表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のS級冒険者です。ですが女性だけは攻略できません~恋愛指南書を信じた男の奮闘記~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/11

その男、優しく頭蓋骨を砕く

『第二章:頭ポンポンは愛と支配の証明である。あえて力強く撫でることで、雄としての力強さと包容力を同時にアピールせよ』


――幻の奇書『これ一冊でモテる!恋愛完全攻略』第24ページより抜粋


王都近郊、『嘆きの谷』。

その名の通り、絶えず不気味な風切り音が鳴り響く険しい岩場に、巨大な魔物の断末魔が轟いた。


「ギ、ギャアアアァァァ……ッ!」

ドスーンッ! という地響きと共に倒れ伏したのは、体長五メートルを超える凶悪なレッドオーガだった。


分厚い皮膚と強靭な筋肉を持つその怪物を、アーヴィン・クロムウェルは、文字通り『素手』で沈めていた。

「……脆いな」


血振るいをするように軽く右手を払い、アーヴィンは短く息を吐いた。

この谷に住み着いたオーガの群れの討伐。

それがギルドから彼に指名で入った本日の依頼だったが、戦闘は開始からわずか三十秒で終了していた。


大人の男が朝のゴミ出しに行くのと同じくらいの労力である。

「す、すごすぎる……」

「あれが、S級冒険者……」


背後から震える声が聞こえ、アーヴィンはゆっくりと振り返った。

そこには、運悪くオーガの群れに遭遇し、腰を抜かして座り込んでいる若手パーティーの姿があった。


その中の一人、ローブを着た魔法使いの少女・ルルが、涙目でアーヴィンを見上げている。

「あ、ありがとうございます……! アーヴィン様がいなかったら、私たち……」


ルルの大きな瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。

恐怖と安堵が入り交じった、可憐な少女の涙。

普通の男であれば、優しく微笑みかけ、手を差し伸べる場面だった。


――しかし、アーヴィンの脳内では、またしても緊急アラートがけたたましく鳴り響いていた。

(な、泣いている! 女性が俺の目の前で泣いているぞ!? 距離はわずか一メートル! どうすればいい!? 放置すれば『冷酷な男』の烙印を押されてしまうのではないか!?)


無表情な顔の裏側で、アーヴィンの思考は完全にパニック状態に陥っていた。


魔王の放つ絶望のオーラには微塵も動じない強靭な精神も、泣いている小娘の前ではスライム以下の耐久力しかなかった。

(落ち着け、俺。師匠の教えを……あの本の記述を思い出すんだ……!)


アーヴィンは脳内の引き出しから、擦り切れるほど読み込んだ愛読書のページを乱暴にめくった。

――『女性が落ち込んでいたり、泣きそうな時は、力強く頭を撫でてやれ』

(これだ……!)


アーヴィンは確信した。頭を撫でる。

通称『頭ポンポン』。

自称恋愛評論家が書いた、全く根拠のないアドバイスを、歴戦の英雄は神の啓示のように受け入れた。

彼は無言のまま、ゆっくりと右手を持ち上げた。


幾千の魔物を屠り、ドラゴンの鱗すら粉砕してきた、丸太のように太く、岩のように硬い巨大な手。


それを、ルルの小さな頭へと躊躇なく伸ばす。

(力強く、そして包容力をアピールだ……!)

ガシッ!!!


「ひぐっ!?」

ルルの頭から、メシリ、と嫌な音が鳴った。

撫でるというより、それは完全にプロレス技の『アイアンクロー』だった。


緊張で完全に力加減を間違えたアーヴィンの巨大な手が、ルルの頭をミシミシと圧迫する。

(どうだ? 安心感を与えられているか?)


アーヴィンは真剣な眼差しでルルを見つめていた。

傍から見れば、「感謝の言葉が足りないため、見せしめに頭を握りつぶそうとしている残酷な処刑人」にしか見えない構図だった。


しかし、当のルルは違った。

(な、なんてゴツゴツして、大きくて、力強い手……! これが、本物の英雄の手……っ!)

ルルの脳内では、まったく別の化学反応が起きていた。

圧倒的な死の恐怖から救われた直後の、吊り橋効果。


さらに、頭部をガッチリとホールドされることで生じる、謎の被支配感。

(それに、この圧倒的な力。私の命なんていつでも握りつぶせるのに、あえて力を抑えて(※抑えていない)、未熟な私に冒険者の厳しさと、生きている実感を与えてくれているんだわ……!)


ギリギリと頭蓋骨が軋む中、ルルの顔が恐怖から一転、とろけるような熱情を帯びて真っ赤に染まっていった。

「あ、アーヴィン様……私、もっともっと強くなります……! だから、これからも私を……見ていてください……っ!」


潤んだ瞳で、熱烈な視線を送ってくるルル。

その反応に、アーヴィンは内心で安堵の息を漏らした。

(よし、上手くいったぞ! 何を言っているかはよく分からんが、とりあえず例の万能の呪文(第12ページ参照)で締めておくか!)


アーヴィンはルルの頭から手を離し、ゆっくりと背を向けながら、低く渋い声で言い放った。

「……お前、面白い女だな」


「ふぇっ……!?」

ルルの口から、限界を迎えたような色っぽい声が漏れた。

彼女は両手で真っ赤な顔を覆い、その場にへたり込んでしまう。周囲のパーティーメンバーたちも「ルルがアーヴィン様に認められた……!」と勝手に感動してざわめいていた。

(見たか師匠。やはり頭ポンポンは絶大な効果だったぞ。愛読書、一生ついていきます!)


最強の冒険者は、今日もまた一つ勘違いを重ね、そして無自覚なまま新たな犠牲者ヒロインを生み出してしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