第五十九話 悪党
「狂って…やがる…」
目の前で、狂った様に笑うそれにビリーはとてつもない嫌悪感を抱いていた。
(ここから…)
しかし…
(逃げないねぇーと…)
そこには、不思議と…
(この場から、絶対に生きてやるんだし!)
身刃の恐怖を無かった。
現在、ビリーが隔離されているのは商都の倉庫街のどこか…縛り付けられているから簡単にはいかないが、ビリーはカポネから教わった日も抜けの技術を使って抜け出した。
(よし!)
そんなことを知っているのはなぜか?それも当然、カポネは裏社会に身を寄せた身。
いつ拉致監禁されるかわからないあのギャングストリートで、捕まった女性達を保護した後も教えていたこの技。
恩人の息子であるビリーにも当然教えていたのだ。
(取り敢えず、あの狂った女から離れるし。)
ビリーは走った、その場は暗く、灯ひとつない暗黒。
しかも、慣れないから余計に迷うはずの場所。
しかし、少年に迷いは微塵も無い。
なぜなら…
(ドカン!)
外から聞こえる激しい爆音。
(あいつらがドンパチやってくれるおかげで、何なとなく場所がわかるし…)
壁を伝い、慎重に地形を把握しながらも、外から聞こえるその音の方えと走る。
「どこ?」
(ん!)
それは小さな子供の声。
「暗い怖よぉ〜」
「お母さん!」
「「ゔぁ〜」」
泣き止まない騒音。
(まずい、音に気づいて奴らが来ちまう。…やっぱ俺だけでも!)
ビリーは、再び走り出そうと足を伸ばすが…
"ビリー君は凄いね!"
脳裏によぎったのは…白髪の彼…
「キッ…ド…」
だった。
「ん〜しゃあねぇーなぁ〜」
そう言って、泣き続ける子供の紐を解いて手を持って。
「お兄ちゃん誰?」
「俺氏は…そのぉ〜」
"僕の夢は、世界一の大英雄になることなんだ。"
「はぁ〜ヒーローだ。」
彼を思い出し、そして出たのは子供騙しの下手な嘘。
「ヒーロー!!!」
大きな声で反応する少年達。
「し〜、今ここは敵の基地の中だ。俺氏だけなら余裕だが、お前ら…いや、君達を連れてじゃ戦いにくい。これから、静かにしていてくれたら、君達を外に出す。だから、絶対、騒がしくしないでね。」
声色や、喋り方までヒーロー風に揃え、少年、少女達を騙すビリー。
「はーい!」
「しー!」
「は〜い」
皆わかってくれた様だ。
「よし!行くぞ。」
引き続きビリーは走った。
暗闇に微かながら目が慣れていきた。
子供達の鈍足な足に合わせ、絶対安全なルートを通るため、手持ちのビリヤードの球を使って足元を確認し、子供達の先頭に立って先導する。
「しめた!」
そうしているうちに、倉庫の扉と思われる場所から明かりが…
(あの光の量、微かだが空いてる。人一人分ぐらいはいける。しかも運のいいことに、ここに集められたのは全員ガキ。ラッキーだし!)
そう気づくと、ビリーは子供にこっちだ!と言わんばかりに手を大きく動かして合図を出す。
やった、これで出られる。
誰もがそう悟った瞬間だった…
「いけませんねぇ〜…脱走は」
背後に現れた白いマントにシルクハットの長身の男。
「嘘…だろ…」
ビリーのその言葉は、男から溢れ出る。ただならぬ"怪物"のオーラを感じ取ってのことだった。
「いえ、本当です。」
男は目にも止まらぬ速度で、懐に隠した白いメスを子供達に向けて投げつける。
(殺した…)
眉間に一発、誰もがそう思うだろ〜
(グルン!)
