↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/31

XI — 下には感染者、上には生存者

もう何も知りたくない。


10月7日 — 隔離命令発令から21日目。

デレクと脱出計画を立てたあと、建物の安全を確認することにした。上階へ行く方法は階段かエレベーターしかなかったが、エレベーターは電気が止まって以来、何週間も動いていなかった。

マックスは、いくつもの部屋から運び出した家具を使い、21階の階段を封鎖していた。バリケードに近づき、小さな隙間から中を覗いた。音よりも先に、臭いが鼻をついた。

腐敗臭。

下の20階は、感染者で完全に埋め尽くされていた。部屋から部屋へ目的もなく歩き回る者もいれば、ドアのそばでじっと動かずにいる者もいた。時折、物音を聞きつけて頭を上げ、壁に殴りかかる者もいた。

俺はゆっくりと後ずさった。

この建物は、縦に伸びた罠だった。

午前10時、事情を確かめるために動いた。ほかの連中がいる部屋に入り、窓辺で通りを眺めているマックスを見つけた。

「ここで何があったんだ?」

マックスは数秒間、返事をしなかった。

「虐殺だ」

彼は俺のほうを向いた。

「すべてが始まって、家に留まるよう命じられたとき、みんなパニックに陥った。通りで起きていることを目の当たりにして、どうすればいいのか分からなかったんだ。両方の建物で、考えられる限りの出入口を封鎖した。そうすれば安全だと思って、俺たちは自分たちを閉じ込めた」

彼は廊下のほうを指さした。

「だが、この建物の中で誰かが感染した。どうしてそうなったのかは分からない。混乱のさなか、下の階がすでに感染者で埋まっていたから、みんな橋を使って向こうの建物へ逃げようとした。そこへ、起きていることを撮影していた報道ヘリが制御を失い、橋に激突したんだ」

「それで唯一の出口が壊れたのか」

「そのとおりだ」

俺は窓の外を見た。

二つの塔の間には、破壊された橋が見えた。コンクリートと金属でできた傷跡のようだった。

「向こうの建物は?」

「最初はあそこも封鎖されていた。だが、人々がパニックを起こし始めると、バリケードを壊した。何人かは逃げられたが、残りは死んだ」

俺は数秒間、黙っていた。

「ここで生き残ったのは、あんたたち三人だけなのか?」

マックスは首を横に振った。

「最初はもっと大勢いた。みんな自分の部屋に閉じこもった。だが、感染者がドアを破り始めたんだ。あまりにも数が多くて、廊下では互いに押し合っていた」

俺はエミールのいるほうを見た。

少年は床に座り、おもちゃで遊んでいた。

「エミールはアマンダの息子なのか?」

マックスは首を横に振った。

「いや。隣人だ」

俺は眉をひそめた。

「隣人?」

「アマンダはあの子の母親を知っていた。すべてが始まったとき、エミールは自分の部屋に一人でいた。両親は姿を消していて、彼女はあの子を連れていくことにした。それ以来、ずっと世話をしている」

