第六十話 白の死神
「そうか…あんたが…」
その瞬間、背後から聞こえる男の声に、メスが止まる。
「お久しぶりです…ブラック坊ちゃま。」
「そうだな…久し〜なぁ〜」
背後にいたのは、タトゥー。
(先程まで倉庫にいたはず…)
マリオネットは、知るはずのないタトゥーの居場所を知っていた。
そして彼も…
「…怪盗・ホワイトさんよぉ〜」
マリオネットの正体を知っていた。
「なんの…ことでしょう…」
「とぼけんな、白いメス。隠したみてぇーだが…サーバル!」
タトゥーがマリオネットの方へ放った一匹のサーバル。
「ガブ!」
マリオネットは、反撃することなく、そのまま噛まれた。
「血がでねぇ〜、そしてその模造の様な断面。…やっぱり、あんたがホワイトで…間違いなさそうだな…」
「ふ〜…」
マリオネットは深くため息を吐き…
「何のことでしょう?」
と、あくまでシラを切る。
「そうかい…でもよ、考えてみりゃぁ〜よぉ〜当たり前なんだよなぁ〜…」
「何がです?」
そこに…その瞬間…周囲の空気が黒いインクに染め上げられた…
「あんただけなんだよ…行方不明になった奴らを除いて…ホワイトテラスの国長室に…入れたのは…ゴブニュの友人であり、子供の頃からの繋がりを持つあんただけだ…」
そう、それは…ベシルの語ったゴブニュの過去…
"ベスルに、自分の大好きなお店を見せたいとゴブニュはベスルを古本屋に連れてきた。"
そう…あの古本屋の店主の名は…
「ヴァノン王の納めた地、小国アルケミス…その息子、ゴブニュ・ハンマーギアークが愛した古本屋の店主…あの人がよく話してくれたぜ、あんたのことをよぉ〜」
タトゥーは、血が出るほどに握りしめた自身の手を開いて…
「マリオネット…セシルガーネット…いや…」
その指を…男に刺した…
「国長を殺した殺人犯人にして、子供攫いの大犯罪者…怪盗ホワイト…」
その目は…その魔力は…静かに…憧れの人を殺した怒りと、未来ある子供達を親から奪う外道に対する憎悪と怒りで燃えていた…
「貴方は少々…勘が良すぎる…」
一斉に投げられた白いメス。
「芸がねぇーなぁ〜サーバル!」
刺青から具現化した獣は宙を舞うそれを爪と牙で弾きマリオネットに返す。
「なぜ…」
視線の先に男はいない。
「あの場からここまでどうやって?」
マリオネットは、袖から白いレイピアを取り出し。
「奴さんと同じさ!」
タトゥーもまた、刺青を具現化した薔薇でそれを絡めとる。
(水魔法によるインクの分身か…)
「ホッホッホ…厄介ですねぇ〜その魔力。」
「奴さんこそ、その剣もさっきのメスも、取り出したんじゃ無くて作り出したんだろ。」
「ホッホッホ、見破られていましたか…」
二人の巻き起こす、一心一体の攻防。その最中、両者は互いの武器をぶつけ合って対談する。
「そうか…貴方の魔法はインクで描かれた全てのものを具現化する。そしてその耐久力、火の魔法で一瞬にして描いたそれを乾かすことも可能と…」
「やれやれ、そう言うあんたは"シリコン"だな。その滑らかな触り心地とその強度、そして変幻自在なその形状は間違いなくそうだ。その剣も全ては体内で生成したシリコンによるもの。つか、奴さんの身体もシリコン性かな?」
「ホッホッホ、鋭い…やはり勘が良すぎますよ本当に…厄介です」
タトゥーの確信をつくような発言に、マリオネットは睨みつけ、続きを言う前にその一手を打つ。
「では、こう言うのはどうでしょう。」
マリオネットは、手を広げて見せ。
「ん?」
「白き操り道化」
全身が、凶器によって武装された人形が、タトゥーを襲う。
「ひゅ〜、マジにきついぜ…これは…」
タトゥーはそう言いながら、10体以上はいるであろう取り囲む敵を前に
「染料防壁」
黒いインクを球状にして、襲いかかるそれらの武器を止め。
「黒剣」
インクの壁から無数の剣を生やして周囲の敵の脳天を貫く。
「創造と…生成…どっちの力が上か…白黒つけよぉーかぁ!」
そう言って、加速を使い、マリオネットに急接近。
「なぁ〜あの人のこと…本当はどう思ってたんだ?」
そうって、黒い魔力で覆った拳をマリオネットの度出っ腹に差し込み。
