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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
30/39

第30話 再起の切掛、あるいは前菜―②

「なるほど、コイツは……もうちょっと金をとっても良かったかもな」


 第二次空腹期鎮圧部隊が『暉餓龍』に遭遇し、壊滅した野営地に、ヴァルカは立っていた。先に下見をしようということで軽く霊脈龍山へと来たのだが、そこの光景を見てこぼした言葉がそれだ。

 あちこちに、人だった死体(モノ)が散乱し、放棄された天幕が哀愁を漂わせている。そして、その死体の匂いに誘われた──────。


「「「GYAGYAGYAGYAGYA!!!」」」


 龍が三匹に大量の竜。ガツガツと人間の屍肉を貪るその姿は、自然の摂理ながら常人であれば吐き気を覚える光景だ。あまり人の生き死にに興味のないヴァルカですら、不快な気分を覚えずにはいられなかった。


「ハッ、ここで消費はしたくないが……どうせ俺のことを狙ってくるんだろ?」


「「「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」


 仁王立ちするヴァルカに気づき、龍たちが咆哮をあげる。通常の冒険者でも威勢を挫かれそうなほど威圧的な光景だが、ヴァルカは笑みを返すだけ。龍たちは屍肉を踏み抜きながら、ヴァルカに迫る。


「威勢がいいのは嫌いじゃないぜ」


 ヴァルカが、魔力を放出すると同時に指を鳴らした。なおも迫る龍は、そんなことなど意にも介さずヴァルカを喰らわんと走る。ドスドスと莫大な質量をもつ存在が走って来るだけで、相当な威圧感を感じるものだ。だが、ヴァルカは怯えない。怯まない。魔法が発動した時点で、狩りは一方的なものになっているのだから。


「【呼出(コール)7〜10(セブントゥテン)】」


 バララララララ!!という音を響かせながら、ヴァルカから幾本もの帯が弾かれたように(・・・・・・・)広がる。その帯にはナイフのホルスターが隙間なく敷き詰められている。ギラつく刃が三匹の龍それぞれに向けられているが、ヴァルカがそれを抜く様子はなかった。


「【呼出(コール)ALL MARKED(オールマークド)】」


 ヴァルカが魔法の名前を軽やかに告げる。それと同時に、ナイフの柄で魔力が爆発すると、その爆発によって帯からナイフが一斉に飛び出した。突然暴れ出した刃に龍たちは反応できず、その龍気に楔のごとくいくつものナイフが突き立てられる。


「ッ!?」


「おっと、これで終わりと思うなよ。お前らみたいな金づる、逃すわけにはいかないからな」


 龍気にナイフを突き立てられたところで、龍は止まらない。突然のことに驚きはするが、なんら自身の行動に影響がないとわかると、その歩みを止めなかった。だが、それすらもヴァルカの計算内。むしろ、想定通りすぎて怖いくらいだ。


「【呼出(コール)ALL MARKED(オールマークド)】」


 再び、同じ言葉。その瞬間、龍の肌に突き刺さっていたナイフが再び衝撃を伴って爆発した。龍気を貫通し、鱗をも貫いて龍の皮膚へと刃が突き立つ。鮮血が数多のナイフを濡らした。


「「「GOOOOOOOAAAAAAAAAAAA!?!?」」」


 ──────S級冒険者、ヴァルカ・ガルグイユ。〈保存者(プリザーバー)〉たる彼が誇る魔法、その二つは【保存(プリザーブ)】と【呼出(コール)】。その能力とは、衝撃の保存(・・・・・)だ。自らが物体に与えた衝撃をその物体に保存し、三度まで好きなタイミングで呼び出せる。畳まれていた帯が一瞬で弾かれて広がったのも、ナイフが突如爆発したかのように飛んでいったのも、その力。事前に帯やナイフの柄に衝撃を保存しておいて、それを炸裂させたのだ。


「さて、終いの時間だ! お代はテメェらの命で頂戴!!」


 ヴァルカはそう叫び、再三魔力を放出する。三度まで保存した衝撃は呼び出せるのだ。最初の発射で一発。喰い込ませるのに一発。そして、三度の内の最後、それを今決め込む。


「「「GAAAAAAAAAAAAA、AAA、AA…………」」」

 

 突き立ったナイフが炸裂。その勢いをもって体内を暴れまわり、 龍たちは声にならない悲鳴を上げながら、どうと斃れた。


「四本使っちまったか……『暉餓龍』と戦う前に戻しておかねーと……」


 気だるげに、ヴァルカはため息を吐く。事前に【保存(プリザーブ)】しておかないと【呼出(コール)】は使えない。しばらくは準備に時間がかかりそうだと、ヴァルカは憂鬱な気分になるのを抑えきれなかったのだった。





   @





「───────ふざッけんじゃないわよ!!」


 エリィは、心の底からの怒声を浴びせる。カルラがそんな事を言うなんてという失望と、そして何よりも諦念しきっているようでしきれていないカルラのその態度への怒りが、エリィの声を荒らげる。扉を貫通するどころか声だけで破壊しそうな剣幕で、ふざけるなと叫んだ。


「夢を捨て置く? 貴方が一番言っちゃ駄目なことよ、それは!!」


 なぜなら、カルラが夢を捨て置くことは、それすなわちエリィの夢を無下にするということと殆ど同義なのだ。さらに言えば、カルラの夢に、自分の夢を重ねたエリィの覚悟を、馬鹿にしていることでもあるのだ。故に、カルラが最も言ってはいけない言葉。


「それに、貴方が弱いから悪いって……何よその論理、意味不明にもほどがあるわ」


「ッ、だって、俺が弱いせいでエリィの手が…………!!」


「カルラのせいなわけないじゃない。確かに、これは貴方を庇って負った傷よ。でも、貴方を庇ったことは私の選択」


 あそこの瞬間で、カルラを見捨てることも出来たし、あるいは別の行動もできた。だが、カルラを庇って傷を負うという選択をしたのはエリィの意志だ。だから、彼が責任を感じる理由はない。むしろ、彼に責任をなすりつけたようになってこちらが申し訳ないまであるくらいだ。


「なのに勝手に責任感じて、挙句の果てに私を連れておいて勝手に夢を諦める……ふざけるのも大概にしなさい」


「ッ……ふざけてなんかねぇよ俺だって!! エリィはその左手で真っ当に生きていけると思ってんのかよ!! お前の未来を、俺が、奪っちまったんだよ…………!!」


 痛ましい痛ましい、悲痛な叫びだった。そしてその台詞で、エリィは理解した。それが、カルラを押し潰そうとしている責任感の正体か。確かにその言葉通り、左手を失わなければ、エリィの人生はこの先普通に生きることが出来ただろう。夢を追いかける旅路も、かなり険しいものになってしまったことは否定しない。


 だが。だからといって、夢を諦める理由には、ならない。夢を捨てていい理由には、ならない。元々この旅路は険しい道のりであることは分かっていた。凡才のエリィが、ナニカ(・・・)になることなど難しいのは、明々白々。それが、左手を失って多少険しくなったところで、何一つ変わらない。意志も、夢も。


 しかし、それを伝えたところで今のカルラに伝わるかは大概怪しい。彼は今、責任と夢への諦念で埋め尽くされていて、エリィの言葉を聞き入れてくれる保証はない。ならば、やれることは一つだ。行動で示す、それだけ。


「………カルラ、貴方の言いたいことはわかったわ。だから、ちょっと待ってなさい」


 そう言い残して、階下に降りたのだった。彼に言葉で足りないのなら─────。


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