そのメスは、白い縄へと変形して当たった子供達は再び捉えられる。
「用心は必要だ、次は逃げられぬ様に!」
そう言ってポン!と言う可愛い音共に、出現したのは白いズタ袋。
それに、先ほどの縄をかけ縛り上げる。
「痛いヨォーーー!!!」
その縄は先ほどとは異なる鉄の様な硬度を誇る縄となっており、縛り付けられる側としてはかなり痛い。
「「うぇ〜ん!!!」」
子供達は泣き止まない悲鳴を響かせて、痛みを主張する。
「うっうっうっ…うぇ〜ん!!!」
ビリーの背後にいて、まだ縄に縛られてない子供達も、釣られて泣いてしまう。
(クソ!どうしたら…)
「諦める…他無いでしょねぇ〜」
それにしても、先から妙にビリーの心を読んだかの如く、会話している白いマントの男はなんだが奇妙だ。
「では…」
そんな違和感も束の間、男はビリーの方へとメスを投げつける。
(やべぇ…詰んだ…)
さらにます、殺意にた最悪の雰囲気。それを感じ取った身体は震え、足も腰も腕も頭も何もかも…思う様に動かない。
それは圧倒的な…
(恐怖!)
どうしたらいい、それでも迷わず収まらず、加減のない殺気のこもったメスは彼に投げられた。
"ビリーくん…"
再びよぎるニヒツの顔。
それと共に動く、ビリーの心。
(そうだな…あいつなら諦めねぇ〜…死んでも助けるって言いそうだよな)
その変化が…彼が、ビリーの世界を大きく変えて、そして…五感の震えを止め、それどころ俊敏にそして冷静に、その状況を対処させた。
「ちっ!しゃーねぇーなぁーーー!!!」
ビリーは、ビリヤードの球を取り出し…
「親父…もう一度力…借りるぜ!」
黄金のキューボールに祈りを捧げて、首に巻きつけたチェーンを壊し。
「一体、何をしようと…」
勢いよくボールを弾いてメスを落とし。
「気づいていっしか?俺氏がこの暗闇でどうやって動けていたか…」
そのまま何度も周囲を、キンキンと言う音を響かせ男の方えと、複雑な軌道を描いて近づいた。
(キューン!)
軌道の読めない黄金のボールに最初に選ばれたのは、1と書かれたボール。
(ビリヤードの…ボール…)
そう、ビリーは周囲にボールをばら撒き、あった場所の音を聞いて、周囲の地形をある程度把握さしていたのだ。そして、ビリーは放ったボールの位置を正確に記憶しており、それを弾くことで男に複雑な軌道を描くボールを当てた。
「しかし、こんなものでどうなると…」
「確かになぁ〜それが、普通のボールならお前に当たったとて意味はねぇーだろぉ〜…普通のボールなら…な…」
マントの男を掠め取ったそのボールは、着弾と共に煙を吹き出してマント男の視界をくらませる。
(手榴弾!)
「ガキどもーーー!!!痛えの嫌だよな、お母さんに会いたいよなぁー!」
「う…うん…」
「だったら…」
その言葉、少年少女達の心に響き渡った。
「とっとと走れーーー!!!」
「うぁーーー!!!」
そうして、縛られず生き残った子供達は一斉に扉の方へと走り去り。
「2番!出番だ。」
動き出した2と書かれたビリヤードボールは蜘蛛の様な足を生やして全員のロープを切り裂き解放する。
「くっ!そうはさせません!」
しかし、敵も視界の悪い煙を掻き分けるため、マントの風圧でそれを打破して動き出す。
「なに!」
しかし、目の前に飛び込んできた景色は子供達の姿ではなく、飛び上がって落下してくる大量のトラックのトレーラー。
「1は手榴弾、2はゴーレム、3は爆弾…」
ビリーが種を明かしてくる中、マントの男は落下してくるトレーラーを華麗に切り裂く。
「なぜ…こんなものを…」
「悪りぃ〜し、うちの保護者は少々心配性でね。護身術やら、縄抜けやら、こう言う小型のちょっとした武器やらを俺に渡してるんし。まっ、あれよ、子供舐めんなって話し。」
ビリーが言っていることはもっもだ、本来人を攫ってくるなら、身体検査やら荷物検査をして凶器などを所持していないか見るのが上等。
しかし、彼らはたかが子供とたかを括ってそれをしなかった、結果。
荷物は没取しているものの、懐に隠してあった折り畳み式のキューとそのボールを使ってここまでされてしまったのだから…
