XII — 炎に触れられて
希望は、炎が灰を残した場所に花開く。
燃料が尽きたため、俺たちは道路脇の家で野営していた。中に入って誰もいないことを確かめ、倒れ込める場所を見つけるだけで精いっぱいだった。全員、疲れ果てていた。
デレクとブリサは深く眠っていた。一方、サムは俺と一緒に、かろうじて暖を取れる程度の焚き火の前で起きていた。俺は見張りをしていた。午前2時だった。
エミールも眠っていた。毛布や衣服を寄せ集めて作った寝床にくるまっている。彼の小さな兵隊のおもちゃも、赤い兵隊と緑の兵隊の両方がそばに置かれていた。彼は寝る前にそれらを丁寧に並べていた。こんな状況の中でも、兵隊たちが安全であることを確かめておきたかったかのように。
サムは俺の隣に座り、火に両手をかざした。
「本当に、とんでもないことだったわね……」
俺は答えなかった。頭の中は別のことでいっぱいだった。あの建物のこと、アマンダ、マックス、エレベーターの落下、警官たち、そしてそのあとに起きたすべてのことを考え続けていた。俺たちは生きて脱出できた。だが、何かを勝ち取ったとは思えなかった。
ただ、呼吸を続けることができただけだった。
「ひどい怪我をしているわね」と、数秒後にサムが言った。「あそこで、いったい何があったの?」
俺はすべてを話した。何一つ省かなかった。
話し終えると、サムは炎を見つめたまま黙っていた。
「だから、やめたほうがいいって言ったのよ、ジェイコブ」
「分かっている」
「それでも、あなたは行った」
「見捨てるわけにはいかなかった」
サムはゆっくりと息を吐いた。
「まさに、そこが問題なのよ」
俺は彼女を見た。
「どういう意味だ?」
「あなたはいつだって、誰かを助けに戻る理由を見つける。閉じ込められた人。子供。家族。助けを必要としている誰か。そして、あなたがそうするたびに、私たちも一緒にその代償を払わなきゃいけない」
「君やデレクやブリサが同じ立場だったら、俺は迷わず助けに行く」
彼女は数秒間黙り、それからかすかに笑った。
「でも、一つだけ認めなきゃいけないことがあるわ」
「何だ?」
「あなたを殺す方法なんて、ないってこと」
俺は彼女を見つめ、とうとう俺も笑った。
「あるさ」
サムの笑顔が消えた。
俺は炎から目をそらした。
「もし、いつかそんなことが起きたら……一つだけ約束してほしい」
「何を?」
「生き延びると約束してくれ。今までそうしてきたように。みんなを守ってくれ。デレクも、ブリサも……エミールも」
サムは数秒間、俺を見つめた。
「そんなふうに話すのは嫌よ」
「そうなると言っているわけじゃない」
「でも、考えているんでしょう?」
俺は答えなかった。
サムは視線を落とした。
「約束する」
彼女の声は、ほとんどささやきだった。
俺は彼女を見つめた。服も肌も土で汚れていた。髪は乱れ、腕には小さな傷がいくつもあった。俺たちはみんな、似たような姿だった。
「まともに風呂に入りたいな」
サムは声を抑えて笑った。
「ええ。ひどい有様ね」
そこで会話は途切れた。
しばらくすると、疲労に抗えなくなった。
俺は焚き火の前で眠りに落ちた。
目を覚ましたとき、焚き火はすでに消えていた。家の中は静まり返り、ほかの全員もまだ眠っていた。
10月9日 — 隔離命令発令から23日目。
周囲を確認した。
何もない。
動くものも、声も、感染者もいなかった。
俺はさらに数分待ってから、みんなを起こした。
ようやく外へ出ると、全員が同じ表情をしていた。空腹と疲労、そして先へ進みたいという気持ちが入り混じった顔だった。
