X — 空の上で
高いところは本当に苦手だ。
ライダーズとの戦いのあと、ショッピングモールで休息を取った俺たちは、旅を続けることにした。出発する前に、役に立ちそうなものはすべて持っていくことにした。店はたくさんあったが、俺はまっすぐサバイバル用品店へ向かった。マルチツールをいくつか、テント、寝袋、それから使えそうなものをいくつか見つけた。
壁には狩猟用のクロスボウが一丁だけ残っていた。俺はそれを手に取り、鉄製の矢も二本持っていった。さらに、信号拳銃と、小さなソーラーパネルで充電できる懐中電灯もいくつか見つけた。どれくらい使えるかは分からなかったが、電気のない世界では、どんな光源でもいずれ重要になる可能性があった。
サムとブリサは衣料品店を調べに行き、デレクは食料と水の確保を担当した。俺が通路の一つを歩いていると、店の中にいるサムを見つけた。
「何か気に入ったものはあったか?」と俺は尋ねた。
彼女は服をいくつか見てから答えた。
「分からない」
声に元気がなかった。
「何かあったのか?」
サムが顔を上げた。
「あと何回、命を懸けなきゃいけないの、ジェイコブ?」
すぐには答えられなかった。
「俺たちは大丈夫だ」
「そうね……いつまで? 時間の問題よ」
「きっと大丈夫だ。約束する」
サムはゆっくりと首を横に振った。
「礼儀正しくするためだけに、知らない人たちを助け続けるなら、そうは思えない」
彼女が棚の間を通って離れていくのを見つめた。
彼女は俺に腹を立てているわけではなかった。怖がっていたのだ。そして、認めたくはなかったが、彼女の言っていることにも一理あると思い始めていた。
俺は歩き続け、クラレンスを見つけた。
「いつ出発するんだ?」と彼が尋ねた。
「できるだけ早く。装備を整えたらすぐに出る」
クラレンスは微笑んだ。
「今夜は肉を焼く予定なんだ。うちの連中が今朝、狩りに出た。夜まで残るなら、歓迎するよ」
「ありがとう。でも、もう十分世話になった。準備ができたら出発するよ」
「好きにするといい。ここにはいつでもお前たちの居場所がある。それだけは覚えておいてくれ」
礼を言い、俺は何箱も抱えているデレクのところへ向かった。
「何が手に入った?」
「今のところ、缶詰の箱と、まだ食べられそうなスナック、それに水のポリタンクがいくつかだ。もう全部トラックに積んでおいた」
「ありがとう。いろいろ助かるよ」
デレクは箱の一つを地面に置いた。
「礼を言うべきなのは俺のほうだ、ジェイコブ」
俺は彼を見た。
「どうして?」
「お前がいなかったら、俺はたぶん今もどこかの家に隠れて、世界が勝手に問題を解決してくれるのを待っていただろうからな」
「待つのが得意そうには見えないけどな」
「得意じゃない。すぐ退屈になる」
俺は笑った。
「出発する前にトラックを点検するよ。ここにある道具を使えるかもしれない」
デレクがうなずいた。
車を調べていると、ブリサが近づいてくるのが見えた。彼女は数メートル離れたところで立ち止まり、俺たちを見ていた。
「何か手伝おうか?」と彼女が尋ねた。
「もうすぐ終わる」と俺は答えた。
デレクが彼女を見た。
「サムのところへ行っていいぞ。こっちは俺たちでやる」
ブリサは答えず、ただうなずいて立ち去った。
俺は数秒間、彼女を見つめた。
何かがおかしかった。
デレクと彼女があまり話さなくなったことだけではない。二人は、わざと互いを避けているように見えることがあった。空港で再会して以来、俺は二人が小さな言い争いをするのを何度も目にしていた。いつも俺たちから離れたところで、いつも小声で。俺は口を挟もうとは思わなかった。二人の問題であり、グループに影響しない限り、介入する意味はなかったからだ。
だが、もう見て見ぬふりをするのは難しくなっていた。
荷物を積み終えると、クラレンスが近づいてきた。
「ジェイコブ、外での旅がうまくいくことを祈っている。面倒事には首を突っ込むなよ。こんな少人数で、あちこちを歩き回るのは危険だ。どこか腰を落ち着けられる場所を見つけることを勧めるよ」
