第七十六話 吹雪と絶対零度
ニヒツがアグリオス、シグルードらと戦闘を繰り広げる中、ハットもまた…
「うぉぉぉらぁぁぁ!!!」
ガルズガンドと一戦を交えていた。
(強烈な吹雪、竜巻のように荒々しい風と氷のコントラスト、本来の魔力量や性質では当然俺の方が上。しかしこの旦那…)
魔法は精神力を種に成長し、その姿を形成する。
だから、戦闘中に感じる怒りや悲しみが原動力となり、その爆発力を支える事が稀に存在する。
しかしそれは軽い、怒りや悲しみの度合いでは無く、まるで親の仇のような凄まじい憎しみに似た感情にこそ宿る稀な奇跡。
それが今、ハットの身に起こっていると、ガルズガンドは確信した。
(それにしても上昇率が異常だ、普通じゃない…まさか帽子の旦那!。)
それをかみしても、ハットの異様な強さの原因がわからない。
平常時では考えられない精神状態が引き起こした、奇跡とも言える威力と、荒々しい嵐のような魔力の性質をかみしてすら…それでもやはりこの状況には説明が付かない。
そんなことを考えていた時、ガルズガンドの中で一つの結論が出た。
「帽子の旦那、もしやあんた…”闇”の才能があるのでは?」
闇、それは心の奥の奥、根源の部分に眠る感情。
例を挙げれば、同じ炎の性質を持つ性格でも、情熱の炎と怒りの炎は似て非なる者。
前者は光の感情から、後者は”闇”の感情から引き起こされる。
そして、もし今ハットが怒りによってその氷の力を覚醒させたのであれば…
「旦那…あんたにそんな小奇麗な氷は似合わない…」
「黙れ!」
「あんたにはそう…”闇氷”がお似合いですぜ…。」
闇氷、その名の通り闇の氷、よく言う闇の炎の氷バージョンのようなもの。
通常の氷との違いは、その威力である。
そもそも闇は、光より遥かに簡単に力を手に入れられる代償に…使い続けるとその心を虫食む禁忌の力。
しかし誰もが心の奥底に持つが故に、堕落し落ちてしまうものが現在でも後を絶たない。
しかしその中にも、闇に向いている者とそうでない者の違いはあって…ハットは案の定、その性格気質的に闇への才能が強かったのだ。
【さぁー…こちらへ来なさい…】
ガルズガンドは蛇のように喉を震わせ、声は悪魔のような低音でハットを闇へと誘惑する。
しかし…
「黙れって言ってるのが聞こえないのか?お前は姉さんを奪った!僕は姉さんを護るために存在し、生きている。…護れないならもう…僕はいらない…」
ガルズガンドは、さらにその回転力を増すハットに対し凄まじい違和感を覚える。
よく言う、”嫌な予感”と言う奴がガルズガンドの全身を駆け巡る。
(帽子の旦那!まさか、”命を賭けたリスクとリターンを!!!”)
それは召喚術の応用、契約魔法。
自信に”リスク”と言う重い枷を貸すことで、”リターン”と言う強い見返りを要求する術。
そのリスクに…
「”もうここで…終わってもいい…”」
自信の命を賭けようと言うのだ。
「ダメだ!それはいけないぜ旦那!」
ガルズガンド、本日初めて人の命を気遣い焦る。
なぜなら、せっかく見つけた闇にの強い才覚を持つ存在をみすみす逃したくはなかったからだ。
(こいつを組織に売っぱらへば、”お父様”もお喜びになるだろう…)
その真意はわからない、しかしガルズガンドには確かに何らかの下心があって、組織おそらくは”ナンバーズ”に、ハットの身を売り渡そうとしているのだ。
(だから悪いが旦那!)
「”氷山”」
(少し、痛むぜ…)
ガルズガンドは突如、自爆特攻に近い行動をしようとするハットの真横に自身の肉体中の蛇の一匹を向かわせ氷でその肉体を形成し、そしてハットが気づいたその一瞬で…
(山?)
