第六十八話 炎場の踊り子
「メットォ!!!」
それはどう見ても、致命傷。いやあるいは…いやこれは考えてはならないだろう。
かつて、親友の死と言う絶望はかつて人生において最初で最後と思っていたそのあの絶望が今…ダンサーの目の前に…
「おい、起きろメット、頼む起きてくれぇぇぇーーー!!!」
どれだけ叫んでも、どれだけ怒鳴っても、揺らしても、子ずいても、泣いても…
目の目の現実は変わらない。
触れたその肉体は人体とは思えないほどグニャグニャで柔らかすぎるほど柔らかい。
「おい…」
「ほへ?なぁ~にぃ~」
ダンサーは今怒っている。その目には影が落ち、そして…
(ダンサーが…上着を脱いだっす。)
それは、ラップの全身が震え上がるほどにヤバい状態。
「ダンサーが上着を脱いで、立っていた奴は一人もいない。」
ダンサーはその場でステップを刻んで、鼻歌を口ずさみながらその場でダンスを始める。
「踊り子の気まぐれ(ダンシング・ビート)」
「なに?ただ上着腰に巻いただけぽよ~そんなんで何が…」
その瞬間、フレックの体に走った違和感…
「どうした?動きが悪いぜ…」
その違和感は時間が立つごとに大きくなる。
「速踊」
(速い!)
その速度、技の切れは凄まじく、それを受けたフレックが血反吐を吐いて吹き飛ばされる。
(何?この子…こんなに強かったの…でも、さっきまでのこの子にこんな実力を隠し持っているような覇気は…)
その瞬間、頭を上げたフレックの目の前の男その覇気がまったく別人と言えるほどに変化していたのだ…
「豪速踊」
速度はさらに加速、さらなる連撃にふらつく身体と思考…そんな中で彼女が感じたもう一つの違和感…
(この子…踊ってる!!!この戦場で…)
しかもその踊りは、詠唱を繰り替す度にそのリズムを大きく変える。
その度に…
(そうだぽよ、わかったぽよ…“踊りのリズムが変わる度に私の、体内のリズムもずれている!")
「なぁーに、驚いてんだ…この程度でよぉ…)
(ママママァまぁぁぁずい!!!)
そこからも、収まることなく続く怒涛のラッシュ。
「連豪速踊」
さらなる爆発力をもったその攻撃は重い重い…
「ここからさらに上げる…ぜ…」
速撃はいったん止まり、ボロボロで失神しかけていたフレックは「ラッキー」と喜び勇んだその刹那。
「破壊踊」
先ほどまでの速度重視のハウスとはことなる、回転などを利用した遠心力による攻撃力の強化。
動きはさらに複雑化…
「繋踊」
リズムを繋げコンボ作りだして、相手のリズムを崩す。本人曰く…
「ダンスは心を掴んで離さない。お前の心は素手に俺の手の中だ…」
「そんな理屈は好きじゃないぽよ~理屈も全部運ゲーにしたらきっと楽しいぽよ。」
ランダムで掴みとった彼女の勝機、それは…
「あ”…」
「大気を掴んで、周囲の酸素をカプセルに閉じ込める。踊ってるからあたしより酸欠になりやすかった。ただそれだけ…」
(こんなの…どうしたら…)
目の前に倒れるダンサーの姿、このままじゃ彼の命が危ない。そう判断したラップは…
「音波砲」
音の振動でダンサーを敵から遠ざけたラップ。
「いいよ、許してあげるその程度。でもね…“あんたは死んでもらうぽよ”」
そう言って、加速で急接近して攻撃を繰り出すフレック。
(ポワン)
「ありゃりゃ」
「音分身」
それは音の幻影、触れたそれから鳴り響くのはかわいらしい効果音。
(私の魔法戦闘向きじゃぁない。だから、一体一は不利、だから…)
「弱体」
その瞬間、フレックを包む水色の魔力が彼女の体再び蝕む。
「また性懲りもなく…」
その手で再び掴もうとした大気の流れ、しかし