「そのとおりかもしれない。でも、俺たちは東へ進まなきゃならない。ライダーズには気をつけてくれ」
クラレンスが手を差し出した。
「お前たちも気をつけてな」
少しして、クラレンスの弟も別れを告げに来た。
「助けてくれてありがとう、みんな。また会うことがあれば、いつでも歓迎するよ」
俺たちはトラックに乗り込み、再び東へ向かって走り始めた。
太陽が沈み始めるなか、何キロも走り続けた。空はオレンジ色に染まり、木々の影が道路の上に長く伸びていた。
「運がよければ、ガソリンが見つかるな」と俺は言った。
言い終わらないうちに、トラックの速度が落ち始めた。
エンジンが咳き込むような音を立てた。
そして、止まった。
ボンネットから煙が立ち上り始めた。
「最高だな」と運転席のデレクがつぶやいた。「ちょうど愛着が湧き始めたところだったのに」
俺たちは車を降りた。
デレクがボンネットを開けると、煙が噴き出し、俺たちは後ずさりせざるを得なかった。
ほぼ一時間、問題を解決しようと試みたが、最後には現実を受け入れるしかなかった。
エンジンが完全に壊れていた。
「もうこのトラックは使えない」と俺は言った。「歩くしかない」
誰も答えなかった。
俺たち四人は車の前に立ち、エンジンからゆっくりと煙が立ち上るのを見つめていた。
ショッピングモールへ戻ることはできなかった。すでに暗くなり始めていたし、俺たちはあまりにも多くの荷物を抱えていた。食料、水、道具、衣服、それにテントまであった。
「ジェイコブ、どうするの?」とサムが尋ねた。
俺は深く息を吸った。
「使えるものを全部バッグに詰めろ。デレク、お前は水の半分とテントを持て。サム、お前は缶詰の半分と、持てるだけの服を持ってくれ。ブリサも同じだ。俺は武器と残りの水を持つ。全員、懐中電灯と拳銃とナイフを持て。必要なとき以外は懐中電灯をつけるな。列になって一緒に行動し、音を立てないようにする。もうすぐ夜だ。この道路に何がいるか分からない」
誰も反論しなかった。
俺たちは荷物を分け始めた。
これまでのことを考えれば、重いリュックを背負って歩くのは、感染者と戦うよりもつらいくらいだった。
最初の数時間、サムとブリサは一緒に歩いていた。少しずつ、二人は以前より話すようになった。何を話しているのかは聞こえなかったが、小屋を出てから初めて、サムが少しだけリラックスしているように見えた。
デレクが二人の前を歩いていた。
俺は最後尾を進んだ。
三時間後、道路脇に大破したトラックを見つけた。
「少し休もう」と俺は言った。「この先は何も見えないし、みんな疲れ切っている」
デレクがリュックを地面に落とした。
「こんなことを言う日が来るとは思わなかったが、トラックの快適さが恋しいな」
「三時間前はトラックの悪口を言っていたくせに」
「歩くほうがひどいと分かる前の話だ」
女たちはトラックのそばに座り、デレクはテントを張った。
道路の両側に広がる森は、完全な闇に包まれていた。
「デレク、お前と俺で見張りをする」
「俺が最初の番をやる」
「四時間後に起こしてくれ」
サムとブリサはテントに入った。俺はトラックのそばに横になり、デレクは周囲を警戒し続けた。
夜は静かだった。ほとんど聞こえるのはコオロギの鳴き声だけだった。それほど寒くはなかったが、俺たちは誰一人として警戒を緩めなかった。
しばらくして、俺は道路を見渡すためにトラックの屋根へ上がった。
デレクが近づいてきた。
「異常はないか?」
「今のところは」
「道の半分くらいまでは来たな」
「楽しみか?」
デレクが小さく笑った。
「少しな。怖くもあるけど」
「俺たちは大丈夫だ」
「分かってる」
俺は数秒間、黙っていた。
「サムは不安を感じている」
デレクはテントのほうを見た。
「何て言っていた?」
「いつか俺たちに悪いことが起きるって」
デレクは視線を落とした。
