第七十五話 運命を捻じ曲げる者
その頃、闇市場跡地で戦闘中のニヒツとカポネは、黄金の骨が丸出しとなったアグリオスの前に立ち、最後の死にざまを見届けていた。
「ヨクゾ…ココマデ…」
まるでロボットのようなカタコトの低音、ここまでの不死性を考えて、ニヒツとカポネはある結論に至る…
「「ロボット!」」
「ゴメイトウ…セッシャ、アグリオス・O・フレデリック…Oは「オートマタ」のOだ…」
”オートマタ”、それはニヒツ達の知る限りのそれではない、つづりからして異なっているからその事実は明白だ。
「オートマタって…何ですか?」
「ナンダト?…ソチラノ世界ニモアルダロウ…”機械人形”サ…」
「オートマタの頭文字は”A”よ、それに…言っちゃあれだけど、あなたほど”化け物”ではないわ…」
「ソウダナ…流石ニゴマカシハキカンカ…ソウダ我々ハ…」
「喋り過ぎっすよ、アグリオス様。」
アグリオスの正体を問い詰めていると、背後から緑の髪の小柄な少女が現れる。
「”シグルーン”…”姉妹達”と共に消えてないと言うことは、もしやそなた本物か?」
「それ以外にあるんすか?、てか…アグリオス様こそ、その体は?」
「少し戯れが過ぎてな、直してもらえるか?」
「必要ないっしょ、どうせ因果を断つ炎の剣が…」
シグルーンがそう返すと、アグリオスはそんな力がどこに残っていたのかと思うほど恐ろしい殺気で、シグルーンを脅し、自身を直させようとする。
「あぁ~そう言うことっすね、了解でぇーす。」
それは一瞬の出来事だった…
「がぁ!」
彼女がアグリオスに”右手”をかざし、ニヒツに”左手”をかざした瞬間…
「ニヒツちゃん!どうしたの!」
アグリオスの全身のダメージが、ニヒツの方へ転移したのだ。
「何をしたの!あなたいったい!」
「そうすね…解説した所で、どうせどうにもできないんで、一応じぶんの能力話しときますね。」
そして、この怪奇現象とも言えるほどに得体のしれない異変に、彼女は答える…
「じぶんの能力は…”運命操作”。じぶん、もしくは指定した誰かに降りかかった現実を他人に押し付ける能力っす。例えば、じぶんが相手と戦って何らかのダメージを受けた場合、じぶんはノーダメで攻撃した相手がダメージを受ける。これは自傷行為をしたとしても、そのダメージと言う現実は相手に降りかかる。ちな、他人に向ける場合は”右手”が現実を押し付ける側で、左手が現実を押し付けられる側になります。」
それが、彼女の語った内容の全てである。
要するに、”自身の身に受けたあらゆるダメージや不幸を全て相手に押し付ける”と言う、後出しジャンケンもビックリの凶悪な能力である。
「そんな…それじゃ、ニヒツちゃんは色男の瀕死の重傷を全身に受けて!」
「はい、多分100死んでるっすね。彼がただの人間なら…」
シグルーンの言う事が事実なら、ほぼ不死身と言える機械人形のアグリオスが骨をむき出しにし瀕死になるほどのダメージをその身に受ければ、ただの生身の人間であるニヒツの命は、確実にないだろう。
「で?これからどうします、アグリオス様。」
シグルーンが指示を仰いだアグリオスは、皮肉にも骨どころかその身一つ汚れのない、全くの無傷の状態に早変わりだった。
「全く…冗談は良子ちゃんよ…」
「残念だったな、アル・カポネよ。そなたとの”決着”がこんな形になってしまって…」
「いいわ、男とのお別れは慣れてるから…後はあの子達に…」
ついに、裏社会最強の三人、タトゥー、ドン・フェル、カポネの最後の砦が…
「みんな…ごめんね…」
その膝をつき、人生初の明確な”敗北”を認めたのだった。
「おっと、それは困るだよ。うちの”ママ”がいなくなっちゃぁー美味い酒が飲めなくなる。」
「誰っすか?あんた…」
そこに現れた一人の占い師、彼女の名は…
「”ベノ・ヴァイパー”、ただのしがない占い師だよ…」
「ベノちゃん…」
前回の裏カジノで、ビリーと共にカポネのバーにいたあの占い師の女である。
「感動の再開はいいっすけど、邪魔何でどっか行っててもらっていいっすか?」
「断ると言ったら…」
先に仕掛けたのはシグルーン、周囲の運命を操作し、瓦礫が頭上に落ちて来るように改変した。
「シグルーン殿、殺すのは良いが、気を付けたまへ。あの女子、妙な道具を持っておるでござんす…。」
「道具?…」
それは、いつもヴァイパーが手に抱えている”水晶”の事。
アグリオスは何かは分からないが、その異変に気が付き、シグルーンもまた遅れてその正体に気が付く。
「あれは!!!」
「《捻じ曲げろ!》”運命の石”」
それは、”傲慢”の具現化、それは”知識”への好奇心、そんな感情から神の木の下にかつて国をなした”天人族”、その精鋭部隊だった”ガーディアン一族”の鍛冶と薬学の神、”ディアン・ケヒト”が作りし”人工の神の目”。
その力は、世界の未来を見通し、そして…”その運命を思うがままに捻じ曲げる事”。
(ダン!)
