第27話「その説明、誰に向けてますか?」
# 第27話「その説明、誰に向けてますか?」
午前十一時。
課長がありさを呼び止めた。
「ありさ、今日の午後、取引先に修正内容を説明してもらえる?」
「はい。分かりました」
「技術的な話になるから、分かりやすく頼むよ」
「分かりやすく、ですね」
ありさは説明資料を作り始めた。
午後二時。オンライン打ち合わせ。
ありさが画面を共有する。
「今回の不具合は、検索結果を保持した状態で戻る操作を行うと、データの読み込みが重複することが原因でした」
先方の担当者が首を傾げる。
「すみません、ちょっと難しくて……」
「申し訳ありません。では、別の説明にします」
ありさは資料を切り替えた。
「例えば、同じ荷物を二回運んでいたような状態です。必要な荷物は一つなのに、同じものを二回運んでいたので、作業が止まっていました」
「ああ、なるほど!」
担当者の表情が明るくなった。
「今回の修正で、同じ荷物を二回運ばないようにしました」
「分かりやすいです。ありがとうございます」
打ち合わせが終わると、悠斗が声をかけた。
「ありさ、説明うまかったな」
「そうですか?」
「最初の説明、俺でもちょっと難しかったぞ」
「技術的には正確だったんですが……」
ありさは少し考えた。
「相手が知りたいのは、どういう仕組みかより、何が起きて、どう直ったかだったんですね」
「そうそう。それが大事なんだよ」
「なるほど」
ありさはメモを取った。
説明するときは、相手が知りたいことから話す。
「これ、次からも使います!」
悠斗が笑う。
「いいね。どんどん覚えていこう」
その日の夕方。
美咲がありさの席にやってきた。
「ねえ、今日のお昼、何食べた?」
「おにぎり!」
「何味?」
「……」
ありさの手が止まった。
「覚えてない」
「えっ、なんで!?」
「食べたことは覚えてるんだけど……」
美咲が呆れたように笑う。
「仕事の説明はあんなに丁寧なのに!」
ありさは真剣に考えた。
「次から、お昼も記録したほうがいいかな?」
「そこまでしなくていいよ!」
オフィスに、美咲の笑い声が響いた。




