ACT6 unconditional love 6
頭の中がぐるぐるする。
退路は三つ。
下層への通路で検索した。
それが一番避難経路としては普通だからだ。
んでも、ちょっと幼児を連れては無理っぽである。
かといって戻るとかありえん。
客室部分を船外排出したら回収されない限り藻屑決定だし、この宙域が何処かを特定しない限り、脱出艇で逃げ出すのがセオリーって訳で。
それがダメなら上に向かうという選択肢であり、この目の前の障害物の大きな花火が充填完了する間での時間で何ができるか~あうあうあう。
高性能ならいざ知らず、汎用人型の動力炉なら充填まで180秒。
戦闘多脚型の巨大炉なら冷却装置ありきで45秒が限界っていうのがスタンダード。
汎用人型でも測定した重量から、どうみても無理矢理詰め込んだ改造品として、高性能をぶち込んでも180以下という事は無い。
因みに、今現在砲身から見える色は緑だ。
つーことは?
あうあうあうあうあう、あっ?
武器そのものの性能が高いと見ても、間に合う!
(ルミたん、又、走るよぅ!口をとじてねん)
(だっこ?)
(うん、だっこ)
子供の首に手を添え頭をホールド。
深呼吸して、
(へんし~ん、しないけどぅ、ふんぬっ!)
お腹が減ってるけど、頑張るぞ~!
下半身から筋肉が変化する。
マッチョにはならないよ!
代わりにお顔が少し怖いかもん。
でもヘルメットの中身は見えないから良し。
喉の奥がグルグル鳴って、少しだけ体が大きくなる。
か~ら~のぉ、ダッシュだぁ!
取り替えたばかりの靴が潰れた。
ついでに最初の一蹴りで通路がボコッた。
けど、命大事にぃ、なんで気にしない。
直線では走らず、通路を上下左右に蹴り走る。
ともかく射程から外れるには、逃げるか特攻しかない。
そして他の退避経路は当初の道より危険だ。
コレを避けられれば一番いい。
んで、つまり頭が悪いんで特攻してみた!
己の脚力を信じるのみである。
うわぁ、同僚だった奴らの声が聞こえるよ。
ノウキン、ノウキンがココにいるよって。
(フハハハハ!)
酸素不足で目の前が赤いよ。
楽しくないのに、笑いが漏れちゃったね。
エルミナの息の根が止まらない程度に不規則に走る。
うぉぉお、砲身の色が変化しだしたっ。
緋色から橙、そいで白っぽくなってきたら撃てちゃうかもかも。
それダメ、子供に向けちゃダメ。
因みに、俺っちも幼体ですから。
ドロイドはギクシャクと砲身を揺らす。
距離はギリギリ射程内。
空気が軋み、目を焦がす。
もちろん、感じるはずのない感覚だけど、武器を真っ正面から向けられた時ってそんな風だよね。
誰かツッコんで、武器を向けられる日常生活は、普通異常だよって。
酸欠やばい、視界がアウト、でも、走るよぉ~なぜならばぁ~いひひひひひぃ、やばい、がっ我慢、あがあがあがぁ!
電磁系の武器って色々あるよね。
えとえと、だいたいがさぁ~破壊に用いる奴が殆どなわけよ。
どっかーんて感じのね。
対人用の電磁系ってさ、もっとこうエグい感じの奴が殆どでさ。
こうもっと直接的にぶっころなぁ感じの武器に併用されているのよ。
つまり、皮膚溶かしたりぃ、目ぇをさぁ潰したり焼いたりね。
何が言いたいかって?
つまりさ、電磁系の大型出力を生体にぶっつけたらどうなるか?
そりゃもうエグい死に様な訳よ。
んでも、そういった大型出力の電磁系は一般的じゃないわけさ。
普通は使わない。
地上戦でも、対人にも使わない。
つーか、使えない。
いや、何も優しい理由じゃないんだよ。
死に様が恐ろしいから止めましょうなんて訳でもない。
死に様?
