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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
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第36話 冒険者のブルース―③

 左手を固く握ろうとして、失敗する。いや、それはそうか。だって、半分がないのだから。代わりに、歯を強く食いしばった。そうでもしないと、この感情は発散しきれなかった。自分への、怒りと失望というドス黒い情感を、消しきれなかった。


「ッ…………─────」


 流石のカルラも、この場所に近づくにつれて口数が少なくなっていた。仕方ない。この場所は、〈龍牙万餐〉にとって因縁の場所というほかないのだから。

 放置された天幕の残骸が、物悲しげに風に吹きさらされている。ここは、ちょうど一週間前、エリィ達第二次空腹期鎮圧部隊がグルムによって壊滅させられた野営地だ。もうすでに死体は食い荒らされたのか、地面の血の固まった跡を除けば死体は骨すら確認できなかった。


「改めて見ると、嫌な気分になるわね…………」


「…………そうだな」


 ギリッという歯を食いしばる音すら聞こえそうな、悔しげな声色。カルラの心中は、察するに余りある。被っている龍骨は彼の自分への怒りが現れているかのように小さく震えていて、エリィはそれが見えないふりをした。また、彼がああならないように。


「…………………………先へ急ぐか?」


「いえ、もう少しだけ……ここにいましょう。ヴァルカが、グルムをギリギリまで削ってくれればいいわ」


 ─────エリィは、確信している。ヴァルカは絶対に、グルムを倒すことはできないと。なぜかと言われれば、ひとえに相性の問題だ。ヴァルカの能力は、調べればすぐに出てきた。衝撃の保存と呼出……確かに、強力な能力であることは間違いないだろう。普通の龍であっても、歯が立たないのも納得する。

 だが、グルムは違う。傷つけば傷つくほど龍気を纏い強固になる特性と、飛来するものを喰らう六つの顎たちは、ヴァルカにとって最悪だ。いくら衝撃を保存して呼び出そうとも、龍気をまとって強固にするだけ。ナイフを衝撃で飛ばしても触手顎が美味しくいただくだけ。


「でも、こっちは違う。カルラが龍気を無視して攻撃できるし……触手顎がどういう原理で探知しているのかを理解している」


「だからこそ、ヴァルカを先行させて体力を削らせる意味があるってな」


 カルラがエリィの独り言に乗っかってきた。この光景を直視したくないが故に話をして気を紛らわせようとしているのだろう。カルラは、自らが背負っている背嚢を叩く。正直魔道具だから取り扱いには注意してほしいが……まあバカルラに言っても無駄だろう。


「にしても、龍の死体とか竜の死体ばっかだな」


「そうね。彼が空中で倒しているのかしら?」


 霊脈龍山は、登山ルートが基本的に一つしかない。周りの山々から回り込んで登るルートも無いことはないが、そちらは山道が険しい上に龍も跳梁跋扈している。今エリィたちが登っている────そして鎮圧部隊も同様に登った────木々を切り倒して作られた道を通り、頂上付近にある大きく穿たれたようなクレーター……霊穿を終点とするルートのみが霊脈龍山の攻略ルートだ。

 ヴァルカが飛んでいった方向から、彼もこのルートの上空を吹っ飛んでいったのだと推察できる。故に、エリィたちが倒した覚えのない龍や竜の死体が落ちているのは、彼が空中で倒したモノに違いないと思ったわけだ。


「他人の倒した獲物を横取りするのは流石に私でも気が引けるわ……」


「なんかアイツのことだから、帰るときに回収できればいいとか思ってそうだな。放っといてやろうぜ」


「…………ここに置いておいたら多分他の竜たちが喰い漁ると思うけどね」


 エリィがそういうとカルラも違いねぇと肩を揺らして笑った。良かった、彼のメンタルはそこまで酷くなかった。


 ふと、エリィは気付いた。地面の一角、森の縁というべき場所に……見覚えのある長剣が落ちていることにだ。ゆっくりと近寄り、それを拾い上げる。一週間と少し前……そして鎮圧部隊で見た剣は、他の武具と違ってそこまで消耗している感じはなかった。だからこそ、見覚えがあることに気づけたとも言える。


