第七十三話 共鳴
「無駄じゃないわよ…」
そう言ってニヒツを抱き抱え、黒き鎧に身を包み1兆度の焔を見に纏うアグリオスに戦意の眼差しを送るカポネ。
「無駄なことなんてねぇー…何一つ無いのよぉ!」
「いや、あるだろう。例えばこんな風に…」
二人の方へなげつけたのは、一瞬で片手間に本当に簡単に生み出した太陽。
「"最も容易く屠られる程度の努力とか…"」
これが力、魔力量と言う量の才能。
属性どう言う、質の才能。
どちらも持たないニヒツはどうやったら、その壁を超えられる。
「ニヒツちゃん、立てるかしら?」
「もちろんです。」
「なら、この技は私が返してあげる。だから、あなたはその隙をついてちょうだい。」
「返すって…」
緊迫したこの状況で、ニヒツの脳裏には疑問が残る。
しかし、カポネはその肉体を強張れせ「大丈夫だと、筋肉で伝える」それはそう…"ニヒツとカポネによる言葉を返さない筋肉のみの会話"。
鍛え上げられた二人の筋肉が目の前の焔を前に…
"躍動する"。
「ここまで楽しめたのは2000年前の"雷神"以来か…しかしなぜでござんすか?。ここまでやってなお、最後はここまで儚いものでござんすか…いつの時代も…」
アグリオスが、恋人を思う刹那乙女のような表情を見て…
"二人は"
「"随分と、女々しいことを言うのね…"色男さん…」
アグリオスの燃え続ける業火の中からカポネの戦血の如き剛腕がアグリオスの頭に振り下ろされてとてつもない爆発音を響かせてその場に轟く。
「これは…そうかそなたの能力は…」
「"血まみれの恋人"…受けたダメージを力に変えて解き放つ。…ぐぅ」
「ファーファッ!その力、既に死んでいるな。」
本来カポネの魔法、治癒&破壊はダメージによって破壊された体を即時再生し肉体をより強靭なものへと限界なく強化していく無敵の魔力。
そして血まみれの恋人はそれに加えて、肥大化した身体を適切な形と大きさに圧縮し最も力を引き出せる形に調整する。
その後も最適化後も肉体強化はダメージを受けるたびに続きそして今カポネは1兆度の焔のダメージを肉体に蓄積しそれをアグリオスに返した…
だがカポネが本来の魔力を使えていたなら、このダメージも蓄積できたしかし…
(肉体が…限界だわ…)
カポネの肉体は強大な魔力量よりも先に、限界を迎え。
一度攻撃を返しただけで、全身から漏れ出るパイプの水の如く血が全身に巻いた包帯を貫通してで続けて止まらない。
「一度の発動でそれだけのダメージを受ける。もう死その魔法は死ん出るんでござんすよ。」
勝利を確信してか、嬉しそうに微笑み。
「最後の言葉を聞くでござんすよ」と倒れ這いつくばることしかできないカポネに剣を向ける。
「なら、最後に…"背後には注意した方がいいわよ"。」
アグリオスが後ろを振り返ると、そこには見覚えのある白髪の彼が腰にある刀に手をかけそれに"120%"の魔力を込めて…
「帝国流剣術・BAD流秘奥義…」
"放つ"
「"会心の一撃"ぃ!!!」
それは、核弾頭のようなニヒツの剣をさらに100倍にしたような。超大型隕石の衝突かのような馬鹿げた威力がアグリオスの身に激震を走らせる。
(この子、魔力を纏う技術を応用して…本来周囲へ分散する威力を対象のみに限定している!。)
ニヒツは今回二つのリスクとリターンを賭けて契約を行っている。
一つは魔剣や魔球拳にかけた半径4mと言うリスクによるダメージ軽減と制御能力と言うリターンの獲得。
