第18話「新人なので、分かりません」
# 第18話「新人なので、分かりません」
10月7日。
午後二時。
ありさは、取引先とのオンライン会議に参加していた。
画面の向こうには、昨日話していた担当者がいる。
「では、昨日いただいた追加要望について説明します」
担当者が資料を共有する。
「この機能を今週中に追加してください」
「はい」
ありさは頷いた。
「ただ、一点確認してもいいですか?」
「何でしょう?」
「この機能は、どのくらいの頻度で使う予定ですか?」
担当者が少し黙る。
「必要な機能なので」
「はい」
「だから追加してください」
「分かりました」
ありさは資料を見直す。
「では、もう一つ」
「はい」
「この操作をする人は、何人くらいですか?」
「……そこまでは把握していません」
「分かりました」
ありさはメモを取った。
「では、そこは確認していただけますか?」
担当者が少し苛立った様子で言った。
「新人の方ですよね?」
「はい」
「細かいことはいいので、言われたものを作ってもらえれば大丈夫です」
会議室の空気が少し変わった。
悠斗が口を開こうとする。
その前に、ありさが話した。
「分かりました」
ありさは笑顔のまま続ける。
「では、確認できていない部分は、こちらで判断して作ります」
「それでお願いします」
「ただし」
ありさが資料を一枚切り替えた。
「その場合、完成後に仕様が変わる可能性があります」
「……」
「そうすると、作り直しになる可能性があります」
担当者が黙る。
ありさは淡々と続けた。
「私は新人なので、まだ分からないことがあります」
悠斗が少し驚いてありさを見る。
「だから、分からないことは確認したいです」
「……」
「確認できれば、ちゃんと作れます」
しばらく沈黙が続いた。
やがて担当者が、
「……分かりました。利用人数と、実際の使い方を確認します」
「ありがとうございます」
会議が終わった。
画面が消える。
「……」
悠斗がありさを見る。
「ありさ」
「はい?」
「今の、かなり良かったぞ」
「そうですか?」
「うん」
「私、何か変なこと言いました?」
「いや」
悠斗が笑う。
「ちゃんと新人だった」
「?」
「分からないことを分からないって言えるの、結構大事だからな」
ありさは少し考えた。
「なるほど」
「それに、ちゃんと相手に選択肢を渡してた」
「そうしたほうが決めやすいと思ったので」
「……やっぱり普通じゃないな」
「またですか?」
ありさが笑う。
その日の夕方。
取引先からメールが届いた。
**「先ほどの件、確認しました。ありささんの質問のおかげで、こちらの要望にも整理が必要だと分かりました。」**
ありさは画面を見て、嬉しそうに笑った。
「よかった」
そして小さく呟く。
「聞いてみるって、大事なんですね」




