episode.17「茜色の空の下で」
出口の重い自動扉を抜けたその先には、夕暮れの茜色に染まり始めた遊園地の広々としたエントランス広場が、まるで私たちを迎え入れるかのように広がっていた。
冷たい海風が、さっきまでの死闘で汗ばんだ肌を心地よく撫でていく。全員が無事にあの悪夢のような廃墟から外へと脱出できたことを肌で確かめ合うと、その場に崩れ落ちるようにして、面々は互いの無事を讃え合い、しっかりと抱き締め合った。
「はぁ、本当に……本当に生きて出られたんだ……!」
きょうがぐしゃぐしゃになった涙顔で思いきり笑い、れむも深く息をつきながら強くうなずく。
「うん、もうダメかと思ったけど……みんなが無事で、本当によかった……!」
はんなもハンカチで涙を拭いながら、ほっと胸をなでおろして大きく息を吐き出した。
◇
「ねえ、そういえばさっきからずっと気になってたんだけどさ……」
ほむらがふと首をかしげ、みんなの顔を不思議そうに見回した。
「私もあの館内を歩いてるとき、何度もピンク色のクマの気配を近くで見たんだよね」
「えっ、ほんと? 私もさっき、別の部屋の隅でピンク色のあたたかい光を何度も見た気がする……あのとき、なんだかそれに導かれるようにして、不思議と道が開けたんだよね」
めろが怪訝そうに眉をひそめながら、自分の体験を思い出すように言った。
「あ……! 私も! あの絶体絶命のピンチのとき、どこからかあのピンクのクマがひょっこり現れて、なぜかあの化け物の注意をうまくそらしてくれたの……。あれがなかったら、私、今頃どうなっていたか……」
はんなも自分の胸に手を当てて、ぶるっと身を震わせながら力強く頷いた。
「そういえば、私も……」
みんなが次々に口を開き、驚いたように体験を語り合う。あの暗闇の迷宮の中で、幾度となく訪れた危機を救ってくれたのは、間違いなくあの小さなピンクのクマであり、奇妙な光の存在だった。まるで誰かがすぐそばに寄り添って、自分たちをずっと守ってくれているかのように。
その言葉に、それまで全員の安堵で和やかだった空気が、ふと一瞬にしてスッと静まり返った。
ピンクのクマ。
「……もしかして、あれは、りんなの……?」
まなせが、すべてを悟ったかのように、絞り出すような掠れた声でぽつりとそう呟いた。
その瞬間だった。
それまでどこか現実感がないように周囲の景色に溶け込んで霞んでいた私の姿が、まるで夜霧が晴れるように、みんなの目にくっきりと、鮮やかに焼き付くように見え始めた。
◇
「えっ……? りんなの……!?」
「りん……っ!?」
ずっと一緒にいて、ずっと私たちの背中を押してくれて、恐怖に立ち向かう勇気をくれたのは、他でもない私――りんなだったと、みんながようやく気づいた瞬間だった。
まなせの瞳から、耐えきれなくなったように大粒の涙がポロポロと途切れなくこぼれ落ちる。
「りん……っ! 中学のときに離ればなれになってから、もう二度と会えないって諦めていたんだよ。でも、ずっと、ずっと私たちのそばにいてくれたんだね……! あのピンクのクマも、りんなんだね……!」
はんなが思わず駆け寄り、私の服の裾にぎゅっと手を伸ばす。そこにいる私の温もりを、確かにその指先で感じ取っていた。
「怖かったよお……でも、りんがずっと私たちを守ってくれたんだよね、助けてくれたんだよね。本当にありがとう……!」
めろが泣きじゃくりながら、私の腕に自分の顔をうずめるようにしがみつく。
「どうしてもっと早く私たちの前に姿を見せてくれないの? わたし、ずっと……ずっとさみしかったんだよ……」
れむも、きょうも、ほむらも、みんな顔をぐしゃぐしゃに歪めながら、じっと私を見つめていた。
「最後のお別れがちゃんとできていなかったことを、私はずっと悔やんでいたのに……りんはすぐそばで、ずっと私たちを見守ってくれていたのね……!」
「ずっと、ずっとずっと会いたかったよ……! もっといっぱいおしゃべりして、一緒にこうして遊園地に来て、バカみたいなことで笑い合いたかったのに……!」
感極まったみんなが次々と駆け寄り、震える手を精一杯伸ばして私を大切そうに抱きしめてくれる。
冷たいはずの夕暮れの海風は、いつの間にかみんなの温かい涙と、胸を締め付けるほどの愛おしい熱にすっかり包まれていた。
◇
「って言うかさ、その格好……りんも同じ北橋高校の制服を着てるんだね……ずっと、私たちと一緒だったんだなんてさ……!」
めろが、あふれる涙を手の甲で乱雑に拭いながら、急に声を上げてカラッと笑った。
「っていうか、なんで遊園地なのに制服なのよ! あんた高校受験のとき大変だったんだから……。私達、りんの分まですっごい頑張って勉強したんだからずるいんだからね! みんな、りんが本当は一緒に行きたがってたあの学校に、必死で合格したんだからね……!」
それは、遠い昔に交わしたはずの、懐かしくて切ない約束だった。
そう、私は3年前。
中学卒業間近の塾の帰り道、横断歩道で突然飛び出してきた居眠り運転のトラックにひかれ、みんなに「サヨナラ」の言葉さえ一言も言えずに、一度目のお別れをしてしまっていたのだ。
あの時、私は真っ暗な孤独の闇にたった一人で放り出された。
だけど、みんなが心の中でずっと私のことを覚えていてくれたから。みんなが私を決して忘れないでいてくれたから、私はずっと、みんなの隣を並んで歩くことができたんだ。姿が見えなくても、声が届かなくても、ずっと一緒に笑って、一緒に悩んで、同じ時間を過ごしていたんだよ。
私たちは、ただの仲良しグループの6人じゃなかった。
最初から最後まで、ずっと7人で一つだったんだ。
「これからも、私たちの7人は、永遠に続いていくんだよ」
まなせが涙をぐっと拭い、唇を噛み締めながら、力強く、最高に綺麗な笑顔をみんなに向けて作ってみせた。
「「「「「「もちろん!!! 当たり前でしょ!!」」」」」」
みんなが声を揃えて叫び、涙の向こう側で眩しいほどの満面の笑みを咲かせた。
「うん。ずっと、ずっと一緒だよ。みんなを守れて本当によかった」
私は、これ以上ないほど心からの満ち足りた優しい笑顔を浮かべ、みんなにそっと小さく手を振った。
夏の終わりの眩しい夕日の中で、止まっていたはずの私たちの時間は、ようやく温かく、未来へと再び動き出したのだった。
吹き抜けた黄昏時の冷ややかな海風が、まるで別れを惜しむように、私たちの身に纏う空気をそっと包み込んで冷やしていった。