二つ目は今後ニヒツが放つ一切の攻撃には、視界に映る指定したポイント意外に"衝撃が伝わらない"。
「それでか…この馬鹿げた威力は…」
「いえ、そっちじゃないわ。ニヒツちゃんは制御能力にリスクをかけただけで威力には一切のバフをかけていない…」
「なん…だと…」
(それではどうやって、これだけの"威力を!?"を再現したでござんすか…)
人には、常に無駄が存在する。
100%完璧に無駄なく力を使える者など、存在しない。
ましてや…"120%"を引き出せる者など架空のそれである。
そして、魔法には肉体と魔力とのズレが存在しそれを完全に合わせることをシンクロ率と言う。
胡坐のない、無駄全くないシンクロ率100%の魔力運用それを達した者のみ見えるもう一つの可能性。
シンクロ率"120%"の零地点、それが見えたものがそれをものにした時…"限界と言う高き壁、一時的に崩れ去る"。
「ありえないでござんす…」
故に"会心"、故に"一撃"、全魔力を120%引き出した会心の一撃である。
「がはぁ!」
攻撃を受けたアグリオスの、外骨格は全身に入ったひびと共に完全に破壊されニヒツは再びその中に眠る黄金の頭蓋骨を引き摺り出す。
「それが、あんたの本来の姿なのね…」
「丸裸とはまさにこのことか…」
ついに追い詰めたアグリオスの最後はいかに…
その頃ガルズガンドを目の前とするBAD達は…
「博士公、援護よろしく!」
「あぁーもちろんだ!」
包帯と化したドクターは、BADの首に巻きつきその包帯を伸ばして攻撃する。
「No.2の旦那ぁ!こんなもん凍られせて終いだぁーシャ!」
しかし、ガルズガンドの氷の前では全て無力に凍りつく。
「それが"狙いだとしたら…"」
「シャ?」
BADが狙ったのは、凍りついた包帯で引っ張られその遠心力を利用して高速移動を測ったのだ。
(俺様に今一番足りないのは、魔力消費で失った"光術"と戦闘で失った足だ。だから博士公には俺様の足になってもらって失った機動力を上げる!)
「お宅、"魔術師タイプ"の魔法使いだな。間合いに入られたくないのが見え見えだぜぇ!」
魔法使いには、三者三様の戦闘方法が存在する。
一.魔術師タイプ
:遠距離、中距離に特化した魔法使い。
外界を得意とし増強を
苦手とする。
そのため近距離戦闘を不得意としている
ので、相手との距離を取りがち。
二.戦士タイプ
:近距離戦闘を得意とし、最も安定した
火力を出せる魔法使い。
攻防一体の力を有する反面、遠距離
攻撃やエネルギー砲による超火力に
弱い傾向にある。
そして何より、あらゆる戦闘タイプの
中で弱点が最も露呈しやすい。
三.魔導士タイプ
:遠近中全てに対応し、弱点を克服した
全知全能のタイプ。
これになったものは、魔法使いの極みに
達したと言っても過言ではない。
その中で、ガルズガンドは典型的な魔術師タイプ。ちなみにドクターもそうであり、BADは少し器用な戦士タイプの魔法使いである。
本来一人でなすのが難しい、”魔導士タイプ”の魔法使い。しかし…戦士のBADと魔術師のドクターが合わさることで…
(疑似的な魔導士タイプの魔法使いになりえると言う分けか…)
BADはその後も、凍りつかせるガルズガンドにドクターの操る包帯で移動しBADの持つ最新鋭の魔道剣で応戦し彼を追い詰める。
