第4話 「たぶん、来ます」
午後五時。
仕事を終えかけていたありさのところへ、美咲がやってきた。
「ありさ、今日このあと暇?」
「はい」
「じゃあ、一緒にご飯行かない?」
「いいよ」
「やった」
美咲が嬉しそうに笑う。
そこへ悠斗が通りかかった。
「お、二人で飯?」
「はい!」
「じゃあ俺も行こうかな」
「いいですね」
三人で会社を出ることになった。
駅へ向かう途中、美咲がスマホを見ながら言った。
「どこ行く?」
「何食べたい?」
悠斗が聞く。
「私はなんでもいいよ」
美咲が答える。
「俺もなんでもいい」
「じゃあ、ありさは?」
「私もなんでもいいです」
「全員なんでもいいじゃん」
三人で立ち止まる。
「じゃあ、近くの店でいいか」
悠斗がスマホを取り出した。
その瞬間、ありさが言った。
「待ってください」
「ん?」
「たぶん、焼肉になります」
「なんで?」
「美咲さんがお昼にお肉を食べてないからです」
「え?」
「先輩は今日、昼食がパンでした」
「なんで知ってるの?」
「見ました」
「見てたの?」
ありさは続ける。
「あと、今日は金曜日です」
「それが?」
「明日休みなので、少し重いものを食べたい人が多いです」
悠斗が笑う。
「いやいや、そんな単純じゃないだろ」
「そうですか?」
美咲が少し考える。
「……でも、焼肉いいかも」
「ほら」
「え?」
「先輩も焼肉ですよね?」
「いや、俺は――」
悠斗が少し考える。
「……焼肉でいいか」
ありさが笑う。
「ほら」
「偶然だよ」
「そうかな?」
三人は焼肉店へ向かった。
ところが店の前まで来たところで、ありさが立ち止まる。
「どうしました?」
美咲が聞く。
ありさは店の入口を見つめている。
「……混んでます」
「まあ金曜日だしね」
「待ち時間、たぶん二十八分です」
悠斗が店内を見る。
「そんなの分かる?」
「はい」
「なんで?」
「人数と、席の回転率と……」
ありさが店内を見回す。
「今、帰った人が二組いるので」
その瞬間。
店員が入口に出てきた。
「三名様でしたら、ちょうどお席が空きました!」
三人が固まる。
悠斗がありさを見る。
「……」
ありさも悠斗を見る。
「どうしました?」
「いや」
悠斗は苦笑した。
「もういいや」
「?」
「ありさに任せるわ」
ありさは嬉しそうに笑った。
「はい!」
その夜。
三人は焼肉を楽しんだ。
そして帰り道。
美咲がありさに聞いた。
「ねえ、ありさ」
「なに?」
「さっきから思ってたんだけど」
「うん」
「ありさって、人のことよく見てるよね」
「そう?」
「うん。なんか……普通の人より」
ありさは少し考えた。
「人を見るの、好きだからかな」
「へえ」
「みんな違うから」
美咲が笑う。
「なんか、ありさらしい」
ありさも笑った。
「そう?」
その夜、ありさは家に帰った。
玄関を開ける。
靴を脱ぐ。
そして――
「……あ」
冷蔵庫を開ける。
中には何もない。
「今日、ご飯食べたのに……」
少し考える。
「明日の朝ごはん、ない」
ありさはスマホを取り出した。
「……買い物、忘れた」
会社では人間の行動を予測できる。
でも、自分の生活だけは予測できない。
ありさは小さく笑った。
「まあ、明日考えればいいか」
その頃。
会社のサーバー室では、誰も触っていない端末の画面に、一瞬だけ文字が表示された。
SYSTEM CHECK
そして、すぐに消えた。