「黒拳」
マリオネットは、その一撃で倒れ、病室の外に吹き飛ばされて、その先の建物の壁にぶつかって地面に落ちる…
「よっと!」
タトゥーは、病室から道に出て男の前に立ち…
「しまいだ…」
タトゥーは、タバコをふかして帽子を整え静かにそう呟いた。
「最後に聞かせろよ…どうなんだ…」
マリオネットは、まるで本物の人形の様にして微動だにせずその場に倒れている。
「そうですね…」
しかし…その口共にピクリと指先が動き…
「強いて言うなら…」
グゥと拳を握る。
(やれやれ…)
タトゥーは何かを悟ったその瞬間…
「"便利りな操り人形…ですかね"」
(グサグサググサ!)
タトゥーの背後に、さっき退けたはずの人形達が全ての凶器をタトゥーの背中に刺した。
「さよならです…」
マリオネットは、不適に笑ってそう言った。
その後、マリオネットは立ち上がり誇りを払って歩き出し…
「貴方はとても強いお人だ、しかし…あまりに固執し過ぎた…あの男に…」
それは、ゴブニュ・ハンマーギアークのこと…それの復讐のために、自身に向かってきた愚かな男に対する最大の侮辱…
しかし…そんな言葉は死者となった彼には届かない…はずだった…
「やれやれ全く…」
タトゥーは生きていた。
「ここまで救いようがねぇーとはな…」
そしてその言い草は、騙されその身とは思えぬほどの余裕と、上から目線な態度をはらんで…
「がっかりだぜ…」
黒い、墨のように黒いその魔力を纏って刺さった全ての剣を周囲に弾き、その一部は静止するマリオネットの頬を掠め取る。
「なぁ…」
しかし、マリオネットの視界にはそれは映らない。黒いそれは全く眼中になかった。そう、マリオネットの目に映るのはそんなちゃちなものよりもっと恐ろしいもの…
それは…
「飛びたいだ…大空を自由に…鳥みてぇーにな…」
それは、黒い翼の刺青。
(バサ!)
そいつを一本むしり取って、タトゥーはその羽で宙に絵を描く。
その瞬間、マリオネットの目に映る景色は白く。まるで描き出すための白紙のボード。
その通りに描かれる虚空というなのスケッチブック。
そうか、その時マリオネットは悟った。
彼にとって…この世界は描くためのキャンバス。
今までいるこの景色こそが、彼がこの世界に対する視点。
そして、それがどれだけ恐ろしいことか…どこでも、どんなものでも制限なく世界中のどこにいても描き上げるその能力と技術が…マリオネットの目を恐怖に染めた。
(刺し合うべきではなかった…もう遅いですが…本当に運が悪い…私は…こんな恐ろしい者を相手にしているなんて…)
マリオネットは自覚した、彼の背中の刺青が、その発言からも読み取れる様に、それがただの刺青で無いことを…
「刻印…ですか…」
それが宿ったのは約250年前…
「おぎぁー!おぎゃー!」
泣きじゃくる赤子の背に…
「まぁ〜」
「これは…」
あるはずのない…奇怪なそれ…
「翼の…刻印…」
それの名は刻印。
本来魔法使いとは、自身の心の実体化である魔法の、本質。
つまりは、自身の心のうちと向き合ってその力の練度を高めていくもの。
しかし、刻印は他の者が時間をかけて修練して手に入れるそれを、生まれ持って全身に刻み込まれている。
それすなわち、本質が生まれながらに視覚的に認識できると言うこと。
勉学において、見聞きして体験して理解する様に、彼はその本質を人よりわかりやすい形で持っていた。
さらにわかりやすく言うならば、修練の向き合うと言う手順を生まれながらの才能で終えてしまえると言うこと。
生まれながらに、歴戦の魔法使い達と同じレベルに立てると言うこと。
自分オリジナルの魔法陣を生まれながらに全身に刻み込まれている…ここまで言えばその凄みが理解できるだろう。
「キャーーー!!!」
しかし…
「異端児だぁー!異端の子だぁーーー!!!」
時に、行き過ぎた才能は人に理解されない。
ましてや、刻印の才能は数千年に一度あるかないか…そのレベルの才能を持ってしかも、その見た目はどう見ても刺青のそれ…
皆も考えて欲しい、生まれながらに自身の子供の身体に刺青が彫られていたらどう思う?