俺は少年を見た。

六歳の彼は、今いる世界を理解するにはあまりにも幼く見えた。

「両親に何が起きたのか、あの子は知っているのか?」

マックスは視線を落とした。

「どこまで理解しているのかは分からない。アマンダは、すべてを話すつもりはなかったんだ」

エミールは自分の名前を聞いて一瞬だけ顔を上げたが、すぐにまた遊び始めた。

それ以上は尋ねなかった。

その後、アマンダのことを話すためにブリサの隣に座った。廊下は静まり返っていた。足元で木材が小さくきしむ音と、下の階から時折聞こえてくる遠い物音だけが響いていた。

「あとどれくらいだと思う?」と俺は尋ねた。

ブリサは両手をこすり合わせた。

「一日も持たないと思う。ひどい高熱が出ているし、昨夜は飲んだ水まで吐いてしまった」

「デレクが車を見つけてくる。そうすれば脱出できる」

「アマンダはどうするの?」

「一緒に連れていく。必要になったときに、その時を迎えさせる。でも、ここに置き去りにはしない」

ブリサは黙っていた。

「サムは、この状況をあまり快く思っていない」と俺は付け加えた。

「そうみたいね……」

「助けを必要としている人を、ただ無視するわけにはいかない。それを分かってほしいんだ」

ブリサは俺を見た。

「あなたの考えに反対しているわけじゃない。でも、サムとは話したほうがいいかもしれない」

「そうするよ」

「あなたの優しさのおかげで、彼女は生きている。たぶん、私も。そして今は、この人たちまで」

俺は視線を落とした。

蚊が一匹、手の上に止まっていた。

手のひらで叩き潰した。

パチン。

ブリサは驚いたように俺を見た。

「何をしているの?」

「蚊を殺した」

数分ぶりに、彼女は笑った。

「世界が終わりかけているのに、まだ蚊を気にしているのね」

「こいつに生き血を吸われていたんだ」

「そうね」

彼女の笑顔は、ゆっくりと消えていった。

「彼女、怖がっているのよ、ジェイコブ」

「みんな怖いさ」

ブリサは膝の上に腕を置いた。

「そうね。でも、恐怖の表し方は人それぞれよ」

俺は廊下の反対側を見た。

「君は?」

「私がどうしたの?」

「怖いのか?」

ブリサは答えるまでに時間がかかった。

「ずっとよ」

「そうは見えない」

「隠すことを覚えたから」

俺たちは黙り込んだ。

「ここから生きて出られないと思うか?」と俺は尋ねた。

ブリサは首を横に振った。

「そういうことじゃない。あなたを信じている。サムもデレクも信じているし、あなたの計画も信じている。怖いのは、予想外のことが起こることよ」

「うまくいくさ」

ブリサはかすかに笑った。

「そう願っているわ」

そのとき、マックスが現れた。

「ジェイコブ、少し話せるか?」

俺は立ち上がり、建物の見取り図を広げたテーブルまで彼についていった。

「あんたの仲間が正面玄関を開放して、感染者を外へ誘い出せたとしても、この階段は封鎖されたままだ」

彼は地図上のいくつかの地点を指さした。

「2階、8階、11階、それから17階だ」

「全部、感染者で埋まっているのか?」

「そうだ。ただ、その区画に閉じ込められている」

俺は見取り図を見つめた。

つまり、デレクが正面玄関を開放できたとしても、俺たちはそのまま階段を下りるわけにはいかない。封鎖された区画が四つあり、そのどれもが新たな罠になり得る。

マックスは別の地点を指さした。

「だが、役に立つものがある」

「何だ?」

「19階に発電機がある。まだ燃料が残っているはずだ。動かせれば、エレベーターを稼働させられるかもしれない」

俺は見取り図を見つめたまま考えた。

19階は、俺たちと出口の間にある。

近づくことすらできない場所だった。

だが、そのとき一つの考えが浮かんだ。

「橋の向こう側で大きな音を立てて、21階のバリケードを開放したら、感染者はそっちまで上がってくると思うか?」

マックスは数秒間、考え込んだ。

「すべてが始まったとき、ヘリコプターはものすごい音を立てていた。建物の周りを旋回していて、感染者たちは窓から身を乗り出して飛び降りていた。自分たちが危険な目に遭うことすら理解していないようだった」

