第19話「それ、仕様変更です」
# 第19話「それ、仕様変更です」
翌日。
朝から、悠斗の席に電話がかかってきた。
「はい、ありがとうございます……」
悠斗の表情が少しずつ固くなる。
電話を切ると、ため息をついた。
「どうしたんですか?」
ありさが聞く。
「昨日の機能なんだけど」
「はい」
「お客さんが、最初に聞いてた内容と違うことを言ってきてさ」
「どんな内容ですか?」
悠斗が説明する。
「『ここもこうしてほしい』って」
「それ、昨日の打ち合わせでは出てなかったですよね?」
「うん」
「議事録には?」
「……ある」
悠斗が画面を開く。
ありさが確認する。
「やっぱり、書いてあります」
「何が?」
「昨日決めた内容です」
ありさは議事録と仕様書を見比べる。
「今回言われている内容は、昨日決めた仕様には含まれてません」
悠斗が困った顔をする。
「でも、向こうは『最初からそういう話だった』って言ってるんだよ」
「じゃあ、確認しましょう」
「どうやって?」
ありさは少し考える。
「昨日の打ち合わせの内容を、そのまま並べればいいと思います」
その後のオンライン打ち合わせ。
先方が言う。
「いや、これは最初からお願いしていた内容なんですが……」
ありさは黙って資料を見る。
そして、
「すみません」
「はい?」
「昨日のお打ち合わせでは、こちらの内容で合意しています」
画面に議事録を映す。
「今回のお話は、ここから追加になっています」
先方が黙る。
「……そうでしたっけ?」
「はい」
ありさは笑顔で続ける。
「なので、対応することはできます。ただ、今の仕様から変更になります」
悠斗が横で小さく頷く。
先方が少し考える。
「……確認します」
打ち合わせ終了。
悠斗が椅子にもたれる。
「助かった……」
「よかったです」
「ありさ、よくあそこまで覚えてたな」
「覚えてないですよ」
「え?」
「議事録に書いてあったので」
「……」
ありさは首を傾げる。
「記録って、そういうためにあるんじゃないんですか?」
悠斗は少し笑った。
「そうなんだけどさ」
「はい?」
「そこをちゃんと使える新人って、意外と少ないんだよ」
「そうなんですか?」
「うん」
ありさは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、記録しておいてよかったです」
そして悠斗は思う。
この子は、仕事ができる。
でも本人は、それを特別なことだと思っていない。
それが一番、不思議だった。