「なるほど、その意見はごもっともでありますなぁ〜我々も不覚でした…まさか、こう言ったケースを避けてホームストリートの優等生をさらったのに、その中にギャングストリートのお子様が紛れ込んでいるとはわさ。」
男は、そう言って十の指の間にメスを挟み、急接近してくる。
「チッ!まだ4、5」
背後から高速で現れる追尾弾。
「なるほど4(フォー)&5(ファイブ)は歯のついた追尾弾…ですか…」
男はそう言ってシルクハットをクイッと動かし、片手のメスを地面に投げる。
「白い壁」
一瞬にして作り出されたのは白い壁。それは、追尾弾の攻撃を防ぎ。
「よし!今のうちに…」
「後ろ…失礼しますよ。」
現れた…白きマントの彼は…
(グサグサグサ)
背中に…まるで…手負の獅子を撃ち殺す狩人の如く…ライフル弾の如く投げられた…白きメス…
「貴方は…勇気ある人だ…」
そのまま、ビリーは意識を飛ばした。
「だからこそ…価値がある…」
男はそう言って倒れたビリーを持ち上げ…
「実験台として…」
ビリーが、ニヒツから受け取ったのは"勇気"、それを男は理解していた。
だからこそ、絶対に逃がさない。
彼に期待したのだ…この世で最も嫌悪すべき最悪な期待を…
「他は逃してしまったが、まぁ〜こちらを持ち替えればまだいいでしょう。我々には、新たな"ナンバー"が必要だ。それに、彼らは所詮は捨て駒。あの女…"女狐"を殺すための…」
「やれやれ…その件、話しを聞いてもいいか?」
そこに立っていたのは、タトゥー。
「ホッホッホ…まさか、最初に見つかるのが貴方なんて…我ながら運が悪い…」
本名を…
「裏社会、三恐の一人…ストリートギャングチーム燃卑鑑初代総長、刺青の"ブラック・ナックルジャブ"。」
「そう言うあんたは、第二次魔道対戦後、混乱する五大国の状況を逆手にとって子供達を攫っていく最悪の人攫い。対戦時の5種族を絶滅に追いやった大犯罪者、黒の死神ことベスル・ラブ・アンベシルの名と並ぶ次世代の大犯罪者。人呼んで…白の死神・怪盗ホワイト」
両者は静止し…瞬きひとつしない緊張の一瞬…
(キン!)
先に仕掛けたのはホワイト。
投げられたメスを紙一重で交わすタトゥー。
(動きが少ない…やはり最恐。)
タトゥーの動きは、ほぼノーモーション。
無駄な動きを省いた小さな挙動。
やはりこの男は強い、荒くれもの達の蔓延るあのギャングストリートを、制しただけのことはある。
(タッタッタ)
ホワイトは続けて接近、両手に持ったメスで牽制しつつ距離を積める。
「生きた芸術…」
タトゥーがそう発すると、その腕から現れたのは黒いサーバル。
「ガブ!」
「おっとと、これはこれは…元気のいいお子さんだ…」
「悪いな、うちのはちょっと気性が荒いもんでねぇ〜。」
生きた芸術
器:火×水
詳細:描いた絵を具現化する能力。描いたものは
全て具現化できるが、絵が緻密で構成であれ
ばあるほど具現化したさいの性能がます。
描くものや方法はなんでもよく、スプレー
アートから、水彩画、スケッチブックに描い
たイラストも全て具現化できる。
タトゥーは大体自身の全身に彫られた刺青を
具現化している。
(生きた芸術、噂には聞いていましたが、やはり協力。描きさえすれば全て具現化可能とは、まるで世界を創造する神のような所業。)
「こちらも、本気で行かなくては…」
ホワイトは、先程のサーバルに腕を持っていかれ、片手を押さえて彼を睨みつけている。
そして次の瞬間、立ち上がると同時に持ってきた腕とちぎれたぶんぶんを繋げて再生する。
「あれ?不思議だねぇ〜腕から血が出ねぇーとは。まるで…"お人形さん"みてぇーな断面だ。」
「ホッホッホ、そうですかな?気のせいでしょう。」
「そうだと良いんだが…」
ホワイトは再びメスを投げる。
しかし、次の狙いはサーバル…いや
(地面に…)
「白き刃の檻」
メスは巨大な刃へと姿を変え…
「マジか!」
タトゥーは、すかさず上空へと飛び上がる。
「白き剣」
背後に回っていたホワイトは、メスを片手に剣サイズにしてその背中を切り裂いく…
(ガシ!)