見たこと無いよ。
どっちにしろ、死体らしき物がそもそも残るのかな?
ドロイドなら溶けて産廃だけど、生き物は考えるのも嫌だよね。
でも、人道的?な理由から軍隊の標準装備になんなかった訳じゃないのよん。
大気なんつーもんの無い宇宙空間で戦うとかつーんなら有りだけどさ。
それとも開拓惑星で先住生物根絶やしとかなら運用されるかな。
なぜかって、理屈的には狙った場所に撃ち込むってのは難しい訳よ。
初射以降の弾道補正が難しい。
冷却装置が無い場合は砲身が保たない。
そいで加速を維持する高出力の動力に金がかかる。
つまり、そんなアホみたいに使いづらい武器は使わないわけですよ。
あぁ、腹減った。
んで、結果。
ドロイドの関節に負荷がかかりすぎていたこと。
幾度もぶっ放した後だったこと。
俺っちの脚力が人類ランクで言うところの超人だったこと。
んで、スキル不幸持ちだったのかしらんけど、結果、少し溶けた..。
左側頭部がね、メットがね、ちょっぴりトロっと。
超こえぇぇよ!
けれど、抜けた。
アホタレがぶっ放したのと同時ぐらいに。
メットのバイザーは雲ってひび割れるし、紙一重っての?
もちろん脳味噌爆散とかはしてない。
腹が減りすぎて動けないけど。
勝手に笑っちゃってるけど。
そいで、通路にのびてるけど。
プラズマの輝きから想像するに、武器は爆発したと思う。
思うってのは、見てないから。
走り抜けた先、上から隔壁の一つが突然落ちてきた。
隔壁が異常なエネルギーに反応したのかな。
で、ぎりぎり隔壁の隙間に滑り込む。
ミラクルである。
そいで、俺とエルミナを奴から隔離。
そうだよ、ルミたん生きてる?
おぉ、やっぱり気絶してる。
息はしてるけど、加速と揺れで意識が無いよ。
うわぁ、幼児虐待だよ。
つーか、大丈夫かな、大丈夫じゃないよね。
吐いてないよね、よし、早く逃げ出す算段と休める場所を..。
やっと起き上がり、通路を見回す。
人影無し、敵も無し。
つーか、ちょっとこの船、普通に遭難したんじゃ無さそげ。
遭難に普通も何もないけど、船の故障じゃ無いことは確か。
うわぁ、嫌な予感がするぅ。
って、もう、殺されかかってるから、嫌な予感じゃなくて、マジやばし。
ぶっこわれた靴をズリズリしながら通路を進む。
おぉ揺れてる、ちょっとばかり重力が戻ったようで船体の揺れがよく分かる。
藻屑秒読みなんすか?
そんな会話を脳内でしていると、バイザーにやっと艦内情報が表示された。
真っ赤っかである。
緊急事態で緊急避難で...。
バグっていた。
失神しそうな点滅が繰り返される毎に、艦内情報の表示が変わる。
避難誘導やら避難場所への通路がランダムに表示されるけど、どうみても間違ってる。
意味不明の表示が暫く続くと、不意に点滅が止まる。
(現在、動力施設の火災事故により、乗客乗員の避難指示がでております。
区画毎に避難誘導に従い、エリア9及びエリア12の交流フロアへ向かってください。
尚、移動用ベルトは、61番と182番のベルトが作動しておりますが、C989地域からはご利用できません)
ぞわっとした。
久々に、ぞわっと背中が冷たい。
エリア9っていうのは、通路を兼ねた広間である。
船の中心部分にある交流スペースで休憩所みたいなやつ。
通路に設置してある移動用のベルトフックに掴まって、無重力状態で行くんだけど。
行くんだけど、どうして、そんな袋小路に行かねばならんのよ。
そんな所に皆で集まって、どうすんのよ?