「なら、音を追ってくる可能性がある」

「うまくいくかもしれないな」

「チームに連絡する。とにかく大きな音を出せるものが必要だ」

「俺たちはどうする?」

「17階から20階の感染者がいなくなるまで、隠れている」

俺は無線機を取り出した。

「デレク?」

返ってきたのは雑音だけだった。

「車を探しに行ったわ」と、橋の向こう側からサムが答えた。

彼女が窓のそばに姿を現した。

「サム、頼みたいことがある」

「何?」

「スピーカーを探してくれ。ラジオでもいい。何でもいいから、長い時間、大きな音を流し続けられるものが必要なんだ」

「分かった」

沈黙が流れた。

「そっちは大丈夫か?」と俺は尋ねた。

「ええ」

「サム……」

「何?」

「昨日のことは悪かった」

彼女は視線を落とした。

「私もよ」

「誰かが助けを求めているときに、聞こえないふりをするわけにはいかない。それを分かってほしかったんだ」

サムは深く息を吸った。

「いつか、誰かを助けられなくなる日が来るんじゃないかって怖いの」

「どうして?」

「私たちが死んでしまっていたら、助けられないから」

俺には何も答えられなかった。

「すべてうまくいくさ」

サムはうなずいた。

「何か見つけたら知らせるわ」

通信が切れた。

俺はアマンダの様子を見に行った。

彼女はベッドに横たわっていた。汗で額に髪が張りつき、呼吸は苦しそうだった。

「気分はどうだ?」

「最悪よ」

彼女の声は、かろうじて聞き取れるほどのささやきだった。

「俺の仲間が、ここから脱出するために全力を尽くしている」

アマンダは俺を見た。

「エミールを連れていって」

「そうする」

彼女は俺に手を差し出した。

俺はその手を握った。

「あの子の母親を知っていたの。すべてが始まったとき、あの子の部屋で一人きりになっているのを見つけたわ」

アマンダは唾を飲み込んだ。

「両親は死んだの。でも、あの子はまだ、そのことを完全には知らない」

俺はエミールのほうを見た。

少年は床に座り、いくつかの箱の間を二体の人形に歩かせていた。

「下にあるものは見せない。約束する」

アマンダは俺の手を強く握った。

「最後に一つ、お願いがあるの」

「言ってくれ」

「私を感染者にさせないで」

俺は彼女を見つめた。

「マックスにはできないわ。それに、私にもそんな勇気はない」

「俺がやる」

アマンダは目を閉じた。

「ありがとう」

彼女の身体は汗でびっしょりだった。

安全のため、俺たちはドアに鍵をかけた。

それからエミールのもとへ向かった。

彼の前にしゃがみ込む。

「やあ」

少年は返事をせず、俺を見つめた。

「チョコレートが好きだって聞いたんだ」

俺はリュックからピーナッツ入りのチョコレートバーを取り出し、差し出した。

エミールは両手で受け取った。

「ありがとう」

「俺はジェイコブだ」

エミールは恥ずかしそうにうなずいた。

「何をしているんだ?」

彼は自分の兵隊のおもちゃのコレクションを見せてくれた。

「兵隊で遊んでいるの」

「でも、みんな緑色だな。敵はどこにいるんだ?」と俺は尋ねた。

「僕の寝室にいるよ」

「どこに住んでいるんだ?」

「19階」

「何号室か覚えているか?」

エミールは首を横に振った。

「大丈夫だ」

彼はおもちゃに目を落とした。

「もうすぐ、ここから出られるよ」

そのとき、無線機から雑音が流れ始めた。

「ジェイコブ?」とサムが呼びかけた。

「聞こえている」

「スピーカーを見つけたわ。録音された音楽が入っていて、まだ電池で動く」

俺は笑みを浮かべた。

「完璧だ」

「計画は?」

「それを使って、下の階を空にする」

「デレクはまだ戻っていないわ」

「戻ってきたら、俺に連絡するよう伝えてくれ」

「分かった」

数時間後、ようやくデレクから連絡が入った。

彼は貨物用のトラックを手に入れていた。

俺は計画を説明した。

作戦自体は単純だったが、一つでも間違えれば命を落としかねなかった。

デレクが橋の向こう側にスピーカーを設置し、音楽を最大音量で流す。その前に、マックスと俺が21階のバリケードを撤去し、ブリサ、アマンダ、エミールと一緒に隠れる。

音に引き寄せられた感染者たちは階段へ向かい、上へと移動するはずだった。

彼らが下の階からいなくなっている間に、マックスと俺は19階へ行き、発電機を動かしてエレベーターを使う。

だが、計画にはもう一つの段階があった。

デレクは建物の正面玄関を開放し、トラックと発炎銃を使って、下層階の感染者たちを外へ誘い出さなければならなかった。

