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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
23/39

第23話 暉餓、強襲―②

 龍骨が切り裂いた腕から、鮮血が飛び散る。エリィは初めて、グルムが本物の生物らしい性質を持っているところを見た。初めての痛撃に、グルムは体を震わせる。


「AAAAAAAAAAAAAAA!?」


「るせぇよ!!」


 更にカルラが何度も地面を蹴って駆け抜ける。ソレに合わせてバスタードソードがグルムの体表を切り裂いていき、そのたびに血が飛び散っていく。グルムは体の周りをうろちょろとするカルラを捉えきることが出来ない。巨体を揺らして反撃を狙うも、苦し紛れだ。生傷を重ねに重ね、カルラは笑みをこぼした。


「オラアアアアアアアアアアアアッ!!」


 最後に大きく飛び上がり、胸の口に向かって全力の袈裟斬り。そしてその反動を使って、エリィたちが構える場所へと舞い戻ってきた。バスタードソードを肩に担いで、にやりと笑む。その龍骨を、エリィは叩いた。


「あ痛っ、何すんだよエリィ!」


「ったく、遅いのよ……バカルラ」


「バカルラ言うなって。悪かったよ、ちょっと腹の調子がな」


 腹の調子?悪食極まりないコイツが腹の調子を伺うなんてあるのだろうか……まあ、ツッコミはしないが。


「お喋りはいいけど……ちゃんと集中してくれないかな、二人とも」


「ああ、すみません」


「わりぃ、べトル」


 べトルにやんわりと怒られる。エリィとカルラのいつものやり取りに、毒気が抜かれてしまったのだろう。二人で軽く謝って、前を向いた。今も立ちはだかる、巨大で圧倒的な龍を、見据える。龍星の明かりを逆光に、聳え立つ〈六王龍〉を。


「UUUUUUUUUUUUUUUUUU………」


 暉餓龍は、グルムは低く唸っているだけだった。いや、違う。カルラが全身に刻んだ太刀傷たちが、まるで巻き戻すかのように塞がっていく。全身くまなく傷を付けたのに、それらすべてが、だ。その光景に、三人は驚きを隠せない。


「ハァ、再生能力!?」


「嘘だろ……!?」


「一番持たせちゃいけない奴に持たせてやがる……!!」


 こんな暴力的な龍に、回復能力まで持っているとは反則もいいところだろう。そうエリィは内心吐き捨てて、呆れのままにグルムを睨めつけた。そして、発見する。暗い夜闇の中だから、分かるものを。思わず自分の目を疑ってしまうほどの、反則を。


「…………いや、あれは再生じゃなさそうよ」


「どういうことだ? 現実逃避か?」


「バカは休み休み言いなさい。傷口をよく見ると、輝いているわよね」


「……確かに! ってことは……」


「龍気で傷を塞いでるだけ、完全に再生している訳じゃないわ」


「とはいえ傷を塞がれてることに変わりはねぇだろ、それ」


 そうなのだ。なんなら、ただ再生するよりもより悪質だと言える。カルラのような技術を持っていない限り、龍気は通常の鱗より硬い鎧。……グルムは攻撃されればされるほど、より硬く強靭な龍気を纏ってしまうということだ。有り体にいえば、通常の龍とあべこべになっているようなもの。通常の龍は龍気を削ればそれより柔らかい本体があるが、グルムは真逆。最初は柔らかいが、戦闘で傷が付けば付くほど固くなっていくということなのだ。


「攻撃したら龍気を纏うとか、面倒すぎんだろ……!?」


「さっきカルラが全身に傷をつけたから……ヤバい!!」


「A、A、GAAAAAAAAAAAAAA───!!」


 エリィたちが戦慄している間に、グルムが龍気での修復を終えた。薄く、傷口の部分が輝きを纏っている。耳を劈く雄叫びと共に、触手顎を発射した。鋭い牙が龍星の明かりで煌めく、凶悪な口が迫る。


