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第六十一話 刻印

そう、燃やして仕舞えれば四大兵災と呼ばれる後世に語り継がれる最悪の事件も、起きなかったろうに…止められなかった。魔法に愛された刻印を持つ"ただの少年では…"


「ふぅ〜」

タトゥーこと、ブラックは心を落ち着けるためか、基地内の展望台に登って夕焼けを見ながら一服していた。

「こんなところでどうしたんだい?ブラック。」

そ言って現れたのは、ホワイトサーバル型獣人と小人族のハーフの少女で珍しい四つ耳の小人の血を濃く受け継ぎ、獣人の血の方が少ないと言う希少種で、要するにケモ耳系獣人と言うやつだ。

「別に、なんでもねぇーよ。相変わらず心配症だな…"ベル"」

彼女の名は、セプテンベル。ブラックとは異なり姓を持たない他国から来た奴隷階級の少女だった。

しかし、ブラックの暴動により侵略中であった巨人族の国マン王国、それに進軍するはずだった軍隊のおよそ半数がブラックによって戦闘不能。

その落ち度として、ブラックは単騎で敵軍の待つ巨城に襲撃。その際に、数百メートルは下らない巨人族の巨体をもろともせず殺害。しかし、国の意思など無視して奴隷のみを解放し、その場を去ったという。

そして、現在。本来労働力となるはずだった奴隷階級の小人達はブラックの下につき、他の身寄りのない下級民達と共に燃卑鑑(モヒカン)を組織して今に至る。


その一人が、彼女である。

「火をくれるかな?」

「あぁ〜」

二人は夕日を見ながら、設計図を燃やしたそのライターでタバコの火を付け二人は同じメーカーの同じ味のタバコを吸い合う。

「ほうほう、なるほど…こんなところで優雅にタバコでちちくりあってるたぁ〜良いご身分だねぇ〜」

((!))

二人の背後に現れたのは、青い髪の男。

弾幕(バラージ)

警戒し合う三人の中で、初めに動いたのベル。

その攻撃は弾幕、弾丸(バレット)の極地。

その本質は、あらゆる弾幕を生成し、行使する能力。円状に広がる弾幕、十字に並んで回転する弾幕、不規則な動きで惑わす弾幕とさまざまなな種類がこの世には存在する。

それら全てを行使する魔法、それこそが弾幕(バラージ)の能力である。

「おっと!」

男の方に向けたのは、五個の球体とそこから伸びるレーザー。

「ちょいちょい、怖いよお姉さん!」

青髪が生成したのは、無数の雪玉。

「ちっ!こんなものぉ」

そう言って、放った弾幕で雪玉を相殺。

(ダン!)

その隙をすかさずタトゥーが、墨色の魔力でその腹に一撃を入れる。

すると男は、彼方へと吹き飛ばされて壁にぶつかりその場でクレーターを作って止まる。

「なんて…なると思った?」

しかし、そうなったのは攻撃を当てた腹からだけで、首より上はこの場に残っている。

((身体が雪に!!!))

その首からは胴体と腕、足が生えてその生えた腕は天を刺し、そして…

大雪玉(ビックスノーバレット)!!!」

天を刺したその一本の指から無数の巨大な雪玉が出現し、彼らを襲う。

弾幕(バラージ)!」

すかさず、先ほどのレーザーのように伸びる弾丸(バレット)を周囲360°に展開し、青髪男を近づかせない。

「無・駄」

ベルの背後から、無数の雪の手が出現。

「何!」

「ここをどこだと思ってる、吹雪と氷柱が吹き荒れる地スノーアイランド。雪なら地面に無数にありゃ〜わざわざ生み出すまでもねぇ」

地面の雪を操り、作り出したその手はベルを地面へと引き入れ姿を消す。

「ベル!!!」

「ヘェイ!ヘェイ!戦いはまだ終わってねぇーぞ!このやろぉー!」

「やれやれ、女に手ぇー出すたぁ〜お前…美学が足りねぇーなぁ〜」

「あ"?」

その後の全てが一瞬の間に行われた。

黒拳(ブラックブロー)

墨色の魔力のパンチは、空を斬ってその衝撃で天を破り。

(ミシミシミシ!)