階段を下りることはできない。

エレベーターだけが、俺たちに残された唯一の望みだった。

夕方になり、デレクは持ち場についた。

「準備はいいか?」と俺はマックスに尋ねた。

俺たちは21階のバリケードの前に立っていた。

「いいぞ」

ブリサ、アマンダ、エミールは22階の部屋に隠れていた。

俺たちは最初の家具を取り除いた。


金属が床をこする音がした。

俺は動きを止めた。

向こう側から聞こえるうなり声が大きくなった。

「もっとゆっくりだ」とマックスがささやいた。

俺たちは別の家具をどかした。

さらにもう一つ。

ついに、通り道が開いた。

感染者たちが動き始めた。

何体いるのかを確かめる余裕はなかった。

俺たちは部屋まで走り、ドアを閉めた。

「デレク」と俺は無線機にささやいた。

「どうぞ」

「準備完了だ」

数秒間、何も起こらなかった。

そして、音楽が流れ始めた。

音が建物全体に響き渡った。

最初は、数人分の足音が聞こえた。

次に、数十人分。

その次には、数百人分。

足音は嵐のように階段を駆け上がってきた。

エミールは両耳を塞いだ。

ブリサは彼を抱きしめ、片方の耳を手で覆った。

「大丈夫よ」と彼女はささやいた。

壁を叩く音が激しくなった。

その後、少しずつ小さくなった。

足音は一つずつ、消えていった。

やがて、静寂が訪れた。

無線機からデレクの声が聞こえた。

「成功だ」

マックスと俺は顔を見合わせた。

17階、18階、19階、そして20階を解放できたのだ。

俺たちは手を握り合った。

「やったな」

急いでほかの連中を迎えに行った。

16階のバリケードを補強し、待機した。

その後の数時間、俺たちは空になった部屋を調べた。まだ閉じ込められていた少数の感染者を始末し、使えそうなものがないか探した。

俺はエミールが住んでいた部屋に入った。

彼の両親は見つからなかった。

残されていたのは、放置された品々だけだった。

しかし、寝室の中だけは、すべてがそのまま残っているように見えた。

おもちゃは床に散らばっていた。

ベッドは整えられていた。

そして小さなテーブルのそばに、兵隊のおもちゃがあった。今度は赤い兵隊たちだった。

俺はそれを拾い集め、エミールのもとへ戻った。

「ほら、見つけたぞ」

彼の目が輝いた。

「僕の兵隊!」

彼は人形の入った袋を受け取り、袋をひっくり返して中身を全部出すと、遊び始めた。

数分間、彼はただおもちゃで遊ぶ子供に戻っていた。

そして、おそらく、それこそが彼に必要な唯一のものだった。

俺たちにも休息が必要だった。

数時間、眠った。

10月8日 — 隔離命令発令から22日目。

日の出前、デレクが計画の自分の役割を開始した。

エミールは自分の持ち物を小さなリュックに詰めた。ブリサはアマンダが歩くのを手伝い、マックスは装備を確認し、俺は武器を点検していた。

無線機が鳴った。

「ジェイコブ」

デレクだった。

「聞こえている」

「鎖を切った」

背景では、クラクションと音楽が聞こえていた。

「感染者たちが俺を追っている。あちこちから、さらに出てきている。移動しなきゃならない」

「入口は開いたか?」

「開いた」

「よし。こっちの番だ」

俺はマックスを見た。

「行こう」

俺たちは19階へ向かった。

「ブリサ、発電機が動いたらすぐに動けるようにしておいてくれ」

彼女はうなずいた。

俺たちは解放された階段を下りた。

一段ごとに、ブーツの下で階段がきしんだ。

建物は文字どおり、死んだようだった。

だが、壁の向こうからは、今も時折、何かがぶつかる音が聞こえていた。

俺たちはメンテナンス室に着いた。

発電機は埃に覆われていた。


マックスが膝をついた。

「まだ動く気があるか、試してみよう」

「動かせるのか?」

「動き始めてから聞いてくれ」

彼はいくつかの部品を操作した。

小さなバルブを開く。

レバーを引いた。

エンジンが咳き込むような音を立てた。

そして止まった。

マックスはもう一度試した。

今度はエンジンがうなり声を上げた。

建物の照明が一斉に点灯した。

暖房が動き始めた。

廊下の冷たい空気が、ゆっくりと暖まっていった。

「行こう」

俺たちはほかの連中のもとへ戻った。

全員がエレベーターの前にいた。

俺はボタンを押した。

反応はなかった。

もう一度、ボタンを押した。

俺たちは待った。

すると、チャイムが鳴った。

扉がゆっくりと開いた。

中は空だった。

「本当に動くなんて信じられない」とブリサがつぶやいた。

俺たちは乗り込んだ。

