ACT5 unconditional love 5
俺っちには、尻尾のように見える感覚器がある。
ネコの尻尾ではなく、言葉は悪いが触手である。
見た目は尻尾に見えるが、動かせる。
一本一本を動かせる。
つまり、感覚のある髪の毛。
触ったり、引っ張ったら、痛い。
マジ死ぬ。
しかし、遺伝子的に、テラ産のほ乳類とは、まったく関係が無い。
虹彩は縦割れだけどねん。
因みにテラ産の肉食は丸い虹彩もいるんだよぅ。
動物園大好き!
生まれてから一回しか行ったこと無いけどって話がそれた。
で、エルミナの目の前で感覚器をいったん広げると、複雑に編み込みしてみる。
あみあみと、何本も編み下げにして纏めるとウエストに巻き付ける。
もちろん、感覚器だけでの作業で手を使っていないのだ。
解くのもちゃんと感覚器だけでできる。
どやっ!
と、その様子を見せるとエルミナは拍手をしてくれた。
「ネコたん、尻尾すごいのねぇ」
いや、ネコじゃないよ。
エルミナに簡易服を着せて、おんぶする。
貨物エリアの下が機関室で、そこから更に下が舟艇の繋留室。
機関室手前あたりに、職員用の控え室があるはず。
んで、宙空間航海法とやらの規定で、人員の比率ってのがある。
宙空間作業法とか宙空間精神衛生法とかで、標準生命体が、宇宙空間で正常な判断能力の元、作業できる環境の規定ってやつ。
つまり特殊な環境と閉鎖的な場所で、正気を保てるラインが法律で決まっている。
それによると、大型客船の外宙航路での、輸送船本体の主知能は、長距離になると、エッグカプセルを使わない。
エッグカプセル、カプセルチャイルドは使わず、人工知能にする事。
そして、長距離船の船員の、ヒューマンの割合を二割以下にしないことというお約束がある。
エッグカプセルとは、人工義肢体の船型の物で、船の主知能として教育されたヒューマンである。
船から取り外された外装が、卵形のカプセルであるので、エッグと呼ばれる。
基本、人である事に代わりはない。
このエッグカプセルに関しては、人工脳ではない。この為、倫理上、個体数が少なく、殆どが、個人の、または高度な軍事艦船に用いられている。
建前は、事故等で肉体を喪った者で、本人または保護者の希望により、移植されたとある。
だが、実際は精神的に高度の抑制と安定、そして、優れた判断力を求められる主知能が、事故後の成人である訳がない。
つまり、赤ん坊の脳を、加工したものである。
そんな倫理的にアウトで金のかかった、更に、不確定要素満載の脳味噌を、一般的な船に使用する事はまず無い。なので、法律で決めなくてもいい話である。実際、お安い人工知能の方が、狂う可能性はゼロだ。
さて、何の話かと言えば、この法律の肝は、生の船員割合を決めている事だ。
船の規模と、距離と、目的などの様々な要因を調べて、発狂しないラインを決めている。
実際、発狂する人、多いのだ。
船会社も、様々なお薬で従業員を管理している。
それでも時々、発狂して事故になる。
なら、サービス要員やら船長に至るまで、高性能のドロイドにすればいいんじゃぁね?
と、考えるのだが、このドロイドも、高性能になると、狂う事もある。宙間事故比率とやらで、ドロイドと人工知能のみの航海と、ドロイドと人工知能と人の航海の、事故の割合を計算すると、何故か、人が加わる方がトラブルの発生率が減る。
不思議だよねぇ、人のみの事故発生率とドロイドのみの事故発生率が、ワープリング二個以上の距離になると同じになるんだとさ。
距離が短い場合はドロイドのみ。
超長距離の場合は、混合が一番事故率が下がる。
でも、これが軍事輸送になると、割合がかわるとか色々なんだと。
何の話をしたいのか?
