第30話「それ、直す必要ありますか?」
# 第30話「それ、直す必要ありますか?」
午前十時。
「ありさ、この画面なんだけど、表示がちょっと遅いんだよね」
悠斗がパソコンを見せた。
「どのくらいですか?」
「三秒くらいかな。もう少し速くできないかって」
「分かりました。確認します」
ありさは処理時間を測り、画面の動きを調べ始めた。
数分後。
「原因は分かりました」
「早いな。どこ?」
「この一覧を表示するときに、同じデータを何度も取得しています」
「なるほど。まとめて取得すれば速くなる?」
「はい。試してみます」
ありさはコードを修正した。
「できました。三秒かかっていた処理が、〇・四秒になりました」
「おお! かなり速くなったな!」
悠斗が喜ぶ。
「これで完了?」
ありさは少し考えた。
「……ひとつ、確認したいです」
「何?」
「この画面、普段は何件くらい表示していますか?」
「え? 数十件くらいじゃないかな」
ありさは利用状況を確認した。
「普段のデータ量なら、修正前でも一秒以内です」
「じゃあ、三秒かかるのは?」
「大量のデータを表示したときです」
悠斗が頷く。
「なるほど。じゃあ、今回の修正は意味があるな」
「はい。ただ、修正するとメモリの使用量が少し増えます」
「そこも問題ない?」
「今のデータ量なら大丈夫です。将来もっと増えた場合は、別の方法も検討したほうがいいと思います」
悠斗は感心したように笑った。
「速くするだけじゃなくて、何が変わるかまで見てるんだな」
ありさは首を傾げる。
「速くなっても、別の問題が出たら困るので」
「確かに」
午後。
課長が修正結果を確認した。
「いいね。これなら安心して出せる」
「ありがとうございます!」
課長が去ったあと、悠斗が聞いた。
「ありさって、何でもすぐ直したくなる?」
「そうですね……」
ありさは少し考えた。
「でも、直したほうがいいものと、直さないほうがいいものはあると思います」
「おお、いいこと言うね」
「直すことで、もっと悪くなったら意味がないですから」
悠斗が頷く。
「その判断、大事だな」
ありさは嬉しそうに笑った。
その直後、美咲が慌ててやってきた。
「ありさ! 私のパソコン、遅いんだけど!」
「どのくらい?」
「めちゃくちゃ遅い!」
「何をしたとき?」
「……分かんない!」
ありさは少し考えた。
「じゃあ、まず再現できるか確認しよう」
美咲が頷く。
数秒後。
「……あ」
「どうしたの?」
美咲がマウスを持ち上げた。
「マウスの電池、切れかけてた」
ありさは静かに頷いた。
「それは、コードを直しても速くならないね」
「分かってるよー!」
オフィスに笑い声が響いた。




