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第七十四話 黒の竜巻と緑の台風

その頃、病室でいまだ目覚めぬシロムの前に新たな刺客が迫っていた。


「やれやれ、それ以上近づいたら後悔するぜ。あんちゃん…」

「関係ないねぇ~、僕らんの方が強いしぃ~」


それは、戦場から遠く離れたとある船の中。


商国政府は、ガルズガンドの攻撃による被害規模をかみして、天空都市の地下に設備された救護船に乗せて市民達を逃がす決断をした。


「あ"〜」


その中には当然、瀕死状態のシロムも匿われており、シロムを守るように側にはセイラとタトゥーが見張っていた。


そこへ…


「止まれって言ってんだろ!」

「断ると言うのが、わからないかい?」


フラウト・O・クーストス、例の笛野郎の襲来である。


「茨!」


向かってくる笛野郎に、黒い墨の茨を向けて拘束するタトゥー。


「"爆ぜろ…"」


しかし、笛野郎の一言で墨の薔薇は崩壊し…


「な…」


タトゥーの耳から、血がこぼれ出る。


「音波でこの船全員の"鼓膜を破壊した"。そして、僕らんが乗船する時すでに、船の翼を破壊しておいた。だ!が…船長が緊急連絡をしたとしても、言葉はもう帰ってこない。少なくとも…その耳に情報が入ってくることはな…」


当然、タトゥーには笛野郎の言葉は一切聞こえいない。

だからこそ、このままでは船が墜落する事実を認識していない。


だが!


「ひゅぅ〜攻撃をやめないしゃーせ。」

「…」


おとは聞こえていない、故に言葉は帰ってこないが、それでもタトゥーは蹴り込み!殴り倒し!そして…


「"噛みちぎれ!"…サーベル・ファング!」


手の平に刻まれた牙の刺青を具現化し、笛野郎に一撃を入れる…


「な…」


しかしその直後、タトゥーの景色が一変する。


(景色…歪んで見える…)


気が付くと、しっかりと地面の上で立っていたはずのタトゥーが、踏み出したはずのタトゥーが…


”倒れている”。


「どうして?とか思ってる?、それならお笑いもんだねぇ」

「お前…何を…」

「”骨伝導”、音を伝えるのは何も”耳”である必要はないんだ。そして、骨に振動を与え音を与えるそれをとてつもなく強くやると…あぁ~ら、不思議。”脳”が揺れてらぁ~」


嘘か誠か、タトゥーの景色は強力な”骨伝導”によって脳を揺らされ目が回り景色は歪み…


”身動きが取れない”。


取ろうとしても、地面の上で打ち上げられた魚のように…


じたばたするだけである。


「ダメダメ、全然なってない。それじゃ…僕らんにはとどかないよね!」


蹴った、耳の聞こえないタトゥーは彼の説明を一つも聞こえていないが故に…


何が起こったのかを今の蹴りのみ知った。


タトゥーの脳内を巡る思考は、「蹴られたから反撃しよう」の一言のみ。


いや、脳が揺らされてなおそれだけのことを思考できる時点で凄い…


しかし…


「あ…あぁ…」


現実は、そんなに甘くない。


「はは!商国最強が聞いてあきれるよ、まったく…待たせたね。シロム…」


彼は再びシロムに近づく、気配を察し止めようとするセイラを…


「”子守歌ドルミーレ”」


セイラは依頼的に、”無傷”でが条件のため”鼓膜”も”脳”も無事のままその場に眠る。


「君は”特別枠”だ、だから許そう!しかし…」


笛野郎はついにシロムのベットの前にたどり着き…


「シロム、お前だけはダメだ!」


顔をそばにやって、その吐息がシロムに届くほどに…


唇と唇が合わさってしまいそうなほどに近くで、彼を睨んだ。


「”臭せぇーよ”」


その言葉の直後、昏睡状態だったシロムの突然動き出し、笛野郎を窓の外へ放り投げる。


(嘘…だろ…)


流石は獣の嗅覚、しかしそこは空を飛ぶ墜落中の飛行船の中、落ちたら終いの高さ300Kmの空の上…


「シロム!お前!」


とっさに叫んだ、タトゥーの制止を振り切り…


「悪いおっさん、”俺ちゃん行くは…”」


少年は空へと舞い上がる。


「馬鹿かガキがぁぁぁ!!!」

「お前は落ちるかもな、でも俺ちゃんには…」


展開したのは、黒星砂ネーロの翼、怪鳥の翼を広げてとてつもないスピードで笛野郎に突進する。


「傷だらけじゃねぇーか、死にぞこない!…”爆ぜろ”」


再びの強襲、しかし”効かない”なぜか…


「それ、さっきも使ってたろ…もう覚えた…」


”猿真似”である。


「僕らんの…鼓膜が…」

「ハハッ!ざまぁ~」


嘲笑うシロムを見て、笛野郎は激高し、直後に笛を生成し…


「崩壊の角笛ギャラルホルン終曲フィナーレ!!!」


それは、広く一般的に言う雨ごいのような現象。


古来から、多様な民族などに見られる自然に願う儀式の一環で、踊りや”笛”を吹く習慣。


そいつがもし本当に…


”言葉のままに起きてしまったら…”


