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それが何なのか私は知らない  作者: ゆめのせい
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それは恋





まだ冬の片鱗が窺えども麗らかな初春の午後。

悪夢さながらの光景から目を覚ましたのが寝坊というには可愛すぎる正午のこと。

私は一人では耐え難い胸の高鳴りを持て余して、勢いのままに数少ない友人の1人へ連絡をとったのがつい先程。


急な誘いに気後れしながらも彼女が指定したのは最近出来たばかりのお洒落なカフェ。

メイン通りからは少し外れたところにあるが、坂に立地しているためその店は見晴らしが良く昼は遠くの水平変が、日の沈む頃には街の夜景が見られると話題になっていた。

案の定そこは噂を聞きつけた人々で賑わいを見せていたが彼女が権力にモノをいわせたのか、木陰にあるテラス席の一番の見晴らしのいい席が用意してあった。

いつもならそこまで気にしない情緒ある風景というものも、今の私にとってはこの心を彩るいい演出に思える。



「分かってはいたけど、あんたって本当に変。ちょっとおかしいんじゃない」



彼女がお気に入りだというレモンティーを一口二口、口に含んで嚥下するとそう告げた。



「おかしいな。私今恋の悩みっていう艶っぽい話をしてたとおもうんだけど」


「艶っぽいねぇ…」




明るいベージュブラウンの髪をくるくると指先に巻きつける仕草は考えるときにする彼女ーーユリア特有の癖。

心なしか眉間にしわが寄っているのは、呆れている証拠だろう。



「まあ世界が滅びる最中に、しかも自分を殺そうとした張本人に一目惚れするなんて、ロマンチックかもしれないわね」



「でしょ!?」



「馬鹿。皮肉よ」



「でも殺されたっていうか、その人の戦いに巻き込まれて死にかけただけなんだけどね」



いやもっと正確に言えば、たまたま近くを彷徨っていたところをガチの決闘現場に遭遇しちゃって挙句相手の注意を引き付けるための囮に利用されたのか…

そんなことを考え唸っていれば、ユリアに「どうせ世界滅ぼしたのがそいつなら一緒だ」と言われて納得してしまった。


あの崩壊事件はあの人…言わばダーリンが首謀者だと考えてまず間違いないだろう。

私を囮に使ったダーリンは私ごと相手の男を串刺しにして、倒れた男はそのまま動かなくなっていたし、追い打ちをかけるよう心臓を突き刺していたのを私は見たのだ。

そして、私が命辛々逃げ回っていた、街中を襲っていた不気味な化け物が彼の前に跪いて言ったのだ。

【その女が、最後の生存者です】と。

地面がぼろぼろと嘘みたいにぐずれていく中で、こちらを振り向いた彼の姿がいまでも脳裏にしっかり焼き付いている。






「まったく…久しぶりに連絡よこしたと思ったらこれなんだから。とっとと夢から覚めなさい」



「はぁぁ」



思い出すだけでぎゅうっと胸が締め付けられて、うちからこぼれる苦しさをそのまま吐き出す。




「空想の人物を作り出す暇があるなら現実に目を向けていい人の1人や2人作りなさいよ」





相手は会えない人なんだから、とユリアが何気なくこぼした言葉にもっと胸が苦しくなる。

彼女は私の話を夢だと言って一向に信じてくれないのだ。

それもそうだろう、こんなお天気の日に世界が滅びたなんて言われたって街も人も私も変わったところなんて何も無い。

でも、それでも、恐怖も恋慕もそれに至るまでに歩んできた人生の日々も何もかもが、確かに私の中に生々しく残っているのに。





「最近また他国同士が険悪だし、戦争始まったとこもあるし、変な夢見ちゃう気持ちはわかるけど。我らがアルフォード王国もいつ動き出すかわからないものね。セルハイム王国とは仲良く出来てはいるけれど」




ユリアの表情がさっと翳る。

話し出した世界的な話題は、いまの私にとっては正直どうでも良いことだったのだが、彼女の前ではそれを露わにすることはできないと思った。

何故なら彼女こそ、永きにわたるアルフォード王国の現第ニ王女にして第一王女が早くに亡くなったため王家唯一の姫君、ユリアーナ王女なのだから。


私はガタガタと下品にも椅子を引きずりながら彼女の側へ近寄るとティーカップのそばで強く握られた手をそっと両手で包み込んだ。





「大丈夫だよ、ハイド国王陛下と聖霊様がいるもの。それに、ユリアには私が」




ユリアの大好きなふたりの存在をあげれば、少し強張った表情が緩む。



「そうよね。ありがとう、シェリー」



肩にもたれかかるように私よりも少し背の高いユリアが体を預けてきた。

その背中に手を伸ばしてあやすようにトントンと叩けば長い睫毛を伏せる。

そんなユリアを横目に眼前に広がる景色へと視線をのばした。



さりげなく彼女の左脇腹をさするが、上質な布の感触だけで違和感は何も無い。

そうだ、崩壊事件のとき、私は怪物から逃げながら真っ先に王城へと向かったのだ。

ユリアを助けるために。

しかし時すでに遅く、目の当たりにしたユリアの姿は脇腹を噛みちぎられ、肩から伸びた腕はありえない方向に曲がっていたし、足は無かった。


待ち合わせたときも確認したが、改めて五体満足な親友に胸をなで下ろす。



(そういえば、あの崩壊事件も始まりはセルハイム王国との争いが切っ掛けだっけ…あれ?そういえば、崩壊事件が起きたのは栄光6000年の私が20歳の冬に起きたんだったよね?えーっと、今、私は何歳なんだろう?)




ふとした疑問をそのままユリアに問えば、彼女はぎょっとした顔をした。






栄光5094年、アルフォード王国王都在住の一般国民にして縁あって王女と友人である彼女の名前はシャロン・エドワーズ。

彼女が14歳の春だった。





世界崩壊まで、あと約6年と8ヶ月。

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