「新しい世界だ。厄介な世界だ。あいつの言うとおりかもしれない」
「それで俺たちに何ができる? 諦めるのか?」
「まさか」
デレクは黙り込んだ。
「ジェイコブ、俺は信じている……」
そのとき、放置されたトラックの無線機から、女性の声が突然流れた。
「誰か聞こえますか? お願い……助けが必要なんです」
俺とデレクは顔を見合わせた。
トラックのドアを開けようとしたが、衝突で変形していて開かなかった。
「どいてくれ」
デレクは大きな石を手に取り、ガラスが割れるまで叩き続けた。手を差し入れて無線機を取り出し、電源を入れた。
「もしもし? 聞こえるよ」
「もしもし!」
「誰だ?」
「私、アマンダです! お願い、すぐに助けが必要なんです!」
「何があった?」
無線機から音が消えた。
「くそっ」
その音でサムとブリサが目を覚ました。
二人ともテントから出てきた。
「どうしたの?」とブリサが尋ねた。
「無線で助けを求めている人がいる」と俺は答えた。
デレクは通信を回復させようとしていた。
サムが俺を見た。
「助けが必要だと思う?」
「ああ」
彼女は首を横に振った。
「助けが必要なのは私たちのほうだと思う。自分たちの姿を見て、ジェイコブ。車もなく、何もない場所で、夜の道を歩いているのよ」
「分かっている」
「それなら、どうしていつも私たちがほかの人を助けに行かなきゃいけないの?」
ブリサが口を挟んだ。
「助けを求めているからよ」
サムは彼女を見た。
「だからって、助けに行かなきゃいけないわけじゃない」
答える前に、無線機から再び声が聞こえた。
「もしもし?」とデレクが尋ねた。
「よかった! もう行ってしまったのかと思った!」
「アマンダ、何があった?」
「助けが必要なんです。お願い。三日間、何も食べていません。死者たちに囲まれていて、子どももいるんです」
サムは目を閉じた。
「そんな……」
デレクが俺を見た。
「ジェイコブ」
「どこにいるのか聞いてくれ」
「アマンダ、どこにいるんだ?」
「ホロウリッジです。ツインタワーにいます」
俺は地図を取り出した。
街は南東にあり、俺たちのいる場所から数キロしか離れていなかった。
「自殺行為よ」とサムが言った。
「置いていけない。子どもがいるんだ」とブリサが答えた。
サムは彼女をじっと見つめた。
「感染者だらけの街よ。道をそれてまで向かうのに、言っていることが本当かどうかさえ分からない」
無線機が再び鳴った。
「お願い……助けてください」
「状況を詳しく説明するよう伝えてくれ」と俺はデレクに言った。
「どんな状況なんだ?」
「三人です。建物の警備員のマックスと、エミールと、私です。すべてが始まったときから閉じ込められています。もう物資がありません。西側の建物の二十四階にいます。逃げようとしましたが、下の階はすべて感染者で埋め尽くされています」
俺は地図を見た。
建物のことは知っていた。二つのタワーは橋でつながっていた。
「唯一の出口は初日に壊れてしまいました」とアマンダは続けた。「ニュースのヘリコプターが、建物をつないでいた橋に衝突したんです。外に出られません。お願いです、どうか助けてください」
「俺たちには医療の知識がある仲間がいる」とデレクが言った。「一緒にいるんだ」
「お医者さんですか? ひどいけがをしています。縫ってもらわないといけません」
デレクが俺を見た。
「どうする?」
俺はサムを見た。
彼女は明らかに反対していた。
それからブリサを見た。
彼女は何も言わなかった。
だが、その表情だけで十分だった。
「行こう」
デレクは無線機に向き直った。
「アマンダ、数時間後にそちらへ行く。それまでは無線が届く範囲に入るまで通信できなくなる」
「本当にありがとう! 待っています」
通信が途切れた。
サムは失望したように俺を見た。
「自分たちが何に巻き込まれようとしているのか、分かっていないのね」
俺たちはトラックのそばで数時間休み、夜が明ける前にホロウリッジへ向けて出発した。