残り少ない食料を少し食べ、森の中を進み続けた。
一時間以上歩いた。
そのとき、小屋が見えた。
放棄されているようだった。
周囲には感染者が四体いるだけだった。
デレクと俺は顔を見合わせた。
言葉を交わす必要はなかった。
俺たちは素早く感染者を始末し、家に近づいた。
ドアを開けた瞬間、重苦しい臭いが襲ってきた。
腐敗臭。
湿っぽく、古く、閉じ込められた臭いだった。壁にまで染みついていた。
「気持ち悪いな」とデレクがつぶやいた。
中へ入った。
家の中は、慌ただしく放棄されたように見えた。家具はひっくり返り、皿は割れ、物が床に散乱していた。まるで、そこで争いが起きたかのようだった。
だが、部屋の一つを開けた瞬間、俺は完全に動けなくなった。
子供部屋だった。
小さな飛行機や車のおもちゃがあった。ぬいぐるみのいくつかは床に転がっていた。壁には絵が貼られていた。
そして、ベッドの上には……。
四人の遺体があった。
女。男。少女。そして少年。
四人は寄り添うように横たわっていた。
男の手には、まだ銃が握られていた。
近づかなくても、何が起きたのかは分かった。
彼らは自ら命を絶ったのだ。
俺はゆっくりとドアを閉めた。
ほかの連中には見せたくなかった。
「デレク」
彼が近づいてきた。
俺はドアを少しだけ開けた。
彼は中を覗いた。
その表情が、瞬時に変わった。
何も言わなかった。
ただ、うなずいた。
俺は再びドアを閉めた。
「誰もここに入れるな」と伝えた。
「分かった」
だが、この家には、俺たちがどうしても必要としていたものがあった。
食料と水だ。
少し休息を取れるだけの量のボトルや缶詰があった。
俺はエミールのために、豆と米の缶詰を温めた。少年は床に座って食べていた。片方の手には、小さな緑色の兵隊のおもちゃを握っていた。
「おいしいか?」と俺は尋ねた。
彼はうなずいた。
そのあと、俺たちはリュックに入るだけの物資を持っていった。
デレクは浴室で救急箱を見つけた。
「一日ここにいたほうがいい」と彼は言った。「体力を戻して、少し治療しよう」
彼は俺たちの傷を見た。
「ひどい有様だ」
「俺は賛成だ」
サムとブリサも同意した。
そこで、俺たちは家を片づけ始めた。
家具を動かし、床の一部を掃除し、いくつかの部屋を使えるようにした。快適な場所ではなかったが、安全だった。
午後、俺はデレクに頼み、サムとブリサとエミールを家の外へ連れ出してもらった。
俺は四人の遺体を埋葬することにした。
何時間も穴を掘った。
土は湿って重かった。シャベルを突き立てるたびに、泥が金属にこびりついた。
作業を終えると、俺は家族を埋葬した。
彼らの名前は知らなかった。
何があったのか、正確なことも分からなかった。
それでも、せめて彼らが眠る場所はできた。
家に戻ると、エミールが床に座って兵隊のおもちゃで遊んでいた。
兵隊たちを並べ、小さな戦いをさせていた。
俺は彼の隣に座った。
「どっちが勝っているんだ?」
「緑の兵隊」
「またか?」
彼はうなずいた。
「緑のほうが強いんだ」
「赤い兵隊の連携が悪いからだな」
エミールは真剣そのものの表情で俺を見た。
「違う」
「違うのか?」
「赤い兵隊は悪者なんだ」
「ああ」
俺は数秒間考えた。
「それなら、俺たちは困ったことになったな」
エミールは笑った。
暗くなると、ドアと窓を閉め、食事をしてから横になった。
最初の見張りは俺が担当することになった。