その勢いをまともに受けた肋骨は、嫌な音を立てて砕け散る。

「おいおいおい…怖いじゃんさぁ〜」

そういつつ、彼はその場に立っていた。天を破りその骨を折ってすら微動だにせず、そして…貫通したはずのその腕には暖かな血液の赤ではなく…

ひんやりとした雪の白がこびりついていた。

「やれやれ、びっくり人間か何かかい?あんた…」

「フロロロロロロォ〜そうさねぇ〜おりゃ〜一体なんなんでしょうねぇーーー!!!」

「どうした、テンション。」

そう言って蹴り上げたその足は、残った頭部にあたりそれをサッカーボールの要領で吹き飛ばし…

(バキュン!)

ブラックの、左手首に描かれたピストルの刺青が、目の前の男の眉間を貫く。

(何が目的か知らねぇーが…脳まで打たれりゃ流石に…)

「雪達磨に…」

(!)

「脳があるかよ…」

男は、まるでそれが当然のようににやけて笑い、そして…

「"雪合戦"はお好きかな?」

答えさせる気のない、その質問と共に生み出されたのは、山と同程度の大きさの超巨大な雪玉。

超巨大雪玉(スノー・ビックスーパーバレット)

それは、隕石の如く中から投げ出されブラックに直撃する。

黒拳(ブラックブロー)!!!」

墨色の一撃は、その全てを粉々にして単なる粒状の雪となって散る。

「フロロロォ!流石にでやんすねぇ〜、でも…でっけぇー雪玉壊したら…何が起こると思いますか?」

(これは…)

それは雪崩、山と同等の大きさの雪玉を破壊したことで起きた自然な現象。それはまるで連なる連鎖の鎖。破壊すれば破壊するほど次なる最悪に繋がる"災害"の鎖。それに対する対抗手段は数が無く、手立ては無いかに見えたその時…

「やれやれ、これは厄介極まりやないねぇ〜」

「なんだよ、仲間がやられたのに随分と余裕そうじゃねぇーか?しかもこのピンチで…」

「怒ってどうする?悲しんでどうする?結果も状況も…何もかわらねぇーだろ。それに…」

「それに?」

「俺の相棒は、そんな簡単に死なねぇーよ。」

ブラックは、そう言い切って一周し…

「これが、俺の魔力だ。描いたものを具現化して出現させる。単純かつシンプル。…ほら、シンプルザベストって言うだろ?」

そう言って彼が生み出したのは、レールガン。

「マジかよ…」

「死んでろ、雪合戦やろぉー」

貯めて放つ、それがレールガンの性質。しかし、男の宙に描いたレールガンは既に充填完了させたレールガン。

「おいおい、そんな無茶苦茶ありかよ?現実離れし過ぎだろ…」

「あぁ"?絵ってのはそもそもそいつの思想とか想いとか考え方とかそう言うもんでできてる。理屈や理論立ててやってる現実と違って自由で柔軟なんだよ。こっちは…」

(確かにそうだが…)

しかし無茶苦茶だ。どう考えても無茶が過ぎる。

理屈も理論も無いなら何がある。

実物に忠実なら強くなるとか、逆に下手だと弱くなるとか、生物は具現化できても無機物は無理とか色々あるだろうに…


それはまるで全てを自分色に塗りつぶす、身勝手な力。


(だから強い…のか…)


その光線は、文字通り落ちてる雪崩に大きな風穴を開けてその攻撃を実質無力化した。

そして、その直線上にいた彼も…

「まっ、関係ねぇーけど…」

光威力の砲撃だったが、やはり彼に純粋な威力による攻撃は通用しないようだった。

「そうか…つかさ、気づいたんだけどよ、雪って極論水だろ?」

「そうだな、だからなんだよ…」

「そっか…じゃ〜これで良いじゃん。」

男が放った二つ目の攻撃は、この意外なものだった…

「火属性魔法…温度上昇(ホット)

その魔力は、周囲に展開された熱波の空間。

(まずい…)