(魔法が…発動しない)
「いーやしてるっすよ、微弱すぎてここまで届いていないだけ…」
(だからできるのは足止めくらい…)
しかし、足止めには限界がある。
「なぁーるほど、能力の影響範囲を縮めたわけね…なるほどでも!触れちゃえば問題ない」
加速による加速、身体能力も落ちている。それならと彼女が編み出した打開策は…
「地面をもらう。」
地面に穴をあけて、足場を破壊。
「えぇぇぇ!!!こんなのありっすかぁ!!!…」
焦る彼女の表情の下に隠したポーカーフェイス…
(“時間は稼ぎましたよ、来てください。…”)
そう思う、ラップの背後に現れ消失した地面から天空のこの都市から地面へと落ちかけた彼女に“パイプ”で足場を作りお姫様抱っこで現れるキャップ帽を深々と被った男。
「“キャップくん”」
「OREが来た。…だから勝…負けない…OREは兄貴達を超える男だから…(棒)」
「炎場の踊り子・キャップ」
その戦いはその男が現れることで、“逆転する”。
「ぽよぽよ、あの子はどうしたのかニャ?」
「あぁ~あの飲んだくれか、あれは倒した。(棒)」
「あの子を…あなたにそんな力はなかったはずだけど。」
キャップの放つそのパイプを先ほど封じた地面の岩をしまったカプセルを投げつけ、防ぎ、砕き、足場にしてキャップに近づきその顔に触れようとするフレック。
「火輪」
手元に持った二本のパイプの先に火を灯したそれを回転させ火炎の竜巻で彼女を近づかせない中距離攻撃。
「なーらぁ!」
カプセルから現れる騎士団員二名。
「水魔法・水竜」
「煙魔法・煙渦」
水魔法を扱う魔法騎士によって打ち消され、煙魔法を使う魔法使いによって周囲を囲まれたキャップはその点火した灯によって全身を焼かれる。
「ははぁ!他人の魔法だって封じ込める当たり前でしょ。ちなみに、この子達は私が作った騎士団の全身をかきまぜたキメラ、見ての通り複数の人間の力を宿している。しかも思考は回らないように改造しておいたぽよ、だから…最強にして絶対服従の傀儡。」
そんな怪物相手、しかも全身焼きただれたはずの彼…どうする一体絶対絶命そのはずだった…
「お前ら、そんな力って…てめぇーら本命が持つ“データ”って奴か?。(棒)」
キャップはまたそのパイプを回転させ、周囲の炎すら巻き込んで無力化した。
「そうよ、あたしたちにはアルヴィトの疑似全脳による戦闘データの提供が来てる。あたしたちを倒すためには16体を同時に撃破するもしくは倒し続ける、もしくは身動きを止めてしまう。その三点だけぽよ、でもあなたにはそんな“技”はない。でしょ…」
それを聞いてキャップは向かってくる、加速して向かってくる。弱体化されたはずのその脚力と魔法による身体強化もでも彼女の背中に突如として現れた小さな翼から放たれる紫色の魔力でもその他の子の世に存在するあらゆる異能の力に該当しない異様な力。
「データは過去~現在までの戦歴から得たものだ、ならば…“未来で成長すればいい”。(棒)」
その男が放ったそれはデータ外のイレギュラー…
「火葬」
それは無限、永劫の焔。
「うぁぁぁ!!!」
聞こえるのは悲痛な叫び…
「これは、俺の魔法。なんの変哲もないお前らのデータ通りのただの火属性魔法だ。(棒)」
(それじゃ…なんでこの火は消えないの)
「これはただの魔法の応用、その本質は変わらない。だが、少しやり方や趣向を変えただけ…その命尽きるまで燃え続けろ…死んでも生き返るなら一生やってろ…(棒)」
“模倣大鉄棒”
「囲殺」
彼は、パイプ四方八方に生み出してフレックを文字通り“封印した”。