ドクター曰く、この包帯は切り離し可能でかつ完全に粉々にされない限りは包帯は適正な大きさを保ち続けるらしい。
その二つの性質が、凍り付かせる彼の絶対零度を打ち破る鍵となるか…
「遠心力を利用した速度?シャーシャ!そんなもん…」
ガルズガンドは速度を見切れず、付いてこれてすらいないが!。
BADはかんずいていた、目の前のガルズガンドの本当の恐ろしさに…
「フゥー!」
それはノーモーションの氷魔法の使用、息を吸って吐くだけで魔法を発動させる。
(本来魔法使いは、詠唱による言霊の力を使って魔法を安定化させ威力を増す。それをなくして無詠唱の魔法なんざ俺様でも使えねぇー高等技術。こいつらぁー見た目と風格から察しておそらく長寿の一族、ざっと500年は生きてるな。)
BADの冷静に思考を巡らす中でも、氷の咆哮をやめないガルズガンド。
ものの数分で周囲一面を氷河期へと帰る。
「はぁ〜状況的には氷河期と名付けるべきか。まっ、この程度の動作に名前なんていらねぇーけどな…シャッシャ!」
「この程度の動作…んならこれでどうだ?」
氷で覆い尽くされ、ガルズガンドは二人の姿を見失っていた。
常人なら声も姿も消え、気配を判然に消した存在は死んだと判断するだろう。
氷の中で、凍死したかに思えたBADとドクターは光化により背後を取って巨大なエーテルブレードでガルズガンドの脳天を切り裂いた。
「決まった…」
(「BADくん!油断するなまだだ!」)
確かに切り裂いた、頭を横から断面すら見えているこの状況で…まだ?
「シャーシャッシャ!まだですぜ。旦那…」
ガルズガンドの切り裂かれた頭から無数の蛇が湧き出てくる。
「決めますぜ、シャァ~」
BADはその場で放たれた凍てつく咆哮にあてられて、その場で凍り付いて静止する。
「戦闘不能ってやつですかい?残念、残念。」
(「それはどうかな?」)
ガルズガンドはその念話を聞いて違和感を覚えた、確かに凍り付かせて動きを止めたはずのBAD。
その首元にあったはずのドクターの包帯がない!それに気が付いた瞬間背後に迫る女の手に向けてガルズガンドは凍てつく咆哮を放つ。
「残念だね、ボクの体は使い捨てなのさ…」
それはドクターだった!そうそこは、BADが目指したその場所にあったのは凍り付いたドクターの肉体の在りかであった。
BADとドクターの作戦はこうだ、BADが敵を引き寄せその隙にドクターは包帯に宿った魔力を使って氷を溶かし宿った精神を本体に回帰させる。
「いやいや、博士の旦那の魔法は植物系の花の魔法のはずシャ~」
「”環境適用花”、これは僕の技の中でも特異でね。咲かせた花の環境に適用してその性質を吸収し育つ、そしてこの花は君の絶対零度に適用して育った花だ。当然だが花は周囲の環境から栄養を得て育つ、つまりは”吸収”吸収させてもらったよ。君の絶対零度の氷をね…
その言葉を聞いた直後、ガルズガンドは察した。その背後に迫る氷の中で咲き誇る毒の花の存在に…
「当然量産も可能だよ。」
「マジかぁ~」
二人の策が、ついにガルズガンドを追い詰めた。
「なーんてなシャ?」
「なに…」
「まさか旦那方、この俺が今まで本気で戦っていた…なんて一瞬でもおもいました?。シャッシャシャシャァ、そんなわけないでやしょう。だって俺ぇ~…」
その瞬間、彼が放ったのは全ての策を無碍にするような一言だった。
「まだ一度も、”魔法”すら使ってないんでやすから。」
(!)