ショッピングモールでクラレンスからもらった拳銃を持ち、廊下のそばの椅子に座った。
弾は五発。
残っているのは、それだけだった。
夜は穏やかに思えた。
穏やかすぎるほどに。
何も聞こえなかった。
雷鳴が始まるまでは。
最初の雷で、窓ガラスがかすかに震えた。
二度目の雷が、家の中を一瞬だけ照らした。
そのとき、廊下の真ん中に立っているエミールが見えた。
心臓が止まるかと思った。
彼は枕を小脇に抱えていた。
「どうして起きているんだ?」
「眠れないんだ」
俺は拳銃をしまい、立ち上がった。
「おいで」
彼を再びベッドまで連れていき、寝かせてから、兵隊のおもちゃをベッド脇のテーブルに置いた。
ろうそくに火をつけた。
小さな炎が壁に影を映し出した。
「心配するな」と俺は言った。「眠るだけでいい。俺が守っているから」
エミールは俺を見た。
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「どこかへ行っちゃわない?」
俺は一瞬、黙った。
「今夜は行かない」
少年は目を閉じた。
ほどなくして、眠りに落ちた。
俺は椅子に戻った。
雨が激しく降り始めた。
屋根を叩く雨音が家中に響いた。雷が窓を震わせ、稲妻が走るたびに森が一瞬だけ照らされた。
およそ一時間、何も起こらなかった。
そのとき、一滴の音が聞こえた。
たった一滴。
だが、普通の雨粒の音ではなかった。
あまりにも大きかった。
もう一滴。
そして、もう一滴。
さらに、もう一滴。
俺は立ち上がった。
窓まで歩いた。
外を見た。
そこで、ようやく理解した。
雨粒ではなかった。
足音だった。
大勢の人影が道路を進んでいた。
群れだ。
百体を超える感染者が雨の中を歩き、ゆっくりと街へ向かっていた。何体かは立ち止まりもせず、小屋にぶつかっていた。
俺は凍りついた。
急いでデレクとサムが眠っている場所へ向かった。
「起きろ」
デレクが目を開けた。
「どうした?」
「外に群れがいる」
サムはすぐに身体を起こした。
ブリサも目を覚ました。
俺たちはすべての明かりを消し、エミールのいる部屋に集まった。
雨が窓を叩いていた。
雷鳴が轟いていた。
そして外では、感染者たちが壁にぶつかっていた。
うなり声を上げていた。
叩いていた。
歩き続けていた。中には必死に走り回る者もいた。
誰も口を開かなかった。
再び、疲労に負けた。
俺たちは眠りに落ちた。
10月10日 — 隔離命令発令から24日目。
目を覚ましたときには、すでに太陽が昇っていた。
ほかの連中を起こし、数分待ってから外へ出た。
群れは消えていた。
泥の上に、何百もの足跡が残っているだけだった。
「出発するぞ」と俺は言った。
誰も反対しなかった。
何かを食べ、荷物をまとめた。
目的地は依然として空港だったが、そのためには車両が必要だった。
小屋には地図があった。
地図によれば、数キロ先に道路がある。
「また雨が降りそうだな」と、雲を見ながら俺は言った。
「なら、急いだほうがいい」とデレクが答えた。
俺たちはすべての荷物を持った。
エミールは小さなリュックを背負い、ブリサの隣を歩いていた。
サムは二人の近くにいた。
俺は地図を持っていた。
最初の数キロは何事もなかった。
道路にたどり着いた。
完全に無人だった。
濡れた葉と、風に流された枝があるだけだった。
俺たちは何時間も歩き、ときどき誰かが息を整える必要があると、短い休憩を取った。
やがてデレクが足を止めた。
「ジェイコブ」
彼が指さすほうを見た。