「あ…あんがとうっす!キャップ君…」
「ん?あぁ~うん(棒)」
これで出そろった14体のヴァルキリー。
「あれ?他の姉妹の気配が消えた、マジかぁ~でもま…」
そこは戦闘の中心、あの始まりを告げた闇市場の集会上の外。BADやスモーク、ニヒツが戦うそばで戦い続けていたサラエボとスコーピオンが…
顔面を地面にめり込ませて倒れている姿。
「轟き過ぎちまったぜ」
赤と青の混ざった髪の彼女は、その髪と同じ色の赤の槍と青の槍の二本をもって幽遊と余裕だぜと言わんばかりに瓦礫の上に座り二本の槍を担いでそこに存在した。
「お…おい、誰がまだまだ…」
「頑張るねぇ~でも無駄だぜ。オレの才覚は“轟き”さっきもいったろ?ぶち破れやしねぇーーーてよぉぉぉ~」
立ち上がる二人を見つめるその目線は、顎を上げ、見上げるようにそれをしている。完全に舐めている。
二人をそれを察しながら…
「轟気参天火器八天…」
槍を構えるそれを見て身構える。
「くるぞぉ!」
「轟けぇーーー!!!」
その槍から放たれる円形の衝撃波、それには凄まじい防衛性能と衝撃波による攻撃力、その攻撃範囲は数十万メートル。
「「くはぁ!」」
二人はあまりの衝撃に血反吐を吐いて意識をもうろうとさせ、足取りはふらふらと…
「くっそぉっ…やられっぱなしでいられるかぁーーー!!!」
プッツンしたサラエボは、その腕に纏ったガントレット、その周囲に存在する缶のようなものから大量の煙を出し…
「限界突火!!!」
それは、周囲に散布された煙によって引き起こされた凄まじい爆炎。その威力が彼女の放つ障壁を…
“文字通り”
「ぶち破る」
その一撃、確実なヒット。
「これ使うと…三日は動けねぇー」
倒れる彼、命を賭けた全力の一撃しかし…
「それがどうした?届いてねぇーぜ。お前の“会心の一撃”、オレには…」
それは本体にとどきえない…
「炎」
障壁とともに周囲に発生した豪炎。
「大気圏…宇宙に放たれたミサイルの如き船が星の外にでる際に発生する空気の壁…、突破するには世界を覆う引力の力場を振り切る必要がある。いつかの人はそのために速度を用意た、まっ今見たいに速度を再現するだけの威力があればいい…だが…“ぶっ壊せたって火の海、ぶっ壊せなきゃ話になんねぇー”それが大気圏だ。」
“彼女の才覚は轟気、天空の大気その最高到達点である大気圏を生成し操作する能力だよ。”
「突破したって死んじまったらいみねぇーよなぁ、なぁぁぁーーー!!!」
全力をぶつけても通用しない圧倒的な相手、量も質も実績も経験も練度も全くことなる強者。
「ちっ!ざけんなよ~あれは三日に一回しか放てねぇーんだぞ…」
地面にうつぶせに倒れるサラエボ・ランボマン
「スゥ~…立て馬鹿」
叱咤するスコーピオン。
「はぁぁぁ!!!ふざけんな!俺はもうボロボロなんだぞ!!つか!お前もやれよ。」
「ハァ~…無茶を言うな、俺はお前の魔法と違って脳筋じゃない。スゥ〜むしろその真逆だ…」
「脳筋言うなし!…つっても見ての通りだぜ、どうすんだ…」
「これを使う」
絶対絶命、戦闘特化の彼はすでに戦闘不能。その状況でスコーピオンが出した秘策…それは一凛の花。
「“魔障花”」
「スゥ~あぁ」
魔障花、紫色の彼岸花のような見た目をした花でその鱗粉には極度の魔術的幻覚作用、すなわち揺らいだ精神による魔力暴走を誘発させると呼ばれる花。故に魔障花、しかしその花は地中深くの根から花のさきに至るまで全てが高濃度の魔力を帯びており、その性質上魔力満ちた場所でしか開花しない幻の劇薬。
