ACT7 unconditional love 7
人生の中で、最悪な出来事って、何?
俺っちの短い人生の中で、絶望とか、頭がぶっ壊れるような悲しみは一度だけだ。
怖いことも、痛いことも、最悪じゃない。
努力だけではどうにもならない、悲しい事が最悪。
だから、今は、最悪じゃない。
「子供抱えて、走るぐらいはなっ!」
結局、エルミナと小僧を抱えて、走っていた。
走り抜ける俺たち、否、俺っちを追いかけるように高温の風が吹く。
そしてドミノを倒すように、分厚い隔壁が落ちる。
んで、ドシンって隔壁が落ちると、メキメキメキィって何かがぶち当たる。
そいで破壊音の後に、熱風がムアッ。
振り返るのは止めた。
腰が抜けたら、終わる。
そして、幾度か隔壁が落ちたところで、背後の気配が遠のいた。
さすがに、すべてを破壊する硬度は無い、のかな。
よかったよかった。
エルミナと同じく気絶したのか、ぶらんぶらんになった小僧を片手に速度を落とす。
空腹で身体がガクガクふるえて、息が戻らんよ。
ともかく、ここは何処だ?
途中から主通路を折れたのは記憶している。
隔壁の番号は、10ー46。
わからん。
目の前には、オレンジ色の二重ラインが壁にある。
客室では無い事は確かだ。
少し進むと両脇に扉があった。
通路は警告灯のみで薄暗いが、先は徐々に下に向かっている。
それもここは重力ありだ。
扉の横にある
環境表示には、テラ指標でいう標準となっている。
ともかく、個室の何れかに船外活動用の宇宙服があればいいのだが。
まぁ、それよりも、賊、がいたらゲームオーバーだけどねん。
賊、だよな?
一番最初の個室を、開ける。
もちろん、開かない扉の鍵をこね回す気力が無いので、扉の横、電磁パネルをパンチ。
あら、野蛮。
パンチ一発、穴あけて中の配線をぶっちぎる。
もちろん、これじゃ開かないのよん。
すると安全装置的何かが働いて、一時的に通電。
おぉ、ビリッときたっ!
で、扉を手動でスライド。
扉って、事故があった時の自立電源が必ずあるのよん。
つまり、電気的な故障があると、手動で動かせるのん。
鍵の役目がないじゃん?
ただし、これは酸素ありの場合。
開けて問題ありの場合は、動きません。
後は、射出できる客室も不可。
まぁ、普通はパンチ一発じゃぁ壁に穴は開かないでしょうしぃ。
こんな貧乏客船に、プライバシーは無駄でしょう?
「うふっ、おじゃましますぅ~」
カワイ子ぶっても、やってることは空き巣、原始人バージョンだ。
無人の室内は、人の痕跡があった。
おぉ、少し贅沢な感じ。
上級乗務員の部屋なのだろうか?
生意気な、どうせなら客室に船外活動用の宇宙服備え付けろよっ!
つーか、ここにも緊急用の斧があるよ..。
斧だけなっ。
電源は..やはり落ちている。
酸素供給は辛うじてあるようだが、それもいつまで続くか。
書類の散らばった机。
服の置かれたベット。
コンピューターは..ダメだ、何かが表示されてるけど、訳わからん文字と数字で、操作ができないよ。
スクリーンは、反応無い。
「ホスト」
一人お喋りじゃないよ!
「コール」
一応、室内の音声認識を確認してるだけ。
船員でも管理職だと、お部屋に色々サービスあるはずだからね。
独り言じゃないよっ!