遠くに、砂色のトラックがあった。
全員がそれを見た。
そして、全員が走り出した。
近づくにつれ、俺の顔には笑みが広がった。
軍用車両だった。
「頼む……」と俺はつぶやいた。
俺は乗り込んだ。
車内を確認した。
キーを回した。
エンジンが音を立てた。
だが、始動しなかった。
燃料タンクを開けた。
空だった。
「くそっ」
地図によれば、もう少し先にガソリンスタンドがある。
だが、トラックを無防備なまま放置するわけにはいかなかった。
荷物を置き去りにすることもできない。
そこで、俺は決断した。
「燃料を探しに、デレクと俺で行く。サム、ブリサ、エミールはここに残ってくれ」
サムは俺を見た。
「本当に大丈夫?」
「君たちは休む必要がある」
デレクはリュックの準備を始めた。
俺はサムに近づいた。
「秩序を保ってくれ。君とブリサで三時間交代の見張りだ。明かりは禁止。音楽も禁止だ」
「任せて」
彼女は少し間を置いた。
「でも、本当に私も行かなくていいの?」
「大丈夫だ」
「ジェイコブ……」
「君は休む必要がある。それに、エミールとトラックを見ていてくれる人が必要なんだ」
サムは視線を落とした。
「分かった」
「数時間で戻る。予定より遅くなったら、警戒を怠るな。無線機もある」
「まだ使えれば、だけどね」
「そのとおりだ」
彼女は俺を見た。
「幸運を祈るわ」
少し間を置いた。
「絶対に戻ってきなさいよ」
俺は笑った。
「戻ってくる」
それから、エミールのもとへ向かった。
彼の前に膝をついた。
「行ってくるぞ、ちび助」
エミールは兵隊のおもちゃを一つ握っていた。
「戻ってくる?」
「ああ」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃあ、緑の兵隊が守ってくれるよ」
俺は兵隊のおもちゃを見た。
「頼もしいといいな」
エミールはうなずいた。
「いちばん強いんだよ」
俺は彼の頭をなでた。
「サムの言うことを聞くんだぞ。彼女が本を読んでくれるからな」
それからブリサのもとへ行った。
彼女はトラックにもたれかかっていた。
「すぐ戻るよ」
「そうだといいわね」
俺は彼女を見た。
彼女の表情には、何かがあった。
「どうした?」と尋ねた。
「何でもない」
俺は彼女を見つめ、さりげなくデレクのほうへ目を向けた。
彼女は首を横に振った。
「ただ、無事に戻ってきて、ジェイコブ」
俺はうなずいた。
デレクは装備を整え終えた。
俺たちはリュック、無線機、武器を持っていた。
俺が持っていたのは、クラレンスの拳銃だった。
弾は五発。
それだけだ。
マチェーテは鞘に収まり、ベルトに固定されていた。
デレクは、屋上で俺たちを裏切った男、ミカエルが持っていた拳銃を携帯していた。
午後7時、俺たちは出発した。
太陽はまだ道路を照らしていた。
「たぶん、一時間で着く」と俺は言った。
「燃料を手に入れて戻り、そこで野営だ」とデレクが答えた。
「そのとおり」
「簡単な計画だな」
俺は彼を見た。
「お前がそう言うと、たいてい何かがうまくいかなくなる」
デレクは笑った。
俺たちは歩き続けた。
デレクと俺は、道のりのかなりの部分を進んでいた。
太陽は今にも沈みそうだった。
「もう少しだ」と俺は言った。「必要なものを手に入れ、そこで野営する。明るくなったら戻る。昨夜みたいな群れがうろついている中、暗闇で危険を冒すつもりはない」
デレクは地平線を見た。
「ガソリンスタンドに、まだ燃料は残っていると思うか?」
「そう願おう」
