第五十八話 二匹の怪物
「そこか!」
点火する炎と共に、その刃の断つは"彼の"待つ幻想空間。
(ジャキン!)
それを、その一振りで裂いたのだ。
「ふっ…うははっはっはっは…はぁ〜。全く…飽きさせないでござんすな。お主は…」
中には、目的のものは無く。空箱叩き分とも言えるその状況。しかし、彼は悟っていた。
「リップさん、ありがとうございます。」
先程まで、リップに膝枕をされていたはずの弱々しい少年は、今や誰も気づかぬ刹那の時で、自身より一回り以上デカい成人女性をお姫様抱っこしながら運べるほどに回復していた。
「あっ…あんがと…」
「はい!どういたしまして。」
リップは、一瞬のことに驚きながら頬を赤くしてキッドを見つめている。
「どうしたリップちゃん、まさか年下に恋心〜」
「うっさい!」
「痛ってぇ〜」
BADのふざけたノリを、手で叩いて聞かせるリップ。
「皆さんありがとうございます。ここまで助けいただいて…」
そこは、項垂れた戦士達が倒れる戦場。青天井、開かれたそれは白髪の髪をダイヤモンドの如く輝かせ…
目に宿る闘志は、太陽すら焼き尽くさんとする無類の力を感じさせた。
表すなら…
「白い…怪物…」
表した魔力のビジョンは不定形で悍ましく、荒々しく獰猛な獅子のそれ…
「ここからは僕に任せてもらえますか?きっと…お役に立って見せます。」
そう言い切って背を向けるキッドに…
「そうかい、ならまっ精々その王子様フェイスを傷つけんなよ。白王子。」
「はい!」
BADとスモークはこの場を彼に託して後ろを振り返る。
「はぁーーー!ちょっと、あんた達何言ってんのよ!あんな無茶苦茶な奴一人じゃ…」
「大丈夫ですよ、リップさん。」
「え、でも…」
「勝ちます。」
いつも強気で無鉄砲なリップが、珍しく心配している。しかし、そのたった一言、少年の言い切ったなんの根拠もない自身溢れるその思いを聞いて…
「あっそ!勝手にしな。ただし!…死ぬんじゃ無いよ…」
「はい!修行の成果は必ずお見せします。」
そう言って二人は離れた、
「さぁ…戦場で踊ろうか…赤き瞳の少年よ…」
そんなうちにアグリオスはそう言って手を前に出し、こいこいと煽りながらこっちを睨む。それも猪突猛進、何者も止められない絶対不可避、紅蓮の猪。
「望むところです…」
二体の怪物が再び交わる時…
(グラグラグラ…)
戦場に、地響きが走る。
「「さぁー!」」
その後の言葉は何者にも聞こえない。まるで唸る獅子の如く…交わされた…怪’物’の’言’葉’。
あえて表すなら…
「「グァーーー!!!」」
"咆哮"、その言葉に尽きる。
(バンーーー!!!)
鳴り響く騒音、核兵器でも落ちたかの如くの衝撃。ありえない、これが…これが人の形をしたもの同士の戦いなのか?
「うっ!はぁ!」
ぶつかり合う剣を逆手に取って先手を取るのはアグリオス。
(避けたか…)
しかし、紅蓮の如き炎の一撃を紙一重で交わすキッド。
「はぁーーー!!!あ"」
再び轟音が鳴り響く。
「威力十分、良くぞここまで…」
それは、先程と同レベル。いや、それ以上の一撃。核兵器や原爆が落ちたその一瞬の衝撃の数十倍の威力。それを軽々と、冷静に分析しなが対象する彼もまた狂人。やはり、どちらも常軌を逸している。
(やはり凄まじいな、この少年の才能は…"魔眼使い"としても魔法使いとしてもまだ荒削りで未熟だが、しかしだからこそ恐ろしい。なぜなら、目の前で彼が今この破壊力を作るために使用している武器に魔力を纏わせると言う芸当は本来、魔法使いが無意識のレベルで行えるほどに容易い、言うなれば初歩の初歩。それを使えるようになったただそれだけのことだ。例えるなら赤子がハイハイから歩き出せるようになった程度の進歩でしか無い。それだけで、たったそれだけでこの威力…末恐ろしいとはまさにこの男のためにある言葉よ…)
そんな推測を立てるアグリオスに情け容赦なく襲いかかるもう攻撃。
(しかし、しかしだ…残念だったな少年。)
アグリオスは乱撃を避けるためか、後方に大きく飛び上がり。
「迅雷…」
例の構えに入る。
(くる!)