「これは……」


 思い出すのは、ナックの顔。あの日龍星の明かりの下、恥ずかしそうに夢を語る彼の表情が、フラッシュバックしてきた。使い込まれた様子はなく、使い出したばかりな刃を、エリィは半分失った左手で撫でる。


(好きな人にいい顔をしたい、認めてもらいたい…………ソレも、私が目指す《《ナニカ》》の一つの形、なのかしらね。だから彼は、私に眩しいものを見たのかしら)


 青臭いナックも、そして似たような夢を持つ自分も、まだまだこれからの道のりの筈。それを彼は一瞬で絶たれたのだから、悔しいに違いないだろう。彼の剣の柄を、固く握りしめる。ナックの無念を、受け取るように。


「おいエリィ! 龍が来るぞ!!」


 カルラの焦りの声が聞こえる。そして、空から急襲する龍の気配。バッサバッサと、羽のはためく音がやけに煩かった。エリィは弾かれたように振り向くと、龍の顔が見えた。サイズは十五メートルほどで、まあ平均サイズの龍だ。大きな牙が並ぶ口を開き、かの龍は雄叫びを上げた。


「OOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


「ッ、今行くわ!!」


 ナックの長剣を握り締め、駆け抜ける。カルラがバスタードソードを抜き放ち、龍が口腔に龍気を集め始めた。


三倍速(サーズ)で片付けるか?」


「いいえ、私にやらせて。カルラはアシストをお願い」


 エリィは前を向き、魔力を解き放つ。今は愛剣のレイピアでなく、この刃で龍を倒さねばならない。彼に、手本を見せるために。


「【纏雷(ボルトチャージ)】最大出力」


 静かに、しかし激しい熱意をもって魔法名を宣言。バチバチと、雷がエリィの身体と長剣にほとばしる。エリィは剣を構え─────地面を蹴った。空中に躍り出るエリィの身体。


「ふッッ!!」


 彼我の距離が一気に詰まる。龍気を口に溜め込む龍の頬へと、一呼吸で振り抜く。電撃纏う迅雷の一閃が、顔面を覆う龍気を切り裂いた。更に勢いで吹っ飛びそうになるが、龍自身の身体を足場にして、切り返す。雷によって強化された筋力なら、可能になる軌道。身体を捻って、流派の技を繰り出さんと剣を構えた。


「華焔流──────”柳”!!」


「UUUUUUUUッ!?」


 流麗な剣閃が、そして後を追う雷鎚が、龍気の間隙を縫って炸裂。龍はその痛みに思わず呻き、集めていた龍気を霧散させてしまう。エリィの身体は空中に放り出されるが、くるりと回転し無事に着地。戻ったエリィの代わりに発射されるのは、龍骨。


「俺も無視すんなよ! 遊ぼうぜ!!」


「────────!?」


 カルラが吠える。駆け抜けた龍骨の一閃が、龍の羽を切り裂いた。たまらず悲鳴を上げ、ガクン、と龍の体が傾いた。片方の飛行能力を失い、高度をドンドンと落とす龍の体を、エリィは見やった。その龍の表面に取り付くように、カルラが駆け抜けながら剣戟を重ねていくのが見える。そして、龍の体が剣の射程圏内へと入った。


「トドメよ。華焔流─────”花雷”!!」


 少年の剣が、電気の後押しによって加速され、爆発的な突きとなる。その額を龍気ごと貫通され─────龍は物言わぬ死体へと変貌したのだった。

 

「連れて行ってあげるわ、ナックくん……グルムの下へね」


 自分の因縁と、ナックの因縁。二つを背負って、エリィは──いや、〈龍牙万餐〉は、グルムの下へと向かうのだった。

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