俺は黙った。
「彼女たちのことが心配だ」
「俺もだ」
「離れて行動するのは好きじゃない」
デレクは俺を見た。
「歩いて俺たちと一緒にいるより、トラックにいるほうが安全だ」
「分かっている」
「なら、彼女たちを信じろ」
「信じているさ」
俺は歩き続けた。
「ただ、あのことがあってから……置いていくのが嫌なんだ」
デレクは視線を落とした。
「俺たちだって同じだ」
ようやく、ガソリンスタンドが見えてきた。完全に暗闇に包まれていた。
数百メートル先だった。
俺たちは小走りになった。
到着すると、まず誰もいないことを確かめた。
何もなかった。俺たちは中に入った。
燃料タンクを調べた。
「燃料はある。だが、電気がない」
デレクは息を吐いた。
「最高だな」
「ホースでこのポリタンクに燃料を入れる。その間に食料と、今夜過ごせる場所を探してくれ」
すでに暗くなっていた。
時刻は午後9時ごろだった。
俺はポリタンクを三つ満たした。
終わると、それらを店の中へ運んだ。
デレクはいくつかの食料を見つけていた。
「何か見つかったか?」
「缶詰とスナック、それに水が少し」
彼はポリタンクを見た。
「三つか?」
「三つだ」
「かなりうまくいったな」
「少なくとも、今のところはな」
何時間ぶりかに、少しだけ安堵を感じた。
デレクが店の外で小さな焚き火を起こす間、俺はドアと窓を閉めていた。
「あとで、あのドアを手伝ってくれ」と彼が言った。
「あそこには何がある?」
「食料庫だ」
彼は奥にあるドアを指さした。
「たぶん、食べ物が残っている」
最後の窓を閉めようとしていたとき、物音がした。
俺たちは二人とも動きを止めた。
もう一度、物音。
食料庫から聞こえてきた。
俺はデレクを見た。
「開けて、何だったのか確かめよう」
彼はうなずいた。
俺は拳銃を構え、ドアの前に立った。
デレクがドアノブを握った。
開かなかった。
「三つ数えるぞ」
一。
二。
三。
ドアが開いた。
四体の感染者が一斉に飛び出してきた。
俺は拳銃を構えて発砲した。
一体目が倒れた。
二体目が俺に飛びかかってきた。
俺は後ずさったが、そいつは俺の肩をつかんだ。
顎が、俺の顔から数センチのところまで迫った。
腐った息がかかった。
俺は全力で押し返した。
そいつは動かなかった。
そこで片手を離し、マチェーテを抜いて、顎の下に力いっぱい突き刺した。
身体が俺の上に倒れ込んだ。
俺はそいつを押しのけた。
デレクは二体に襲われていた。
「デレク!」
俺は彼に向かって走った。
四体目の感染者が行く手を阻んだ。
俺をつかんできた。
俺はマチェーテの柄でそいつを殴り、振りほどくと、壁に叩きつけた。
とどめを刺した。
再びデレクのほうを見ると、彼はすでに一体を始末していた。
最後の一体が起き上がろうとした。
デレクは足で押さえつけ、そいつを倒した。
そして、動かなくなるまで何度も殴りつけた。
俺たちは息を切らしながら立ち尽くした。
顔の一部が血で覆われていた。
デレクが俺を見た。
「ひどい顔だな」
「お前だって、見られたもんじゃないぞ」
「そんなことは言っていない」
俺は布切れで顔を拭き、デレクが遺体を運び出すのを見ていた。
俺たちは食料庫に入った。
懐中電灯をつけた。
そして、何が起きたのかを理解した。
「くそっ……」
中のものはすべて開けられていた。
感染者たちは中に閉じ込められていた。様子からすると、彼らは人間の状態でここに入り、感染者になったらしい。誰かが彼らを閉じ込めたのだろうか?
