第17話「新人には無理ですよ」
# 第17話「新人には無理ですよ」
10月6日。
午後三時。
会議室から戻ってきた悠斗の顔が、少し険しかった。
「どうしたんですか?」
ありさが聞く。
「取引先との打ち合わせ」
「何かありました?」
「追加の要望が出てきた」
「どんな内容ですか?」
悠斗が資料を机に置く。
「今週中に、今あるシステムに新しい機能を追加してほしいって」
「今週中……」
ありさが資料を見る。
「結構ありますね」
「うん。しかも、既存の機能にも影響が出そうなんだよ」
「それなら、先に影響範囲を調べたほうがいいですね」
「そうなんだけど」
悠斗がため息をつく。
「先方がかなり強くてな」
「はい」
「『新人には無理でしょうから、別の人にお願いします』って言われた」
ありさの手が止まった。
「……私のことですか?」
「まあ、そういうことだな」
「分かりました」
ありさは資料を持った。
「調べてみます」
悠斗が慌てる。
「いや、無理しなくていいぞ」
「大丈夫です」
ありさは自分の席に戻った。
仕様書。
過去の設計資料。
ソースコード。
関連するテーブル。
一つずつ確認していく。
しばらくして。
「先輩」
「ん?」
「この機能、追加するだけならできます」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ問題ないじゃん」
「でも」
ありさが画面を指差した。
「この方法で追加すると、三つの既存機能に影響します」
「……」
「こっちの方法なら影響しません」
悠斗が画面を見る。
「そんなところまで調べたの?」
「はい」
「どのくらいかかった?」
「一時間くらいです」
悠斗は言葉を失った。
そのとき、課長が入ってきた。
「どうだ?」
悠斗が説明する。
「ありさが影響範囲を調べてくれました」
課長が画面を見る。
「これなら先方に説明できるな」
「はい」
ありさが頷く。
「ただ、今週中に完成させるなら、先方に一つ確認してもらいたいことがあります」
「何だ?」
「この機能、本当に全部必要なのかです」
「え?」
「要望の中に、実際には使わない可能性が高い部分があります」
「どうして分かる?」
「過去三か月の利用データを見ると、一度も使われていない操作なので」
課長が画面を見る。
「……なるほど」
「そこを省けば、今週中でも安全に対応できます」
悠斗が笑った。
「新人には無理、か」
ありさは首を傾げた。
「できますけど?」
「いや、そういう意味じゃない」
「?」
課長が笑う。
「ありさ、その資料を持って、今度の打ち合わせに一緒に来てくれ」
「私もですか?」
「ああ」
「分かりました」
ありさは嬉しそうに頷いた。
その日の帰り。
美咲が聞いた。
「取引先の人、びっくりするんじゃない?」
「何が?」
「ありさが出てきたら」
ありさは少し考えて、
「ちゃんと説明できれば大丈夫じゃないかな」
「そういうところなんだよね……」
「?」
ありさは笑った。
「明日、ちゃんと説明します」