「そうだよな、水は高温の空間じゃ蒸発しちまうんもんな。」

「なぜ…お前が火属性の魔法を…」

「だって俺、火属性と水属性と風属性の魔道士だもん。」

そう、彼の魔法は水属性による墨やインクの創造。風属性による空中絵板(エアーキャンバス)による宙に絵を描く技術そして…

「俺の絵さ、ゆういつ弱点があってな。絵が乾いてないと直ぐに溶けちまうんだ。だから、いつも…」

「熱で乾かしてる…」

「そう…」

彼の魔力は絵を描く水と、絵板を作る風、熱操る焔でできていた。

「安心しろ、お前もキャンバスみてぇーに乾かしてやるよ。完全にな…」

「あ"ーーー!!!」

彼は文字通り蒸発…

「雪達磨?」

「あ〜あ、危なかった危なかった。マジで死ぬかと思ったぜフロロ…」

「まっ、もう一回やるだけ…」

ブラックは、熱を手に纏って対象に触れようと接近する。

「なぁ〜気づいてるか?さっきの雪達磨…」

その次の瞬間、男が放った一言は衝撃の一言だった…

「お前の"女"…だぞ?」

その瞬間、ブラックの拳が男の手前で止まった。

「今…なんて?」

「女、もしくは仲間?相棒?なんでも良いけどよ、そいつだぜ。今の雪達磨…」

「何を言って…」

「あれ?気づかなかったのか?俺もお前と同じ…」

男は、徐に服を脱ぎ出し…


その肉体に刻まれていたのは…


「刻…印」

「そうさね!刻印だぁーーー!!!」

そこに刻まれた刻印は、全身に広がる青い線。


それは、これと同時刻に行われた彼らの対談。

「そるでマキシムくん、彼らは一体なんなのかね?」

「はい、奴は八千年前の竜族の突起戦力の一角。"竜王・氷結竜タラスク"の遺骨を人形に加工して人骨し、そいつを基盤に総統閣下のDNAから遺伝子情報を解析し、作り出されたクローン。名はジャッキー。あなたのJrですよ。生物兵器としてのね…」

「なぜ、竜の遺骨を?…」

「それは…」


場面は、ブラックへと戻る…

「刻印持ちは骨の髄まで魔法使いなのさ、だから移植すればそれは自ずと肉体に現れ、その力を得る。なぁ〜刻印の利点を知ってるか?刻印持ちだけが持つ能力を…」

彼が語る力の正体、不死身の理由…

「それは…"変化(フォルマ)"さ…」

彼が語るは刻印が持つ固有能力。それは、あらゆる物質を自身と同じ性質に変えてしまうこと…

「つまりは、火属性は触れた物を炎に変え、自身も炎そのものになる。わかるか?あんたの相棒がどうなったか…」

「雪達磨…」

「そうだ…俺は触れた対象を雪達磨に変えられる。そして…俺はこうやって!」

青髪が両手を下にやる動作をした瞬間、周囲に出現する雪達磨達。

「雪達磨との位置をいつでも変えられるのさ…お分かりかな?さっき溶かした雪達磨こそ、あの女だったんだぜぇーーー!!!」

「…」

怒りはなかった、いや制御していた。今までは…

(そうさね、おそらく今までは魔力を乱さないため、怒りを制御していたんだろうが、今は無理だ。仲間をこんな形で失って正気でいられるはずがねぇ〜見出せよ魔力!その心をよぉーーー!!!)

彼は誰よりも期待していた。冷静でいることでその才能を遺憾なく発揮し、無類の強さを誇る。魔法とは、平たく言えば精神の勝負。

どれだけ緊迫した状況、不利な状況、覆せない現実の前にあっても、精神を乱せばそれだけ威力は分散し、精度を格段に下がる。

だからだ、怒りや悲しみの感情を爆発させるだけでも帰って不利。無駄な魔力消費が増え、その力は弱体化する。それが魔法使い同士の勝負。

だからこそ、ずっと連れ添ってきた相棒を失ったこの瞬間、ブラックに持って最も不利で、青髪にとって…

「フロロ…」

最も望んでいた状況である。

(このまま、完全戦意を消す!)

「なぁーーー!!!どんな気持ちだ?仲間を手にかけた気分は、自分の部下を、女を、相棒を…手にかけた気分わよぉーーー!!!」

煽る、ひたすらに煽る。そうして行くうちに彼の怒りは爆発するか、絶対に覆せない現実と罪の意識に持っていかれるかのどちらかになるまでひたすらに

(煽る!)

