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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
18/40

第18話 第二次空腹期鎮圧部隊―④

「今更引けねぇからな」


「そっちこそ。おいエリィ! 審判頼む!」


「了解。私が止めるまでは何でもありでいいわね?」


「うん、ソレで頼む」


「じゃあ行くわよ、試合──────────開始!」


 エリィが腕を振り下ろす。それとほぼ同時に、べトルが地面を蹴った。二人の距離はおよそ五メートル強。槍の一突きでは少し足りない距離だ。それを、べトルは踏み込みで補うつもりなのだろう。べトルは左手の盾を牽制として突き出しながら、カルラへと迫る。カルラは不敵な笑みを浮かべつつ、魔力を起こして魔法の態勢だ。

 

「葬槍流──────"一周軌"」


 べトルがダン!!と右足で再度踏み込んで、槍をフルスイングする。遠心力と走る勢いを載せた長槍が、半円を描いきながらカルラへと襲いかかった。葬槍流の技の中でもリーチが特に広く、そしてあまり相手を深く傷つけない。先手としては十分な攻撃だ。だがまあ、それだけの時間があればカルラの魔法は完成してしまう。


「【加速(アクセル)半倍速(ハーフアップ)】」


 カルラの魔法名宣言と共に、その姿が高速で横に移動する。長槍の穂先は空を切り、べトルは槍を引き戻してカルラを睨めつけた。

 カルラはバスタードソードを構えながら走り、べトルへと肉薄する。流石のA級冒険者、カルラが加速していてもその攻撃を捉えることは造作もないようだ。盾で受け流している。


「べトルは葬槍流なのね」


「エリーナさん、葬槍流ってどんな流派なんですか? 槍術自体があまり聞き慣れないんですけど」


「ああ、そうね。学院だと剣術、やって格闘術くらいしか近接の武術はやらないものね……槍術は、基本的には杖術の発展形と言われるくらい、柄の部分が大事なのよ」


「それは……あれですか? 取り回すときに、長いから注意しないといけないみたいな」


「なんかちょっと違うわね。…………あれよ、あれ。棒って、ただ振り回すだけでもかなりの武器になるでしょう?だから、槍は穂先ばかりに注目されがちなんだけど、柄の部分も十分な武器になるって言う意味だと思うんだけど……」


 なんせエリィも詳しいというわけではないのだ。俄仕込みの知識と言われればそれまでだし、槍使いと戦った経験もない。机上の空論だけを汲み取って学んでいるにすぎないから。そういう意味では、今回の模擬戦はかなり興味深いものになるだろう。


 攻めれば防がれ、踏み込みめば躱される。一進一退、というよりは千日手じみた繰り返しの状況だった。二人の実力は拮抗している。まあそれは知らない人が見ればの話であり、エリィからすればカルラもべトルも本気でやっているようには全く見えない。

 まるで示し合わせたかのように二人とも手を────────ああ、そういうことか。エリィは軽く苦笑する。全くもって"食えない"A級冒険者だ。


「ハッ、口ぶりの割にじゃねぇか」


「その言葉、そっくりそのままお返しするぞ。A級に挑んでくるなんて無謀をする割に、面白みがないな」


「言ったなァ!!」


 カルラの放出する魔力が増える。それは、さらなる加速の紛れもない証左。バスタードソードの構えは、完全にべトルをロックオンしていた。


「【加速(アクセル)二倍速(トゥワイス)】!!」


 カルラが地面を蹴る。その速度は先程槍を避けたソレの比較にはならない。カルラとべトルとの距離が一瞬で食い尽くされた。バスタードソードが振り抜かれ、そのままべトルに叩きつけられる。べトルはなんとか左から盾を滑り込ませて、攻撃を弾く。鈍い金属音と衝撃がべトルを少し後退させるが、態勢を崩すまではいかない。

