうというより、疲れ切った笑いだった。
「全部よ、ジェイコブ。あなたは私を助けてくれた。私たちを守ってくれて、道を示してくれて……私……」
彼女は口を閉ざした。
その夜、彼女はほかの誰よりも多く酒を飲んでいた。話し方や、いつもより焦点の定まらない目を見れば分かった。彼女は数秒間うつむき、それから再び俺を見た。
「どうした?」と俺は尋ねた。
「何でもない」
彼女は弱々しく微笑んだ。
それから再び俺の目を見つめ、ほとんど無意識のように視線を俺の唇へと落とした。
彼女は少しだけ身を寄せた。
俺は動かなかった。
サムはさらに数センチ近づいた。まるで、今にも俺にキスをしようとしているかのようだった。そこで俺は手を上げ、彼女をそっと制した。
「サム……休んだほうがいい」
彼女は動きを止めた。自分が何をしようとしていたのか、ようやく気づいたかのように、何度かまばたきをした。
「そうね……」彼女は小さくつぶやいた。「あなたの言うとおりよ」
彼女は身を引き、うつむいた。
「ごめんなさい、ジェイコブ。自分でもどうしたのか分からない」
「気にしなくていい。少し飲みすぎただけだ。横になって眠れ」
サムは、まだ恥ずかしそうにうなずいた。
「うん。ごめんね」
「謝る必要はない」
俺は立ち上がった。
サムが抗生物質を差し出した。
「はい。ちゃんと飲み続けるのを忘れないでね」
俺は受け取り、うなずいた。
「ありがとう」
「おやすみ、ジェイコブ」
「おやすみ、サム」
俺はベッドから離れ、彼女が眠る準備をするのを待った。
自分のベッドに腰を下ろし、抗生物質の瓶を見つめた。
そのとき、瓶に何か書かれていることに気づいた。
たった一つの言葉だった。
地下室。
俺は顔を上げた。
ジェシカ。
間違いない。彼女が書いたのだ。
「最初の見張りは俺がやる」
「本当に?」
「ああ」
俺は待った。
サムが眠りについた。
一時間後には、全員が眠っていた。
俺は拳銃を手に取り、窓から外へ出た。雨はまだ静かに降っていて、水音が俺の足音を覆い隠してくれた。庭を横切り、家のそばにある小さな木製の扉へ向かった。
南京錠がかかっていた。
ウォルターの息子の工具箱で見つけたピッキング道具を使い、開けるまでに数分かかった。
ようやく錠が外れた。俺は扉を持ち上げた。
腐敗臭がまともに襲ってきた。
鼻を覆い、懐中電灯をつけた。
階段を下りた。
空気は凍えるほど冷たかった。
俺の疑いは正しかった。
あいつらは豚肉を食べていたんじゃない。
人間を食べていたのだ。
そこには、男が二人と女が一人いた。一人の男と女は、天井からロープで吊るされていた。もう一人の男は、手術台のような台の上に横たわっていた。
両脚がなかった。
胃が締めつけられるような感覚に襲われた。
周囲には道具が散乱していた。ナイフ、ノコギリ、鉤、金属製の容器、そして肉を切り分けるために用意された台。冷却装置が作動していて、耐えがたいほど低い温度に保たれていた。
俺は数秒間、その場に立ち尽くした。
そして、ようやくジェシカがメッセージを残した理由を理解した。
彼女は俺を怖がらせようとしたのではない。
警告しようとしていたのだ。
俺はできるだけ早くそこを出て、南京錠で扉を閉めた。
最初にすべきことは、デレクを起こし、全員をこの家から連れ出すことだった。
窓から再び部屋へ戻り、デレクに知らせるためにドアへ向かった。だが、ドアを開けると、向こう側にブライアンが立っていた。
「どうしてそんなに濡れている?」
俺は彼を見た。
「家を汚して悪いな。毛布を取りにハンヴィーへ行っていたんだ」
ブライアンは俺から目を離さなかった。
「それで、今度はどこへ行くつもりだ?」
「トイレだ。身体を乾かしたい」
彼の顔に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。
「嘘をつくのがうまいな、ジェイコブ」
彼の手がベルトへと下がった。
ナイフを抜いた。
考える時間はなかった。
俺は拳銃を抜き、発砲した。
弾丸が彼の腹部に命中した。
「うわあああっ!! このクソ野郎!!」
ブライアンは傷を押さえながら床に倒れた。
銃声で全員が目を覚ました。
寝室のドアが、ほぼ同時に開いた。
デレクが武器を持って出てきた。
その後ろからサムが現れた。
ブリサとラウラも武器を手にして出てきた。
ウォルターはショットガンを構えていた。
「いったい何が起きている?」と彼が尋ねた。
ブライアンは歯を食いしばった。
「こいつ、肉のことを知ってるぞ、父さん!」
ウォルターが俺を見た。
数秒間、誰も動かなかった。
やがて、彼の表情が変わった。
親しげな態度は消え失せた。
「ああ……ジェイコブ。いい友達になれると思ったんだがな」
彼はショットガンを持ち上げた。
「だが、警告したはずだ」
狙いを定めた。
発砲した。
俺は横へ飛び、素早く部屋へ飛び込んだ。銃弾が木製のドア枠を破壊し、木片が四方へ飛び散った。
弾丸はガスランプに命中した。
ガラスが砕けた。
燃料に火がついた。
炎が木の壁へと急速に広がっていった。
廊下に現れたデレクが、ウォルターの脚を撃った。
ウォルターは階段から転げ落ちた。
「急げ!」デレクが叫んだ。
火はさらに燃え広がっていた。
そのとき、ジェシカの声が聞こえた。
「ジェイコブ!」
俺は顔を出した。
彼女は俺たちの部屋から数歩のところにいた。
「こっちへ来い!」
ジェシカが俺たちの方へ走ってきた。
床に倒れたままのブライアンが、彼女に気づいた。
彼は脚へ飛びついた。
ジェシカをつかんだ。
彼女は倒れた。
「裏切り者!」
ブライアンはナイフを抜き、彼女を何度も刺し始めた。
「やめろ!」
ラウラが叫んだ。
サムが俺を見た。
「ジェイコブ!」
「脱出するぞ!」
家は完全に燃え上がろうとしていた。
「デレク!」
「分かってる!」
俺たちは荷物をつかみ、全員で窓から外へ出た。
雨が顔を打つ中、ハンヴィーへ向かって走った。
素早く乗り込んだ。
俺はエンジンをかけ、家から離れた。
バックミラー越しに、背後で炎が大きくなるのが見えた。
そのとき、感染者たちが姿を現した。
銃声と火に引き寄せられ、小さな群れが家へ向かって進んでいた。
数秒間、誰も何も言わなかった。
ラウラは後ろを見つめ続けていた。
ブリサは歯を食いしばっていた。
サムはエミールを抱きしめていた。
デレクは道路を見つめていた。
俺はハンドルを握り続けた。手袋の下で、火傷の痛みが続いていた。
やがて俺は、燃え上がる家から視線をそらした。
俺たちは軍事基地へ向かって進み続けた。
ブライアンの地図は、まだ座席の上に残っていた。
道路は、俺たちの前へと続いていた。
こんな世界では、他人を信じる余裕なんてない。だからこそ、自分の仲間を守ることが大切なんだ。信じられるのは、仲間だけだ。




