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最強のS級冒険者です。ですが女性だけは攻略できません~恋愛指南書を信じた男の奮闘記~  作者: 仁科異邦


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その男、ハグをする2


『第八章:女が何かに縛られている時、それは男の独占欲を見せつける絶好の舞台である。絡みつく障害(鎖)は己の素手で引きちぎり、「俺以外のものに縛られるな」と情熱的に囁け』


――幻の奇書『これ一冊でモテる!恋愛完全攻略』第135ページより抜粋


赤面して迷宮の奥へと走り去ったノワールを追いかけ、アーヴィンが最深部に辿り着いた時、そこには絶望的な光景が広がっていた。


「くっ、いやぁっ……! 気持ち悪いっ……離しなさいよぉっ!」

巨大な地底湖の畔で、ノワールが宙吊りにされていた。

彼女を捕らえているのは、迷宮のボス『マッド・テンタクルス』。無数の太い触手を持つ、巨大な軟体魔物だった。


粘液にまみれた触手がノワールの四肢に絡みつき、ギリギリと締め付けている。服は所々破け、魔力と体力を急速に吸い取られていた。


「ア、アーヴィン……! 早く、剣で……っ!」

ノワールが涙目で助けを求める。

しかし、アーヴィンの脳内では、またしても緊急アラートがけたたましく鳴り響いていた。

(ま、まずい! ノワールが魔物に捕まっている! しかもあの魔物、変な粘液を出しているぞ! 彼女の服が溶けかかって……直視できない! どうする!? 剣で一刀両断するか!? いや、それでは彼女ごと傷つけてしまう恐れがある!)


冷静なポーカーフェイスの裏側で、アーヴィンは猛烈なパニックに陥っていた。

そして、彼の優秀な脳細胞は、いつものようにあの古書へとアクセスする。

(思い出すんだ……! 拘束されている女性を救出する際のメソッド……第135ページだ!)


――『絡みつく障害(鎖)は己の素手で引きちぎり、「俺以外のものに縛られるな」と情熱的に囁け』

(これだ……! 剣を使うのは無粋。己の肉体だけで彼女を解放してこそ、真の男というわけか!)


アーヴィンは確信と共に踏み込んだ。

S級冒険者の脚力が地面を爆砕し、一瞬でノワールの眼前に跳躍する。


「えっ……ちょ、剣抜いてないじゃない! 素手でどうす……」

ノワールが叫び終える前に、アーヴィンの丸太のような腕が、彼女に絡みつく太い触手(直径30センチ)をガシッと掴んだ。


「……フンッ!!」

ブチブチブチブチィィィィンッ!!!

「ギャアアアアアァァァァァッ!?」

マッド・テンタクルスの鼓膜を破るような悲鳴が響き渡った。


アーヴィンは、強靭な魔物の触手を、ただの腕力だけで無理やりちぎり飛ばしたのだった。

鮮血ならぬ体液が噴き出し、ボスの巨体が苦痛にのたうち回る。


「…………は?」

宙で解放され、アーヴィンの腕の中にすっぽりと収まったノワールは、あまりの光景にポカンと口を開けていた。

(よし! 無事に救出できた! あとはあのセリフでキメるだけだ!)


アーヴィンは真剣な眼差しでノワールを見つめ、低く渋い声で囁いた。

「……俺以外のものに、縛られるな」


沈黙。

粘液が飛び散る凄惨な戦場(触手ブチちぎり現場)で放たれた、あまりにも場違いな甘いセリフだった。


「……いや今それ言うタイミング!? っていうか、なんで剣使わないのよ! 素手で触手引きちぎるって、絵面がサイコパスすぎて引くわ!!」


ノワールの完璧なツッコミが迷宮に響き渡った。

しかし、アーヴィンは止まらない。

彼はノワールを抱えたまま、残る触手も次々と素手でむしり取っていく。

「ギャアア! ギャピィィィ!」


「だから剣を抜けってば! 魔物が可哀想になってきたわよ! もうやめてあげて!」

もはやどっちがボスモンスターか分からないほどの圧倒的な蹂躙劇。


わずか数十秒後、かつて迷宮の主として恐れられたマッド・テンタクルスは、全ての触手をもがれたただの肉塊と化して沈黙した。


「……終わったな」

息一つ乱さず、アーヴィンはノワールをそっと地面に下ろした。

「……終わったな、じゃないわよ。あんたやっぱり頭おかしいわ……」


ドッと疲れた様子でへたり込むノワール。

だが、その視線はアーヴィンの横顔に釘付けになっていた。

(素手でボス魔物を解体するなんて、常軌を逸してる……。でも……私を傷つけないように、わざわざ剣を使わなかったのね。それに、さっきのあの言葉……)


『俺以外のものに、縛られるな』。

その言葉が脳裏に蘇り、ノワールの顔がカッと熱くなった。

(あれって、つまり……私のことを、そういう風に……?)


破れた服の隙間から冷たい風が吹き込み、ノワールが身震いした瞬間。

バサァッ、と彼女の頭から、アーヴィンの予備のマントが被せられた。


「……冷えるぞ」

相変わらずの無表情。だが、その声はどこまでも低く、優しかった。


マントから漂う男らしい匂いに包まれ、ノワールの心臓はこれまでにないほど激しく鳴り始めた。

「……っ。……べ、別に、助けてって言ったから助けてくれただけだもんね」


マントをギュッと握りしめ、ノワールは顔を伏せた。

「でも……その……ありがと。かっこよかったわよ、少しだけ」


消え入るような声で紡がれた、不器用な感謝。

ツンデレシーフが見せたデレだった。

(よし! これで完璧だ! 最後に万能の呪文を……!)


アーヴィンは満足げに頷き、低く囁いた。

「……お前、面白い女だな」

「だからその返しやめなさいよ! 雰囲気ぶち壊し!! ……バカぁっ」


真っ赤な顔で怒鳴りながらも、ノワールは嬉しそうにマントを羽織り直した。


注意)これはフィクションです。

指南書を信じて実行しても通報されるだけです。

ご注意下さい。

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