 カルラは再びバスタードソードを一閃する。今度こそ剣閃はべトルが滑り込ませた盾を弾き飛ばし、べトルの体を無防備なソレへと変える。


「くッ!!」


「ここだァ!!」


 カルラが踏み込み、加速された速度をもって超速の蹴りを放った。低い位置から繰り出された蹴りは、べトルの膝小僧をクリティカルに直撃した。無論膝への衝撃に人体は耐えることなどできない。べトルは地面に倒れ伏せ、その首筋に冷たい刃が突きつけられた。


「ッ…………」


「終わりだな」


「そこまで!模擬戦は─────カルラの勝利!!」


 エリィは声を張り上げて宣言する。いつの間にかオーディエンスも集まっていた。カルラが勝つとはまさか思っていなかったのだろう、静まり返っている。ナックも驚きに目を見開いているが、エリィは別に驚きはない。これが、べトルによる仕込みだと完全に理解しているからだ。


「これでわかったか……さっきの言葉、取り消してもらうぞ」


「…………ああ、俺が、悪かった」


 べトルは静かに俯く。そして、肩を震わせた。


「みんな……見てくれたか。俺は弱い。A級の肩書も、仲間が支えてくれて初めて得られたものだ……」


「ん………?」


「だが!龍を倒したい気持ちは俺も一緒だ!俺を、支えてくれるか!?弱いA級の俺と、一緒に戦ってくれるか!」


 ざわつきが、一瞬収まる。まるで、爆弾が爆発寸前に刹那静まり返るような、ソレの直後。オーディエンスが爆発した。


「ええ、もちろん!!」


「そうだな!ランクなんて関係ねぇ!!」


「龍退治、行くぞぉぉぉぉぉぉッ!!」


「やってやらァ!!」


 呆然としているカルラの肩を叩いて、エリィは笑む。カルラはバスタードソードを再び背負い込み、エリィの方を見た。


「やられたわね」


「なんでこんなことになってんだ? いや、明らかに手を抜いてるのはわかったから俺もある程度手ェ抜いて戦ってたけどよ……」


「利用させてもらったよ、カルラくん」


 喋っているエリィとカルラの方に、べトルが近づいていた。その顔に浮かんでいる笑みは全く敵意がなく、カルラと言い争いをしていたとは思えないほど柔和だった。


「べトル……さん」


「あはは、敬称はいらないさ」


「じゃあべトル、全部計算ずくだったのか?」


「そうだね。俺の持論なんだが……弱点のないリーダーは不信感を覚えられがちなんだ。それに俺はA級。ここにいるみんなより立場が上だから、畏まられても困るだろう?」


 そう言って笑うべトル。なかなか食えない性格をしている。


「組み上げたばっかりの組織は目的意識と人間味のあるリーダーがなければ直ぐに瓦解するからね。そこで、新人二人の実力を見るついでに一芝居売ったのさ」


「なるほどな……俺に断ってくれよ」


「そうじゃ君も本気を出さないだろう? ま、本気でやってはなさそうだしこの目論見は失敗したんだけどね」


そのまま彼は、「それじゃあ本番は本気でよろしく頼むよ、理想家クン」と残して、組合の訓練場を去っていった。カルラは再び呆然と、彼の背中を見送るしかなかった。


「なあエリィ。べトルとかいう野郎の顔、ぶん殴っても許されるよな?」


「多分ソレをやったら貴方が悪者になるわよ。べトル、相当に頭がキレるから普通に罪を擦り付けられると思うわ」


「だー、そうだよなぁ……モヤモヤするけど、コイツは龍にぶつけるしかねぇか」


 エリィは、少し不安になる。べトルは一芝居売ったと言ったが、あの指摘の言葉は嘘だったのか。エリィは、違う気がしている。彼が言った現実論のとおり、彼自身の理想が彼を刺す楔へと至るのではないか。


「エリィ? おーい、エリィ?」


「……………ああ、ごめん。ちょっと考え事」


「シャンとしてくれよな。エリィがしっかりしてくれたら、俺が楽だから」


「あのねぇ、私は貴方を楽にする道具じゃないんだけど?」


「ジョークだよ、ジョーク。ドラゴンジョーク」


 カルラが笑う。その笑顔が、妙に不安に映るのだった。

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