「だー、つべこべ言ってる暇はねぇな! とにかく迎え撃つぞ!!【加速(アクセル):三倍速(サーズ)】!!」


「【纏雷(ボルトチャージ)】!!」


「あんまり効果があるとは思えないけど、一応ね……【縛糸(ロックスレッド)】」


 三人それぞれの魔力が弾ける。カルラの姿が輝きで覆われ、エリィの髪が静電気でふわりと広がる。べトルの左手に白く光る縄糸が巻き付き始めた。べトルの魔法は本邦初公開といったところだが、なるほど相性が良さそうだ。

 バスタードソードと、レイピアと、長槍。それぞれの得物を握りしめ、地面を蹴っ飛ばして走り出す。


「はああああああああああッ!!華焔流────"柳"!!」


 裂帛の声で、レイピアの流麗な一閃が触手顎の口の端を切り裂く。力任せではなく、相手の勢いと自分の勢いを利用することで硬い触手顎を切ることができるのだ。だが鮮血が飛び散っても触手顎は止まらない。そして一度通過した相手を見逃すほど甘くもない。空中でUターンし、エリィを背中から食らいつこうとする。


「させないよ!!」


 べトルの声が聞こえた。そして、背中を狙う触手顎の首あたりに光の糸が絡みついた。突然動きが止められ、触手顎はつんのめるように停止する。ミチミチと糸が肉に食い込む音が響き、糸は千切れるか心配になってしまう。


「背中は任せ─────ッ!!」


 べトルの言葉が言い切られる前に、触手顎が強く抵抗をし始めた。凄まじい力強さで、絡みつけられた糸ごとべトルの身体が引きずられる。縛りなど関係なく、引きずってでも喰らいつこうというグルムの執念が伺えた。しかし縛り付けているのはA級のべトル。ただではやられない。


「引きずられるのは承知の上さ!!葬槍流────"釘打ち"!!」


 逆に引っ張られる勢いを利用して、触手顎にべトルの長槍がぶち込まれた。衝撃が触手顎を弾き飛ばし、桃色の触手顎から鮮血が飛び散る。背中でべトルがやってくれると信頼していたエリィは、想定通りの動きに笑む。そして、眼前に迫っていたグルムの腕に、レイピアの切っ先を合わせる。


「一回やらかしたのよ、通じるわけがないわ!!華焔流───"蜂"!!」


 雷纏う一突きの連打。技名の通り蜂が集団で一つの獲物を突き刺し続けるような打突の嵐が、グルムの腕に連続直撃。龍気を纏わぬ腕だからこそ、電撃は効くはずだ。そしてその予想通り、グルムの腕が止まる。べトルが触手顎を抑え、エリィが耐久する。そして─────。


「オラオラオラァ!! その龍気の瘡蓋(・・)剥がして、食べ尽くしてやらァ!!」


 カルラが周りの木々を蹴飛ばして駆け回る。上下左右、縦横無尽にバスタードソードの刃が閃き、先程の光景のようにまたしても全身に刃の傷が刻まれていく。龍気での防御は、カルラに意味がないのだから。だが、今回は触手顎があった。三倍速のカルラに追いつかんと、三本の触手顎がぐんぐんと伸びていく。それに気づいたカルラは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ハッハ、追いかけっこなら得意だぜ!!」


 カルラがそう叫び残して、走り抜ける。それを三つの牙が絡み合うように追いかけていった。逃げる龍骨、追う龍顎。それは永遠に終わらぬ、いたちごっこじみていた。そして当然、縦横無尽に飛び跳ねまわるカルラを追いかけるために、グルムの注意はそちらに傾く。今もエリィが眼前にいると言うのに、割り当てられているのは大振りな手の攻撃だけだ。


「あらら、そっちに気が向いちゃうか……残念ね。じゃあ死になさい」


 ならば、エリィに情け容赦をかける理由はない。それに、暉餓龍にエリーナ・アイアタルを舐めた報いを、刻み込まねば満足できない。万全の一撃を放つために、身体を傾けつつレイピアを構え、息を整える。眼光鋭く、レイピアと並べばまさに切っ先二つ。電気が弾けるその刹那を合図に、ステップを踏み、エリィはレイピアを放つ。


「華焔流─────"八重芯錦牡丹(やえしんにしきぼたん)先紅光露(さきべにこうろ)"」


 凡人が放つ一突きの切っ先が、確かに六王龍(おう)に届いたのだった。だが。


「────────やられた、防がれたわ」


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