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それが何なのか私は知らない  作者: ゆめのせい
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魔法使い







「さて」





彼女が載せられていった車が見えなくなるまで見届ける。


今回、当事者の自分を助けるために身を呈して頑張ってくれた第三者だった女の子。

今頃は遅れてやってくる疲労に早くも眠ってしまっているのではないかと想像して、その姿を頭から消した。

本題に入るべく改めてシエンに向き直る。




「報告を聴くよ。どこまで調べがついた?」




「合流する五分前ーー今から十五分ほど前にホシの拠点にて先に到着していた魔導班が燃えている倉庫の消火活動を終えたと報告を受けました。その後は未だ周辺の捜査に当たっている最中です」



「俺が捕まった時、倉庫には大量の木箱があったよ。そこで噂の“紫砂(シサ)”を見つけたよ。脱出の際に試しに使用してみたんだけど…多分実行犯の二人はもう生きてないんじゃないかな」




その時の光景を思い出しながらそう言うと、俺の口振りや雰囲気から何かを感じ取ったのかシエンは空気を凍らせた。



「それは…興味深いですね」


「で、これがその時のおすそわけね」



ズボンの後ろのポケットに手を突っ込んで、丁寧に折りたたんだ紙袋の切れ端を渡す。

シエンは手袋をした手でそれを受け取ると、小さめのビニールの袋へ慎重な手つきで仕舞った。



「やっと尻尾の毛先一本くらいは掴めたかな」



呟いた彼の瞳の奥に揺らめく光りをみて、シエンはため息を吐く。

それは少し狂気じみていた。

そしてその狂気は、時として己や関係ない人物まで犠牲にしようとするのをシエンは知っている。




「それでももう二度とこんな無茶しないでください!〝ホシを特定したから今から捕まってくる〟なんて連絡を受けた日にはゾッとしましたよ!!」



「ちゃんとバレないギリギリラインで探知魔法発動させてたんだからいいでしょ。接触する前にシエンに追跡依頼かけたから今回のは単独行動でもないよ」



困った顔をさらに困らせて強く抗議してくるシエンだが、このやり取りも最早恒例化しつつあるので俺は軽く受け流す。



「あなたの探知魔法は精巧過ぎてバレない分追跡もし辛いの知ってるでしょう!?現に時間もかかりましたし、誰かさんは人の気も知らないで禁止区域(イエローゾーン)に入るし!」


「それはごめんって。計算外の事態があったもんだから」



珍しくくどくどしつこく叱言をとなえて叱りつけてくるシエン。

流石に耳が痛くなり、それならこっちも言いたいことがあると食ってかかった。



「さっき、部外者の前で2回も凡ミスした人にあれこれ言われたくない。〝数分前に火災の通報を受けた〟とか……()()()()()()()()()()()の俺たちが数分前の通報でこんな遠くの田舎村まで来れるわけないだろ!俺たち国王直属組織ウロボロスの捜査内容は基本極秘なんだから、細心の注意を払って言動してくれ」



「うぅっ」



「それに比べれば、ある程度計画通りにことを進めた俺の方が幾分かマシだと思うけど?」





そう、探知魔法の追跡に時間がかったことも計画に織り込み済み。

男が怪し過ぎる布を持って「大丈夫、怖くない。いいところへ連れて行ってあげる」気色の悪い発言をして口元へ運ぼうとしたところへ助けに来た女の子だけが計算外だったけれど。



「それにしても…はは、面白い子だったな」



今回は捨て身の囮捜査だったが、先ほど目撃した輸送用の船が来た時間帯とシエンがここに辿り着いた時間を考える。


もし、あの子があの場で助けに入らなかったら、禁止区域(イエローゾーン)に迷い込まなければ、逃げ出したフリをしなければ。

俺一人で最初の計画通りの手筈で囮をしていた場合、ギリギリアウトだったかもしれない。

だからシエンもここまで怒っているのだろう。

彼女の時間稼ぎと運がなければ確実に自分は帰らぬ人となったのだから。




「あ、名前…結局聞きそびれたな」




そんなことを残念に思いながら、俺は再び現場へ戻るべくシエンの乗ってきた車へと足を運ぶ。

危険だった現状とは裏腹に、手にした手がかりと思わぬ出会いに胸の内は軽かった。

ああいう予想外なら、いくらでも歓迎しよう。



「そういえば、いつまでその姿でいるつもりなんですか?()()()()()


「え?ああ、忘れてた」




彼に指摘されて初めて自分が子供の姿に化けたままだという事に気づく。

丁寧に施した魔法式を一つ一つ解除していくと、見慣れた金と緑色の光の粒が身体を包んだ。


子どもの時のあどけなさが一変して背はシエンとほぼ同じくらいに、しかし細すぎず適度に鍛え上げられた体を同じ黒いスーツに収めた姿へと変わる。

はたから見れば、一瞬で十歳未満の子どもが20歳前後の青年に成長したみたいだった。



「ま、どの姿でも俺は俺だよ。()()()()()


「その名で呼ばないで下さい。……だいぶ変わると思いますけどね」



何度見ても慣れないが鮮やかな変身魔法。

組織の中でも上位である彼の洗練された魔法さばきにシエンは心の中で称賛する。

オーディンと呼ばれたレオンくんだった男はシエンが運転する隣の助手席に座り、その間に内蔵されている電子時計を見て微笑んだ。




(何も知らない貴女はそれを知ったとき、どんなリアクションをするのかな…ねえ、おねえさん?)




七月十六日、時刻は午前二時四十四分。




眠るシャロンはまだ、未知の存在に化かされたことを知らない。




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