それでも君たちは、彼を愛せるだろうか。
きっと、平和な世界にくらす現代の者達は愛せると言うだろうが、彼が生まれた年はまだライト・ドラゴンヘッドが影も形もない頃。
対戦末期の、小国同士のぶつかり合いの最も激しい時期。
聖貴族の大元である十器教団の布教もあり、異端審問官達が闊歩するそんな時代。
他人と違うと言うことは、すなわち異端。
彼は差別と迫害そして…
「オラァーーー!!!」
「きっもち悪りぃ〜」
いじめを受けた。
彼の背中に宿ったのは黒き翼の刻印は、投げられた石で折られて飛び立てない。
そんな気がする暗い生活。
「ママ?」
「くるなぁーーー!!!」
母親はそんな子を産んだ者だから、それがいつか異端審問間にバレたら、それを産んだ自分処罰を受けるだろうとやっきになって息子に食器を投げつける。
毎日、毎日、彼の日常に希望などなく、まさに…
墨の様に真っ暗だった。
"(そんなクソッタレな現実を変えるため。とった最初の行動が…)"
「オラァ"ーー!!!」
"(喧嘩…だった…)"
戦争末期のこの時代、10を超えた少年達は戦争に駆り出される。
特に小人族の状況は厳しく、続々と侵略され奴隷は増える一方。
そんな状況で、軍事訓練学校で起きた3020事件。
そう、そこにいた将来の軍人になる生徒3020人がある少年一人に半殺しにされ戦闘不可となった。
「貴様ぁーーー!!!」
「取り押さえろ!」
当然止めに入る大人達をおも、蹴散らし、その一連の事件は雪地帯に住む小人族達の国。アイスフローの国中人しれわたたった。
その結果…
「オラァ!」
「がはぁ…」
彼らその後も捕まることなく、その名は悪名として世間に知れ渡り。
懸賞金は積もり積もって9億6000万の首になっていた。
そんな彼がまとめ上げた義賊を名乗る反政府組織、通称…
「燃卑鑑の名にかけて!この仕事やり遂げだぞぉーーー!!!」
「「ヘイ!」」
その言葉に反論を唱える者はいない、彼らが仕事の前にボコしていたのは雪と氷柱の降るこの街一番の金持ちライアン・マック。
金をふんだくって身代金要求、その金は全て路上で野垂れ死にかけてる孤児やその親連中に渡す。
これが義賊、北国の冬将軍も顔を真っ青にして彼の名を呼ぶ…
「ブラック…ナックルジャブ…か…」
そこは街一番の高層ビルにして軍事訓練場、ジャックフロスト。
お湯も凍りつくその大地で、そのビルだけがあらゆる冷気を寄せ付けない暖房設備。
そこで飲むコーヒーは格別で、冬将軍は毎日欠かさずそれを飲み、戦闘53万の宇宙の帝王が載ってそうな椅子に腰掛ける冬将軍ことシモン・ヘイラー総督。
「ハッハッハ、シモン様。随分とその男を警戒していますな。史上最強のスナイパーの呼び声高いあなたが…」
そう言う男の名は、ジャンキー・マキシム大佐。
「きゃつはその域ではない、そもそもそれは全盛期の話であり。怪我の後遺症の残る今ではただ無力な老兵だよ。」
「そうですが、そうなると次はここにも攻めてくるかも知れませぬな。ハッハッハ」
「アッハッハッハ」
お偉いさん二人が笑い合う、冗談めいた過程の話し。しかしそれは…
(パリン!)