何時間も歩いたあと、遠くに建物が見えてきた。明かりのない街だった。
街の外れにある丘から、二つのタワーを見渡すことができた。
10月6日――隔離令発令から二十日目。
「無線で連絡してくれ、デレク」
デレクが無線機を持ち上げた。
「アマンダ?」
数秒が過ぎた。
「もしもし!?」
「ホロウリッジに着いた。街の外れにいる。そっちの建物が見える」
「神様、ありがとう……来てくれないのかと思った」
「二つの建物の状況を正確に聞いてくれ」
デレクが質問を伝えた。
「私たちがいる建物は、二十一階より下がすべて封鎖されています。マックスが階段を閉鎖して、死者たちが上がってこられないようにしました。下の階はすべて感染者でいっぱいです。入り口も初日から封鎖されたままです。誰も出入りできません」
「もう一つの建物は?」
「数日前までは同じ状態でした。でも、入り口は封鎖されていませんでした。死者たちが外へ出てしまったんです」
俺たちは二つのタワーを見つめた。
「どうするつもり、ジェイコブ?」とブリサが尋ねた。
「橋まで行けるかどうか聞いてくれ」
デレクが再び質問を伝えた。
「橋には出られるか?」
「は、はい。でも渡れません。壊れているんです」
「それなら東側の建物へ行こう。上まで登って、アマンダがロープを受け取れるなら、そっち側で固定してもらって渡る」
「ロープが耐えられなかったら?」とサムが尋ねた。
「耐えられるものを探す」
「それじゃ答えになっていないわ」
「ほかに選択肢があまりないんだ」
俺たちは徒歩で街に入り、目立たないように注意しながら進んだ。
建物に近づくにつれ、感染者のうなり声が聞こえ始めた。
何百体もいた。
金物店を見つけ、丈夫なロープを手に入れた。そのあと、東側の建物へ向かった。
入り口は開いていた。
床のあちこちに乾いた血がこびりついていた。廊下には衣服やリュック、私物が散乱していた。
デレクが内部を見渡した。
「ここでいったい何があったんだ?」
「知りたくないわ」とサムが答えた。
俺たちは階段を上り、二十三階まで進んだ。
橋にたどり着いたとき、突風が吹きつけ、俺たちは全員その場で立ち止まった。
デレクが向こう側の建物を指さした。
「あそこだ」
向こう側に、人影が立っていた。
「無線で連絡してくれ」
「アマンダ?」
返事があった。
「マックスです。アマンダはエミールと一緒に上にいます」
「マックス、これからロープを投げる。そっち側で固定してくれ」
彼は親指を立てた。
俺たちはロープを結び、何度か投げようとした。
届かなかった。
そこで、クロスボウのことを思い出した。
「うまくいくと思うか?」とデレクが尋ねた。
「すぐに分かる」
ロープを矢に固定し、クロスボウを引き絞った。
高めに狙いを定めた。
撃った。
矢は向こう側に届いたが、すぐに下へ滑り始めた。
落ちる寸前、マックスがそれをつかんだ。
彼はロープを固定した。
俺たちもこちら側でロープをしっかりと結び、手すりに固く固定した。
「マックス?」とデレクが尋ねた。
「準備できた」
ロープはぴんと張られた。
「渡れるか?」とデレクがマックスに尋ねた。
「俺なら渡れる。でも、アマンダは無理だ。けがをしている」
「それなら私が渡る」とブリサが言った。
デレクはすぐに反応した。
「絶対に駄目だ」
ブリサは彼を見た。
「できるわ」
「駄目だ」
「デレク」
「駄目だと言ったんだ」
二人は互いを見つめた。
その言葉の裏には、何かがあった。
橋とは関係のない、別の何かが。
「俺が先に渡る」と俺は口を挟んだ。「安全だと分かったら、ブリサが俺と一緒に渡ってアマンダを診てくれ」
デレクは顎を引き締めた。
「分かった」
俺は橋の端に腰を下ろし、渡る準備をした。
重くならないよう、持っているのはマチェーテだけだった。
ロープにつかまり、体をぶら下げた。
風が吹きつけ、体が左右に揺れ始めた。
腕が焼けるように痛んだ。
下を見た。
感染者たちは、建物の間にある小さな点のように見えた。