「そんで持ってこれが…スゥ~、その花を粉々につぶして液体状にして密封した注射針だ。ハァ~使い方はわかるな。」
「あぁ~んでも、どうやってこんなもん」
「俺を誰だと思っているスゥ~…薬物売買が危険薬品の専売特許だ。」
「ダッハ!違いねぇ~」
笑ってそれを受け取るサラエボに…
「それは魔障花の帯びる凄まじい直接肉体にぶっ差して本来吸収に時間のかかる魔力を無理やり回復させる。ハァ~でも、その代償は無理やり注入された魔力によって引き起こされる肉体、特に第六感と繋がりの深い心臓に負荷が大きくかかる…使えばほぼ確実に死ぬ、スゥ~まぁ皮肉にもそれを使わなきゃ目の前の轟き女に殺されるがな。どうする…」
「もちろん!」
その瞬間、その場の誰もが予想外の行動をサラエボは行った。
「勝って笑って生き残る!!!」
彼は、効率を求め最も効果が早く確実にでる左胸の心臓にその注射ばりを迷うことなく刺したのだ。
「ハァ~そんな選択しねぇーよ。バァーカ」
その瞬間、サラエボの全身に走った違和感。
「ぐはぁ!!!」
「なぁぁぁに、自滅?期待したのになぁ~」
「スゥ~…黙ってみてろ…ハァ~度肝抜くぞ。」
「はぁ?」
全身に走る吐き気とめまい、まるで薬物が切れた中毒者の症状。しかしそれとは違う全身の違和感…
「碧炎乱舞…葉伝」
それは先ほどの全力、それでふるった限界突火の炎の出力とそれによって再現された速度と威力。それが煙の発生と言う条件、自身の全魔力使用と言う制約なしにあたりまえの一撃として放てるようになっていた。
(俺の魔法、爆裂殴機はガントレットのそばにある噴缶に煙をため込みその中に火属性の魔力の火種を生み出される噴射力を利用した一撃。それ自体には何の脅威性もねぇ、だがその噴射力によって加速させた拳に纏った強固なガントレットの重みと硬度を加えて相手にぶつける大技。)
そして、彼の先ほど放った限界突火は、普段の彼が噴射によって再現可能な速度、時速約462キロを遥かに超えるマッハ30。
それは三日に一回と言うリスクを冒しかつそれだけの魔力の消耗によってはじめて実現する最大の加速。しかし、今の彼が放つ碧炎はそのマッハ30を通常攻撃で実現する。
それは、彼の放つ一撃一撃がマッハ30の豪打であることを意味する。
「おぉぉぉらぁぁぁ!!!」
(なんだこれ…一撃が重い…)
その状況に一人高揚するサラエボ。
「いいねいいねぇ~」
しかしボロボロにタコ殴りされているにも関わらず、笑顔を絶やさずいやむしろ…その笑みは増している。
「フヒャヒャ…フャャャ!!!ヒャッヒャ」
「何笑ってやがる…」
「いや…ただ…」
彼女の笑み、それから構えられた両手の槍。
「スゥ~気を抜くなぁぁぁ!!!」
「あ”」
「三層天害…摑魅」
放たれた槍の先端、そこに出現する大気の壁。しかも…
「三枚だぁ…」
一層破壊にマッハ30の速度とそれによって生み出される威力を必要とする大気圏の壁、それが三層…
「スゥ〜単純計算で、"マッハ90"、行けるか?」
「…もう一回…限界突炎を使えば…」
(それはまずいな…)
その時、スコーピオンの持つ危険マークの書かれたキャリーケースから取り出されたメガホン。
「ハザードレート1…怪音波」
大気、空気、音、全ては空気の流れを利用したもの。つまり…
(怪音波は空気の流れを歪める。歪めた流れはその性能を下げる、穴の間壁から部屋の音が漏れてしまうように。)
「ハァ〜'や'れ'」
「なんだかよくわかんねぇーけど、とにかく碧炎乱舞・葉伝!!!」
その拳は大気圏三層の一部にあいた穴、そこを貫いて彼女の元まで…
(ダンゥゥゥ!!!)
とどきえた。