(足りんよ…)
「足りぬよう早さがぁ!」
その一撃は、雷鳴の如き衝撃と閃光の如き速度でキッドのいるその直線上を一瞬で居合し、切り裂いた。
「ほほぉ〜…やはり、腐っても魔眼の使い手か…」
しかし、キッドはその一撃を見切った。そして、通り過ぎていった彼の剣は真っ二つに折れている。
「剣速、早めたでござんすか。期待通り、死合へそうだ…」
その瞬間、男の手に凄まじい豪炎が宿る。
「熱い…」
その温度は、まさに太陽。いや…
「この剣の名は…因果を立つ炎の剣。」
「因果を立つ炎の剣…」
「さぁ〜…戦いを続けようじゃ無いか?少年…」
紅蓮を纏うそれに、ただキッドは挑戦者としてそれの前に立っていた。
「ふぅ〜そんじゃま。俺様達は俺様達で」
(バーン!)
背後からヒーロー着地で降りてくる。光物体。
「子猫ちゃんの相手でもしますかね。」
「貴様ら!、倒される覚悟はできているか?」
「こりゃ、子猫と言うより、じゃじゃ馬だな。」
裏世界に名を轟かせた二人の悪党が光り輝く翼の天使を前に共闘する。
「で、子猫ちゃんは俺様達に一体どんなショーを見せてくれるのかな?」
「ふっ、案ずるな。ショーなど見せる間もなく終わる。今…この一撃でな…」
そう言う女の速度は光速を遥かに凌駕する彼方の速度。当然BADやスモークでは追いつけない。
「ぶね!」
しかし、BADは対応した。それは、推測からでる動きの予測。策士として戦況を判断する力と共に、騎士として培った予測能力の賜物である。
「悪いな、こっちはいつもアンチ光速の青い化物相手にしてんだ。そう言う感じの奴の対策は見飽きてんだよ!!!」
そして、話し込み隙を見せたBADの背後から再び襲うヒルデの剣。それに気づき背後のレイピアを、青き光刃を纏う大剣で砕き折る。
「レイピアは繊細なんだ、荒い使い方じゃ〜すぐに折れちまうぜ。おねぇ〜ちゃん。」
「ふっ、そうか…ならば。」
ブン!と言う音と共に女の手元に出現したのは、光の大剣。
「少し、本気で行こうか…」
「威勢がいいな、嬢ちゃん。好きだぜ、そう言うの…」
競い合う二人の剣は、光速の残像。それは、例えるなら数十億光年単位で距離が離れる宇宙を横断する渡り鳥。鉄と鉄のぶつけ合い。BADの使用する最新鋭のエーテルブレードと彼女の使う光の剣。どちらも互角。本人の実力だけならば…
(ジャキン!)
光の剣、それは光速の振動による振動波ブレードと光の純粋なエネルギーとなって重力の重みも、体の制限も失った速度の極地。しかし、物体で無ければ本来は、干渉てきない。だって、あまりにも純粋すぎるエネルギーは無いのと同じ、それは至極簡単なリクツ。
威力とは、干渉力とは、破壊力とはすなわち…スピードと体重が合わさって生まれるもの。しかし、エネルギーに重みは無い、無いからこそ何にも阻まれずに行動できる。すなわち最速、一才の不純物、無駄を背部いたそれなのだ。だからこそ、エネルギーと物体状態を切り替える必要があるのだ。そのラグは一瞬の隙が生死を分ける戦場において最大の欠点。そのはずだ、しかしこの女のこの剣はそれが無い。
(ジャキ!ジャキ!ジャキン!)