俺は進み続けた。
ようやく向こう側にたどり着き、マックスが引き上げてくれた。
「よくやった!」
「無線を貸してくれ」
デレクがすぐに応答した。
「大丈夫か?」
「ああ。安全そうだ」
向こう側で、デレクとブリサが話しているのが見えた。
何を話しているのかは聞こえなかったが、緊張した会話のようだった。
やがてブリサは腰を下ろした。
深く息を吸った。
そして、渡り始めた。
「その調子だ、ブリサ!」と俺は叫んだ。
風が彼女の体を揺らし始めた。
橋の半ばまで来たとき、きしむ音が聞こえた。
ロープに強い揺れが走った。
「ジェイコブ!」とデレクが叫んだ。
「何だ!?」
「手すりが外れかけている!」
俺はブリサを見た。
「もっと速く!」
彼女はできる限り進んだ。
そのとき、手すりが外れた。
金属が下へ吹き飛んだ。
ブリサはロープにぶら下がったままになった。
「マックス、ロープを支えてくれ!」
「つかんでいる!」
「ブリサ!」と向こう側からデレクが叫んだ。
ブリサは顔を上げた。
「もう無理!」
「できる!」と俺は叫んだ。「俺を見ろ!」
俺は腕を伸ばした。
「こっちまで来たら、俺の手をつかめ!」
彼女は進み続けた。
腕が震えていた。
ようやく手の届くところまで来たとき、俺は彼女の手をつかんだ。
マックスも後ろから助けてくれた。
二人がかりで、どうにか彼女を引き上げることができた。
ブリサは膝から崩れ落ちた。
息が荒かった。
「神様……」
「こっちは大丈夫だ」と俺は無線で伝えた。
デレクがすぐに応答した。
「ブリサは?」
彼女は息を整えた。
「大丈夫よ」
「本当に?」
ブリサは無線機を見た。
「ええ」
デレクは黙り込んだ。
彼女も何も言わなかった。
俺は再び、橋の向こうにいる二人を見た。
また、あの沈黙だった。
「これからどうする?」とデレクが尋ねた。
「アマンダを探しに行く。そっちは周囲を確保して、音を立てないようにしてくれ」
マックスが道を案内してくれた。
一つ上の階へ上がると、ドアが半開きになっている部屋を見つけた。
中にはアマンダとエミールがいた。
少年は小さなリュックを抱きしめながら、隅に座っていた。
何が起きているのか、まだ完全には理解できていないようだった。
俺たちを見ると、顔を上げた。
「あなたたちが……僕たちを助けに来た人?」
「ああ」と俺は答えた。「俺たちだ」
アマンダは、意識を保つのもやっとの状態だった。
「本当にありがとう……」
ブリサがすぐに近づいた。
「傷を見せて」
彼女はアマンダのそばにひざまずき、傷を調べ始めた。
「何があったの?」
マックスが答えた。
「昨日、食料を探しに下の階へ行こうとしたんだ。感染者の一体が彼女を襲った。最初はただの傷だと思ったが、そのあと熱が出始めた」
ブリサはアマンダを見た。
それから俺を見た。
表情が変わった。
「ジェイコブ……」
彼女は噛み傷を指さした。
胃のあたりが重くなった。
「噛まれたんだな」
アマンダはゆっくりと首を横に振った。
「何でもないわ。ただ噛まれただけよ」
ブリサは唾を飲み込んだ。
「アマンダ……」
彼女が顔を上げた。
「何?」
ブリサの目は潤んでいた。
「噛まれたら、感染するの」
アマンダは動きを止めた。
「私も、あんな化け物になってしまうの?」
俺は彼女の目を見ることができなかった。
「すまない」
アマンダは声を出さずに泣き始めた。
この状況を少しでもましにするために、俺たちが言えることなど何もなかった。
「マックス、ちょっと来てくれ」
俺たちは部屋の外へ出た。
「彼女は感染するんだな」と彼が言った。
「ああ」
「治療法は?」
「ない」
マックスは床を見つめた。
「じゃあ、どうすればいい?」
「考えさせてくれ」
部屋へ戻った。
ブリサはまだアマンダのそばにいた。
「もう長くないわ、ジェイコブ」と彼女が小声で言った。「高熱が出ている。体が燃えるように熱い」
「分かっている」
俺は数歩離れた。
ブリサが後を追ってきた。