「災害を呼び込む笛の音色!これが終曲フィナーレだぁぁぁ!!!」

「へっ!…”ちゃちな最後だな…”」


襲い来る台風が三つ同時に、シロムに向けて…


(砂が…足りねぇー…)


黒星砂はあくまで砂を使った魔法、黒の砂がなくなれば魔法が使えなくなるし、魔法の規模も砂の残量に限られる。


「ソレナラ、安心デスネ。マイフレンド!」


現れたのは、一機の人型アンドロイド。


「あんたは?」

「”アンキラ”・ファイティングアクションモードデス、フレンド」


十三騎士団No.3、アンキラがシロムのピンチに駆けつける。


「ハハッ!でもどうする!最凶の騎士団が来たところで…こいつはぁぁぁ!!!」

「風車気起動、回転開始」


手を変形させ、風を起こせる風車へと変えて、いともたやすく台風を追い返す。


「嘘…だろ…」

「コノクライ、朝飯マエデス。」


笛野郎は、その光景に焦って再び笛を吹こうとする。


「なめんなよ!僕らんの終曲フィナーレは”あらゆる災害”を祈る賛歌。台風だけじゃねぇー、次は地震に津波…とにかくものすんごい天変地異を…」


しかし、その賛歌を妨害するものが一人。


「ギャラルホル…」

「”ピーピーピーピー…うるせぇーよ…”」


シロムは、翼を広げた状態で、その手を鋭い爪を持つ怪狼の手に変えて笛を破壊。


「いや…」

「これが本当の…”終曲だ…”」


目の前の敵を、天空から地面に叩き落した。


「そういや、船は大丈夫なのか?」

「ハイ、問題アリマセン。タトゥーサンニハ伝エテ起キマシタカラ…」

「伝える?でも鼓膜が…」

「”骨伝導”…です!」


その頃船の上で、激しい風にあおられながら絵を描くタトゥー。


「これでよし…」


その絵は立派な、天使の翼の絵だった。


タトゥーの手により、飛行船の船員が助けられ、シロムとアンキラの手によってフラウトを討伐。


ヴァルキリー、フラウトの二名を討伐した今、残る敵は…


《商国、闇市場跡地》


「拙者に…ここまでの深手を負わせたことは褒めてやろう、しかしだ…」


炎帝、アグリオス・O・フレデリックと…


《商国、中央》


「シャー!シャッシャ…中々やるじゃねぇーか…旦那…」


現在リップにボコボコにされてる、白蛇、ガルズガンドの二名となった。


「グラキエース…」


ガルズガンドが、氷魔法の技を放とうとするが…


「遅せぇ!」

「うごぉ!」


リップはすかさず、蹴りこむ。


「お前、本当にすっとろいんだな、あくびが出ちまうぜ…」

「ハハッ…これだから戦士タイプは…」


リップが余裕をかまし、ガルズガンドの前で腰に手を付き煽るような口をきいた瞬間。


『止まりなさい…』

「へ!なに!」


後ろで観戦していたリップの仲間達の方へ小さな蛇一匹が忍び寄り、その中にいたラップの背後に立ち毒のついた牙をその首元に向ける。


「ラップ!てめぇ!」

「おっと、やめといた方がいいぜぇ~旦那。その歯に付いた毒が血管に入れば、全身を一瞬で凍結させますよ、恐ろしい速度でね…」


脅し、この土壇場でガルズガンドはリップに対して脅しをかけたのだ。


「仲間を凍死で失いたくはないでしょう、だからここで一つ提案が…」


しかし、リップは仕掛けた。


相手が自身の速度に追いつけない事を知っているからだ、だから敵の分身が動く前に決めれば…


「”単細胞”が、これだから戦士タイプは…」


しかしその直後だった、リップの足が動かないことに気が付いたのは…


「氷!…」

「はい、さっきのは脅しが目的じゃない、一瞬!一瞬でいい…”時間稼ぎって”奴ですぜ、旦那。」


しかし、どれだけ強固な氷だろうと…


吸収ドレイン!」


リップの魔力であれば体に取り込んで、終わる…


そのはずだった…


「ルーン発動!」


案の定、リップは氷をすぐさま溶かしてガルズガンドへ襲いかかる。


「ᛜ(イングズ)!」


ガルズガンドの手から突如として現れた、なぞの光る文様に吸い込まれるようにして、リップはその場から姿を消す。


「姉さぁぁぁん!!!」


路上の天使達ストリートエンジェルズのボスの突然の消失に、取り乱す副総長のハット。


「お前…姉さんをどこにぃぃぃ!!!」


自信で生み出した氷の上を滑り、凄まじい速度でガルズガンドに接近するハット。


「シャッシャ!どこにも何も、”死人”の行くとこ何て決まっているだろ~旦那。」


煽るようなガルズガンドの発言に、彼は全力の魔法をぶつけながらリップとの思いでを振り返る。


(俺が姉さんに出会ったのは、俺がまだ5歳の頃…)