シグルーンのカポネに押し付けた瓦礫の下敷きになって”死ぬ”と言う運命と、ヴァイパーが押し付けたアグリオスとシグルーンが瓦礫の下敷きになる運命…
「やりますね…」
「あなたこそ…」
二人が押し付け合った運命の押し合いにより、瓦礫は”事象の狭間”に挟まれ粉々になって消滅。
「ニヒツくん、大丈夫だよ。今…」
次にヴァイパーが仕掛けたのは、ニヒツがアグリオスから押し付けられた瀕死の運命。
(バーン!)
次はさっきよりデカい爆発で、辺りが爆発により崩壊。
「これは…いったい…」
「わからぬか、”運命の押し付け合い”をしているのでござんすよ、彼女達は…」
「運命の…押し付け合い?」
ヴァイパーが再び何らかの方法でシグルーンに死の運命を押し付ける、しかしシグルーンもすかさずその運命をヴァイパーへ、それが無理ならほかの誰かへ…
しかし決着はつかず、案の定、死と言う運命は不幸にも周りの建物に飛び火し、コンクリートの建物がいくつも倒壊。
これはまさに、手も足も武器も使わない”念じ会い”。
二人のどちらかが力尽きるか、どちらかの集中が途切れるまで続く運命のイタチごっこ。
しかし最初にばてたのは…
「やはり…あーしの方が先か…」
ヴァイパーはその場に膝をつき、胸を抑える。
「悪いっすね、運命の石はこっちでも有名でしてね。なんでも思うがままに運命を捻じ曲げ現実を歪める夢のような神の宝具。しかし残念っすね、その弱点もこっちじゃ有名っすよ。」
「弱…点?…」
「”身体との同化”っす…」
それは衝撃の一言だった、”身体との同化”、言葉の意味は定かではないが、それはとても恐ろしい事であることは彼女の表情から見て取れた。
「その石は運命を捻じ曲げる…いや、”願いを叶えれば”叶えるほど、その身に溶け込み”融合”してしまうんっすよ。最終的に心臓にいたると、水晶は血も骨も肉も魔力も…全てをその中に吸収し水晶と完全に一体になるっす。つまりは使用者自身が水晶になる。」
「そんな!そんな危険な力を!どうして…」
ニヒツは疑問だった、彼女がこの力普段、どのように使っているか知っているから。
「なんでそんなリスク知ってて、占い師やってたのかって?そんなの…今更…」
「今更なわけないじゃないですか!大事な体何ですよ!」
「あーしはその大事な体を”男”に売って!日銭を稼いでた元売春婦!…今さら命の一つや二つ…おしくもなんともないんだよ…」
それはヴァイパーの覚悟、ずっとしていた…恩人の忘れ形見であるビリーを護るために…
「ごめんね、ニヒツくん…あーし、あんたの師匠に借金の運命を押し付けて逃げようとした…」
ニヒツはその時、裏カジノでの状況をやっと理解できた、ドクターさんが言っていた言葉の意味も…
「別れの言葉は、もう終わりでいいっすか?いいっすよねぇー…じゃぁ…」
放たれたのは一発の銃声、それは脳天に風穴を開けられ死ぬと言う運命…
「隙…見せただよね。」
しかし、先に仕掛けたのは今か今かと構えていたシグルーンではなくヴァイパー。
「運命の押し付け合いは、何もくだらない戯言の言い合いじゃない。気を抜いたりして、隙を見せてはいけない”早打ち勝負”…」
シグルーンは確かにヴァイパーより優れていた、能力だけなら無制限に使える彼女は確かに優れていたが…
「技術で…勝ったのね。流石は勝負師の子を育てて来ただけはあるは…」
カポネが彼女を賞賛する中、脳を貫かれ寝そべる彼女の死体を見下げるアグリオス。
「無様だな、起こしてやろうか…」
「…」
当然死体は返事を返さないが、アグリオスがその手を天高く掲げ広げるとその手元に飛んできた一本の剣。
「因果を断つ炎の剣」
その炎の吹き出る剣が、炎陣を描き…
「”断ち切れ”…」
シグルーンの死体に、その心臓に剣を突き刺した。
「刹那…」
その瞬間、あったはずの時が切り取られなかった事になった。
それは因果の改ざん、事実を無に帰す万能の刃。
「うっしょ!それじゃぁー撃ちますよ。」
その刃の一太刀の直後、何事もなかったかように平然と無傷で立っているシグルーンが勝ちを確信し息を落ち着けているヴァイパーの脳天に風穴を開けた。
(ドサ!)
