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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
26/39

第26話 暉餓、強襲―⑤

 ドガッッ!!という轟音がエリィの真横から鳴り響く。高速でナニカが飛んできたようだが……。


「………ッ」


 ソレが、のそりと起き上がる。ボロボロの盾、穂先が粉砕されただの棒と堕した槍、そして全身から血を流す男だった。


「ベトル! どうした!?」


「ちょっとまずってね……!!」


「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 バキバキメキメキ!!という森の木々を粉砕する轟音と共に、グルムの巨体が現れる。龍星の明かりがその巨顎を妖しく照らしていた。


「ッ、グルム……!!」


「不味いわ、これは完全に!!」


 エリィが苛立たしげに吐き捨てる。今までは触手顎と本体を分断して分担していたが、それは戦場を向こうのフィールドに落とさないためだ。だが、今その向こうのフィールドが完成してしまった。それに、エリィたちの消耗、あるいはダメージも蓄積している。これを不味い状況と言わずしてなんというのか。いや、絶体絶命と言うべきか。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


「「「「─────!!」」」」


 飢餓の王が雄叫び、それに呼応するごとく触手顎が叫ぶように震える。暗闇の霊脈龍山が、まるで噴火寸前となり震え上がっているようだった。


「これはもう、勝つとか倒すとかそういうのじゃない───────逃げるぞ!!!」


 カルラの言葉が言い切ると同時に、全ての触手顎から龍気が、滝のごとく光条として放たれた。ミニ【龍咆哮(ブレス)】といったところのそれが、三人に向けて放たれる。眩い閃光が即座に地面に着弾し、爆発を巻き起こした。土埃が夜闇の帳をさらに暗くし、お互いの姿が不可視になる。


「──今のうちだ!!」


 だが、その程度で足が止まるほど冒険者はヤワな精神性をしている訳では無い。むしろこの煙を好機と、三人は下山する方向へと走り出した。

 夜の林というあまりにも逃げるに適さない場所であるが、四の五の言っている余裕も理由もない。それに、もはや止まれない。


「────OOOOOOOOOOOO!!」


 なぜなら木をへし折り地面を抉り、追ってくるグルムがいるからだ。木々が邪魔をしてすぐに追いつかれることはないだろうが……いずれの時間の問題かもしれない。それに、こういう入り組んだ場所でも…………。


「───!!」


「来やがったな!!」


 当然のごとく触手顎が伸びてくる。龍気の砲弾は木々に遮られているので問題はないが、それよりも顎の本懐──つまり、文字通りに喰らいつく(・・・・・)ことを全うさせるつもりなのだろう。どうやって見ているのかは本当に謎だが、触手顎がエリィたちを追って伸びてくる。シュルシュルという音が不気味に背後から聞こえるのだ。


「チッ、振り切れない!!」


「一旦迎え撃つぞ!!」


「そうね!  華焔流────"花雷"!!」


 奇しくもエリィを追いかけていた触手顎はエリィが削ったアイツらしい。少し頭が削れたその顔で、エリィに喰らいつかんとガチガチと牙を鳴らしていた。そこに、レイピアの連打を浴びせる。弾ける雷電にたまらず触手顎は吹き飛び、エリィは再度振り向いて走り始める。隣にチラと目を向ければ、闇夜の森を華麗に舞うカルラとベトル。二人とも怪我の影響はそこまで無いようだった。……なにか違和感があるような。

 そして、その時だった。


「────O、OOO、OOOOOOOO!!」


「……ッ、冗談だろ!?」


 本体も追いかけてきていることを忘れてはならない。背後に感じ始めた、格の違う龍気の高まりに、あのカルラですらボヤいた。エリィも走りながら少し後ろを見て……すぐさま後悔した。


「はぁ!?」


「ヤバいヤバいヤバい、あれはダメでしょうよ……!!」


 だって仕方なく無いか?後ろに見えた視界では、まるで森全てを飲み込まんとグルムの胸の巨顎がかっ開いていて、そこに着々と龍気が溜め込まれているのだ。その様はまさに、噴火寸前の火口。エリィたちは咄嗟にその射線上を転がるように飛び出た。


「─────AAAAAAAAAAAA!!!」


 そしてグルムの雄叫びが引き金となり、【龍咆哮(ブレス)】が放たれる。刹那、無音が轟いた(・・・・・・)。いや、あまりの大音量と衝撃に、全ての聴覚が塗りつぶされたのだ。衝撃波が木々をなぎ倒し、龍気の光輝が直線上のもの全てを喰らい尽くす。もちろん避けたはずのエリィたちも余波だけで全身を叩かれ、身体ごと飛ばされる。