エリア9から16までが、船の娯楽施設なんだけど、まぁ、解凍したら行くんだよね。
旅の終わりに行く場所。
冷凍から解凍しました、はい、元気って普通はなんないでしょ?
この体力自慢の俺っちにしても、この通りだし。
だから、普通は下船の数日前に解凍して、休憩エリアで体を慣らして下船って訳。
でも、エリア9って覚えている限り、船の乗船口から一番遠い。
娯楽施設としては最大で、艦橋に近いんだけど出入り口が二つだけ。二つ首のフラスコみたいな形なんだよ。劇場施設だからスクリーンの関係で他の開放型のフロアとは違うんだよ。
これが普通なのか?
事故が収束するまで、そこで待つのが?
解凍後だから?
しばし通路で悩む。
俺の本能はヤバいと告げている。
んじゃぁ最初の予定通り、下に向かう?
と、悩む俺の視界、通路の左下、壁の継ぎ目が動いて見える。
器用にパネルが外れると、ゴソゴソと手が開いた穴を探る。
オイオイと見ていると、小さな煤けた姿が這いだしてきた。
本当に煤けて煤だらけなんで、ゴーグルが曇って見えていないのだろう、ソイツは、まったく俺たちには気がついていなかった。
暢気に大きく伸びをすると、曇ったゴーグルを額にあげる。
そして、顔半分を覆うマスクを引き下げた。
「ほえぁ、酸素、酸素~ひょげっ!」
やっと気がついたね。
ソイツは、幼児を抱える俺を見て硬直した。
中途半端に両手を上に伸ばし、片足を曲げたまま固まる。
ちょっと面白い。
コイツが子供じゃなかったら、笑ってる。
...。
エルミナを抱えて天井を仰いだ。
「えーっと、へへへ」
子供だからいいのか?
「えっ、無視、無視っすか?」
まぁ、少なくとも、敵、じゃぁなさそうだしな。
観念して視界を戻す。
ごく普通の作業服、船外作業できない奴を着てる。
おまけに酸素供給が補助タイプだから生身と変わらん。
ほら、鼻と口だけを突っ込む奴だよ。
酸素が薄い場所で作業する時に使うけど、部屋着と変わらぬ。
酸素酸素って酸素の無い通路だったら、どーすんだよ。
目玉破裂すんぞ、じゃなくて死ぬんだけど。
ドゴン
無言で対峙する俺達を音が割る。
背後の隔壁が大きく変形していた。
ドグ..ドゴッ!
ボコボコと盛り上がる様子は、堅い物がぶつかっているか、何かで殴りつけているかのようだった。
一瞬躊躇、後、走り出す。
すると、何故か泣きべそをかいて子供も一緒に走り出した。
隔壁を変形させるって何?
爆発で膨張?
それとも、アレ?
アレってアレだよ。
溶解した筈のぶっ放した奴以外にも、いるとか?
「ひぃぃ、出たっ」
通路は緩やかに曲線を描いている。
その間にも背後で金属がねじ切れるような音が続いていた。
やばい。
慌てて会話をしようとしたが、溶けてバイザーが開かない。
開口部を力任せに引き上げて隙間をつくると、傍らの子供に話しかけた。
「出たって?」
子供は息切れして中々返事ができないようだったが、背後を親指で指すと言った。
「船員、殺..んす」
ひぃひぃ言いながら走る合間に、必死で子供は続けた。
「仕掛けられて..たみたい、ドロイド、一部すり替わって」
つまり?
「略奪、だと、おも、い、すぅ」
冗談だろ?
貧乏客船でナニ盗むのん?
そんな馬鹿な..ありえない。
「こっち、方向は、無事だと、思ったのにぃ」
メキッ..ッギュリギチギチギチィイイイ!
「何で」
答えを聞く前に背後から熱風が吹き付け、不穏な揺れが体を前に押し出した。
振り返って現実に対処しますか?
YES/NO←無理無理ぃお助けぇ!