一瞬で、その分身の手から、巨大な氷の山を作らせその質量でハットを押しつぶす事に決めた。
(残念ながら帽子の旦那は、”絶対零度の耐性力”で、俺の氷が一切効かない。しかし、形状によって造形された超大質量の氷の山なら、属性関係なく押しつぶせる。)
ハットは今、凄まじい回転の影響でその場から動こうにもすぐには回転を止められない。
つまり、この一瞬で作られた振って来る山を避けるすべがハットには無い。
「安心してくだせぇー帽子の旦那、質量はデカいですが所詮は氷、”多分”…死にません。」
ガルズガンドは不穏な言葉を残し、ハットをその質量で押しつぶした。
かに思われた…
「悪いなハット、”タイマン”の邪魔しちまって…」
そこに現れたのは、青いモヒカン頭の炎を纏った男…
「ブルーノ!」
「あの女のためと思うと尺に障るが…一応”好敵手”だったしな…こっから全開バリバリで加勢していくんで!夜露死苦ぅぅぅ!!!」
「…助かります…」
「だから死ぬなよ…ハット…」
「はい!!!」
ハットはブルーノ登場と、その言葉によって自身の考えを改め、命のリスクをやめる事を決断した。
「シャーシャッシャ!そんじょそこらの炎じゃねぇ…”絶対熱”か…」
この場において、ガルズガンドの放つ冷気に耐え戦う事が出来るメンバーは非常に限られている。
なんせ相手は一撃で国一つを一瞬で凍結させる化け物、しかも温度は絶対零度で大抵の生物なら一撃で死に至る。
しかしこの場でに置いて、既に消えたがリップには吸収の魔力と天使族の調和の力がある。
ハットには魔法使いが自身の魔法に耐えるための耐性力の中でも最高位の”絶対零度の耐性力”が、そしてブルーノには…
能力による体温上昇の最大値、”絶対熱”の実現と、その耐性力が存在した。
「ワシの魔法”蓮撃”、攻撃を当てれば当てるほど全身の体温を上昇させ純粋なパワーと共に炎の火力を上げる魔法がある。お前のお仲間と戦った時、十分にあっためさせてもらったぜ”ブラザー”。」
二人が共闘した、本来的チームで全く正反対の力と性格の二人がこの時初めて協力した、強大な敵に立ち向かうため、絶対熱を纏うボクサーと、絶対零度を迎え撃つ吹雪を纏ったフィギアスケーターが二つの正反対の魔力を重ねてこの日共闘をしたのだ。
「はぁ~、めんどくさい、めんどくさい、本当にめんどくさい…早くお家に帰って姉貴の膝の上でやすらかに眠りたい…」
それと同時に、明らかにガルズガンドの雰囲気が一変した。
先ほどまで、うざいほどに余裕の笑みを見せていたガルズガンドの表情から、笑みが消えた。
喋りがどこか重くなった、心なしか”めんどくさい”と言う言葉が増えて行った、そしてどんどんどん弱音を吐くようになっていった。
「あぁーあぁーあぁぁぁぁ!!!…最悪だぁぁぁ!!!…誰かに任せて帰りたい…フラウト~アグリオスぅ~…」
「なんだこいつ!」
「おい!こっちが構えてのに、なになめた態度とっとちょくかぁ!このアホんだぁ!」
二人の熱意、その突進を迎え打とうと言うのに、その相手の言動がどこかおかしい。
周囲の氷もいつの間にか消えている、纏っていたはずのあの強大な魔力がそこに存在しない…
「ちぇ!しらけちまったぜ。」
「ブルーノの兄貴、今はある意味チャンスなのでは?」
「なに!この俺に不意打ちしろと言ちょるのか!我ぇ!」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう、もう仲間も何人もやられて、僕らの町も壊されている。それに相手は今だ底のしれない魔力の持ち主…」
ハットの言う事は正しかった、確かに先ほどまでガルズガンドが纏っていた絶対零度の魔力の渦は消えた。
