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それが何なのか私は知らない  作者: ゆめのせい
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不可抗力です。





かける力も極力抑えたし。

脇腹に入ったのだって相手が背の低い子供だったからで狙ったわけじゃない。

物理的な不可抗力だ。


なんの前触れもなく獲物が横に吹き飛んだので男たちは目を丸くする。

私は最低な台詞を吐きながら仲間から受け取ったものを片手にしていた、ドリーと呼ばれた男の顔を間近で睨みつけて、回し蹴りの回転力とありったけの力をこめてその脛めがけてフルスウィングした。




「っっっ!!!?」




そのまま鉄パイプに足をすくわれ男は顔面から地面へ倒れこむ。

直撃した瞬間に伝わってきた気持ちの悪い感触。

手を離してしまいたくなる心を強く持ち直して、混乱している隙にもう一人の男の顔面…正しくは眼球にとっておきを打ち込んだ。



「ぎゃああああ!!!」



「トシィィィ!!」




トシと呼ばれた男は仰向けに倒れると両目を覆い足をばたばたとさせてくるしんだ。

ごろんごろん転がった後の地面についた点々とした赤が、自分がしたことへの実感をさせる。




「えっ、え?」



殺伐としたこの場にふさわしくない戸惑った様子の声がきこえたのでふりかえってみれば、赤くなった鼻頭を抑えた男の子がこちらを唖然と見つめていた。



(よかった、思ったより平気そう)



打ち所悪く気絶されたりしたらどうしようとか考えなかったわけじゃないだけに安心した。



「うおおおおおおお!てんめぇ!!」



完全にブチ切れた男が感情のまま詰め寄ってくる。

大の男の本気に勝てるはずもないので、持ち前の身軽さと素早さだけが頼りだ。

肝の冷える思いをしながら冷静に相手の攻撃を受けるとギリギリまで見せかけて、男の全身全霊のタックルに寸前のところで見を躱した。



「ガヴリル!!」



「立って!!」



勢いのままゴミ山に頭から突っ込んだ三人目を尻目に男の子の腕を掴んで引っ張り上げると、足元に転がって来たトシさんにトドメの鳩尾をキメる。

一連の流れを見ていた、気を失ったドリーさんに付いていた四人目はその非情な私の行いに黙っているわけが無かった。



「この女ァ!待ちやがれ!!!」



腕力の限界を悟った私は鉄パイプをゴミ箱でひっくり返っている三人目の腹部へ放り投げ、男の子の手を引いて四人目がいる表通り側の逆へと走り出した。

後ろから追いかけてくる足音に子供の頃鬼ごっこをしていた時のものと酷似した焦りに煽られて、角を曲がって柵を越えてどんどん奥へと入り込んでいた。

追いかけてきていた筈の足音が聞こえないことに気づいた頃には、取り返しのつかない場所にまで足を踏み入れていた。


空を見上げれば高く高くそびえ立つ真っ黒な建物により月の光さえ届かない。

あたりには黄色く発行するラインの様なものが道の両サイド、壁、ドアの縁などを示してくれるだけで、それ以外の景色や建物の質感などは顔を近づけても確認することもできない。

真っ暗な迷路の様なそこは、立入禁止区域のそれと聞いていた特徴が一致していた。

歩けば歩くほど深まる疑念に知りたくもないことを思わずポツリとこぼしてしまう。





「もしかしてここって」




禁止区域イエローゾーン旧王都国立図書館だね」






世界の広大な大地は収める領地の差こそあれど、全6カ国が管理している。

その内大半の国同士があまり仲が良いとは言えないが、それでも全国満場一致で決断した決め事がいくつかある。

そのうちの一つが禁止区域イエローゾーンだ。

禁止区域(イエローゾーン)は世界に5箇所存在していて、その内アルフォード王国が有するのがここ王都の中心部に存在する旧王都国立図書館の廃墟と呼ばれる所だ。

王都の三分の一はこの禁止区域イエローゾーンが占めていて、外側から見ても朝昼関係なく建造物は真っ黒の謎の物質でできているし黄色い光の線がはしっている。

とても図書館には見えないそれは不気味で、一度入ったら出られないという噂は国の者なら誰もが知っていた。

解明される事のない謎に幾人もの人が引きつけられ無断でここに立ち入るが帰ってきた者は未だ一人もいない。

名ばかりでその場所への出入りは自由だが、国はそこでの出来事に一切関与しないとしている無法地帯だ。



聞こえてきた声に、私はことの発端である男の子の存在を思い出した。

慌てて掴んだままの手を離す。



「ご、ごめん!」


「?どうして謝るの?」


「だって…」



ちらりと黄色い光を見てこの場所や己の幼い子供に働いた暴行に対してなんと切り出せばいいか戸惑っていると、男の子は「取り敢えず座らない?」と黄色いライトが斜め上に伸びていて建物の内部へと続く場所を指差した。

おそらく上りの階段だろう。

近づいて足元を踏み込みそうであることを確認すると、一番下の段へ二人で腰掛けた。




「助けてくれてありがとう」




その言葉にむしろ私の方が救われてしまった。



「どういたしまして…でも、ごめんね。こんなところに連れてきちゃって…」


「おねえさん、どうして助けてくれたの?ふつうの人だったらこわくて見ないフリか、城兵まかせになると思うんだけど」


「助けるつもりなんて無かったよ。でも兵を呼んだって、その頃には間に合わなかったでしょ」



実際城兵に任せようとしたのは事実だ。



「おねえさんってふつうじゃないね」



「そういう君も、助けた相手に普通そういうこと言う?」





なにこの子、これが悟り世代っていうやつなの?


助けたことを若干後悔してきた私の横で楽しそうに笑う男の子に恨みがましく視線を向けると、小さな手のひらを差し出された。



「僕はレオンハルト。気軽にレオンって呼んでね」



おねーさんの名前は?と聞かれたので、その手をとって口を開きかけるが、音を発する前に腕についたそれを見てさっと血の気が引いた。

ぐっと顔を近づけてみるとやっぱり赤紫色に変色している。



「おねえさん?」



(え、もしかしてこれ私が!?)



逃げる時必死すぎて気に留めてなかったけど、鬱血するほど力込めちゃってたかもしれない。

謝ろうと再びレオンくんの顔を見上げればその背後の影がゆらりと濃くなった気がした。




「あ、」



「ーーーおねえさん!!」




強烈な痛みを後頭部に感じたのを最後にぷつりと意識が切れた。




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