彼らは、食べられるもののほとんどを食い尽くしていた。
そして、そのうちの一体が死んだとき、ほかの者たちはその遺体を食べ始めたのだ。
回収できるものはほとんど残っていなかった。
棚の一つで、俺は日記を見つけた。
何ページかは血で覆われていた。
最初のページには、手書きのメッセージがあった。
「息子へ。もしお前がこれを読んでいるなら、父さんはもう、もっと良い場所へ行ってしまったのだろう。これだけは知っておいてほしい。父さんはお前を愛している。お前は強い。父さんよりもずっと強い。お母さんも、きっとお前を誇りに思っているはずだ。強く生きろ。どこにいようと、父さんはお前を愛している。愛しているよ、エミール」
俺はそのページを見つめた。
最後の部分は血で覆われていた。
下には名前が書かれていた。
エマヌエル。
「エミールの父親のものだ」と俺は言った。
デレクが近づいてきた。
「エミールの父親か?」
俺はうなずいた。
「メッセージを残そうとしたらしい」
デレクは黙っていた。
それ以上、何も言わなかった。
言葉にする必要はなかった。
衣服をいくつかと、電池のない無線機を見つけた。
使い物にならなかった。
デレクは眠る準備をした。
最初の見張りは俺が担当する。
拳銃を膝に置き、窓の前に座った。
月が通りを照らしていた。
一時間が過ぎた。
さらにもう一時間。
そのとき、何かが見えた。
感染者が一体、道路をゆっくりと歩いていた。
女だった。
ウェディングドレスを着ていた。
俺は彼女を見つめていた。
どんな結婚式だったのだろう、と考えた。
あのドレスを着てから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
誰かが彼女をどれほど待っていたのだろう。
そして、何も覚えていない存在となり、一人きりで道路を歩くことになったのは、どんな結末だったのだろう。
俺は一瞬、視線を落とした。
眠気が重くのしかかってきていた。
物音がした。
風の音だと思った。
雨が屋根を叩き始めた。
俺は再び外を見た。
感染した女は、道路で死んでいた。
俺は急いで椅子から立ち上がった。だが、その瞬間、背後から何かに殴られた。
視界が真っ暗になった。
目を覚ますと、まだガソリンスタンドの中にいた。俺の両手は結束バンドで椅子に縛りつけられていた。
デレクも隣で、同じように縛られていた。
俺たちの前には、金属のドラム缶の中で焚き火が燃えていた。
男が二人。
女が一人、俺の後ろにいた。
全員が武装していた。
俺が目を覚ましたことに気づくと、男の一人が笑った。
「ようやく起きたか」
俺は答えなかった。
「お前に会いたかったんだ」
俺は彼を見つめ続けた。
「お前が誰なのか、分かっているぞ」
彼は眉をひそめた。
「お前はボスの部下たちを殺した」
「何の話だ?」
男は笑った。
「とぼけるなよ。ショッピングモールのことを忘れたのか?」
そこで、俺は理解した。
ライダーズ。
「くそっ……」
「ああ、思い出したようだな」
俺は深く息を吸った。
「聞いてくれ。揉め事を起こすつもりはない。あいつは無実の人たちを襲った。俺は、ただ彼らを守っただけだ」
「いや、いや」
男は首を横に振った。
「ボスの命令は絶対だったんだ」
彼は仲間たちを見た。
「お前たちにとって幸運なのは、ボスがこっちへ向かっていることだ」
男の一人が合図をした。
もう一人が油の入った瓶を手に取った。
俺の手を見た。
「どちらにしようかな……どっちの手を焼こうか?」
彼は片方の手を指し、次にもう片方を指した。
「左手だ」と男が言った。「利き手じゃないといいな」
彼は俺の左手の結束バンドを外した。
一人が俺の腕を押さえた。
もう一人が、俺の手に油を注いだ。
「燃やせ」
そいつは俺の手を焚き火の中に突っ込んだ。
言葉にできないほどの痛みが走った。
皮膚が溶けていくように感じた。
叫ぼうとしたが、息をすることさえ、ほとんどできなかった。
炎が俺の手を包み込んだ。
十秒。
あるいは、それより短かったかもしれない。
彼らは俺の手を火から引き抜いた。
皮膚は赤くなり、煙を上げ始めていた。
何も考えられなかった。
「ほらな?」と男が言った。「大したことなかっただろ」
