第八十一話 地下倉庫の探索
「暇ー。ひまひまひまー!」
「……まぁ、何もやることがないのならば、ゆっくりとお茶でも飲めば良いことじゃない。ほら、あんたの分も煎れてあげたから飲みなさいよ」
「……ありがとう」
ソファーにどかっと腰を下ろし、リーゼからもらったお茶をいただく。
ちょっと熱いので、少しずつ飲む。
王都に戻ってきて、一週間が過ぎた。
先日の襲撃について改めて聞いてみれば、私を狙った暗殺部隊だったらしい。
本当にたいした連中ではなかったのだが。
しかし、いまだに調査を続けてはいるものの、その首謀者については、結局、尻尾を掴ませなかったらしい。
容疑者はいるようだが、決め手がなく、逮捕にはいたらないみたい。
相手もなかなかに狡猾だ。
そして、その事件が表沙汰になった後、義父が激怒してしまった。
それがために、大事をとって、なぜか私の外出が禁止されてしまった。
正直、王宮に軟禁とかやめてほしい。とんだとばっちりというものだ。
「せっかく、事業活動の方も順調に利益をあげはじめて、軌道に乗ってきているのに、責任者たる私が、こんなことで、後ろの方でこそこそとしていないといけないというのは、本当に納得がいかないわね」
「ま、ほとぼりが覚めるまでの我慢よ。しばらくすれば、陛下も考えをあらためてくださるわ」
まったく、義父の過保護っぷりにも困ったものである。
しかしやることがないと、いらいらしてくる私としては、何かしていないと落ち着かない。
うーん、部屋内でもできること。
そうだなー。少し、研究がてら、読書でもしようかしら。
「ねぇ、リーゼ。王宮には図書室とかないの? 時間もあるし、研究にでも没頭しようかと思うんだけど。魔術か、科学技術系の書物があると嬉しいんだけど」
「図書室? うーん、地下に倉庫があるから、そこに行けばある程度、本はあるとは思うけど。でも、古くて、大きい本ばかりよ」
「いいのよ。とりあえず、案内してよ」
「はいはい。わかったわよ」
こうして、倉庫をリーゼとともに探索することになった。
この窮屈なドレスはさっさと脱いで、動きやすい服装に着替えた。
◆◇◆◇◆◇
「なんで、魔導人形がいるんだよ! しかもこちらを襲ってくるし!」
ヒューリが、襲ってきた石造りのゴーレムの頭を、手に持った戦鎚でもって叩き潰し、顔をしかめながら呟いた。
「そんなの私が知りたいわよ! なんで、王宮内にモンスターが徘徊しているのよ!」
私も、顔が犬で体が鳥という合成獣を一匹、魔法でけしずみにしながら、叫び返す。
なんだって、本を探しにきただけなのに、魔法生物と戦う羽目になったのか。
ちなみに、ヒューリとは、たまたま廊下で出会ったので、一緒に倉庫を探索してもらおうと無理矢理引っ張りこんだ。
「なんで私までこんなところに……」
「まぁまぁ、先輩。護衛も仕事のうちですよ」
「わかっているが」
養父が世話役としてつけてくれたジョーイとカビーにも今回の探索に参加してもらっている。
倉庫は広く、人手が必要だと思ったので、一緒に来るようにお願いしたのだが、今は、普通よりもだいぶ大きく育ったネズミ(体長二メートルほど)相手に近接戦闘を繰り広げている。
「しかし、まさか、これほどまでとはね。ガラクタが大量にある、とは事前に聞いていたけども、守護者まで設置してあったとは、完全に想定外ね」
背後でこそこそと隠れているリーゼが呆れたように呟いた。
「なんで、倉庫内に魔法生物がいるのよ。これじゃあ、まるでダンジョンじゃない!」
王宮地下の倉庫は、本当にダンジョンになっていた。
後から聞いた話だが、なんでも、先代の帝立学院長が、ひたすら帝国中の過去の書物や物珍しいものを集めまくり、宮殿地下の倉庫に次々と放り込んでいたらしい。
学院長は、倉庫のスペースが足りなくなるや、勝手に改築、増築を重ね、さらに、貴重な品々を自衛するために、専門の魔導人形やトラップも自前で配置し、さながら迷宮のようにしてしまったらしい。
その後、先代学院長は出奔してしまい、後継者不在のまま、ここの倉庫も放置され、いまや管理者もおらず、誰も近寄らない、一種、聖域になっているらしい。
「しかし本当にここには色々と置いてあるわね。……この石ころなんて、様々な色合いで綺麗ねって、あれ。これ、魔法石よ。しかも結構大きい」
私は棚の中で適当に転がっている品物を手に取り、鑑定をしていく。
こうも無造作に、経済的価値がある品物が、なんの分別もなく置かれているのを見て、頭が痛くなる。
「でも、これなんて、ただの木彫り人形よ。やっぱりガラクタの山じゃない」
リーゼがバッサリとダメ出しをしてくる。
まぁ、リーゼが持っているその木の人形からはなんの魔力も感じない。
呪いの道具の一種だろうか。
しかし、この先代の学院長。近代で言うところの博物学に近いことをしている。
これらの収集品は、適切に分類をすることさえできれば、博物館としても十分に通用する量じゃないか、などと思ってしまう。
「……さてと、このフロアはだいたい探索が終わったんだけど、まぁ、そこそこ、本はあったわね」
発見できた本は大量にあり、ちょっとした図書館ほどの量があった。
分類するのにも、そこそこ時間がかかりそうだ。
他にも地下に降りる階段を四ヶ所ほど発見したが、さすがにこれ以上、探索する気はない。
「とりあえずこの階だけでも片付けましょう。地階に関しては、今度の探索でいいわよね?」
「異論はないが、階段下でうねうねと触手を動かしている魔法生物がここから見えるんだが」
ヒューリが、恐る恐る伝えてきた。
「まぁ、魔法生物は、テリトリーに入りさえしなければ攻撃をしてくることもないから、基本、放置で良いんじゃない」
「まぁ、監視程度でよければ、私の方で手配をしておくわ」
「じゃ、お願い」
リーゼの提案に同意し、監視用の兵員を手配してもらう。
「ふー、やれやれ。ところで、私たちはもう戻っても大丈夫でしょうか、皇女殿下?」
ジョーイが、疲れた顔を隠すことなく、提案してきた。
「あ、ジョーイさんと、カビーさんは、休憩を取ってもらった後、部下を連れて戻ってきてくださいね。これから、この階の品々を分別しますので」
「……こ、この階の品物全部ですか?」
隣からカビーがビックリした声をあげてきた。何を当然なことを言っているのだ。
「うん? そうだけど?」
「……しょ、承知いたしました」
ジョーイさんが、絞り出すように声をあげてきた。
私はにっこりと二人に微笑んであげた。
あぁ、仕事があるって、なんて素晴らしいんだろ!
「あ、私は用事があるので、パスね」
「俺も」
薄情もののヒューリとリーゼは早々と姿を消した。
次回は、5/15(火)更新の予定です。