「おいおい、ほらほら言い訳しろよぉーーー!!!自分は悪くないとか、これは不可抗力で仕方のなかったことだったとかなんとか言ってよ、そうやって一生、言い訳の言葉で思考巡らせてろよ。でもなぁ〜一つだけ言っといてやる。テメェーの(ここ)に!刻んどけ…」

男は、ためた、空気を酸素をその肺に思いっきり溜めて、全力で…

「"お前が殺したんだぜぇーーー!!!"」

煽った…

「…」

ブラックは、終始無言だった…

(流石に折れたろ、心。あぁ〜あ冷静装ってるやつが怒り狂う姿も見てみたかったが、まぁーいい。おりゃ〜の目的は、ブラック・ナックルジャブの抹殺と設計図のダッシュ。これでオールクリアだ…)

ジャッキーはゆっくりと近づき、ブラックの頬に触れようとその手を伸ばす。

(触れたら終わり…)

「よく見たら…綺麗な顔しるでさ〜ね。」

その手が触れるのも残り数ミリと差し掛かった…

(ドタン!)

その瞬間、触れようとしたジャッキーの片腕が地面に転がる。

「…へ…」

「やっぱり…お前には美学が足りねぇ〜」

咄嗟に距離を取るジャッキー。

「なんだ…まだ正気だったのかよ…」

「いぃ〜や、怒りはあるさ、でもな…仲間の死を悔やんで狂ってやれるほど…俺はもうまともじゃねーんだわ。」

戦争、それを生きたい男の背中に死や血飛沫は大量にあった。

軍人としてだけではない、義賊としても大切仲間の死を多く見た。

だからこそ、男は強かった。冷静だった、乱れなかった…その揺るぎない意識はただ…

「そのかし、仲間の借りも返せぇーような薄情とんでもねぇーつもりなんで〜」

ブラックは、姿勢を作って…

「な!!!」

走り出す。

「あっぶね…」

ジャッキーはその足蹴りをなんとか避け、交わして見せた。しかし、先ほどまでの余裕わない…

(なぜだ…)

その理由の元は…


(なぜ…この腕が治っていやがらねぇーーー!!!)


そう、変化(フォルマ)の能力は自身の肉体にも反映できる、つまりは外部の物に影響を与える外界(アウト)だけでなく、増強(パワー)として応用することで自身の肉体そのものを雪の属性、性質に変換できるはずなのだ。

しかし、そうであるなら魔力を込めた時点で腕は治ってなくてはおかしい。

しかし、一向に治る気配が無い…

(どうしてだ、どうして…)

「どうした、利き腕が無いのがそんなに心配か?戦場じゃそんなもんいくらでもなくなるぞ。」

「うるせぇ!るっせぇんだよぉーーー!!!」

「やれやれ、そんなに心を乱してどうした。幼い顔のお坊ちゃん。」

それはさっきのやり返しと言わんばかりの煽り文句。

(まずい!)

しかし、それ以上にまずいのは…

熱波(ホット)

「うぁーーー!!!」

彼に触れられていること。

「どんだけ身体の性質を属性のままに変えられると言っても結局は、雪。その属性の弱点とするものには叶わねぇ〜か…」

その時、ジャッキーに芽生えた初めての感情。

(殺されるぅ!)

死への恐怖。

「でも安心しろ、お前は殺さねぇ〜」

「まっ…マジ?」

「こいつじゃ〜な…」

そう言って、ブラックはさっきのジャッキーと同様に、尻餅をついて冷え切った大地に座るジャッキーの頬に触れ…

「俺も刻印を持ってるんだ…」

その翼を広げた。

右翼はカラフルなインク、左翼は墨の黒。

「これがどう言う意味か…べちゃくちゃ喋ってたお前ならわかるな…」

「まさか…」

「お前は…"何色の血で死にテェー"」

「ひ!」

その瞬間、グチャ!と言う音と共にジャッキー姿は消え、あたりにはカラフルなインクだけが残った…

「血液中の血液を、俺の魔力でインクに変えた。刻印同士の相殺、変化(フォルマ)変化(フォルマ)を重ねればどちらかが相殺されて元に戻り、そんで持って元の肉体には…ちゃんと血が通ってたんだな。雪合戦やろぉ〜」


彼は死んだ…国家の秘密兵器である彼は最恐義賊の男の手によってうち砕かれた。

「ブラボー!ブラボー!」

「ん?」

背後から現れたのは、筋骨隆々な色黒のスキンヘッドの男。

「おっさん、誰?」

「私の名は、マキシム。マキシム・ジャンキーだ。」

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