第15話「それ、仕様ですか?」
# 第15話「それ、仕様ですか?」
10月3日。
午後二時。
「ありさ、ちょっと来て」
悠斗の声が、いつもより少しだけ硬かった。
「はい」
ありさが席を立つ。
会議室には、課長と悠斗がいた。
「取引先から連絡があってな」
課長がパソコンを開く。
「昨日納品した機能について、動きがおかしいと言われてる」
「どんな動きですか?」
「指定した条件と違う結果が表示されるらしい」
ありさが画面を見る。
「実際の画面、見せてもらえますか?」
悠斗が取引先から送られてきた画面を開いた。
「これ」
ありさはしばらく画面を見る。
「……この操作、どこから始めましたか?」
「え?」
「最初に押したところです」
悠斗が確認する。
「ここからって書いてある」
「分かりました」
ありさは画面を見ながら考える。
「この操作だと、今の仕様ではその結果になります」
課長が振り返った。
「つまり?」
「プログラムの不具合ではないです」
悠斗が少し驚く。
「じゃあ、先方の操作ミス?」
「まだ分かりません」
ありさはすぐに言った。
「先方が想定している動きと、私たちが作った仕様が違う可能性があります」
部屋が静かになった。
課長が頷く。
「……なるほど」
「仕様書を確認していいですか?」
「頼む」
ありさが仕様書を開く。
数ページ確認する。
「ありました」
「何が?」
「ここです」
ありさが該当箇所を指差した。
「仕様書では、この条件のときはこの結果になることになっています」
悠斗が画面を見る。
「じゃあ、やっぱり先方の言ってることと違うな」
「はい」
ありさはさらに画面をスクロールする。
「でも……」
「まだある?」
「この打ち合わせの議事録では、先方が希望していた動きが別に書かれています」
課長と悠斗が顔を見合わせる。
「……仕様書と議事録が違う」
「はい」
ありさは少し考えた。
「これ、どちらを正しい仕様にするか確認したほうがいいです」
課長が頷く。
「そうだな。先方にはこちらから説明する」
「はい」
悠斗がため息をついた。
「こういうの、一番難しいな……」
ありさが首を傾げる。
「プログラムを直すよりですか?」
「うん」
「どうしてですか?」
悠斗は少し笑った。
「プログラムは、正しい答えが決まってるから」
ありさは少し考える。
「……人間のほうが難しいんですね」
「そういうこと」
ありさは真剣に頷いた。
「分かりました」
そして、すぐに言った。
「じゃあ、まず事実を全部整理します」
「え?」
「どこまでが決まっていて、どこからが認識違いなのか」
課長が笑った。
「頼もしいな」
ありさは少し照れながら、
「ちゃんと確認してから直したほうが、二度手間にならないので」
そう言って、もう一度資料を開いた。