ヴァイパーはその場に倒れた。
「ヴァイパーさぁぁぁ!!!ん…」
理解不能の現実、捻じ曲げられた歴史、ニヒツは叫ぶ、彼女のあまりに理不尽な死にざまに…
寄り添い、また叫ぶ。
「あんたたち…よ”ぐ”も”…」
怒りだ、魔法は死んでも怒りでその身を再び真っ赤にもやし襲い掛かるカポネ。
「悪い、もう…」
しかし、先ほどまでとは一変してアグリオスは余裕の表情でカポネを迎え撃つどころか微動駄にすることすらせず…
「”斬った”…」
身動き一つとらず、カポネを切り裂いた。
(どうして!剣は抜いてない、それに…手を動かしてすらいないのに!まさかシグルーンさんがぁ!?)
「違うそ赤き瞳の少年よ、今のは確かに拙者が斬った。その証拠にほれ…」
アグリオスが地面に指を指す、するとニヒツは一つの異変に気が付く。
「”移動している”…かすかだがアグリオスの位置が…確かに変わっている!!!」
予備動作どころか、一切行動を見せず感じさせず…まるでずっとそこに置物のように止まっていたかのような体勢で…
しかし現実問題確かに位置は移動している、さながら作画崩壊したアニメの走るシーンのようにスライドしたのかと錯覚するほどに全くの動作なく位置だけが…動いている。
「不動の時間!…それは、物体が空間が次元が…蠢き、動き、動作する前の時が止まった世界。それに私の剣は因果律、つまりは世界を動かす時計の針に干渉することでその過去の出来事を無かった事にし、その時間で起きた事実を消し去る…」
「それとこれと何の関係が!」
「わからぬでござんすか?赤き瞳の少年よ…」
「は?」
「拙者は本来”光速”などと言う”粒子”程度が構成する世界では到底行きたつことのできない、時間の間を切断し、その切断した時間で行動しているのでござんす。」
それはすなわち、理想→行動→結果のアルゴリズムの内の、未来に起きる”行動”の部分を切り裂き結果だけを起こさせる技。
これすなわち…
「”因果切断”」
因果を消失させれば、あった事が無かった事に、速度は消失し、結果だけが現実になる。
その相方はダメージを反射し、好き勝手に運命を押し付けて来る。
残るニヒツに勝ち目はないかに思われた…
「それでも…僕は…」
ニヒツの体は震えていた、それは恐怖からではない…
((!!!))
その直後、ニヒツから放たれる凄まじい殺気により二人はその力の片鱗を自覚する。
「これは…」
「アグリオス様、あり得ないっすよね、こんな事!」
二人がおののくのも無理はない、なんせニヒツの体には既に消失していた魔力…
あの一撃で、完全に出し切って底をついたはずのニヒツの魔力が…
「「上昇している!!!」」
何と驚くべきか、産まれながらにして決まった魔力量を越え…使い切ったはずのニヒツの魔力が上昇している。
それは魔法学的に絶対ありえない現象だった、しかもニヒツはあろう事か本来の魔力212から大きく外れ…
「10万…5千…」
魔力量たったの200代が何と存在が天文学的確率とも言われる万単位にまで膨れ上がっている。
(魔眼に割いていた魔力が戻った!しかし、マガンは光を失うどころか…)
その星は先ほどまでは一芒星、発行する不思議な目程度の見た目が今では…
(凄まじい炎にも見えるほど荒々しく猛々しい光を放ち、その奥に…)
「ニ芒星…」
アグリオスはその光の光量から現在のニヒツの魔力量を想定、その数値なんと…
(25万はくだらんぞ…)
だとすれば、魔力量22万のアグリオスを上回る力をこの一瞬で、なんの前ぶれもなく得たことになる。
「わかったぞ!」
「何がっすか!?」
そして、その受け止めがたい事実に、アグリオスは一つの結論を見出す。
「ニヒツ・トリビライザの…否!D・E・Mの!…その力の封印が解かれつつある…と言うことだ…と思う…」
これは二人にとっては思わぬピンチだったが、二人には無制限に振るえる運命操作と魔力とは関係のない因果の剣の力がある。
(幸い開放されている魔力は10万そこいら…魔力の押し合いでも最悪勝ち越せる!)
「この勝負…」
アグリオスはその剣がありながら、わざわざそれでもなお警戒して、抜刀の体勢を取り勢いよく踏み込んで…
「”勝ったぁぁぁ!!!”」
「会心の…」
その直後、アグリオスは確かに斬りかかった…
「ふっ!他愛ない…」
「一撃…」
ニヒツの声が、その耳に聞こえ、気のせいかと思い驚きつつ背後を見た瞬間。
「なぜ…死んでいない…」
「手元を見てはどうですか?」
アグリオスは、ニヒツの言葉に従いその手を見るとそこには…
「剣が…折れている…」
ニヒツは二度目の会心を打ったのだ、”上昇した魔力で”…
「あぁーこれじゃぁもう、会心でも何でもないですね。それじゃぁーこうしましょう…”渾身の一撃”…今のは”二段”です。」
アグリオスはとっさに自身の金色の船から武器を呼び寄せようとする…
「ダメですよ…」
それは一瞬、アグリオスの間合いに一瞬で入った、速度にして音速、しかしニヒツの目にはあるものが見えていた。
(こいつ…速度にすれば他愛ないただの音速…でも…)
覚醒したニヒツに見えている景色とは、そして新に宿った力とは…




