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それが何なのか私は知らない  作者: ゆめのせい
11/13

改めまして




正式名ユリアーナ・ソル・アルフォード。

若くして亡くなられた第一王女ベアトリスと、次期国王である第一王子ウィリアムの妹。

ベージュブラウンの髪は緩やかにウェーブしていて、長い睫毛から覗く愛らしいコーラルピンクがよく似合っている。

目尻は少し下がっていて、それがまた見る者へ柔らかい印象を与えていた。

おっとりとしていたベアトリス様と似たお顔立ちでありながら、見た目に反して凛々しくあらせられるのは有名なこと。




「まさかあんたがここまでだとは思わなかったわ」




可愛らしい口からまたも辛辣な言葉が溢れるが今回ばかりは私にも反論することはできない。

むしろ罪悪感と後悔で胸がいっぱいだ。




「ユリアーナ様という親友がいて私は幸せ者です…」



「私もこんなに自分の立場をフル活用した友人はあんたが初めてよ」



「ごめんなさいい!!」




あの後、騒ぎを聞きつけた城の兵たちに取り囲まれた私は不敬と見なされ軽く拘禁されかけたのだが、それを必死に釈明してくれたのがユリアだった。

多すぎるギャラリーは痴情の縺れだの何だのと適当な見解を言ってくれるせいで中々誤解は解けなかったが、最後にはウィリアム王子が頷いてくれたことで何とか無事に帰宅することが出来た。

ただ、心残りといえば、ねじれにねじれた話し合いによって、私はウィリアム王子の数百人いる婚約者候補の下から3番目の女という不実の噂が残ってしまったことなのだが……………………それも止むを得ない。

温かい夕食にありつけただけでもユリアーナに感謝しなくては。

いや、それどころか本当にーーーー




「本当にありがとう」



「囚人の親友だなんて嫌だからね」



「一昨日のこともだけど、今日のことも」




回廊に2人分の足音が響く。

細やかな装飾で一枚一枚飾られた透明な壁。その無色なフレーム越しに見える中庭は昨晩から朝方にかけて降り積もった雪で一面が真っ白で、まるで一枚一枚が幻想的な絵画の様。

私は今、ユリアーナの招待によって宮殿にいる。




「………だって、どうしても会いたいでしょう?」





一昨日の粗相によってうまれた不名誉を知りながら、そうからかうユリアにぐっと言葉が詰まる。

降参です。








そう、ベアトリス様とユリアが瓜二つなのは有名だしベアトリス様が亡くなった際の慰霊祭に出席した時に顔写真を見ていたからそのことは知っていた。

王様はニュースやパレードで拝見したことはあるもののいつも遠巻きだったため、顔をはっきり見たことがなかった。

今までに身の回りで何度か第一王子が話題になったことがあるが、「美しい」だとか「理想の王子様」といった抽象的なものばかりで曖昧な人物像でしかなかった。

だからてっきりユリアのお兄さん=ベアトリス様の男版と決め込んでいたのだが……まさかあんなに似ていないとは。

最早似てない通り越して他人レベルの違いに思えるのははたして私だけなのだろうか。


嗚呼、予想外だ。

完全に興味の外であった人物が、まさか期待以上の存在になるなんて。








「…………………会いたいです」






あの夜、同じ刃を味わった彼。

唯一の手がかりであるウィリアム王子に。


何よりも、この身を貫く感覚と同時に今まで感じたこともない気持ちを私に味あわせた、あの人に、あいたい。






ぼそりと吐き捨てるようにつぶやけば、ユリアはますます愉快そうにするのでそれがとても不愉快だった。


いつの間にか長い回廊から廊下へ、そして護衛が両脇を固める一つの扉まで歩き終えていて、その重そうな重なりがぐぐっと鈍く押し開かれる。




「もちろん、会わせてあげるわ。そのために呼んだの」











窓際に立っていたため、金色の髪は日の光を反射した雪景色から光を集め、初めて会ったときよりもさらにきらきら輝いていた。

くっと引き締まった端整な顔立ち。

袖や襟元から露わになった肌は白く、女が羨むきめ細かさ。

そして少し吊り上がった紫色の目。




「やっと来たか」




偉そうな口調に、あの夜もあの人とこの男は何かを叫び合いながら殺しあっていた光景がぼんやりと思い出される。

この声、聞いたことあるなぁ。




「じゃ、改めて紹介するわね」



「シャロン・エドワーズです。一昨日はつい感情的になりすぎてしまって、大変失礼致しました」



「ウィリアム・ソル・アルフォードだ。流石にビックリしたけどな。…変な噂も作られちまうし」



「どうせ数百人の下から3番目なんだからいいじゃない」



「俺はそんなに婚約者候補を立てたおぼえはねぇ!!」















ウィリアム王子は言葉使いが荒いものの、思ったより大らかで感じの良い人物であった。

彼の誕生日祝いである特別な席であんな根も葉も無いことをさも事実のように、しかも重役・貴族や世を賑わす有名人が集う前で公言されたのだから、当然嫌味や恨み言をつらつらと言われるかと思ったのだがそんな事もなく。

部屋の中央にでーんと主張する大きなテーブルの上に無造作に広げられた新聞に昨日の日付は見開き一面、今日は片面まるまる主張する私と彼とのスキャンダルが載せられているのを腕を組んで見下ろしているだけだった。

しかも、私の形相がただ事ではなかったからと事情まで聞いてくれるというのだ。

寛大な配慮に内心手を合わせておがみたおしたいのを押さえ込み、私は本題に入るべく全ての事情を話し始めると彼は静かに目を閉じた。

念のため世界が崩壊することと彼が死ぬのだということを隠すため、ただの行き摺りの初恋に置き換えて広めた噂と同様のシナリオにした。

そして彼はそのとき、その男と仲よさそうに一緒に歩いていた通行人Aさんと見立てることで、何とか私が探している人との繋がりを強調した。

慎重に説明しながらユリアの顔色をこっそり窺うが、彼女も王子同様テーブルの上で手を組んで目を閉じて黙って聞いている。…兄妹め。


私が本当のことを言わなかったことに対してユリアには不信に思われるかもしれないと思ったが、この顔なら大丈夫そうだ。

ほぼ初対面の本人前にして「貴方、5年後に死にますよ」なんて言う勇気ない。

それこそ処分される。



「……それでその人はちょっと飄々としてる感じで、でも内から色気と気品みたいなのが溢れ出てて、見たこともない髪の色と金色の瞳が最高に綺麗な人なんだけど…知りませんか!?」



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