「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」


「このクソ龍がッ…………!!」


 何とか意識を寄り戻しながらエリィは痛みに声にならない呻きを、カルラはグルムに対しての悪罵の言葉を吐いた。身体全身が土で汚れ、木の根に深く当たったところはもう痛みという言葉で形容できるものではない。正直普通に殴られるよりもこういう地味なものの痛みの方がキツいまである。

 エリィは立ち上がって、レイピアを握り直す。こうして倒れている間にも、触手顎は迫るしグルムは腹を空かせている。


「ヤバ………」


 立ち上がったエリィの視界に入ってきたのは、ブスブスと焦げ付いたもの特有の煙と未だに白熱する木々の燃えカスたちだった。闇夜の帳のせいでよく見えないが、これと似たような光景が真っ直ぐに伸びているのだろう。辺りの焦げ臭い匂いがそれをエリィに容易に想像させてくる。


「UUUUUUUUUUU──────」


 そしてその開けた道を、ゆっくりと歩いてくるグルム。多少傷つけてでもいいから絶対に喰べようという鋼の意思で放たれた咆哮ということがよくわかる、飢餓の王の進軍だった。だが、なにかが引っかかる。

 と、二人も遅れてこちらに来る。ベトルは主となる装備がもうボロボロなので、予備の武器らしき簡素な短槍を持っていた。


「一旦また森の中に入ろう、さっきの一撃が連打できるわけが無いんだから」


「そうだな、森を破壊するってことは森が邪魔ってことだ」


 ベトルの提案にカルラも道理だと頷く。だが、エリィは消しようのない違和感を感じていた。まるで、なにか重要なことを忘れてしまっているようなソレ。グルムが特大の【龍咆哮(ブレス)】を放つ前から薄らと感じているソレが、やけに気になった。だが、個人的な感覚であるのは否定できない。二人に着いていくように、エリィもレイピアを構えつつ森に入る。


「「「─────!!」」」


「チ、もう来やがった」


 その後を追うように、触手顎は身体を震わせながら伸びてくる。お早い事だ。『暉餓龍』の執念深さを、再三感じる素早さである。三人はそれぞれ臨戦態勢を作る。


「いちいち迎え撃っているのも面倒だ! 【縛糸(ロックスレッド)】!!」


 ベトルの魔法が光る。即座に生み出されたのは太く、そして長い光の綱だ。それをブンブンと回転させて、迫る触手顎へと投げつける。べトルが操作することで、まるで蛇のように触手顎の首へとその光の綱が巻き付いた。さらに、べトルはその綱のもう片方の端を慣れた手つきでそこいらの木にくくりつける。


「───!?」


「しばらくおとなしく、してな!!」


 触手顎が動こうとすればするほど縄はピンと張り、その拘束を強める。これで触手顎の一本を無効化出来た。エリィとカルラにも触手顎が迫ってくるが、難なく刃を振るって処理する。もう何度目かもわからない、触手顎への対応は板についてきたと言えるだろう。慣れは毒にもなりうるが動作の効率化という面では薬になる、エリィは魔力を高めた。


「華焔流───"柳"!!」


 流麗な剣閃が触手顎を弾きとばす。カルラもバスタードソードを無造作に振り抜いて触手顎を切り裂くほどの勢いで弾いていた。これなら、追いかける触手顎は余裕だろう─────と、考えていた矢先だった。ぞっ、と肌が粟立つ。あることに気づいた。


 ──────────そうだ。()()()()()()()()()()()()


 刹那、地面を喰い破って現れた触手顎が、べトルの胴体に噛みついた。


「ッッ!?」


「──────!!」


 驚愕に目を見開く。噛みついた瞬間、べトルの身体が高速で引き戻された。触手顎が、縮んでいっているのだ。あまりの一瞬の出来事に、エリィもカルラも呆然とする。カルラに至っては、バスタードソードを取り落としそうになるほどだ。


「ッ、べ、べトル!!」


「─────ッ、前!!」


 生まれた隙を、触手顎は見逃さない。二本、エリィとカルラが弾いたアレらが、カルラを狙って一気に伸長する。カルラは狙われたことで冷静さを取り戻し、バスタードソードを構え直した。カルラの口元は引き結ばれる。


「【加速(アクセル)三倍(サー)……─────ッ!?」


 【加速(アクセル)】が、発動しなかった。魔力が、先程の三倍速(サーズ)で使い切ってしまったのか。カルラの口元に、絶望が浮かぶ。迫る二本の触手顎。ここから回避すれども、【加速(アクセル)】がなければ振り切れない。終わった、詰みだ。


「────────カルラ!!!」


 だが、エリィは咄嗟に身体が動いた。地面を駆け抜け、カルラの身体を突き飛ばす。カルラの絶望に染まる顔が横目に見えた気がした。右手のレイピアをがむしゃらに振るい、迫る触手顎の一本を吹き飛ばし────────


 がぶり。


 そして、触手顎が、エリィの左手を、喰いちぎったのだった。


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