それは100年前、当時5歳だったハットだが、小人族の暮らすこの商国では半巨人族のハットは浮いた存在だった。


なんせ5歳にして、二メートルを超える巨体を持ち、力は成人男性と比べても圧倒的に強く、その肉体はまるで肉でできた防弾チョッキのように頑丈であったからだ。


「なぁー坊や、お金がないのかい?」


しかし、彼には親がいなかった。


だから、周囲の大人は身よりの無い彼を利用し、巨人族特有の凄まじいタフネスと戦闘力で、5歳の幼子に謝金取りの仕事を手伝わせた。


「おい!金を返しやがれ!もう期限はとっくに過ぎてんだろうが!」

「ひぃぃい!!!」

「すっすみません、来月には必ず…」

「いやダメだ、もう待てねぇ!…おいハット…」

「はい…」


ハットを拾ったのはとある闇金の男だった、当時のハットの役目は金を返せない者達を捉え、拘束し、トラックに乗せること。


「ごめんね…」


あまりに抵抗する場合は、相手を気絶させるよう殴りつけた。


そんなある日…


「こんなこと…もうやめたい…」


何も知らない、幼子にすら、自身の置かれている状況が異常であることは理解できた。


何より、人が怯え、泣き叫び、苦しむ姿をもう…見たくない…


だから展望台で一人泣いていた、自身の日常とは一変した…空中都市の夜景をみて…


「ならやめちゃえば、そんな事…」


そこに現れて白髪をなびかせる、一人の少女。


「君は…」

「あたいリップ!、将来は世界一のギャングクイーンになる女よ!」


それが、リップとハットの出会いであった。


「そんな事、できるわけないだろう。大人は…怖いんだ…」

「なに?あんた、男のくせに怖がりで泣き虫なわけ!」

「仕方ないじゃないか…こんな図体してたって…僕はまだ5歳の子供なんだから…」

「へぇーあんたまだ5歳なんだ、ならあたいの方がお姉さんね!あたいは7歳だから…」


彼女と出会ったその翌日…


「あんた達よね、ハットをいじめてんのは…」

「あ”?」

「おいおい随分と小生意気なガキがいたもんだ…」

「どうやって来たんでちゅかぁ~お母さんは…」


男達三人が突如事務所に乗り込んできた少女に、戸惑いつつ煽る中…


「ハット!こいつらぶっ飛ばしたら、あんたは自由に”羽ばたける”ってわけよね…」

「「はぁぁぁ!!!」」


男達は、リップの完全に舐め腐った発言に激高し、一斉に襲い掛かる。


「こんな幼い美少女一人にみっともない、本当に大人って…”最低”」


その直後、事務所の天上から降り注ぐ光の矢の雨に貫かれ、数十人の男達全員が一瞬にして貫かれ、辺り一面が血の海と化す。


「ねぇーあんた、こんな雑魚共のどこが”怖い”の?」


しかし、リップが戦いを終え気を抜いた瞬間、机の下に隠れて事をやり過ごした組員の一人がリップに向けて銃を撃つ。


「あぶない!」


しかし、それを身を挺して庇ったのは、ハットであった。


「ハット…」


ハットはリップを抱き寄せるようにして銃弾を自身の体で一番頑丈な背中で受け…


「”おい”…」

「ひぃぃぃ!!!」


撃たれてなお、立ち上がるハットの姿に慄きながらも、こちらに向かってくる彼に向って発砲をやめない組員に向けて…


「俺はお前の親だぞ!お前を拾ってやったし飯も食わしてやったなのに裏切るのか!」

「裏切る?そもそも僕は…”お前なんて認めてない”」


一撃で粉砕した。


「あんた…やるじゃない!」


元気よく、その背を叩いたリップに向けてハットは…


「君は!僕に自由をくれた天使だ…」


再び抱き寄せ、彼女にそう告げた。


そして時は現在へ…


「姉さんは僕に…自由をくれた…あの日から決めた!僕は僕の天使を護るナイトになると!」

「そりゃ大層な理由だ、いいね旦那。マジでくだらねぇ~」

「それをお前は奪ったぁぁぁ!!!」


繰り出された技はハットがいまだかつて見せた事の無い、強力かつ華麗な技。


回転飛美アクセルジャンプ…」

「シャシャ…」

四回転フォースアクセル!!!」


その回転は風魔法さながらの竜巻を発生させ、それが持つ氷結能力は周囲に凄まじい冷気を伝わらせる。


「蛇野郎ぉぉぉ!!!」

「シャーシャ!絶対零度と、氷の芸…どちらが上か!勝負と行きましょかぁ!旦那ぁぁぁ!!!」


氷VS氷の対決、勝敗を分けるものは一体…

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