「ジェイコブ」
「何だ?」
「彼女を一人にはできない」
「そんなつもりはない」
ブリサはアマンダを見て、それからエミールを見た。
「あの子は何が起きているのか分かっていない」
「六歳だ」
ブリサは視線を落とした。
「なおさらね」
俺たちは黙り込んだ。
知り合って以来、初めてブリサが完全に打ちのめされている姿を見た。傷のせいではなかった。感染者への恐怖のせいでもなかった。
人が死んでいくのを目の前にしながら、何もしてやれない。そのことに打ちのめされていたのだ。
「一つ聞いてもいいか?」と俺は言った。
ブリサが俺を見た。
「デレクのこと?」
俺は答えなかった。
彼女はため息をついた。
「やっぱり、分かるわよね?」
「少しな」
「今はその話をしたくない」
「無理に話さなくていい」
「いくつかの問題を解決しようとしているところなの。それだけよ」
「空港にいたころからか?」
ブリサは答えるまで数秒かかった。
「もっと前からよ」
それは意外だった。
「じゃあ、大事なことなんだな」
「ええ」
「どうして話してくれなかった?」
「ほかのみんなを巻き込みたくないから。私たちには目的があるでしょ、ジェイコブ。東へ進んで、安全な場所を見つけて、生き延びること。個人的な問題でグループに影響を与えたくないの」
俺はうなずいた。
「分かった」
ブリサは隣の部屋を見た。
「デレクと私は、遅かれ早かれ解決しなきゃいけない」
「もし、解決できなかったら?」
彼女は深く息を吸った。
「それぞれ別の道を進むことを、受け入れるしかないわ」
俺は何も言わなかった。
その言い方から、彼女が認めたくないだけで、その可能性はすでに思っている以上に近くまで迫っているのではないかと感じた。
橋の端に戻り、デレクと無線で連絡を取ろうとした。
状況を説明したあと、俺たちは全員をどうやって連れ出すか計画を立て始めた。
太陽が沈み始めていた。
「二つ頼みたいことがある」と俺は言った。「まず、アマンダも含めて全員が乗れる車を見つけてくれ」
サムが無線機を手に取った。
「彼女は危険よ、ジェイコブ」
「それでも、まだ人間だ」
「車の中で感染者になって、誰かを噛んだらどうするの?」
「彼女をここに置いていくつもりはない」
「ジェイコブ……」
「彼女も一緒に来る。それで終わりだ」
サムは黙った。
「どうして私たちが、あなたの言うことに従わなきゃいけないの?」
俺は橋の向こうにいる彼女を見た。
「俺がそう言っているからだ」
サムは唇を引き結び、背を向けて、無線機をデレクに渡した。
「あいつは怖がっているんだ」とデレクが言った。
「分かっている」
「ほかには?」
「車を見つけたら、俺たちがいる建物の入り口を開放してくれ。感染者を外へ出して、俺たちが逃げられるようにするんだ。俺のリュックに入っている信号弾を使え。感染者を外へ誘い出して、入り口から遠ざけてくれ」
「分かった。明日の夜明けに出発する。その都度、状況を連絡する」
「気をつけてくれ」
「お前もな」
デレクは少し間を置いた。
「ブリサを頼む」
俺は彼女のほうを見た。
「分かった」
俺は無線機をブリサに返した。
彼女は窓のそばに座り、デレクと話し始めた。
その間も、アマンダはどんどん衰弱していった。
エミールは小さなリュックを抱きしめながら、彼女の隣に座っていた。
何が起きているのか、完全には理解していなかった。
そのほうが、まだよかったのかもしれない。
俺は再び窓辺へ戻った。
最後の光に照らされた街が、目の前に広がっていた。
アマンダは死ぬ。
ロープはもう使えない。
俺たちが脱出する唯一の方法は、建物の正面玄関から下りることだった。
そして、下の階はすべて感染者で埋め尽くされていた。
階段のほうから、うなり声が聞こえてきた。
何百体も。
もっといるかもしれない。
俺は、建物の向こうに太陽が沈んでいくのを見つめていた。
明日、俺たちはあいつらの中を突破しなければならない。
高いところは本当に苦手だ。




