第12話「それ、私がやります」
# 第12話「それ、私がやります」
午後一時。
ありさは昼休みから戻ると、悠斗の席の前で立ち止まった。
「先輩」
「ん?」
「何か手伝えることありますか?」
悠斗は少し驚いた。
「珍しいな」
「そうですか?」
「いや、いつも自分の作業に集中してるから」
「もう終わりました」
「え?」
ありさが自分の席を指差す。
「午前中の分は終わりました」
「……早くない?」
「そうですか?」
悠斗は少し考えてから、机の上に置かれた資料を見た。
「じゃあ、このデータ整理お願いできる?」
「はい」
ありさは資料を受け取った。
「これ、今日中ですか?」
「できれば」
「分かりました」
ありさが席に戻ろうとすると、悠斗が声をかけた。
「あ、でも無理しなくていいからな」
「大丈夫です」
「本当に?」
「はい」
ありさは笑った。
「こういうの、結構好きなので」
「そうなの?」
「数字を並べると、きれいになるので」
「……そういうところだよな」
「?」
ありさは首を傾げながら席に戻った。
しばらくして。
「先輩、できました」
「もう?」
悠斗が画面を見る。
バラバラだったデータが、項目ごとに整理されている。
「これ、見やすいな」
「ありがとうございます」
「でも、ここまでやらなくてもよかったんだぞ?」
「え?」
「元のデータを並べ替えるだけでよかったから」
ありさは画面を見る。
「……あ」
「どうした?」
「私、やりすぎました?」
「いや、助かってるけど」
悠斗が笑う。
「ただ、頼まれたこと以上にやるときは、一回確認してからのほうがいいかもな」
ありさは少し考えた。
「分かりました」
「仕事って、正解だけじゃなくて、相手が何を求めてるかも大事だから」
「……なるほど」
ありさは真剣に頷いた。
「じゃあ次から、余計なことをする前に聞きます」
「うん」
「『ここまでやっていいですか?』って」
「そうそう」
「分かりました」
ありさはメモを取った。
その日の帰り。
美咲がありさのメモを覗き込んだ。
「何それ?」
「今日教えてもらったこと」
そこには、
**『頼まれたこと以上にやるときは確認する』**
と書かれていた。
美咲は少し笑った。
「ありさって、真面目だね」
「そうかな?」
「うん」
「じゃあ、明日から気をつける」
そう言って、ありさは鞄を持った。
そして会社を出てから三歩。
「あ」
「どうしたの?」
美咲が振り返る。
「今日、冷蔵庫に何入ってたっけ?」
「知らないよ」
「……帰ってから確認します」
美咲は笑った。
「仕事のことは覚えてるのにね」
ありさは少し考えて、
「人間って難しいね」
「またそれ言ってる」




