表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のS級冒険者です。ですが女性だけは攻略できません~恋愛指南書を信じた男の奮闘記~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/11

その男、家を決める


『第十章:合鍵は愛と支配の証である。新居を決めたなら、迷わずスペアキーを女の掌に押し付けろ。「お前の帰る場所はここだ」と囁けば、女は歓喜の涙と共に永遠の同棲シェアハウスを誓うだろう』


――幻の奇書『これ一冊でモテる!恋愛完全攻略』第155ページより抜粋


アーヴィンは悩んでいた。

アイラの案内で王都中の高級物件を巡ったものの、一向に「完璧な城」が見つからないのである。


それもそのはずだった。アーヴィンの求める条件は「古竜のブレスに耐えうる外壁」

「地下水脈からの独立した水源」

「暗殺者を迎撃するためのトラップ配置空間」という、完全に軍事要塞のそれだったからだ。


おまけに内見のたびに「強度の確認だ」と壁を殴って粉砕し、ベッドを破壊するため、もはや案内できる物件が尽きかけていた。


「……アーヴィンさん、素敵……最強の城主様……」

隣では、アーヴィンの過激な行動(と勘違いプロポーズ)の連続に脳の処理が追いつかなくなったアイラが、立ったまま白目を剥いて幸せそうに気絶していた。


「……ちょっと。そこで何やってんのよ、アーヴィン」

行き場を失い、路地裏で途方に暮れていたアーヴィンに、呆れ果てた声が降り注いだ。


声の主は、A級シーフのノワールだった。彼女は気絶しているアイラと、周囲に漂う瓦礫の粉塵を見て、すぐに事態を察したようだった。


「不動産ギルドから『S級冒険者が物件を次々と破壊している』ってクレームが回ってたわよ。あんた、家探しどころか王都を更地にする気!?」


「……強度の確認をしただけだ。どれも豆腐のように脆かった」

「普通の家はドラゴンと殴り合う前提で作られてないのよ!!」


ノワールのキレッキレのツッコミが響き渡った。

彼女は大きくため息をつくと、腰に手を当ててアーヴィンを睨みつけた。


「はぁ……仕方ないわね。あんたみたいな非常識なS級が満足するような頑丈な物件なんて、表の不動産屋には出回ってないわよ。私が『裏』のルートで探してあげるから、ついてきなさい」

(おお……! さすがは裏社会に精通するシーフだ。頼もしい)


アーヴィンは気絶したアイラを小脇に抱え、ノワールの後を追った。


数十分後。

ノワールが案内したのは、王都の裏路地にひっそりと佇む、石造りの重厚な三階建ての館だった。


「ここは昔、偏執狂の高位魔術師が隠れ家にしていた場所よ。外壁には物理反射の結界が張ってあるし、地下には魔物避けのルーンが刻まれた広大な訓練場もある。これなら、あんたが暴れてもそう簡単には壊れないわ」


「……素晴らしい」

アーヴィンは外壁を全力で殴ってみたが、結界が青白く光って衝撃を完全に吸収した。(※その余波で周囲の窓ガラスは割れたが)


まさに彼が求めていた「完璧な城(要塞)」だった。

(よし、拠点はここに決まりだ! あとは……師匠の教えを実践する時だな!)


アーヴィンは脳内で指南書第155ページを再生した。

彼はノワールに向き直ると、管理を任されている彼女の手から無造作に『二本の鍵』を奪い取った。


そして、そのうちの片方スペアキーを、ノワールの小さな掌にガシッと強引に押し付けた。


「……ノワール」

「えっ? ちょ、ちょっと、急に手を握って……」

「お前の帰る場所は、ここだ」


低く、甘く響くダンディボイス。

アーヴィンとしては、「この要塞の防衛システムを完璧に機能させるためには、優秀な罠師シーフであるお前の常駐が不可欠だ。住み込みの警備員として働け」という、極めて実務的な業務命令のつもりだった。


しかし、ノワールの脳内ではまったく別の化学反応が起きていた。

(か、鍵を渡された!? しかも『帰る場所はここだ』って……それってつまり、一緒に住もう(同棲)ってこと!?)


ボンッ! という音が聞こえそうなほど、ノワールの顔が真っ赤に爆発した。

「な、なななな何をバカなこと言ってんのよ!! 私はただ物件を案内しただけで、一緒に住むなんて一言も……っ!」


「俺にはお前の力(※罠解除スキル)が必要なんだ」

「っっっ!!」

無表情で、一切の迷いなく放たれる殺し文句。


ノワールのツッコミ機能は、この圧倒的な『雄の独占欲』を前に完全にショートした。

(あ、アイラっていう美人の受付嬢もいるのに、わざわざ私にも鍵を渡すなんて……! どんだけ欲張りなのよ、この男は……っ。でも、こんな無防備な男、私が側で監視してないと、いつ王都を滅ぼすか分かったもんじゃないし……!)


「し、仕方ないわねっ!!」

ノワールは顔を背けながら、渡された鍵をギュッと胸に抱きしめた。


「あんた一人じゃ不安だし、私が住み込みで色々と面倒見てあげるわよ!

か、勘違いしないでよね、ただの監視役なんだから!」

(よし! 警備員の確保に成功だ! 義理堅い奴だな!)


アーヴィンは完璧に要塞の防衛網が構築できたことに満足し、いつもの万能の呪文で締めくくった。

「……お前、面白い女だな」


「だからそのセリフ腹立つって言ってんでしょ!! 雰囲気ぶち壊しよバカァ!」

ノワールの的確なツッコミがこだまする中、小脇に抱えられていたアイラも目を覚まし、「わ、私も住みますぅぅ! お帰りなさいませあなたぁ!」と歓喜の声を上げた。


かくして、最強のポンコツ冒険者と、ツンデレシーフ、そして勘違い受付嬢の、奇妙で騒がしい共同生活シェアハウスが幕を開けたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

続きが気になる方は是非ブックマークを。

面白いと思った方は評価(★)をお願いします。


読者様の評価を頂くことで、作者は絶好調になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