第24話「その一言、言いました?」
# 第24話「その一言、言いました?」
午後四時。
「ありさ、ちょっと確認してほしい」
課長が打ち合わせの資料を持ってきた。
「はい」
「取引先から、昨日の打ち合わせで決めた内容と違うって連絡が来てる」
「どこですか?」
課長が該当箇所を指差す。
「ここ。向こうは『この仕様で決めた』って言ってる」
ありさは資料を見る。
「……昨日の議事録はありますか?」
「あるよ」
ありさが確認する。
「この内容、昨日は決めてないです」
「でも先方は、昨日そういう話をしたって」
「じゃあ、打ち合わせの録音はありますか?」
「ある」
再生する。
しばらく聞いたあと。
「ありました」
「何が?」
ありさが該当箇所を止める。
「ここです」
悠斗も横から聞く。
先方が話している。
『できれば、この仕様にしていただけると助かります』
その直後、課長が答えている。
『確認しておきます』
ありさが言う。
「これは、決定ではないですよね」
「……確かに」
悠斗が笑いをこらえる。
「『確認しておきます』を『決定しました』にはできないな」
「はい」
課長が少し困った顔をする。
「じゃあ、どう伝える?」
ありさは少し考える。
「昨日の打ち合わせでは、こちらは確認事項として受けています」
「うん」
「なので、決定した仕様と確認中の内容を分けて伝えればいいと思います」
課長が頷く。
「そうしよう」
その日の夕方。
先方に説明すると、相手も納得した。
「こちらの認識違いでした。申し訳ありません」
電話を切る。
課長がありさを見る。
「助かったよ」
「よかったです」
悠斗が笑いながら言う。
「ありさって、言葉の一個一個までちゃんと覚えてるよな」
「覚えてるというより……」
ありさは少し考える。
「決まったことと、決まってないことを混ぜると、あとで困るので」
「まあ、それはそうだな」
「だから、分けておいたほうがいいです」
悠斗が頷く。
「なるほど」
ありさは満足そうに笑った。
その直後。
課長が資料を見て、
「あ」
「どうしました?」
「この日付、間違ってる」
「……」
ありさが画面を見る。
「本当ですね」
「直しておいて」
「はい」
ありさはすぐに修正する。
悠斗が笑う。
「人の言ったことは細かく覚えてるのに、自分の資料の日付は間違えるんだな」
ありさは少し恥ずかしそうに笑った。
「……そこは見落としました」
「そこが新人っぽいんだよな」
「そうですか?」
「うん」
ありさは笑いながら、もう一度資料を確認した。




