第29話「その修正、誰が使ってますか?」
# 第29話「その修正、誰が使ってますか?」
午前十時。
「ありさ、この機能なんだけど、使いにくいって問い合わせが来てるんだ」
悠斗が画面を見せた。
「どこが使いにくいんですか?」
「入力する項目が多いらしい。減らせないかって」
「分かりました。確認します」
ありさは実際の画面を開き、入力項目をひとつずつ確認した。
「……先輩、この項目って何に使っていますか?」
「え? どれ?」
「この『備考コード』です」
「うーん……前からある項目だな。今も使ってるのかな」
「調べてみます」
ありさは処理を検索し、関連するコードとデータを確認した。
しばらくして。
「見つかりました」
「使ってた?」
「はい。ただし、通常の画面では使っていません」
「どういうこと?」
「月末の集計処理で参照されています」
悠斗が画面を覗き込む。
「本当だ……。じゃあ、消せないのか」
「今のまま入力欄を削除すると、月末の処理に影響する可能性があります」
「危なかったな」
ありさは少し考えた。
「入力する人には見せずに、必要な値だけ自動で設定できればいいと思います」
「それなら使いやすくなるし、今の処理も残せるな」
「はい。変更前に、集計処理のテストもしておきます」
その日の午後。
修正した画面を見て、悠斗が頷いた。
「これなら入力する項目が減ったし、必要な処理も動いてる。いいね」
「よかったです!」
「ありさ、よく使われてる場所まで調べたな」
ありさは不思議そうに首を傾げた。
「使っている人がいるなら、勝手に消せないですよね?」
「まあ、そうなんだけどさ」
悠斗は笑った。
「そこまで調べずに、見た目だけ直しちゃうこともあるんだよ」
「でも、直したあとに困る人がいたら嫌じゃないですか」
悠斗は少し真面目な顔になった。
「……そうだな。誰が使ってるかって、大事だな」
ありさは嬉しそうに頷いた。
「はい!」
夕方。
美咲がありさのデスクを覗き込んだ。
「ねえ、ありさ。私のデスクに置いてたプリン知らない?」
「知ってるよ」
「えっ、食べた?」
「ううん。冷蔵庫に入れておいた」
「ありがとう! 助かった!」
美咲は冷蔵庫を開けた。
そこには、プリンが二つ。
「……ありさ」
「なに?」
「これ、どっちが私の?」
ありさは固まった。
「……両方、同じに見えたから」
「名前、書いてあったでしょ!」
「えっ!?」
美咲が笑いながらプリンを取り出す。
「仕事では使ってる人まで確認するのに、これは確認しなかったんだ!」
ありさは小さく肩を落とした。
「……次から、名前も確認します」
「そこは最初からお願い!」
二人の笑い声が、夕方のオフィスに響いた。