エミールはブリサにぴったりとくっついていた。

俺は1階のボタンを押した。

扉が閉まった。

エレベーターが下降を始めた。

各階を通過するたびに、物音が聞こえた。

うなり声。

ドアを引っかく爪の音。

エミールは目を閉じた。

「あとどれくらい?」と彼は尋ねた。

「もう少しだ」

マックスが笑った。

「成功だな」

その笑顔は、ほんの数秒しか続かなかった。

エレベーターが停止した。

3階。

照明が点滅した。

「嘘だろ……」

扉が開いた。

エレベーターは、階と階の中間で止まっていた。

目の前には、二十体以上の感染者がいた。

一瞬、誰も反応できなかった。

次の瞬間、彼らが襲いかかってきた。

「下がれ!」

最初の数体がマックスに飛びついた。

彼らは彼の脚をつかんだ。

「やめろ!」

俺は彼をつかもうとしたが、感染者の数が多すぎた。

マックスは外へ引きずり出された。

感染者たちが彼を引きずり、脚に食らいつく間、彼の叫び声がエレベーター内に響き渡った。

「上だ!」と俺は叫んだ。

天井のハッチを見上げた。

残された出口は、それしかなかった。

まずブリサが上がれるように手を貸した。

「エミールを連れていけ!」

ブリサは彼をつかみ、持ち上げた。

次にアマンダを助けようとした。

彼女は動けなかった。

「行って……」と彼女がささやいた。

「嫌だ」

俺は彼女の足をつかんだ。

「ブリサ!」

彼女は腕を伸ばした。

二人がかりで、どうにかアマンダを引き上げた。

残るは俺だけだった。

二体の感染者が俺の脚をつかんだ。

足首を握る手の感触が伝わってきた。

俺はブーツで一体を蹴った。

続けて、もう一体も蹴った。

どうにか振りほどき、よじ登った。

俺たちはエレベーターの屋根にたどり着いた。

「どうすればいいの?」とブリサが取り乱した様子で尋ねた。

俺は周囲を見回した。

俺たちがいるのは4階だった。

もう一台のエレベーターは1階にあった。

「下りるしかない」

ブリサはアマンダとエミールを見た。

「二人には無理よ」

「俺がエミールを下ろす。そのあとでアマンダを迎えに戻る」

ブリサはうなずいた。

俺は少年を抱き上げた。

「エミール、勇気を出してくれ」

彼は何も言わずにうなずいた。

俺はエレベーターの縦穴へ身を乗り出し、非常階段を慎重に下りていった。

足元に広がる深い空間を見て、胃がひっくり返りそうになった。

もう一台のエレベーターの屋根にたどり着いた。

「ここで待っていろ」

エミールはうなずいた。

俺は再び上へ戻った。

ブリサと二人でアマンダを下ろした。

数分後、俺たち四人は二台目のエレベーターの屋根にそろっていた。

ハッチを開けた。

1階には、三体の感染者が残っていた。

俺は動きを止めた。

遠くから、デレクの流す音楽とクラクションが聞こえていた。

感染者たちはそちらに気を取られているようだった。

俺は下りた。

ブーツが床に着いた。

血だまりに足を滑らせた。

転ばないよう、壁に手をついた。

耐えがたい臭いがした。

三体の感染者を見た。

拳銃を構えた。

発砲した。

一体が倒れた。

もう一度撃った。

二体目が倒れた。

三体目がこちらを振り向いた。

三発目。

静寂。

「下りてこい!」

まずブリサを手助けした。

次にエミール。

最後にアマンダ。

俺たちは建物の外へ出た。

銃声に引き寄せられ、通りや路地から何体もの感染者が現れ始めた。

「走れ!」

放置された車の間を駆け抜けた。

エミールはブリサの手を握り、彼女の隣を走っていた。

俺はアマンダの後ろについていた。

彼女は立っているのがやっとだった。

感染者の少ない街の外れまでたどり着いた。

遠くに警察署が見えた。

「あそこだ!」

俺たちは中に入った。

「ドアと窓を閉めろ。音を立てるな」

俺は建物の中を調べた。

誰もいないようだった。

武器庫に入った。

何もなかった。

完全に空っぽだった。

「くそっ」


ブリサの声が聞こえた。

「ジェイコブ……」

俺は窓に近づいた。

小規模な群れが通りを進んでいた。

俺たちを追ってきていたのだ。

全員が息を潜めた。

そのとき、背後から足音が聞こえた。

振り返った。

警察官の制服を着た男が二人、俺たちに銃を向けていた。

「動くな」

俺はゆっくりと両手を上げた。

「揉め事を起こすつもりはない」

「分かっている。だが、こちらの指示に従ってもらう」

もう一人の警官が俺たちを見回した。

「ほかには誰もいないのか?」

「いや」

「外にいるのは誰だ?」

「仲間だ」