かに…思われた…
「悪い…な!」
タトゥーは、背後からの剣を腕で受け止め、それを持って目の前の地面から生えた無数の刃の方へホワイトを投げる。
「自業…自得だぜ」
「しまった!」
そしてホワイトは、自身の作り出した刃の串刺しとなって死亡した。
「おっと!…やれやれ、いつまでやってんだ死神。どうせ…偽物だろ。」
「ホッホッホ、わかっていましたか…」
ホワイトは、そのまま溶けて亡くなった。
「やれやれ…そんじゃ逃げなビリー。」
「あっあ〜タトゥーのおっさん、あんがとだし…」
「おう!大事な親友の息子だからな…」
そう、タトゥーとビリーの父アンドレアは元飲み仲間だったのだ。
そして、ビリーや子供達はその場をさり…
「やれやれ、確かよっと!」
タトゥーはそのまま、加速を使いつつ、奥へと進み。
「ありゃま、逃げらちったか…」
先程まで、ツギハギが監視を行っていたコンピュータルームには、すでにその姿はなく。
当然、コンピュータはもれなく壊され証拠も消えていた。
「キャハ!、本当は少し暴れたかったですが、今回はそう言う感じじゃないんで、そんじゃお暇するっすよ。」
その頃ツギハギは、倉庫外の中央エリアへと向かい。
いつも通り仮面を被って…
「はぁ〜これでよし…」
身長も背格好も顔立ちも性別も全く違う街を巡回する一般の魔法騎士団の男性の姿となり、街のどこかへ消えていった。
こうして、ハート盗賊団の協力もあり、連れ去られた商都市民の子供達の隔離された倉庫外の一帯をハート盗賊団の協力もあり、十数名の行方不明者を出しつつ無事救出された。
(タッタッタ)
だが今だ、戦闘は続き、戦いは熾烈を極めるこの状況で…
(ガラガラ!)
今だ意識の戻らないシロムの元を訪れた男が一人…
「大丈夫ですかな…シロム少年は…」
シロムのベットの横で心配そうにしているセイラの方をポンと叩く男。
「あ!貴方は、古本屋の…」
その男の名は…
「マリオネットおじさま。」
「はい、久しぶりですね。セイラ様。」
そこに現れたのは、マリオネット・セシルガーネット。ギャングストリートにいた古本屋の店主だ。
「どうしてここにいらしたのですか?」
「ホッホッホ、それは勿論。友人であるシロム様が心配になったからですよ。」
「友人?」
セイラは少し疑問だった、あれだけ僅かな時間しかあっていた人間を友人と呼ぶマリオネットのことが…
「確かに、時間は少なかったですが、人と人が目と目を合わせる、顔を認識し、会話という繋がりを持った時点で、それは他人を逸脱した何かなのだと、私は感じています。」
「…そう…ですわね…」
セイラは振り返り、シロムとあって短いのは自身も同じだと認識し、それと共にシロムの人を引き寄せる魅力に…羨ましさを感じていた。
「セイラ様、随分お疲れの様で、その様子だと二、三日寝ていらっしゃらないでしょう。ここは私が変わりますから、どうです?少し休まれては…」
「いえ、ワタクシはここにいます。ここにいるか馬鹿は最後までワタクシを見捨てなかった。守ろうとしてくれてたから…今度はワタクシが最後までシロムを守ります。」
セイラは過去を振り返ると同時に、シロムのあの言葉を思い出し、シロムが倒れ病室に運ばれたあの時からの決意を再確認して、マリオネットにそう伝えた。
「そうですか…それは…素晴らしい心がけですね。」
「そんなことありませんわ。ただの受け売りです…」
「…ではせめて、お紅茶でも…いかがです?」
マリオネットは、鞄から保温効果のある水筒とオシャレな紅茶のカップを二つ取り出しそう言った。
「ありがとうございます。ありがたくちょうだいいたしますわ。」
セイラはお嬢様らしく受け取ったそれを上品に持って、口に入れた。
「ふぅ〜…とても美味しゅうございましたわ。」
「そうですか…それは良かった…」
しかし、次の瞬間…
(あら…なに…かしら…)
紅茶を飲んだ瞬間、急な眠気がセイラを襲う。
「はぁ〜、ようやく手筈通り。セイラ様を貴族国に引き渡せる。」
その時のマリオネットの雰囲気は、まさに悪党。
まるでわざとセイラを眠られせた様な口ぶりで
「すみません…シロム様…」
シロムに、"白いメス"を突き立てる。
「死んでください…」
「そうか…あんたが…」