彼はデレクのほうを向いた。
「次はこいつだ」
デレクを準備させている間、俺は男の一人のベルトに拳銃があるのを見つけた。
デレクを見た。
それから拳銃を見た。
機会を待った。
その隙を見つけると、俺は火傷した手を伸ばした。
耐えがたい痛みが走った。
それでも、なんとか拳銃をつかんだ。
ベルトから引き抜いた。
発砲した。
男の脚に弾が当たり、彼は倒れた。
女は腹部を撃たれた。
デレクは椅子ごと三人目の男に体当たりした。
結束バンドがついに切れた。
すべてが同時に起きた。
最後に残った襲撃者がナイフを取り出した。
デレクに飛びかかった。
俺は発砲しようとした。
何も起きなかった。
弾切れだった。
俺は男に向かって走った。
結束バンドがようやく外れた。
俺は男を殴った。
一発。
もう一発。
さらにもう一発。
火傷した手は内側から燃えているようだった。それでも、俺は止まらなかった。
何日も溜め込んできた怒りが、その拳にすべて込められていた。
男がようやく動かなくなると、俺は苦しそうに息をした。
脚を撃たれた男が、ショットガンに手を伸ばそうとしていた。
俺のほうが早かった。
ショットガンを手に取った。
男は俺を見た。
「頼む……」
俺は彼を見つめた。
アマンダのことを考えた。マックスのことも。
これまで助けを乞うてきた、すべての人たちのことを。
俺は発砲した。
銃声が感染者たちを引き寄せた。
窓を叩く音が始まった。
デレクは俺たちのリュックを集めた。
持っていける武器とガソリンのポリタンクを二つ持ち、裏口から脱出した。
午前5時だった。
手の痛みは耐えがたいほどだった。
「無線機……」と俺はつぶやいた。
デレクが俺を見た。
「彼女たちだ」
「無線機は中に置いてきた」
「急いで戻らなきゃならない」
俺たちは歩きながら、彼が俺の手に包帯を巻いてくれた。
すべてを持ち出すことはできなかった。
物資と、運べない装備の一部を置いていかざるを得なかった。
それでも、大切なのは俺たちが生きていて、燃料を確保できたことだった。
デレクは俺の隣を進んでいた。
俺はどうにか立っていようとしていた。
道の半ばで、脚が動かなくなった。
俺は倒れた。
「行くぞ」
デレクが俺を起こした。
「もう少しだ」
「無理だ」
「できる」
彼は俺の腕を支えた。
「歩け」
俺たちは歩き続けた。
手は燃えるように痛み、マチェーテで切り落としてしまいたいほどだった。空気が触れるだけでも、ひどい痛みが走った。
そして、ようやくトラックが見えてきた。
そのとき、サムがこちらへ走ってくるのが見えた。
「何があったの!?」
俺は答えられなかった。
サムが俺のところまで来た。
俺の手を見た。
彼女の表情が変わった。
そっと俺の手を取った。
「なんてこと……」
俺は何も言わなかった。
彼女は俺がトラックに乗るのを手伝ってくれた。
俺は横になった。
痛みがひどすぎた。
最後に覚えているのは、救急箱を手にしたサムとブリサの声だった。
そのあと、手の痛みで意識を失った。
10月11日 — 隔離命令発令から25日目。
トラックの天井を見つめながら目を覚ました。
車は走っていた。
数秒間、自分がどこにいるのか分からなかった。
そのとき、痛みを感じた。
手だった。
俺は顔を横に向けた。
サムが隣に座っていた。
俺が目を開けたのに気づくと、彼女は笑った。
「目が覚めたのね」
彼女は水のボトルを手に取り、俺が飲めるように手伝ってくれた。
ブリサが運転していた。
デレクとエミールは後部座席で眠っていた。
サムが俺のほうへ身をかがめた。
「何も言わないで」
彼女は毛布を整えてくれた。
「ただ休んでいて」
俺は彼女を見た。
「どれくらい……」
「あとで。今は駄目」
彼女は数秒間、俺を見つめた。
「休んで、ジェイコブ」
俺は目を閉じた。
久しぶりに、誰かを守るために起きている必要がなかった。
数時間だけなら、ただ眠っていることができた。
そして、空っぽの道路をトラックが進んでいく間、俺はずっと前に学んだことを思い出した。
この世界では、立ち止まることもまた、死ぬことの一つなのだ。
だから、俺たちは歩き続けた。
前へ進み続けた。
希望は、炎が灰を残した場所に花開く。