通路がね、進む毎に、何て言うのかね、傷だらけで、焼けた痕とか、スゴいのさ。
少なくとも、ドロイドは沢山いたはずで、緊急時の対応は、彼らがしたはずなのだ。
船会社がケチっても、二割の人に八割のドロイド。
この船の輸送人員は、千ちょっと。
冬眠して運ぶだけだから、貨物を含めて管理するとしても、人員はその一割。だから百人として、少なくとも八十体のドロイド。
たぶん、この船員の割合に、機関室と艦橋の人員、船長や航海士はのぞいているから、サービス要員としての生の人間が二十人に人造体が八十であるからして。
「フィちゃん、あれ、なぁに?」
「産業廃棄物..」
「はい!放置すると、ばっきんをとられます!」
「難しい言葉も知ってるんだね~」
「エルミナは、ガクトに行くので、おべんきょうしましたっ!」
「おぉ、もしかしてニュートっすか?」
ニュートは天才児の渾名である。
シングル、ダブル、トリプル、その上がニュートと呼ばれる知能や体力、その他の能力に優れた子供の呼び方だ。
異能という奴で、国連が認定した異能の数も意味している。
「ううん、エルミナはダブルなの。でも、ママがトリプル」
学術研究都市惑星では、トリプルは永住許可が保証される。
「そうかぁ」
しかし、それ以下の異能保持者は、惑星で貢献できる職業に就かない限り成人後は滞在許可がでない。
短期労働ビザか、トリプル以上の相手と結婚するか子供を作らないとね。
まぁ救済処置もあるんだけど。
ニュートなんて国連の財産になっちゃうしね。
「あれ、また、あったよ」
「うん」
やばいなぁ。
産業廃棄物と化した人造体が放置されている。
基本的に、奉仕型のドロイドは戦闘には向いていない。
しかし、乗客の安全が脅かされた場合は、基本原則から外れた行動をする。
もちろん、戦闘用ではないので耐久性は無い。
が、それを焦げ焦げのドロドロにするってどーよ。
「こっからは、内緒話の通信に変えますよぅ。」
「あぃ」
視界の有効範囲に、熱源はない。
警告音と回転灯の色が目に痛いだけだ。
下へと向かう道を選んでいるが、下がる毎に焼け焦げた範囲が拡大している。
壁の材質は流石に、傷が残るような柔なものでは無いはずだ。
それが焦げてドロイドが溶けるのは、相当な高出力の武器である。
少なくとも、船内でぶっ放すような出力ではない。
自然と通路の壁にそうようにして進む。
(フィちゃんはぁ)
(うん?)
(お耳もぉ)
(うん、ちょっとルミたんとは違うねぇ)
(ふ~ん)
(ネコじゃないっす)
緊迫感の欠片もない無い会話だけど、何か見えた。
通路の先、豆粒ぐらいだけど、見えた。
(うわぁ、喜べないかもかもぉ)
(ほえぇ)
エルミナも視力は良いらしい。
片膝ついたドロイドがいる。
もちろん、焦げてはいないが、普通にも見えない奴が。
(アレ、動くようなら、ちょっとアレかもねん)
(アレってなぁに?)
(たぶん、危険物、かなぁ?)
此方が視認できるのだから、アレも俺達を捉えていると思って正解。
つまり、スキャンしてもお互い様だし、今更でしょ。
何で、自動精査してみる。
と、やっぱり普通じゃない。
普通のドロイドの重さではない。
そして担いでいるのは、何でしょう?
あのフォルムに見覚えがあります。
(迂回路を検索、頼むよぉ。アレを回避できるのは、装甲兵ぐらいでしょうがぁ)
(フィちゃん、アレ、目が)
(うん、検索検索。ドロイドの重さはエネルギー核、動力炉の重さなんだよぅ。)
(なんか、ヨロヨロ立ちあがった!)
(はやくはやく、検索ちゃん頑張ってぇ迂回路~)
(何だろ、こわれてるの?)
(壊れてんじゃなくて、重いんだよ。
動力炉が普通じゃないんだ、アレの担いでいる武器に、必要だからね。)
ジリジリと後退しながら、迂回路の計算を待つ。
どうやら、船そのものの機能を落とす速度が速くて、安全な通路が少ないようだ。
(ルートは3通りしかないの?
それも安全確率六割を下回るわけ?
酸素供給が無い場所も含む?
おいおいおいおいぃ~)
(ヘンなかたち、なんかヤダ)
(大丈夫、ルミたんだけは、ぜったい大丈夫だからね)
半分焦げたドロイドの肩には、鈍色の長い金属の固まりが担がれている。
ちょうど多足型歩行の装甲騎兵に付けられる砲身に見えた。
(多分、でっかい花火が飛び出すんだよ、プラズマで目が目がぁ!ってなるような)
(はなび?でも、ハナビは人にむけちゃだめなんだよぅ)
(なにぃ?強化防護服も着てねぇ一般人に、電磁兵器向けんじゃねぇぞゴラァ!)
ツッコミしてる場合じゃない。
ポンコツが標準を此方に向けている。
唯一の救いは、砲身から見える色が、充填中だった事。
そんな嬉しくない知識に喜ぶ自分の、幸福レベルの低さに目がかすみそうだった。