しかも相手は狼狽え、弱音を吐いて、泣きじゃくり、頭を抱えてその場でもがき苦しむように何かを思考し、かっとうしてる。
「確かに…やるか…」
「やりましょう!」
二人は仕切り直すようにして気合を入れ、その力が尽きる限界まで魔力を引き出し正反対のその力二つを背中合わせに纏い、意図してか意図せずかそれを混ぜ合わせて新たな力を生み出す。
それはさながら”核融合”を思わせるほど強大な、青と赤の二色が螺旋のように交わる最大の一撃。
「「これでとどめ!!!」」
二人が同時、全くの同時に言い放ったその技の名を…
「「合対技!螺旋氷劇蓮武!!!」
それは合わさることの無い色、しかしどちらかを打ち消す事もない不完全な魔力の塊。
しかし故に荒々しいままに、ハットの持つ回転力とブルーノの火力が合わさってとてつもない奥義へと昇華している。
「寒いか熱か…今のテメェはどっちだよぉ…蛇野郎…」
直撃、それはガルズガンドに直撃した。
彼は避けもせず、考え込んだままその一撃に貫かれ瀕死…
「痛い…」
吹き飛ばされ、瓦礫に潰されそれでもまだみじめったらしく生きて、涙を流してそう言った。
「本当にこいつどうしちまったんだ?」
「さぁー…でも、こいつを生かしておくつもりはない…」
「それもそうだな、騎士団でもあるまいし…」
彼らは当然騎士団ではない、が故に行かして情報を吐かせたり、牢に入れる事はせず殺す。
マフィアなら違ったかもしれないが、下町のただのギャング二人の判断としてはこれが正しい。
「静けさとは…停滞…静止を振り切る馬車を襲う氷柱の雨…」
二人がとどめを刺そう構える直後、瀕死のガルズガンドが誰にも聞こえない小さな声で呟き始めた遺言。
「なんだ?気でも触れたか?」
「まずいですよ、ブルーノの兄貴…」
「なにが?」
「こいつ…”詠唱”してます。」
それは、誰のための詠唱か、詠唱とは世界に言霊でその性質や形を伝え、その魔法より無駄なく確実に作り出す技。
故に、普通詠唱は、誰にでも聞こえるほどに大きな声でやるもの…小声でやる意味は全くない…
”自分に祈る時以外は…”
「貫かれた馬は串刺しとなり、凍れる大地に眠るだろう、その死骸をもサボり喰うは我ら…」
「おい!やめろ!その詠唱をさっさと止めろぉぉぉ!!!」
「なにやってんだハット、止めるなら簡単な方法がある。」
そいう言ってブルーノは不用意にも、その首に触れて、持ち上げ、締め上げ、殺す事にした。
「最後の警告だ…や・め・ろ…」
「”蛇”」
最後の立った一言、聞き逃してもおかしくないその言葉を、緊張走るブルーノの耳は聞きのがさなったか。
しかし…
「なんだこれ!気持ちわりぃ…」
首を締め上げた直後、ガルズガンドの全身が小さな蛇となって周囲に霧散する。
「ボケが!ワシがなんの対策もなしにお前に触れたと思うのか?」
突如、蛇は燃え始めた。
「ワシはあらかじめ、お前に触れた時点でお前の全身、全細胞に炎皮膚を纏わせておいた。そいつは起爆式、ワシが首を締め上げるのを合図に起動する。」
「罠でやしょう、器用な真似ができたんですね。本当にめんどくさい…」
それは、背後から聞こえた。
「ブルーノさん!後ろだぁ!」
「なに!」
ブルーノが後ろを振り返る直後、背後にいたのは全長500Kmほどの戸愚呂を巻いた巨大な氷の大蛇の姿であった。
【全細胞と言ったが、それは俺の”偽物”の話か?旦那…】
「お前こそ…マジでめんどくせぇー…」
二人はその大蛇が仕掛けてくる尻尾による攻撃をとっさによけ、ハットは皮膚に氷を作り滑り、ブルーノは全力で地面を駆けて注意を引く。
「こっちだこっち!お尻ぺんぺん!」
【そうでやすか、なら…】
直後、ガルズガンドが放った絶対零度の息吹きに襲われるブルーノ…
「バカかテメェ!俺は絶対熱を纏ってるだぜ、そんなもん聞くわけ…」
