表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/86

第七十九話 フラストレーション解放

「ヒューリ。もう寝たかしら?」


「……いや、まだだが」


 ヒューリと私とで、別々の部屋を取るかどうかで、お互いに迷ったのだが、やはり、私の警護という観点でも、同室の方が良かろうという事に落ち着き、同じ部屋で寝ることにした。


 ベットが一つしかないので、隣での添い寝をヒューリに勧めたのだが、丁重に断られてしまった。

 ヒューリは今は、ソファーで毛布にくるまって横になっている。

 ……この根性なしが。


「ねぇ、こうやって同じ部屋で寝ていると、学校時代を思い出すね」


「そういえば、軍事教練の合宿で、同じ部屋で寝たこともあったな。懐かしいな」


 くすくす、と二人で笑い合う。

 本当に昔が懐かしい。

 そういえば、あのときはケイメルも一緒にいたっけ。懐かしいな。


 窓の方をみると、窓ガラスの透明度が低く、曇りガラスのような見た目のため、外は見えない。

 私はベッドから起き上がると、窓のところへと歩いていき、開け放った。

 そして空を眺めた。

 きれいな星々が煌めいている。

 そして、薄黄色にほんのりと光っている二つの月。

 星の配置なんかは地球とは全然違うので、星座なんかはまったく異なるのだが、星々が光輝くことはこちらも同じだ。

 あぁ、綺麗だな。


「おい。寒いぜ。もう秋になるんだし、窓開けたまま寝ると風邪をひくぜ」


 ヒューリが後ろから声をかけてきた。

 ぶちっ。

 こいつは、まったく、情緒とか、雰囲気というものがわかっていない。

 私は一つ嘆息をすると、くるりとヒューリの方に向き直った。


「……星を見るなんて久しぶり。最近、星を見る余裕さえなかったんだなって、思ったのよ」


「……」


 ヒューリは無言を返してきた。

 ただ、その瞳にはなんとも言えない、戸惑ったような色が浮かんでいた。


 私は窓ガラスをそっと閉じ、くるりと振り返ると、蝋燭台の火をそっと消した。


「ん。どうしたんだ?」


 私が蝋燭の火を消したからか、ヒューリが不思議そうな、驚いたような声を出した。


「……ん。今日は思い出を作りたいなって♥️」


 私は腰の帯を緩め、服を留めている紐をするりするりと外していく。


「……な……お、おまっ!」


 どうやら、夜目が利くらしいヒューリが慌てたような声をあげる。

 悲鳴に近い。


「ふふふ。どうしたの? そんな声を出して……声が裏返っているよ?」


 私は月夜の光をバックに、下着姿になってやった。

 少しくらいは私のことを意識しなさいよね。


「ル、ルシフさん。そ、それはさすがに、ま、まずいのでは……」


 完全に裏返った声でヒューリが、情けない声をあげる。

 もう少し、かっこよくエスコートできませんかね?


 私はわざと腰をくねらせ、胸を強調するような態勢で、近づく。


「身分がなんですって? この部屋には男と女がそれぞれ一人ずつしかいないのよ?」


 私はわざと挑発するように、ヒューリの、顎を指でなで回す。

 ……あ、あれ。ちょっとだけヒューリの奴をからかってやるつもりだったのに、だんだんとセーブができなくなってきている。


「要は、あんたが、私を抱きたいかどうか、ってことなのよ?」


 ギャー!

 私のこの口がどんどんと、とんでもないことを口走っている!

 でも、心のどこかでは、「行け行け、ルシフ! ヒューリを押し倒しちゃいなさい!」と、火に油を注ぐような内なる声が響いてくるが。


 さすがにこの状況でヒューリも毛布にくるまって横になることはできないと思ったのか、起き上がり、その腕を私の背中に回してきた。

 その目がスゴい真剣だ。


 ……あ。

 不意に、鼓動が高まる。

 やややややや、やばい!

 ここまで、調子にのって大人の女を演じてきたが、素に戻ってしまった。

 ヒューリに腕を背中に回されたところで、急に恥ずかしくなり、顔が真っ赤になるのがわかる。


 そして、有無を言わさぬ強い力で抱き寄せられる。


 こ、心の準備が!


「静かに」


 耳元で急に切羽詰まったようなヒューリの声が聞こえた。


 え、あ、あれ。


「わ、私にも心のじゅ、準備が……」


 私はしどろもどろになりながら小さく返事をする。

 わ、私はどうすればいいんだろ。

 まずは、キスをしてから……。

 それからそれから……。


「外のやつ。殺気がだだ漏れだぞ」


 外って、外?

 ん。ん。何かおかしくない?


『すまないルシフ。君が静かにするように私を制御していたから気付くのが遅れてしまった。この宿屋の周囲ではいくつか、戦闘が勃発しているな。そして、その包囲網を突破して二名ほどの武装した人間が今、廊下の扉の外にいるんだが』


 ……。

 そうか。

 そうだよねー。

 どこまでも、私の邪魔をするというのね。


「お、おい、ルシフ! そんな格好で外に出るのは危険だぞ!」


 私が幽鬼のようにフラりと立ち上がり、廊下の方へと歩いていく背後で、ヒューリが慌てたように声をかけてきた。

 私はニヤリと不気味にヒューリに笑いかけた。


「大丈夫よ、ヒューリ。私、この世界の不条理というやつに、そろそろ堪忍袋の緒が切れかかったので、少しフラストレーションを解放してくるだけだから。あ、この部屋から出ちゃダメよ。命令だからね」


 私はそういって、下着姿のまま扉をそっと開けた。


◆◇◆◇◆◇


「ギャー!」

「お助けー」

「すみませんすみません」


 廊下の方から悲鳴が漏れ聞こえてくる。

 そして、少し遅れて、外から耳をつんざく轟音が何度も響いた。

 あちらこちらから、爆発音が響き、炎の柱が吹き出している。

 極めつけは、空から流れ星が降ってきて、近くの山に直撃したこと。

 一瞬、辺り一面が真昼になったのかと思うほどの光に包まれた。


 そして、しばらく静寂が過ぎたのち、何事もなかったかのようにルシフが戻ってきた。

 しかも、どこからか調達したのか、黒いローブを身にまとっている。


「……少しすっきりしたわ。私、今から寝るので、起こさないでね」


 そういって、ルシフはベッドに転がり込み、すやすやと、寝息をたてはじめた。


「お、お休み、お姫様」


 ヒューリは、そのルシフの寝顔に少し涙のあとがあったことが気になった。


次回は、5/7(月)更新の予定です。最近、ちょっと執筆のモチベーションが低下しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