笑い事ですまなくなった。
「ヨウホウ、冬将軍。予想通り、襲いにきたぜ。あんたの物をな…」
そこは軍事の中心。兵器の宝庫。
入ろう者なら撃ち殺されて、蜂の巣になる。
そのはずの場所に、男は堂々と窓ガラスを破り、背中に黒い墨の翼を生やしてそこに立つ。
「ブラック!!!きぃーさまー」
「まぁまぁ、落ち着きなんし。ただのご挨拶だよ、それに警戒してももう遅いぜ。目的は果たした。」
その手もつは開発中の新兵器の設計図。
「まさか、何をするつもりだぁーーー!!!」
「ただのお遊び、街から税金巻き上げてこれ作ろうとしてんだろ。戦争なんて警戒したってどうせ起きないって、金庫は見逃してやるから今回はこれで…」
「待てーーー!!!」
彼は引き止める総督の叫びを無視して、数百階の高層ビルから身を投げ出した。
「ハッハッハ、肝の座った若人だ。」
笑う、マキシム大佐。
「笑い事ではありませんよ。マキシムくん」
「大丈夫ですよ、我々には彼がいる。」
そう言って影から現れた一人の少年。
「さ、ご挨拶だ。ジャッキー」
青い髪の少年。
「アイ…」
彼のその能力は、天下無敗の冬将軍すら恐れたのだ。
なぜなら…
「キャツの水魔法をインクや墨、黒鉛すら司り全てを具現化して操る。設計図もまた、鉛筆やインクで作られたそれ、それを具現化されればその性能を奴らに悪用されかねない。」
「問題ですな、ハッハッハ。」
「何を笑っておられるのです、マキシム大佐。こちらに秘密兵器がいるとは言え、奴の具現化能力はどの道具系の魔法おも上回る。兵器までもあちらにあっては…」
「チッチッチ、ご安心ぐださい総督殿。我々と理解しておりますよ、そのくらい。あらゆる魔法お持ってしても撃破不可の最強の問題児。必ず成敗して見せましょう。」
ここで疑問なのはいつも、金持ちや有力者から金品を盗み貧しいものに分け与えるブラックことタトゥーが、この場において設計図を盗んだのか。
「ねぇーねぇーブラックにいちゃん。」
「ん?どうした。」
「おやつは?いつもの金ピカな奴ママにあげるんじゃないの?」
「あ〜、ごめんな。今回はちょっと違うんだ。」
「え〜なんで?」
「それはね…」
今回、ブラックが設計図を強奪した理由は、他にもあった。
「テメェーら!よく聞け。お国様が設計しようとしている新兵器、核エーテル砲は空気中の太陽第六元素をかき集めてそいつの中にある二つの性質放射能とプラズマを分解。その上で、人工完全化装置でそいつらを巨大な一つの原子として固定化させてそいつら同士を再化合する。それによって生じる大きな力"核融合"を利用して打ち出す光線状の砲弾。こいつが一度放たれれば、半径数百キロメートル以内が吹き飛び、その倍の範囲にあらゆる原子を破壊する毒気が広がって二度と植物も怪物も人も住めなくなる。そうなりゃ〜…あるのは"最悪の未来"だけだ…」
そう、彼は悪用なんて考えてはいなかった。それが引き起こす最悪の想定を避けるために強奪し、そして燃やして処分する。それが目的なのだ。
「あのぉ〜ボス。それはつまりどう言う…」
「まぁ〜とにかく、こいつを燃やしとけって話だ。」
彼は、世界を揺るがす大悪党どころか世界を、核の脅威から救う"はずだった"。最高の英雄なのである。この後、起きる最悪の未来を予見していた彼だが、やはり避けられはしなかった…




