第16話「そのバグ、私が見つけます」
# 第16話「そのバグ、私が見つけます」
10月6日。
午後四時。
「ありさ、ちょっといいか?」
悠斗が慌てた様子でやってきた。
「はい」
「取引先から連絡。昨日からシステムが遅いって」
「どのくらいですか?」
「画面が表示されるまで十秒くらいかかるらしい」
「十秒……」
ありさの表情が変わった。
「昨日までは?」
「二秒くらい」
「じゃあ、何か変わってますね」
「それが分からないんだよ」
ありさはすぐにパソコンを操作した。
「ログ、見せてもらえますか?」
「これ」
ありさはログを確認していく。
「……ここ」
「何か分かった?」
「同じデータを何度も取得してます」
「え?」
「この画面、一回表示するだけなのに、同じ情報を何回も取りに行ってます」
悠斗が画面を見る。
「本当だ……」
ありさはさらに確認する。
「しかも、昨日追加された処理です」
「昨日の変更が原因?」
「たぶん」
ありさがコードを開く。
数秒後。
「あ」
「どうした?」
「ここで毎回データを取り直してます」
「それで遅くなってるのか」
「はい」
ありさが修正する。
「これで一回だけ取得するようにします」
「大丈夫?」
「テストします」
ありさは複数の条件で確認する。
「……大丈夫です」
悠斗が実行する。
画面が一瞬で表示された。
「速っ!」
「元に戻りました」
「ありさ、すごいな……」
そのとき、課長が会議室から出てきた。
「どうだった?」
悠斗が答える。
「原因、昨日の変更でした。ありさが直しました」
課長がありさを見る。
「もう?」
「はい」
「先方への説明は?」
ありさは少し考えた。
「原因と修正内容を、画面を見せながら説明したほうが分かりやすいと思います」
「頼めるか?」
「はい」
その後、オンライン会議。
取引先の担当者が不安そうに話す。
「昨日から急に遅くなってしまって……」
ありさが画面を共有する。
「今回の原因はこちらです」
修正前と修正後の動きを見せる。
「修正後は、同じ情報を一度だけ取得するように変更しています」
担当者の表情が変わった。
「なるほど。もう大丈夫なんですね」
「はい。こちらで確認した限り、問題ありません」
「ありがとうございます」
会議が終わる。
悠斗が大きく息を吐いた。
「……終わった」
ありさが笑う。
「よかったです」
「ありさ、今日めちゃくちゃ頼もしかったぞ」
「ありがとうございます」
少し間を置いて、ありさが言った。
「でも、原因を作ったのも私たちですよね」
「……」
悠斗が固まる。
「そこまで言わなくていいんだよ」
「でも、直せたのでよかったです」
ありさは何事もなかったように席へ戻った。
美咲が小声で言う。
「ありさって、トラブルになると強いよね」
ありさは振り返る。
「そう?」
「うん。普段より頼もしい」
「じゃあ、トラブルがあったほうがいいのかな?」
「それは違う!」
ありさは笑った。
「冗談です」
その日の帰り道。
ありさはスマホを見ながら歩いていた。
「今日は疲れた……」
そして三歩歩いたところで立ち止まる。
「……あ」
美咲が振り返る。
「どうしたの?」
「会社にスマホの充電器忘れた」
「……」
「戻ります」
「最後そこなんだよね、ありさ」