【そうでね、でももう時間切れだろ?】
ガルズガンドそう言うと、直後にブルーノ纏っていた炎が消える。
「あ!やべ、魔力切れ忘れちってた…」
【本当に愚か…】
「うるせぇ!それに結局、俺はまだ凍ってねぇーし!」
【でもどうやって逃げるつもり?】
「そんなもん気合で…」
ガルズガンドの先ほど息吹での習いは、ブルーノ本体を凍らせることではない。
「痛って!」
ブルーノがぶつかったそれ、それこそが狙いだった。
「氷の…壁?」
【はい!ゲームオーバ~…】
そしてブルーノは一瞬で、凍り付き戦闘不能。
「ブルーノの兄貴!」
【帽子の旦那、前…見た方がいいぜ…】
「なに!」
その皮膚を滑っていたハットは、蛇が自身の巨体を揺らした事で空中に投げ出され。
【締付】
「うあぁぁあ!!!」
空中に投げ出された隙に、一瞬にして戸愚呂に巻かれ圧死直前で気絶。
【シャーシャッシャ…あんたは面白いから、殺さないでやるよ。お友達は別だけど…】
ガルズガンドは気絶したハットを瓦礫の方に投げた後、凍り付いたブルーノに近づき…
【さようなら】
氷ついて脆くなったブルーノを叩き潰そうと、尻尾を天高く上げて振り下ろす。
「”熱光線”」
しかし、その尻尾を一瞬で溶かし、ガルズガンドを悶え苦しめさせた謎の赤いビームが、聞きなれない女の声と共に放たれた。
【なぜお前が…ここに!】
その身を、真っ赤な最新鋭のスーツに身を包んだ赤い騎士の名を…
【商国最強!王の五剣、赤騎士・戦線狂乱の戦乙女…”ラモラス・ランサドール”…】
何と、事件前から消息不明だった王の五剣の彼女が、突如登場。
「ちょっとちょっと!あたいもいるんですけど!。」
その背後から、死んだはずのリップも参戦し…これは一体…
【何をした!赤騎士ぃぃぃ!!!】
「わらわは何もしておらん、やったのはあやつじゃ、恨むなら彼女だけにしてくれるか?」
「ちょっと!あんなわけのわからない、異空間から出してやった恩人に!その態度はないだろうがよぉ!」
【出した?】
”出した”とくれば”どうやって?”と言う疑問がくるのがつねである、故にガルズガンドは尻尾を溶かされた痛みも忘れ、その疑問をリップに問いかけた。
「あたいの”幻想魔法”、略奪皇女の能力は、”対象の幻想世界の権限の奪取”、あんたのそのルーンとか言う奴で作ったあの異空間、構造が幻想世界と同じだったから、奪ってやったわ。」
そう語るリップの手には、ᛜ(イングス)の紋様が浮かんでいた。
【そんな…バカげた魔力…】
「魔力っては、本人の性格適正から生み出される力、そんであたいの性格適正は、”あんたのものはあたいのもの、あたいのものはあたいのもの”だから、相手の思い描く世界事奪い取るなんて言うバカげた魔力が産み落ちちまったのさ。」
ガルズガンドは軽く引いていた、そんな図太い”ジャイアン理論”心の根源から掲げるような奴が、清く正しい天使の末裔だと言う事実に…
「で!悪いけどさ、このバカも、そこの馬鹿も、どっちもあたいの大事なもんなんだ…壊させやしないよ、当然この街もね。」
【世界を取ったぐらいで、調子に乗るなよ小童が!】
しかしガルズガンドは内心、とても焦っていた。
(相手はあの王の五剣と天翼族の末裔、あぁ~面倒だ面倒だ!本当に面倒くさいぃ~)
これが街を飲み込む大蛇の心境だとは、誰も想像しないだろう。
「御取込中わるいが…」
しかし、ガルズガンドの焦りも虚しく…
「超熱光線」
巨蛇、ガルズガンドの頭が、このあらゆる分野にて最強跋扈するこの地で、真に最強と認められたこの赤い鎧の騎士によって。
一撃の元に、溶かし殺された。
「うわぁ~流石にワンパンは予想外だわ~」
その光景に、少し引いているリップであった。




