第14話「それ、私の環境では動きます」
# 第14話「それ、私の環境では動きます」
10月2日。
午前九時半。
「ありさ、ちょっといい?」
悠斗が声をかけた。
「はい」
「昨日の機能なんだけど、俺のパソコンだと動かないんだよ」
「え?」
ありさが悠斗の画面を見る。
「昨日は動いてましたよね?」
「うん。ありさのパソコンでは?」
「動きます」
「……」
悠斗が苦笑する。
「出たよ。『私の環境では動きます』」
「でも、本当に動きます」
「分かってる」
ありさは悠斗のパソコンを見ながら考えた。
「先輩、昨日から何か変えました?」
「特に何も」
「設定も?」
「たぶん」
「『たぶん』ですか?」
「いや、そこは確認する」
悠斗が設定を開く。
ありさは横から画面を見る。
「……これです」
「何?」
「使っているバージョンが違います」
「え?」
「昨日、先輩のパソコンだけ更新されてます」
悠斗が確認する。
「ほんとだ」
「だから動かなくなったんだと思います」
「じゃあ戻せばいいのか」
「それでもいいですけど……」
ありさが少し考える。
「同じことが他の人でも起きる可能性があります」
「……確かに」
「今回の変更で動かなくならないようにしたほうがいいです」
「できそう?」
「はい」
ありさはすぐに修正を始めた。
美咲が横から覗き込む。
「こういうのって、原因見つけるまでが大変なんだよね」
「はい」
ありさが画面を見ながら答える。
「動かないって言われても、どこが違うか分からないので」
「分かる」
悠斗も頷く。
「環境、バージョン、設定……」
「はい」
ありさが振り返る。
「だから、最初に『何が違うか』を確認するのが大事なんですね」
「そうそう」
ありさは頷いた。
「じゃあ、次から『動きません』って言われたら、まず環境を聞きます」
「うん」
「パソコンの種類と、バージョンと、設定と……」
「そこまで聞く?」
「必要ですよね?」
悠斗は少し考えた。
「……必要だな」
ありさは満足そうに頷いた。
「分かりました」
そして数分後。
「直りました」
悠斗がもう一度実行する。
「……動いた」
「よかったです」
「ありさ」
「はい?」
「これ、俺が最初に『動かない』って言ったとき、何が違うか聞いてくれてもよかったんだぞ」
ありさは少し考えた。
「……先輩が『何も変えてない』って言ったので」
「そこを信じたのか」
「はい」
「そこは疑っていいんだよ」
「分かりました」
ありさはメモを取った。
**『先輩の「何も変えてない」は、一度確認する』**
「……それ、俺の目の前でメモする?」
「忘れないようにです」
「消して」
「嫌です」
美咲が吹き出した。
「ありさ、強くなったね」
「そうですか?」
「うん」
ありさは笑いながら、メモを大事そうにしまった。