警官はアマンダに目を向けた。

彼の表情が変わった。

「グレイソン……」

「何だ?」と、もう一人の警官が答えた。

「彼女は感染している」

グレイソンは銃を構えた。

「噛まれたのか?」

「怪我をしているだけだ」と俺は答えた。

「感染者になるぞ!」

「待て!」

銃声が警察署中に響き渡った。

アマンダが床に倒れた。

「やめろ!」

俺は拳銃を構え、発砲した男に向かって三発撃った。

もう一人の警官が俺に飛びかかってきた。

拳が顔面に叩きつけられた。

目の前が真っ白になった。

俺は倒れた。

武器を取り戻そうとしたが、再び殴られた。

「やめて!」とブリサが叫んだ。

彼女は男に飛びかかった。

警官は彼女を力いっぱい殴りつけ、床に倒した。

俺は起き上がろうとした。

だが、身体が動かなかった。

頭がぐるぐると回っていた。

男は俺の上にまたがり、殴り続けた。

一発。二発。三発。

口の中に血の味が広がった。

拳銃は遠くにあった。

腰にはマチェーテがあった。

だが、手が届かなかった。

そのとき、エミールの声が聞こえた。

「ブリサ!」

少年は俺の拳銃を拾っていた。

何をすればいいのか、正確には分かっていなかった。

ただ、ブリサを助けなければならないことだけは分かっていた。

彼は拳銃をブリサに渡した。

ブリサはそれを受け取った。

銃を構えた。

発砲した。

警官の動きが止まった。

弾が命中し、男は横へ倒れた。

俺はその一瞬を逃さなかった。

ベルトに手を伸ばした。

マチェーテを抜き、男の首に突き立てた。

男は自分の血で窒息しながら倒れた。

俺は苦しげに息をした。

ブリサはアマンダのもとへ駆け寄った。俺も彼女のあとを追った。

アマンダはまだ意識があった。

「ジェイコブ……」

俺は彼女のそばに膝をついた。

「大丈夫だ」

自分でも、その言葉を信じていなかった。

「私を感染者にさせないで……」

ブリサの頬には痣ができ、唇には血がにじんでいた。

彼女は俺を見た。

それからエミールに目を向けた。

「こっちへ来て」

彼女は少年を階段のほうへ連れていった。

アマンダが俺の腕をつかんだ。

「お願い……」

床に落ちていた拳銃を見た。

俺はそれを拾った。

彼女に向けた。

できなかった。

銃を下ろした。

「俺にはできない」

アマンダは苦しそうに息をした。

「やって」

彼女は目を閉じた。

「お願い……」

俺は待った。

彼女の呼吸は、次第にゆっくりになっていった。

そして、止まった。

俺は彼女のそばに膝をついたまま、動けなかった。

やりたくなかった。

だが、そのあと何が起こるのかは分かっていた。

俺は拳銃を構え、発砲した。

銃声が警察署の中に響き渡った。

そのあとには、ただ静寂だけが残った。

無線機が鳴り始めた。

「ジェイコブ?」

デレクだった。

俺は数秒間、膝をついたまま動けずにいた。それから返事をした。

「聞こえている」

「感染者たちを引き離せた。もう追ってきていない。ルート47で合流しよう」

「了解」

俺は立ち上がった。

全身が痛んでいた。

留置場のベッドにあった白い毛布を取り、アマンダの遺体にかけた。

それからブリサとエミールを探した。

俺たちは警察署を出た。

通りは静まり返っていた。


だが、振り返った瞬間、目に入った。

銃声が群れを引き寄せていた。

感染者たちが建物を取り囲んでいた。

「行かなきゃならない」

俺たちは道路へ向かって歩き出した。

一歩進むたびに身体が痛んだ。

顎。肋骨。顔。何もかもが痛かった。

遠くに古びたトラックが現れた。

それが停車した。

デレクとサムが降りてきた。

サムは俺たちのもとへ走ってきた。

「みんな大丈夫?」

彼女はまずブリサを見た。

次にエミール。

最後に俺を見た。

「何があったの?」

「あとで話す」

デレクがブリサに近づいた。

彼女は彼を見た。

一瞬、二人とも何も言わなかった。

それから、互いを抱きしめた。

強く、しっかりとした抱擁だった。

まるで数秒間だけ、二人とも、それまでずっと抱えてきたものを忘れてしまったかのようだった。

俺は何も言わなかった。

サムも同じだった。

俺たちはただ、二人を見守っていた。

やがて俺はトラックへ向かった。

腰を下ろした。

目を閉じた。

長い間、こんなことはなかった。

次にどこへ向かうのか、何も考えたくなかった。

ただ、休みたかった。


もう何も知りたくない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。