魔法を使っていない、魔法を?ならさっきまでの冷気は一体なんだ?誰もが思う疑問に戦場を忘れてガルズガンドは懇切丁寧に説明を始める。
「俺は体内に冷気袋を持つ特殊な体質の巨人族でしてね、さっきまでのあれはただの魔法?ではなくただ息を吸って吐いただけなんでやす。」
「そんな…無茶苦茶…」
「その尋常じゃない驚き方、おおよそ無詠唱魔法でも使ってたと思ってやしたんでしょう。しかし残念、これが本当の無詠唱魔法でやすぜ…」
それは、ドクターを追い詰めた街を飲み込む冷気の渦。
手から放たれた冷気の一撃が街を飲み込む、これが本来の彼の魔法。
「でもね博士の旦那、無詠唱って聞くと技術としては凄いのは確かでやしょうが。やはり魔法は言霊の力を込めてこそ真の実力を発揮する。」
「まさか、これより上があると言うのか。詠唱と無詠唱でそこまでの差が…」
「さぁ~どうでやしょう?試してみるのもありかと…」
その語り口調、その足取りはまるで亀のようにのそのそとまるで静止した氷のように冷たくゆっくりであった。
そしてそののそのそとした動作と口調から放たれる、最初の詠唱の言葉はこれだった。
「終焉の静寂、時はたれし箱の名はパンドラ、神おも恐れ神おも殺す、これぞ理を超えし魔法の神髄。"絶対零度之大蛇野咆哮」
その言葉を最後に、光り輝く開放された魔力と共に街中の全てが終わりを迎えた。そう、氷づけにされたのだ。この空中都市、この商国そのものが…
「これが魔法でやすよ、ナンバー2。軽く打てば街が死に、普通にうったら国が死ぬ、それで?これに全力全開の俺の魔力が加わったらどうなると思う?」
再び完全に凍り付いたドクターに喋りかけるガルズガンドがそこにいた。
「ん?」
しかしガルズガンドの全身に再び走る、強烈な違和感。
「まだ生きてやしたか、ナンバー2。その生命力はまるでゴキブリでやすね…」
そこには再び包帯がなく、ドクターの肉体のみが凍結されていた。
その精神のやどった包帯を拾ったのは彼女…
「女の子にゴキブリとは失礼すぎるじゃないかい?あんた…」
そこに現れた青い天使の輪と、白鳥のように真っ白な翼でその場に浮くリップの姿であった。
「すげぇーあんな規模の魔法を使う奴を相手に、姉さん引けをとってねぇ~」
そして周囲には、彼女の天使の力で守られたハットやラップ、ウルシー達ハート盗賊団の姿が…
「襷は受けっとは、BAD。後はあたいに任せて休んでな。」
「そうさせてもらうぜ…」
ガルズガンドは驚いた、さっき凍り付かせたはずのBADが天使のバリアの中にいる事実に。
「あんた巨人族なんでしょう、あたいは天使族なんだけどさ。どっちが強いかはっきりさせよ?」
「そうでやしたか、道理でこの状況。でも天使族の種族特性である制御の力は魔法にしか効果がない…普通に凍らせれば!」
そう言ってガルズガンドは最大限の加速で近づき近距離で冷気を放った。
(これは魔法ではなく体質、避けられないぜぇ~旦那。)
「あんたさ…」
しかし、ガルズガンドは一つ大きな見落としをしていた。
それは彼女いつ、どこで、どうやって、この場にいるかを…
「グヘェ!」
その速度に焦点を当て忘れていたのだ。
「あんたすっとろいのよ、どんだけ凄い魔力持ってても。この程度見切れないならさっさっと消えてくれる?」
彼女は一瞬の間に、BADを開放しドクターの精神を拾いあげ。
ヴァルキリーとの戦闘に参加し、まだ動ける全員を連れてこの場にバリアを張って現れた。
その早業を行えるだけの圧倒的速度、それをガルズガンドは計算に入れていなかったのだ。
「焦って間合いを詰めたのが間違いだったな、蛇。」
バリア内でその様子を見ているBADは、二人の戦況を見てこう語る。
「そもそもリップちゃんは、戦士タイプの魔法使いの中でも感覚型。魔法を頭で使わず天性の才覚のみで振るう。だから、思考のタイムラグが存在しねぇーし迷いもない。距離をとる魔術しタイプにとってあれほど相性の悪い相手もいない。」
「姉さんと蛇は犬猿の関係、決着は以外に早いかもじゃね。」
相性最悪の二人の戦い、決着はいかに…
そしてニヒツとカポネのその行方は…いかに…