すなわち、その速度は非有表現無しの正真正銘の光速の剣撃。そして、今切り裂かれているBADの肉体は光速の剣による傷。
「ぐぅ!」
あまりのダメージに、ポーカーフェイスは崩れ声が漏れる。
「ほら、言ったとおり…」
「あ"ぁ〜」
攻撃がやむと同時に、傷だけのBADはあまりの痛みに膝をつき、倒れそうな身体を剣で支えて頭を下げる。
「"ショーなど見せる間も無く終わり"…ましたでしょう?」
強い、しかし悔しいことに相手には膂力が残っており接戦とは程遠い。そして現状、膝をついてその場にうずくまるBADになす術はない。
「貴様も、どうせ死ぬなら早い方がいいでしょう。安心しなさい、光の速度で楽にしてあげますから…」
女の背後に作り出された無数の光の刃。
「終焉の祝福あれ(ラグナロク)…」
輝き放ち放たれたそれはBADの全身を一瞬で貫き、大爆発を起こす。
「ファーファッファ、全く持ってくだらない。自身の力量も計れんとなど、愚の骨頂。まさに…"愚者久々に笑わせていただきました…」
そのはずだった…
「待てよ…おい…」
そこに現れたのは、灰色の煙。
「こんななりだけどなぁ〜こいつは身共の弟なんだ。殺させやしねぇーぜ…」
それはスモーク。
「なぜ、貴様が…」
「あれ?さっきの男には伝えたが痴れはまだったか…あいにくと、"そう簡単に死ねないんでね"」
巻きつくコード共に、復活する不死身の肉体。
「再生か…ならば!」
女は、スモークに光速で接近し…
「次は、塵すら残らぬほどに粉々に切り裂けばいいだけのこと」
その剣が届きかけた瞬間。
「悪いが、それはお断りしよう。」
周囲を漂っていた煙が固体化し彼女の動きを止める。
「こんな小細工、光の前では無力!」
しかし、ヒルデはそれを抜け出すために、自身の身体をエネルギーと化して抜け出そうとするが…
「なに!」
なぜが、あらゆるものの静止を受けるはずのないエネルギー状態の彼女をその煙はとらえていた。
「黒煙」
その目は白と黒を反転させ多様に悍ましく、そのコードは黒い血を通わせる血管の如く黒く染まりいくつかに枝分かれした尻尾のようになって、髪は黒く、頭には黒煙のツノを生やす。
「あいにくと、光に負けるのは尺に触るのでね。」
「これは…」
光と闇、それは相反する属性。光すら喰らう闇と光を祓う光、どちらとも相性不利の相殺関係。その二つを隔てる壁はただ一つ…
「魔力…練度…」
「ご明察」
発した闇は、全身から漏れる黒煙のように悍ましい悪魔の亡馬。
「悪いりぃ〜お兄ちゃん。」
「何がだ?」
スモークは、目の前の女を目の前で固定した状態で今だ剣を支えに膝をつくBADを見る。
「もう少し…時間稼いでくれるか?…」
「ん?…まさかお前…ふっふっふ…よかろう。貸しにしとくぞ。」
「あんがとよ、お兄様…」
「ふっ、構わん。案ずるな…」
そう言って、膝をつく弟を庇いながら善戦する兄。
こうして、開戦の狼煙を上げ始まったこの戦い。それぞれの思いが、それぞれの場所でぶつりあう。
「シャー!シャ!、奴さんみーけ」
「お〜お、奇遇だね。君が例の白蛇くんかい?」
出会うのは、商都襲撃時にホークと戦った白蛇ことガルズガンドと十三騎士団No.2ドクター。
「シャッシャ、そうですぜぇ〜旦那…」
地上では、そんな熾烈な戦いが繰り広げられ中で、それを高らかとみやげる者が二人…
「カー!カー!」
戦闘を中のニヒツ、BAD、スモーク、ドクター、サボエラ、リッチ、スコーピオンの五名の頭上に"赤い鉤爪"を持ったカラスが数羽。
「キャハハ!キャハハ!キャハハハハ!!!」
笑い狂う、般若の女。
「はぁ〜、まさかここまで計画通りになるなんて、驚きっすよ。第0段階で、この国の全システムを管理する王の五剣にして五大国一のホワイトハッカー"ラモラス・ランサドール"っちを虚の持つ"例の目"で捕縛し、この国の監視システムを弱く(ナーフ)させたっす。その上での第一段階、侵入者としてあえて目立って入ることでっすね騎士団の目をこちらに集中させるだけでなく、国中の一般人共一点に集めることで"子供達"を回収したっす。」
彼女はつらつらと、計画の内容、それによってもたらされた結果を話しながら目の前の時空の裂け目のようなもの越しに戦いを、どこかの倉庫で見ている。
「第二段階"フェードアウト"は、第一段階と同時進行でやったす。敵に十三騎士団がいることもわかっていたっすし、それに連らぬものもとい、傭兵界の伝説、捕縛は出来なかったすけど元・商国マフィア、三恐の一人カポネ・アリシアを戦闘不能にできた…くくぅ…」
そうしている彼女は、突然と笑いを堪えるようにして…
「キャーーーハッハッハッ!」
また、あの薄気味悪い笑い声を響かせ。
「ベスル…ラブ・アンベシル。あの女をあの空間に帯寄せれたのは本当に良かったっす。これで全てが上手くいく…あとは頼みましたよ…教団の皆さん。」
その光景を背後で、何か白いロープの様なもので縛られながら見ている…
「く…狂ってやがる…」
ビリーであった…。