子供二人をベットに並べる。
「リンク」
(登録音声外認識、完了イタシマシタ)
「おぉっ、ビクッとしたよ。アローアロー、乗客のフェリックス・カーマインだよ。
乗船番号0288ー796N。
緊急事態発生により、冷凍冬眠解除がぁ、えっと時間わかんないけどあったんでぇ~。
緊急避難中に、二名子供を保護。
状況確認と、今後の行動をフォローしてほしいんだけど」
(管理施設ニ、アクセスデキマセン。
限定情報ニヨル、マニュアル指示ニナリマス)
「もっと易しく、お願いプリーズ」
(...ホストにアクセスできません。
航行法基本規定による、避難マニュアルでの誘導になります。
一部、室内補助電力供給を主電力供給に変更、復旧します。
緊急コード2298確認中...。
ホストベース...コール不可。
ホスト電脳...コール切断中。
サブベース1.2.3.4...18コール返答
ありました。
録画映像になります)
みにょん、と目の前に半透明のスクリーンが投影される。
乱れに乱れた映像であるが、画面下の数字から一時間ぐらい前のようだ。
「音声が乱れているため、文字情報として表示します」
映像は、サブベースと呼ばれる副航行室のようで、四人ほどの生身の男女が慌ただしく動いている。
その中でも年輩の航行士だろうか、制服の男が画像に向かい口を動かしている。
そしてその下部に字幕が流れる。
略奪船に強襲されている。
遭難信号を出したが、近くに航行中の船は無い事。
惑星系の近くではない為、脱出は最終手段。
簡易的なカーゴは利用しない事。
と、ここで男の姿が吹き飛んだ。
文字通り、頭部粉砕グロ映像である。
だが、俺っち踏ん張る。
問題は、頭部粉砕した相手だ。
だが、映像は無情にも終了。
「リピート」
映像が流れる。
「スロー、スロー、おっと戻して」
粉砕して目玉が蒸発する寸前の光点、その後ろに手が見えた。
ドロイドじゃないね。
少なくとも、人だ。
それも素手。
「えくすぺんしょん」
発音が微妙になった。
拡大された手の甲に毛だ。
映像にタッチして更に拡大。
「人種識別できる?」
「確率六割りをきります」
「結構結構、お願いするっす」
「標準人種該当数78」
「絞り込みで男で、体型はテラ標準に近いね。体毛ありだ」
「該当数56」
「犯罪者性格行動を器質的に持ってる」
「該当数32」
「片手でアーウェン878擲弾発射できる生身の」
「該当数7」
「ぶっさいくな奴」
「...」
黙ったよ、ごめん。
「低酸素もしくは、酸素を必要としない」
「該当確率72%テメラ種」
ズシンと床が揺れた。
何かが破壊される音だ。
「テメラ種ね」
子供二人は寝ている。
「スキャンできる?」
「医療スキャンはできません」
「簡易で良いよ」
ベットの上の子供に光りが通り過ぎる。
「問題ない?」
「血流等は問題ありません」
そだね。
問題あるのは、これからだ。
先に誘導を促された場所は、網だ。
獲物をとらえる網だ。
船員は殺す。
そこが不思議だ。
テメラ種は、人間というくくりには入っているが、野蛮だ。
そんな野蛮な奴らを使って略奪しかけてくるような奴らの目的は、金品ではない。
生身の生体だ。
貧乏客船を狙う意味なんて、保険金詐欺の片棒か、生身の人間の略奪だ。
生身の人間は金になる。
臓器も遺伝子も、全てだ。
だが船員をどうして殺す?
全部、商品にすればいいのに。
そして、さっきから執拗に追いかけ回されている訳で。
揺れがどんどん近づいてくる。
「この部屋に食べ物ある?」
すると壁際のコンソールが、ぱかっと左右に分かれ
て食料が出てきた。
役に立たないヘルメットを脱いで、食料のパックを破る。
中身はチーズサンド。
野菜は萎びてる。
「腐ってない?」
「腐敗は認められません。鮮度は落ちていますが飲食可能です」
「うへぇ」
パンをかじりながら部屋を出る。
そして扉を閉じてから、ぶっ壊したパネルの中に手を突っ込んだ。
引きちぎった配線を手際よくつなぐ。
おし、大丈夫。
多少暴れても開くまい。
ぱさついたパンをかじりながら、待つ。
怖いのも痛いのも、最悪じゃない。
最悪なのは..
通路の扉が変形していく。
飲み物のパックに吸いつきながら、首を傾げる。
誰も見てないからいいよね?
めきょっと扉が折れた。
扉を開くのに手を使わないのは、いけないと思います。
オルオルと唸りながら顔を出したのは、ドロイドでも海賊野郎でもなく。
大きな..
「いやぁ、俺っち死んだね」
模擬複合合金制の最新式のワンちゃんでした。
何で最新式液体金属の軍用犬がいるのよん!
熱も銃弾も通じないのよ、ギャー!




